第24話 片鱗

 小説とは全く関係ないんですが、今日の深夜、あつ森が配信されますね。

 ちなみに皆さん買いました?というか買います? 私は母親が今日はオールでやると思います。


 3/20/12:24 いやいや、前書きだけで本編投稿してないっておかしいですね。


 恥っず!!


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 攻撃が防がれた『魔の申し子ディスガスト・テラー』は、一度その目らしきものをこちらへと向けたように見える。

 実際には虹彩こうさい、というのだろうか。人間の黒目に当たる部分が存在しないため、焦点がどこを向いているのかは分からない。

 だが、面白くないとでも思っているのか、魔物は再度口の中に魔力を集めようとする。しかし、今度はそのまま見過ごさなかった。


 「『圧縮コンプレッション』」


 口が閉じられ、魔力が凝縮され、そして開かれた瞬間に合わせ、俺は手を握る動作をする。

 それに合わせて、ガコン! とでも音がなりそうな動きで、魔物の口が無理矢理閉じられ、魔力の光線が口の中で暴発する。


 『魔の申し子ディスガスト・テラー』の顔が、最大威力を秘めた光線の爆発により半壊し、黒い煙を顎がなくなった口から吐き出す。

 だが次の瞬間にはボコボコと沸き立つ音と共に、傷を負う前と何ら変わらない姿に戻った魔物は、憎々しげに俺の方を見る。

 その白眼が、グルンと回転する。それが意味のある行動なのかは分からないが、苛立ちか、悪態をついているようにも見えた。


 魔物は再生が終わると、突き刺した尾の勢いを使って現在ぶら下がっていた氷柱から跳躍し、他の氷柱に尾を突き刺して移動する。


 俺よりも早く、大きく動く『魔の申し子ディスガスト・テラー』は、2本の尾をアンカーのように利用することで高速で移動し、残り全てを俺へと向けてくる。


 氷柱という障害物を巧みに利用して、正面からだけでなく、様々な角度から尾を張り巡らせ、まるで蜘蛛の巣のようなものを作った。


 目の前から迫る尾を切り捨てて、後退ではなく振り返って前進する。そうでもしなければ、速度的に追いつかれてしまうからだ。

 氷柱から跳躍し、空中で再度跳ぶ。二段跳躍など、様々な魔法を使ってきたことからすれば、地味も良いところだ。


 それによって更なる高所へと移動した俺は、周囲へ目を配る。


 『魔の申し子ディスガスト・テラー』の姿はいつの間にか無く、それに少し意識を逸らした途端、ここにも伏せていたのか、背後から尾が迫ってくる。

 上手いこと氷柱の陰に隠れ、どこに尾があるのか分からなくしていた。最初からここまで考えて魔法を発動したのなら、魔物にしては知性があるというか。


 「厄介だな」


 『氷刃アイスエッジ』で剣に氷の魔力を纏わせ、尾を斬り捨てる。

 断面が凍り、これなら再生も分裂もしまいと思ったが、凍結範囲が広がる前に、尾は凍結した部分を、如何なる方法か自ら引きちぎった。


 それはまるで、トカゲが自主的に尻尾を切り離すように。引きちぎられた断面からは二つに分裂した尾が出現し、自動追尾するように俺を追いかけてくる。


 「凍結もダメとなると、本当に根元から切り落とす以外にないか……」


 しかし、『事象の複製リプロダクション』はその効果の理不尽さからも分かるように、魔力の消費量が多く、難易度も高い。

 また、『魔の申し子ディスガスト・テラー』は警戒からか、現在は大量の魔力を身体に纏わせている。もちろん、尾にも。


 普段なら同調させて無理矢理魔法を通していたが、こいつに限っていえば、まるで異なる魔力を無理矢理くっつけたようにチグハグのため、今のところ二種類までの魔力しか同調させることが出来ない俺では、そのチグハグさを再現し同調させるのは難しい。

 そのため、身体に直接影響を与える『事象の複製リプロダクション』を発動させるには、魔物が纏っている魔力の大半を剥がさなければならない。


 分裂した尾の追撃を『飛行フライ』を使って避けると、俺が空中に逃げたのを好機と捉えたのか、様々な方向から不規則な動きで尾が迫る。

 それ単体が独立しているように見えるその動きのせいで、まるで数十体の魔物を相手している気分だ。


 氷柱をこちらも上手く使い、尾を撒こうとする。だがどんなに頑張っても、この空間全体に張り巡らされた尾を引き離すことは出来ず、結局空中へと誘導させられてしまう。

 

 相変わらず『魔の申し子ディスガスト・テラー』の姿は見えず、幾ら『飛行フライ』を使っているとはいえ、物量で俺を追い詰めてくる尾の攻撃を、いつまでも避け続けてはいられない。


 特に空中では地面という壁がなくなるため、文字通り全方位からの攻撃に対処しなければならない。 

 それが、いつ来るかわからない攻撃を警戒するのではなく、常に来る攻撃に対応しなければならないとなれば、尚更。


 案の定、『飛行フライ』を持ってしても、とうとう攻撃を避けられなくなり、被弾しそうになった瞬間───俺はニヤリと口元に笑みを浮かべた。


 「良いぜ。更にギアを入れてやる」


 愉悦すら伴うような声音。俺は瞬きすら許さない間に、誰にも気づかれることなく魔法を発動した。


 俺の身体に触れた尾が、その先から消滅〃〃していく。

 まるで分解していくかのように塵となって消えていく尾は、触れた部分だけに留まらず、どんどんとその現象が広がっていく。

 再生は───一向に始まらない。


 「そこか」


 一瞬の気配の揺らぎ。『魔の申し子ディスガスト・テラー』が動揺して漏らした気配を、俺は見逃すことがなかった。


 ある一つの氷柱。俺はそこに『空間断絶ディメンションスラスト』を打ち込む。


 防御無視の、空間を直接切り裂くために、物質という概念そのものを断ち切るこの技なら、氷柱など意図も容易く切断〃〃できる。


 真っ二つに割れ、崩れていく氷柱の影から、潜伏していた『魔の申し子ディスガスト・テラー』が慌てて飛び出してきた。

 何が起きたか分からない……魔物の顔に表情らしい表情は浮かんでいなかったが、俺はその狼狽を直感で悟っていた。


 「よくもまぁ、隠れ仰せていたもんだ」


 幾らスキルを封印しているからと言って、俺の知覚から逃れるなど並大抵のことではない。事実、『魔の申し子ディスガスト・テラー』が気配を漏らすまでは、俺はどこにいるのか探知できなかったのだ。

 素直な賞賛。だがしかし、俺が次の攻撃を躊躇うことは無い。


 今まで散々防御側に回っていたのだ。今度はこちらから攻勢に打って出させてもらう。

 いや、違うな……そろそろ終わりにさせてもらう、か。


 「まずは、フィールドの変更だ。『焼死地獄インフェルノ』」


 それは僅か一瞬の出来事。

 最上級魔法で作られた氷を、立ち並ぶ氷柱を、一度の魔法、刹那の時間で焼き尽くす。


 それは、瞬きすら許されない時間。『魔の申し子ディスガスト・テラー』が瞬きの間にという時間であれば、俺は瞬きすら許さない魔法構築速度を誇る。

 それどころか、目を開いていたとしても、いつ発動したのか認識することは難しいだろう。


 急激な温度差に、氷柱が溶けるのではなく、爆発する。

 複雑に這わせていた魔物の尾はその爆発に巻き込まれ、更に『焼死地獄インフェルノ』によって再生する間もなく燃やし尽くされる。


 慌てて尾を戻す『魔の申し子ディスガスト・テラー』に、俺は嘲笑を隠さなかった。しかし、魔物には俺の表情を気にしている余裕などない。

 流石に魔物の身体自体は『焼死地獄インフェルノ』で焼き尽くされることは無かった。最上級魔法とはいえ、あくまでこの魔法は環境を変えるものであって、攻撃魔法ではない。


 「だが、これはどうかな? 『種子爆破デトネブラスト』」


 箍が外れたように、俺は連続で最上級魔法を投下する。


 俺の周囲に5つの光が出現する。その光は、とても小規模なもので、10個集めても俺の手のひらすら覆うことは出来ないだろう。


 それらはお互いに距離をとり、まるで風に流されるように散らばっていく。

 そして、それらがある程度離れた瞬間、俺はパチンと一度指を弾いた。


 それが合図であった────それぞれの光が、この空間を覆い尽くすほどの大爆発をもたらす。


 それは、衝撃だけで消し飛びかねない。自身の魔法であるにもかかわらず、俺を中心として全方位に『次元の壁ディメンションウォール』を張り、その魔法から身を守る程だ。

 

 この空間内にいる限り、避けることは叶わない。端から端まで爆発は届いている。


 魔族に関しては今ここで死んでもらっては困るため、障壁でも貼ろうかと思ったが、どうやら『転移テレポート』でさっきの場所に戻ったようだ。

 この魔法を防げないことを悟ったということは、やはり仮にも魔族ということか。


 しかし、どんな生物も耐えられないようなこの爆発でも、地球の核爆弾どころかミサイルにすら劣るのではないか。ミサイルと一口に言っても沢山あるが、半径数百メートル程の爆発など容易く起こせそうだ。

 そう考えると、地球の科学力の凄さというか恐ろしさを感じるが、俺が本気を出せばまだまだ上を目指せることに変わりはない。


 「それにしても、割と魔力を喰ったか」


 本来よりも少し多めに込めたが、それでも俺の最大魔力量に比べれば少ない方だ。

 だが、今回使った総量を合計すれば、俺の魔力は半分を下回っている。


 というのも、魔力の3分の1程は街の魔力の置換に当てているので、この戦闘で使用したのは実質25%、4分の1程だ。それも大半は『事象の複製リプロダクション』へ使用しただけに過ぎない。

 流石にそろそろこの魔力量では足りない。いくら回復力が高いとはいえ、俺と同等レベルの魔力を誇った存在が出てきたのだ。この先更に多くの魔力を持った相手が出てくれば、魔力枯渇に陥ってしまうこともあり得るだろう。

 

 今回のことが終わったら、そろそろ封印を全解除するときだな。


 しかし、当初よりも二段階も制限を緩めてしまうとは、やはり予想以上の強さだった。

 それでも[魔力支配]を初めとしたほとんどのスキルは解放しなかったし、パラメータも全開にはしていない。あくまで、使用する魔法を増やしただけに過ぎない。

 だが、余興としては十分以上に楽しめた。後は、メインディッシュに移るとするか。



 ◆◇◆



 ありえない。


 男は、驚愕と困惑と、そして恐怖が自身の思考を満たしていくのが自覚出来た。


 『魔の申し子ディスガスト・テラー』は制御の効かない兵器だ。正真正銘、切り札ジョーカーとも言うべき存在。


 故に、上から渡された時も、万が一の保険に過ぎなかった。

 望ましいのは、これを使う事態がないようにと。もし使ってその場を切り抜けたとして、制御が効かない兵器は自身をも屠るだろう。


 それでも、男は使うことを決意した。この目の前の勇者は、自身の手に負えないと早々に悟ったからだ。


 まだ勇者が召喚されてから一ヶ月と少し。その僅かな期間でこれ程まで熟した〃〃〃勇者が居るとは考えにくい。だからこそ男は、この勇者が前回召喚された勇者の生き残り、もしくは、どこかの国が秘密裏に、数年ぐらい前に召喚した勇者である可能性を考えた。


 そして、その場合の勇者の危険度は跳ね上がる。未熟な勇者に負けるつもりはそうそうないが、目の前の勇者ほど成熟した相手に戦える自信はない。


 そのため、力不足を悟った男は、自身の右手にある拘束術式が付与された魔法紋。それを使ってギリギリで拘束していた『魔の申し子ディスガスト・テラー』を解放した。


 様々な魔物を継ぎ合せ、極限までパラメータが高くなるように配合し、更には魔族〃〃すらかけあわせた、人工的な魔物。

 圧倒的な魔力量に、不死と見紛う再生能力。上位の魔族にすら優る魔力操作に、全てが最高水準に達したパラメータ。

 未だ未完成品ではあるが、同時に魔族の傑作でもあるコレならば、捕えることは叶わなくとも、屠ることは容易いと考えていた。


 そして、最悪自身が殺されることも覚悟している。一度ならこちら〃〃〃で死んでも問題ない男にとって、ノーリスクという訳では無いが、自身の一度の死で危険因子が排除できるなら、それは見合うリターンであると考えていたのだ。



 それでも………それでもだ。

 突然動きが変わった勇者に、男は目を疑わずにはいられなかった。


 最初から、勇者の実力は予想を上回っていた。だが、それだけに過ぎなかった。

 最上級魔法を手足のように扱い、どれだけ負傷しようと再生する『魔の申し子ディスガスト・テラー』に、勝てるはずがないのだ。


 だから『魔の申し子ディスガスト・テラー』を超える魔法速度で、『魔の申し子ディスガスト・テラー』が放った魔法を上書きしたのには、驚愕する。

 まるで、徐々に力を解放していくように強くなってくこの勇者に、恐怖を覚えざるを得なかった。


 底が見えないのだ。力量差を正確に測ることは、弱肉強食の魔族の世界では必須技能。だが、男の目では、この勇者の力量を測ることが出来なかった。

 それはつまり、未だ本気でないこと。『魔の申し子ディスガスト・テラー』と戦ってなお、本気を見ることが出来ない。


 最後に放った、火魔法の最上級に位置する『種子爆破デトネブラスト』。その攻撃力は、男が知るものとは桁違いだった。

 咄嗟に『転移テレポート』でダンジョンコアの元まで飛ばなければ、恐らく自身は一片の欠片もなく消し飛ばされていただろう。

 アレこそが、あの勇者の実力……いや、それすら本気ではないのかもしれない。


 『クレヤボヤンス』で視界を飛ばして状況を確認すると、どうやら爆発は収まったようだった。

 恐怖と、どうなったのかを確認したい好奇心がせめぎ合う。

 幸いにして、『魔の申し子ディスガスト・テラー』は死んでいないようだった。あの爆発をくらってなお、身体が残っているというのは、男にとっては信じられないことだ。


 つまり、まだ勝負はついていない。やはり、あの再生能力があれば、負けはしない。


 男は恐怖を抑え込んでその場に戻る。『魔の申し子ディスガスト・テラー』の身体は、既に半分近く再生し終わっていた。


 ホッと安堵の息が出る。だが、未だ勇者はそこにいる。先程の魔法で魔力は減ったはずだが、それでも余裕はありそうだった。


 勇者はなおも生きている『魔の申し子ディスガスト・テラー』に驚いたような顔をむけるが、次の瞬間には、とても静かな表情に変わっていた。

 そして、勇者はその手を『魔の申し子ディスガスト・テラー』に向けて………。


 ─────男は、無意識に動いていた。


 気がついたら、勇者に向かって、勇者のその手に向かって、男は『闇槍ダークランス』を放っていた。

 たかが中級魔法。しかし、男が今出せる最速の魔法はこれで、かつ威力を捨てて速度だけを追求した。


 男には、勇者が魔力を解放したのが分かった。

 そして、その魔力がありえないほどに異質だったのだ……それこそ、『魔の申し子ディスガスト・テラー』と同じように。

 脳裏に、『魔の申し子ディスガスト・テラー』の尾を消滅させた、謎の魔法が過ぎる。


 男の魔法は音速を超えていたはずだが、勇者は難なく避けた。しかし、代わりにその身から溢れる異質な魔力は消え去る。


 あのまま放置していたら、『魔の申し子ディスガスト・テラー』はただ死ぬのではなく、もっとおぞましく、この世から抹消〃〃されていただろう。

 いや、それだけではないかもしれない。『魔の申し子ディスガスト・テラー』だけに留まらず、自身をも、そしてこの迷宮すら巻き込んでしまうほどの、何か〃〃が起こっていたかもしれない。


 男に魔法を解析する能力はない。だが、直感で理解出来たのだ。あの異質な魔力は、恐らくそれを使用するための前ふりだと。

 否、あの魔力すら、もしかしたら本来必要のないもだったのかもしれない。


 男が魔法を放ったせいで勇者から敵意を向けられる。心臓を鷲掴みされているかのような、もっと言えば、既にナイフが刺されているような、殺気。

 自身の魔法で行動を妨害したことは、勇者の逆鱗に触れてしまうような出来事だったらしい。

 だが、男の意識は、そんな殺意を向けられてなお、先の魔法を止めることが出来たという安堵で埋め尽くされていた。



 

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