第20話 勇者の関係
何か伝えねばならぬ情報があった気がするのですが……あぁいけない、ド忘れしてしまった。
まぁ、そのうち思い出すか、解消されることでしょう。
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「ご主人様、ミレディをそろそろ解放してあげたら?」
「ん?」
「ミレディ、オーバーヒートしてる」
店を出てすぐに、ルナがくいくいと袖を引っ張り、そんなことを言ってきた。
言われて、お姫様抱っこをしているミレディを見てみれば、確かに目を回していた。
「あ、あの……」
「ごめんごめん、緊張してるみたいだったからさ」
ここで意地悪に顔を思いっきり近づければ、ミレディは今度こそ再起不能になるだろう。
そんなことはもちろんしないで、ゆっくりと下ろす。
恥ずかしさからか、降りた瞬間ふらっとしてこちらに寄りかかってくるのが可愛い。その後慌てて離れるまでが一連の動作だ。
「順調にミレディを堕としてるよね」
「人聞きの悪いことを言うな」
冷たい目で見られてもめげない。まぁ、見た目は俺より歳下だからな、特に気にすることも無い。
というか、堕とすって言わないで欲しい。
「でさぁ、結局さっきの人達って」
「ま、俺の知り合い、いや友人とか親友とかかな」
「やっぱりそうなんだ。ご主人様の名前が出たからもしかしたらって思ったけど」
そりゃそうだな。
「え、どういうこと?」
「あー……ミレディはあれだっけ。話、聞いてた?」
「……覚えてない」
どうやら固まっていた間の記憶はなかったらしい。
『話していい?』とでも言いたげにルナがこっちを向いてくる。そうだ、ミレディにも話を聞かせるなら、必然的に俺が異世界人で勇者でもあることを話さなければならない訳だが。
俺は首を横に振る。ミレディなら、俺が勇者であることを知ったら、余計色々なところで遠慮してしまいそうなのだ。
必要に迫られたら教えればいい。
そこまで言った訳では無いが、何かしら感じたのだろうルナは頷く。
その後は結局、ミレディが居るから遠慮したのだろう。ルナは再度話を掘り返すことは無く、良い時間でもあったので、宿に戻ることになった。
◆◇◆
まぁ、宿に戻ったら話の続きとなるのだが。
幸い、ミレディは疲れてしまったのか早々に眠ってしまった。
「あのめっちゃ綺麗な子との関係について一言」
「最初になんでそんなこと聞くんだよ」
「だって、あの反応気になんじゃん!」
綺麗な子(違和感はあるが、前世のルナと比べれば歳下である)は叶恵だろうか。そしてあの反応とは。
「あんな顔赤らめてさ、女の子ってあんな顔できるんだーって思っちゃったわ。それで、どういう関係?」
「どういうも何も、
「幼馴染みぃ? あんな美少女が幼なじみって、ご主人様って、本当にラブコメの主人公なのね」
なんだそれは。変なことを言うな。
もし俺がラブコメの主人公なら、その周囲に居る女子はきっとヒロインなのだろう。
ルナやミレディなんか確実にヒロイン入りするが、それでいいのか?
「というか、なんでそこを強調するのよ。アレか、嫌味か!」
「本当に、ただの幼馴染みだよ。変なことは何もない」
「あんな顔してたのに?」
「どんな顔だ」
「乙女の顔」
乙女の顔って、抽象的すぎるだろ。
「あ、分かった。前に『こういうのには慣れてる』って言ってたの、あの子が原因でしょ?」
「誤魔化しでもなんでもなく、違う」
「え〜? うっそだぁ」
少し過剰なスキンシップはあるが、叶恵とは本当に何も無いので、嘘ではない。
例え相手がどう思っていようと、少なくとも俺の方はそう思っている……俺は思考を戻す。
「じゃあじゃあ、隣に居た子? あの子も違う種類の美少女だったしね」
「違う」
「えぇ? あんなに可愛いのに違うの……あ、ま、まさか、あの男の子のどっちか……とか?」
「もっと違うっ」
「あたっ」
失礼な思考をしたルナを軽く小突く。
「いったぁ……じゃ、じゃあ誰とそういうことしてたの」
「変にいかがわしくするな。というか、なんでそんな知りたいんだよ」
「そりゃ、ご主人様の奴隷ですし? ご主人様のことはよく把握しておかなきゃでしょ」
そんな奴隷としての立場を受け入れないで欲しい。なんでそんなことを把握されなきゃ行けないんだ。
「……詮索は禁止。これ以上はプライベートな話だ」
「あらそー。気になるんだけどなぁ……」
「後でな」
すぐに引いてくれたので、特に何も言うことは無かったが、これ以上は俺も他人に話したくはない。
誰のお陰でそういうのに耐性がついたのか。元からある程度の耐性があったのもあるし、あんな美少女の叶恵と昔から一緒だったのもあるが、それだけではない。
だが、それを認めるには、俺は『ロリコン』と同程度の不名誉な称号を受け入れなければなるまい。
「まーいけどさ。それにしても、やっぱ聞けば聞くほど、ご主人様ってリア充ねぇ」
「そうか?」
「ほら、あの男の子。『最高の親友だ』とか躊躇い無く言うなんて……ちょっとBL臭感じたもん」
「やめろっ」
「冗談冗談。だけど、私もああいう友達欲しいなぁって思うくらいには、ちょっと羨ましいかも」
まぁ、言われてみれば、確かに充実はしているな。
『いいなぁ〜』と言うルナは、前世ではあまり交友関係が良くなかったのか、本当に羨ましそうだ。
いや、俺達が特殊なのだろうか。ここまで仲良いのも中々居ないだろう。
それも全員が全員アイドル級のルックス。
「イケメンと美少女だけね」
「アイツらに惚れるなよ」
「惚れないって。ご主人様居るし」
……どういう意味? 聞きたいけど聞けない、というより聞かない。
ルナも特に聞かれることを想定した訳では無いのだろう。軽く言ってのけたのち、すぐに次の言葉を紡いだ。
「でもご主人様も冷静よね。こういう異世界物で友人と再会なんて、もっと喜ぶところじゃない?」
「アイツらはともかく、俺の方は会おうと思えばいつでも会えたからな。それに、この国に来た理由も、アイツらに会うのが目的だ。事前に予想もしてたから、そこまで感動はない」
「冷めてる……って言ったら、怒る?」
「怒らない。実際、そう思われるようなことだからな」
いくら予想はしてたからって、こんな世界で、友人と再会して喜びを露わにしないなんて、冷めてるとしか言い様がない。
「とはいえ、全く喜んでないって訳でもないけどな。今は姿を変えてるから、ボロを出したくないだけ」
「あ、そうそう! ずっと聞きたかったのよ。ご主人様なんで姿なんか変えてるの? 友達相手に姿変える必要ある?」
「無いよ」
「無いのかよ!?」
簡潔に答えると、ルナはそのあまりの潔い返事にツッコミを入れてくる。
「強いて言うなら、あの場だと先に貴族の方を収めたかったからね。姿を戻したらアイツらも混乱して、事態の収束が余計難しくなってたろうから、そのままこのキャラを演じることにしたんだよ……後から戻すのも恥ずかしいし」
「いやいや、何を恥ずかしがってるんだか……そんな理由だったの。しょうもな」
そんな理由なのだ。まぁ、それだけでもないが。
俺が俺であることをアイツらに知らせるのは、色々と複雑な事情が絡む。
何より……アイツらの関係がちゃんとする前に、俺がそこに入るのは、俺自身よしとしない。
俺の勝手な願望。自己の願い。自分勝手に過ぎる思想。
それを理解できる人は、多分、ほとんど居ない。俺ですら、そんなことを思うのはおかしいと思う程なのだから。
だからルナにも話さないし、必要に迫られない限り姿も明かさない。
そして、俺もその本音に気づかないよう努力するのだ。
だから、思考も驚くほどスムーズに切り替わる。
「ところでルナ、話は変わるんだけど」
「んー?」
「魔法、練習したんでしょ? いつから行くのかは知らないけど、学校に行くんなら、その前に出来るだけ練習もしておきたいし、見てあげよっか?」
「あ、ほんと? じゃあお願いしまーす」
ルナが俺の事を心配して、取り敢えず練習したらしい魔法。少し見てあげるのも、悪くは無い。
何より、ルナ達にも学校には早々に来て欲しいからな。少なくとも、世間一般で言う熟練者程度には成長させたい。
ルナの魔力操作の力量を見つつ、俺は明日の学校でのスケジュールを脳内で組み立て始めた。
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