第12話 膝枕


 膝枕、いいですよねぇ……。



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 結論からいえば、俺はステータスを把握するのに結構な時間を───特に費やさずに済んだ。

 その代わり、現在は再びベッドに舞い戻ってしまっているが。


 「起きたと思ったらまた横になってる……」

 「アハハ……いやぁ、真面目に割と辛くてね」

 

 ルナとミレディは、起きている。というのも、突然俺が倒れたからだ。

 異能にあった【瞬間理解パターンスタンディング】というのを使ってみたのだが、それの副作用のせいか、急激な頭痛と、身体から一気に力が抜けたことで、意識こそあれ、立つこともままならなかった。


 異能の効果は、基本的には読んで文字のごとく。ステータスを把握するのに試しにと使ってみたが、このざまである。


 「だ、大丈夫ですか?」

 「んー……キツイ。どっちか膝枕をしてくれない?」

 「はいはい、さりげなくセクハラしようとしないでよね」

 「いや、セクハラのつもりではないんだけど」


 体調が悪い時はよく妹達に膝枕をしてもらっていたのだが、それがまたとても楽になるのだ。

 肉体的には普通の枕の方が楽なのかもしれないが、精神的には膝枕の方が断然いい。何より、柔らかいし温かいし、変態かもしれないけどいい匂いだし。


 まぁ、慣れすぎたせいで女子の膝に寝る抵抗感が全くないという弊害はあるが。それに、セクハラであるのも確かだ。


 「……ふぅん。ま、ミレディはダメだけど、私でいいなら。それで良くなるんなら、膝枕してあげる」

 「ん? 本当に?」

 「良いって言ってるんだから聞き返さないで! ご主人様にこれ以上悪くなられても困るし、それだけだからね」


 お、ツンデレかな? ツンデレなのかな?

 少しにやけると、俺の思考を察したルナが、むっとした顔をして、手を伸ばしてきた。


 いや待て、今俺動けないから。あ、ちょ、髪引っ張らないでください。


 普段なら普通に避けているが、今の俺は動くこともままならない。ルナはこれ幸いと思ったのか、笑みを濃くする。


 「頼む、やめてくれ」

 「ふふふ、日頃の恨みを晴らすのよ!」

 「お、お姉ちゃんやめなよ……」


 そうだそうだ、髪引っ張ったのでもういいだろう? これ以上何をするというんだ。

 魔力でも流して魔力供給の時を再現してやろうかと思うが、今じゃやり返されるだけな気がするのでやめておく。


 「本当にやるわけじゃないって……はい、ご主人様」

 「ごめん、動けないんだ。乗せてくれないか?」

 「そこまでぇ?」


 いや、本当に真面目に頭痛が酷いのだ。ポーカーフェイスで誤魔化してはいるが、頭が実際に割れていると思うほどには痛い。

 流石に内側から響く鈍痛は耐え難い。動けないことは無いが、辛いことに変わりはないからな。


 痛みで思考が制限されないだけ、頑張っていると思う。


 ルナが俺の頭を、一応気遣ってくれているのか、優しく持ち上げる。

 そのまま、ルナの膝の上に俺の頭が乗せられた。無論、言うまでもないが、顔は上を向いている。


 「おぉ~……良いね」

 「そ、そう?」

 「うん、すごく柔らかい」

 「ちょ、これこそ立派なセクハラでしょっ!?」

 「正直者と言ってくれ」

 

 後頭部に感じる太ももの柔らかさが良いというか、既に頭痛が半分ほど消えたように感じるぞ。

 というか、他に褒め言葉が見つからなかったのだ。いやまぁ、特に反応しないという選択肢もあるにはあったが……。


 だが、なんだろうか。当人であるルナは良いのだが、ミレディがこの状況を見ているというのは、少し落ち着かない。


 「なに、ミレディ代わりたいの?」

 「えっ? ち、違うよお姉ちゃん」

 「そう? 物欲しそうに見てたから、ミレディも膝枕して欲しいのかと思ったわ」

 「あ、ならルナに代わって膝枕してくれてもいいよ?」

 「ご主人様、ギルティ」

 

 おっと、膝枕は許容範囲だと思うんだがなぁ。

 関係を深めるための一歩だ。


 それに、ミレディは膝枕して欲しいんじゃなくて、膝枕をしたいのではないかと思ったのだが。ルナには分からなかったのかな。


 「ミレディ相手は確実にセクハラだからね? 気弱な女の子にやらせるとかさ。私だって好きでやってるんじゃないし……」

 「頭痛はもう治まってきたから、嫌なら終わりにしてもいいけど」

 「ツンデレとか言わないでよね」

 「言ってないし、思ってもないよ」


 俺の含みのある物言いに、ルナは上からキッと睨んできた。このままいけば顔を殴られそうだ。

 さすがにそれは勘弁なので、俺は肩を竦めて苦笑い。


 とはいえ、頭痛は和らいだとはいえ、まだ無くなってはいない。それでも心配はかけないと、俺は特になんの辛さも感じていないように振舞っているのだ。


 俺って健気。


 「ちょ、動かないでよっ」

 「いや、ちょっとしっくり来なくなってきたから……あ、ここちょうどいい」

 「………ねぇ、わざと?」

 「え、なんで?」


 「ん?」と瞑っていた目を開くと、ルナは視線を逸らした。ふむ、何故だろうか。

 ここで、大きく頭をグリグリと動かすなんていう意地の悪いことはしない。というより、できるだけ頭は動かしたくない。


 今この、丁度太ももと太ももの間の窪んでいる部分に頭がフィットしているのだ。柔らかく俺の後頭部を包む感じがとても気持ちいい。

 例えそれで、ミレディがなんとも言えない目で俺を見ようとも、名誉の挽回は俺ならばいくらでもできる。

 それに、ルナも恥ずかしげに視線を逸らすだけで、特に妨害してくる様子はない。ここは自身の体調を優先するべきだ。


 「じゃあ、しばらくこのままでお願い」

 「べ、別にいいけどさ、変に動かないでよね」

 「流石に女の子の膝の上でそんなことはしないよ」

 「いやさっきしてたし、といかそこはもう膝じゃない気がするし……」


 頭が落ちないようにより安定性のある場所を求めただけだ。責められる謂れはない。


 「まぁ、ちょっと俺は休むから。もしルナが辛くなったら、ミレディ、代わってくれるかい?」

 「えぇ? えっと……は、はぃ」

 「な、なんで頷いちゃうのよミレディ! 普通にベッドに寝かせるわよ」

 「膝枕が一番いいんだ。というか、これ中毒性あるからなぁ……ダメ?」

 「なんでそんな……いやもぅわかった、わかったってば。辛くなっても私がやってあげるから。変なところで弱々しさを発揮しないでよ。しかもあざといし」


 うむ。泣き落としではないが、眉をハの字に下げて声を少し変えたのは効果があったようだ。

 そりゃ、普段自信満々でふてぶてしい俺が急にそんなんになったら、ルナも心配するよな。ただでさえ今は珍しく動けない状態になっているのだし。


 「良かった。でも、辛かったらミレディと代わった方がいいよ。ミレディも頷いてくれたし、ルナが疲れちゃ俺も安心して休めない」

 「……そういうことなら、まぁ最悪。ミレディ、私が疲れたら変わって。寝相で変なことしたら殴って起こしていいから」

 「え、えっと……殴りはしないけど、うん」


 君、仮にもご主人様と呼んでいる相手にそんなことを言うか。勝手に殴りを許可するでない。


 まぁ、実を言うと目を瞑るだけで寝るわけじゃないからな。


 はてさて、ミレディの膝は楽しみ(一応言うと本当に変な意味ではない)であるが、まぁルナのように変なことはしないように気をつけなきゃ。


 ミレディの反応は、なにをしても何だかイケナイことをしている気分になってしまうのだ。


 「じゃあよろしく」

 

 年下の女の子に膝枕された状態で、俺はそう言って目を瞑る。


 さて、ステータスのことについて少し考えたいからな。寝る訳じゃないが、一旦意識を思考に沈みこませるか。

 


 

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