第6章 幕間
幕間 グラの働き
昨日は投稿できず申し訳ありませんでしたm(_ _)m
理由は寝落ちなどではなく、他のことで手がいっぱいだったのです。以前話した、エイプリルフール企画のやつです。あれ、まだ書き終わってないんですよ。
今も書き終わってないです。ともかく、そのせいで昨夜は投稿が出来ませんでした。でも中途半端な時間に投稿し直すのもアレだなと思ったので……はい。
とにかく申し訳ない。そして今回、次回、次次回、次次次回は第六章の幕間となっています。
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異変が起きてからおよそ数時間。
「あぁクソが! 斬っても斬ってもキリがねぇ!!」
「ちょっと体力的に辛いよ……っ」
学と夜兎が背中合わせになるような体勢で、息をつく。
手に持つ剣は、魔物の返り血で汚れており、切れ味も少しずつ落ちてきている。
「早く飛鳥さん達と合流しなきゃ」
「チッ! 本当にここにいんのかよ!」
夜兎と学は、前線にいるはずの飛鳥達と合流するために、迷宮から帰還して早々にこの場所に来ていた。
本音を言えば、休みたい。いや、こんな死の危険性がある場所に行きたくはない。今日は迷宮で危ない目にあったばかりなのだ。
しかし、友人達が頑張っているとなれば、仕方がないとも割り切ることが出来ていた。学も夜兎も、自身の命と引き換えにとまではいかなくとも、リスクを犯してでも友人を助けには行く。
だが、魔物が多すぎるために、合流ができていなかった。ここにいるはずなのだが、見つけられない。
「……仕方ないね。学、
「ヘッ! 遅せぇよ! 『
夜兎の決心と共に、学が能力を使用しだす。
それだけで、魔物の殲滅速度が一気に跳ね上がった。学の能力である【狂戦士】は、効果こそ単純なパラメータ強化だが、シンプル故に、力を発揮しやすい。
軽々と大剣を扱い、その力に任せて目の前の敵を叩き斬る姿は、まさしく
薙ぎ払うように大剣を振るい、魔物が両断されていく。
一方で夜兎の方は、パッと見ではそう変わっていない。
だが、見るものが見れば分かるだろう。夜兎の剣さばきが、先程と比べてみれば、明らかに上達していることに。
能力【剣聖】。こちらもまたシンプルなもので、スキルの[剣術]に大幅な補正がかかり、剣装備時のパラメータが倍加するというものだ。
魔物の攻撃を、"受ける"のではなく"いなす"。
敵の攻撃を正確に理解し、反応し、受け流し、反撃する。多少の無茶は、強化されたパラメータが補ってくれる。
【剣聖】発動時は、相手の攻撃が何となくわかるのだ。後は目で追い、身体で追いつくだけ。
学のような豪快さはないが、確実に、素早く敵を仕留める。
「ッ!」
剣を振る速度が早まり、急所を確実に狙った一撃は、一振で魔物を殺していく。
しかし、夜兎は、まだ完全にこの能力を使いこなせていない。それは恐らく、夜兎だけでなく、勇者全員に言えることだろう。
練度はもちろんのこと、能力の使用には、リスクが伴う。単にスタミナを大きく消耗するというだけだが、それが厄介なのだ。
単純比較は出来ないが、体感では2倍以上の速度で疲れる気がする。故に、能力を普段使用しないというのは、隠蔽以外に、体力管理の目的もあるのだ。
だから、戦局を好転させることは出来ても、持久戦であれば、そう長くはもたない。
「っ、はぁ、はぁ、やばいかな……」
息が乱れ始めれば、残り体力は少ない。乱れた息を整える時間などなく、欠いた集中力では、一撃で急所を狙っていくなんていう技は使えない。
次第に攻撃は防御へと変わり、足は歩みを止める。
学の方は体力こそ問題ないが、それでも腕の疲れは溜まってきているだろう。いくら強化されているとはいえ、大剣を片手で扱っているのだ。
剣の振りが徐々に遅くなっているのは、明白だった。
夜兎が、一度無理矢理でも撤退するべきかどうかを悩んだ時だ。
────突然、目の前の魔物が消えた。
「……え?」
否、正確には消えたように見えただけで、魔物は宙にぶら下がっていた。その足にはゼリー状の触手のようなものが絡みついている。
「あぁ!? なんだよコレ!?」
更には、周囲でも同じような光景が次々と巻き起こる。学が相手していた魔物もまた、突然その触手に足を取られて、宙吊りになる。
それはまるで、獲物を品定めするかのような。どこからともなく出現する触手は、あらかた魔物を捕らえると、その数が一気に膨れ上がった。
「───ヒッ!?」
その情けない声は、あろうことか自分の口から出ていた。
空中で魔物の体が、複数の触手に四方から引っ張られたことにより、その力に耐えきれず、真ん中で半分にちぎれたのだ。
その光景が、同時に数十個。
魔物の体から吹き出る血が、雨となって降り注ぐ。
夜兎と学にも少し降りかかり、その触手達は、魔物の死体を握ったまま、発生源へと戻っていく。
魔物も大体が片付き、開けた視界の先では、夜兎と学が探していた飛鳥達と、様々な場所に伸ばした触手を戻している、トウヤの使い魔である
グラは魔物の死体を躊躇うことなく自身の体に押し込むと、瞬く間に消え去っていく。
そんな捕食シーンを見て、夜兎は吐きそうになるのを懸命に堪えていた。
◆◇◆
合流を果たしたとはいえ、依然として魔物の沸きは止まらない。
しかし、人数が増え、グラという強力な戦力を保持した現在は、そう苦戦することも無かった。乱れた呼吸を整える時間も稼げるものだ。
残念ながら、気持ちの整理をするまでの時間はなかったが。
「うぅ……」
「夜兎君だいじょーぶ?」
「……うん、まぁ、多分」
先程の光景が脳内に焼き付いたままの夜兎は、戦いながらも、たまにたまに吐き気が戻ってくる。
それを見かねた陽乃が近づいてくるが、夜兎は首を振って遠慮する。
もし吐いてしまった時、近くにいたら可哀想だという配慮はあるが、女の子に自分の情けない姿を晒したくないという、男らしい意地のようなものもあった。
「んま、アレは気の毒だよなぁ。俺も最初は吐いたし」
「え、吐いたの?」
「ちょっと汚いよ2人共!」
魔物を殴り殺した寛二が、苦笑い気味に近づいてくる。その告白とは裏腹に全く平気そうな顔をしているが、慣れたのだろうか。
そう考えながら、陽乃からの抗議の声を、夜兎は「ごめん」と咄嗟に謝った。
「……まぁ、
寛二はそう言いながら、固まったまま動かないグラをチラ見する。
グラには一応、ピンチの時以外は動かないで欲しいという願いを出している。言葉を理解できるらしく、コミュニケーションは容易なのだが、あの光景を見たあとでは、近づくのすら少し怖くなってしまう。
あの攻撃が自身に向くことは無いはずだが、万が一というのが頭の隅に残っている。
朝までは溺愛していたはずの飛鳥も、グラとはちょっと距離を置いているほどだ。仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが。
あんなのを見せられれば、そうもなる。
「トウヤさんには失礼かもだけど、もう少しなんとかして欲しかったなぁ……」
会話をすることでどうにか吐き気は紛れたようだが、そう呟かざるを得なかった。
程なくして、突然事態は収束する。
トウヤがやって来てくれたのだ。
何かの魔法で魔物を一箇所にまとめ、一瞬で殲滅する姿を見て、やはりこの人は強すぎると思うのは当然のことだった。
鮮やかかつ迅速な行動は、もう何度もこの動作を行っているように手慣れていた。
「……はぁ。グラがやらかしたか」
来て早々、トウヤは夜兎達へと近づくと、すぐに顔を歪めて呟き、張本人(本スライム?)の元へと近づいて行った。
「おいグラ。俺は確かあの攻撃は禁止だって言ったはずだが……」
トウヤが言いながら近寄る。ズリッとグラがトウヤの動きに合わせて後ずさるも、次の瞬間には、一瞬で背後に回り込まれて捕まる。
その動きは夜兎達では全く目で追うことが出来なかったが、それはともかく。
「逃げるってことは、後ろめたいことがあるんだよな。なぁ?」
『プルプルッ!! プルプルッ!!』
トウヤが浮かべた笑みに何を感じたのか、グラが手の中で逃げようとするが、まるで功をなしていない。
夜兎達から見ても、スライムならば拘束を抜け出すことぐらい簡単に思えるが、予想に反してグラの身体はまるで変形しなかった。
そうして目の前で、グラに対する説教が始まる。どうやら、『あの攻撃』というのは例の凄惨な殺害シーンのことを言ったらしいが、どうやってトウヤが知り得たのか、夜兎達には分からなかった。
「いや、うちの使い魔が迷惑かけたよ。トラウマになってない?」
説教が終わると、そのことなどなかったように爽やかな笑顔でトウヤは夜兎達に告げた。
その言葉に、素直に頷くことも、否定することも出来ない。夜兎は若干トラウマになりかけていたし、他の面々もまた、吐いたり恐怖したりと色々だったからだ。
それを察するのは簡単であり、刀哉は「本当に悪かったよ」と最後に告げると、グラを身体にくっつけて、小言を言いながら去っていった。
残された夜兎達は、少しの間呆然として、いつまで経っても沸かない魔物に違和感を抱きながら、後にやってきた紫希と合流するまで、その場に留まることになった。
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