第62話 とある奴隷

 今回は刀哉目線ではありませぬ。


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 目が覚めたら、またあの暗い場所だった。

 低い唸り声と息遣いだけが聞こえてくる、牢屋みたいな場所。


 アタシとミレディがここに連れてこられて、もう何日が経ったんだろ。

 一日のように感じるし、一週間のようにも感じる。


 時間なんて分からないし、分かろうともしなかった。

 もうそんな気力は、アタシには残ってない。


 このままここで死ぬ。そんな未来が頭をよぎるから、時間を数える気にはならない。


 でも、前の場所よりはマシだというのが、まだ意識を残す理由になってた。


 とは言っても、いつ誰の物になるのかは分からないし、多分アタシ達が選ばれる日も来ない。

 アタシもミレディもこの怪我だ。奴隷にしたところで何のうまみも無いし、この状態じゃ何も出来ない。性奴隷の道すらないと思う。

 そもそも店主がここから出さないだろう。その結果がこの唸り声の主たちだ。

 怪我人を他の奴隷と同じ場所に置かないのは分かるけど、治療もしないのだから、一層の事どこかに捨てて欲しい。


 せめて寝てる間に死にたいが、ここの店主はご飯だけはしっかり持ってくる。飢え死にすることはない。

 それが逆に苦痛にもなっているのだが、声の出ない私は訴えられないし、ミレディはとっくの昔に意識を手放している。

 もしかしたら、それもわかった上でご飯を持ってきてるのかもしれないけど。


 だから、前回の食事からまだそう時間が経ってないのにも関わらず扉が開いた時は、何事かと思った。

 思考が停止している状態で意識の裏をつくようなことが起こると、驚くものだ。


 『……りはどこですか?』

 『丁度今見えてる左側の部屋ですね』


 少しすれば、声が聞こえてくる。一人はここの店主の声だ。

 もう一人は……多分男の人だと思うけど、何だか不思議な声だった。

 特徴的というわけじゃないけど、意識に留めてしまうような声。 

 でも、この世界〃〃〃〃じゃあまり聞かない声だ。だからそう感じるのかもしれない。


 元の世界に未練はないけど、ふとした時に共通点を見つけることがある。そういう時は少し恋しくなってしまうものだ。


 程なくして、アタシの視界に2人が入ってきた。

 ここの店主と、金髪碧眼の男の人。

 一目見て、どことなく普通の人じゃないと思ってしまったのは、金髪碧眼だからというわけじゃないだろう。


 何かが違う。


 アタシは警戒から、無意識でミレディを2人の視界から隠すように立っていた。


 「詳しい背景は分かりませんが、この2人は街道で倒れていところを私が発見しました」

 「奴隷の状態でですか?」


 どうやらアタシ達の説明をしてるみたいだ。つまり、この男の人はアタシ達に用があるってこと?

 正直言って、そんなことがあるはずないと思った。そもそもここに居る奴隷なんて、多分全員がアタシ達みたいな、酷い怪我をしている奴ばっかりだ。


 だから、こんな所に用があるなんて、店主以外には居ないはずなのに。


 「えぇ。奴隷商人に連れられていたところで何らかのアクシデントが起きて、置き去りにされたのか、はたまた魔物の囮役にされたのか、とにかく生きているのは奇跡と言えましょう」


 淡々と話す店主だけど、その内容は少し事実と食い違ってる。

 でもその矛盾を指摘することは出来ない。アタシは声が出ないし、そもそも指摘する義理もない。

 助けて貰ったのかもしれないけど、そんなの結局はただの延命治療で、ここで死ぬことには変わりないと思うから。そう思うと感謝というのは浮かんでこない。


 男の人がアタシを見る。否、アタシ達をだ。

 その瞬間、無意識でアタシは後ずさった。向けられた視線が、とても異質なものだったからだ。


 好奇の視線、という訳では無い。そもそもアタシは視線には疎い。

 女だからか、欲にまみれた視線なら何となく分かるけど、そういう目でもない。


 なんというか、アタシの全てを見透かされているような感じだ。

 別に上から下まで舐めるように見てる訳では無い。この人はどちらかと言うと、アタシとミレディにサッと視線を向けただけだ。


 ただそれだけで、アタシという情報を全て見られてしまったかのような、そんな感覚。

 皮膚を透過して、肉や骨、内臓まで目を通されてしまったかのような感覚。

 

 男の人が視線を逸らした時には、既にその感覚は消え去っていた。

 その感覚が気の所為だったのか、それとも本当にあったのか、アタシには分からなかった。そのくらい異質なもので、一瞬のものだったのだから。


 「口をきいてくれないので名前すらわからず……恐らく、トラウマになるような何かしらの事があったのでしょうが……」

 「いえ、そこまでのことが分かれば十分です」


 店主の言葉を、男の人は途中で遮った。アタシも一瞬回想に入りかけてしまったので、それは有難いことだった。

 だけど、次の言葉はアタシの予想だにしないものでもあった。

 

 「ハルマンさん、俺が2人を買い取りましょう。幾らですか?」

 「───トウヤ様、失礼かと思いますけど、本気ですか?」


 アタシは店主と同じ気持ちだった。アタシとミレディは確かに美少女だけど、今は汚れて、怪我もしてる状態だ。

 少なくともそういう〃〃〃〃目的で買うわけじゃなさそうだけど……。


 「誤解のないように言っておきますと、2人を手元に置いておきたい理由があるので。構いませんね?」


 『とうや』と呼ばれた男の人の言葉は、さらに分からないものだった。

 手元に置いておきたい理由、下卑た貴族とかなら一瞬で理解出来たけど、この人の意図は分からない。

 何も、分からない。

 

 ただ、店主は躊躇いこそしたが、直ぐに頷いた。こんな奴隷を普通の客に売るとは思えないけど、どうやら店主は売ることに決めたらしい。


 「前に助けて貰ったお礼に奴隷を譲るとの話をしましたね。なのでお金は要りません」

 

 どうやらこの店主は、男の人に助けて貰ったことがあるらしい。

 奴隷商人だし、馬車で移動中に盗賊にでも襲われて、そこを助けて貰ったというのがテンプレそうだ。

 少なくない信頼が見えた気がした。


 「それでは、今からこの方が君たちのご主人様です。異論はありませんね?」

 「……」

 「……」


 店主が鉄格子越しにこちらに問いかけるけど、アタシはどちらにも首を振らなかった。

 アタシにそもそも拒否権はない。意志を示す必要は無い。


 店主が扉を開けるけど、そう言えばと思ってアタシは動かないでいた。

 ミレディには脚が無い。動くに動けないし、脚があったとしても今の状態じゃ動かなかっただろう。だからどうするかアタシは迷った。


 男の人が位置をズレる。そして鉄格子の中、アタシの後ろを見て、少し顔を顰める。

 どうやらミレディの惨状を見たらしい。これでもしかして、買うのをやめるだろうか?

 どうせ生きる道はないのだし、アタシにとってはどちらでも良かった。これ以上ミレディが傷つかないようにするだけだ。


 「すみませんトウヤ様、奥の娘は」

 「わかっています。ここは俺が運びましょう」

 「いえ───いや、ではお願いします」


 え? とアタシが反応する前に、男の人が中に入ってきた。

 

 「ッ」


 その途端、トラウマがフラッシュバックした。

 さっき思い出しかけていた内容が、脳裏を埋め尽くす。だからアタシの防衛本能は、ミレディに伸ばされた手に無意識で噛み付いてしまった。


 「ッ!?」


 噛み付いてから、後悔。

 奴隷が主に牙を向けば、どうなるかは考えるまでもない。

 今のアタシじゃちょっとした事で死んじゃう。そして、ミレディが巻き添えを食らう可能性もある。


 アタシは後悔と恐怖から、噛み付いた手から離れることが出来なかった。動くことが出来なかった。

 この後どうなるのか、想像しただけで足がすくんでしまったから。


 ───だけど、手が振り払われることは無かった。男の人は自分の手を気にすることも無く、アタシに目を向けた。

 怒りも何も無い、その瞳を。


 「運ぶだけだから」


 口から紡がれた声は、口調こそ穏やかだけど、特に慈愛や優しさに満ちていたわけではなかった。

 しかし、怒りを押し殺している訳でもなく、ただただ平坦で、冷静で、だからこそアタシの頭にストンと入ってきた。


 だけど、アタシはこの人の手から離れられなかった。何せ、こんなことをしたのだ。相手が貴族なら、今のことで普通に死刑にしてしまうこともあるのだ。

 まだ、どうしたらいいか分からずに硬直していたアタシのことを、男の人は一切目をそらさず見つめてきた。


 その瞬間、アタシはすぐに悟った。この人に一切敵意がないことを。害意が無いことを。

 それと同時に、安心したのか自分でも分からないけど、アタシはゆっくりと離れた。


 男の人の手から、血がこぼれる。すぐにアタシが噛み付いたせいだと気づき、また顔を青ざめたけど、男の人はそれすらも一瞥するだけだった。

 達観している、と言えばいいのだろうか。全く動じていないし、気にした様子もない。


 男の人は丁寧にミレディを抱えあげると、アタシに目で移動するよう促した。

 言われるまでもなく移動するつもりだったけど、アタシはまだ少し残ってる警戒から、男の人をじっと見ていた。


 少しでもミレディに変なことをしたら許さないつもりで。



 その後、無事奴隷契約は終了した。

 店主と男の人はやけに親しそうで、やっぱり恩人とかそんな関係なんだろうと思う。

 その間ミレディに変なことをした様子はない。いや、アタシは普通の人だし、アタシに気づかれないように何かをすることなんて、この世界の強い人なら楽勝だと思うけど。


 何日ぶりかの外の空気は、とても涼しくて澄んでいた。

 でも、アタシがそれを堪能する前に、男の人が口を開いた。そう言えば、この人がアタシの主人になったんだ。


 「少し目を瞑ってて」

 「……」


 突然、アタシはそう言われた。意図は理解できなかったけど、アタシは奴隷らしく素直に言うことを聞くことにして、目を閉じた。

 まさか、その間に変なことはしないだろうとは思っていたけど、実際変なことはされなかった。


 ただ、代わりにアタシは驚くことになったけど。


 「よし、いいぞ」

 「……ッ!?」


 アタシは言われた通り目を開けた。そして、目の前の光景に驚愕した。


 先程まで店の前に居たのに、いつのまにか宿屋のような屋内にいた。

 アタシは一歩も動いてないし、なにより目を閉じていた時間はたったの数秒だ。


 「さて、驚いただろうけど、ここはこの街のある宿屋の、俺が借りている部屋だ。転移の魔法で来た」


 男の人は、淡々と述べた。最初にそう言いながら、しかし当たり前のように。

 転移の魔法、と軽く言っていたけど、アタシは魔法使いじゃないから、正直今のがどのくらいの難度のもので、どのくらい珍しいのか分からなかった。


 でも、もし今のが転移魔法で、誰もがそんな魔法を使えるのなら、今頃この世界は馬車ではなく魔法での移動が主流になっているはずだ。

 珍しかったとしたら、そういう運送業者が一つや二つほどありそうだが、聞いたことは無い。


 魔法については詳しくない私だけど、見た目の歳に似合わない思考力で、それがすごい魔法であることは理解した。

 同時に、この人がただものではないという直感も、的を射ているように思えてくる。


 「ところで、君は喋れるのか?」


 そんなことを考えていたら、アタシはそう聞かれた。別に答えない理由はないので、アタシは横に首を振った後に、アイツら〃〃〃〃のせいでやられた喉を見せた。


 「なるほど、喉を怪我してるのか……」


 位置の関係上アタシが顔をあげないと怪我は見えないから、あの店主は知らないと思う。

 鏡とかで見たことがないからわからないけど、喋れないから、多分結構ひどい怪我なんだろうなとは想像がつく。だけど、男の人は眉をピクっと動かしただけで、それ以上の反応を見せなかった。


 傷に見なれているのだろうか? でも、目に見えて嫌がられたりしたわけじゃないので、アタシは少しホッとした。


 顔を下げていいと言われ、アタシは顔を下げ、傷を隠す。今更だけど、もう声が出せないのかと思うと、悲しくて、少し目に涙が溜まった。


 「……よし。君、その怪我を治して欲しい?」

 「っ!?」


 そんなことを考えた時と同時だったから、アタシはその言葉に勢いよく顔を上げた。少し目が潤んでいたかもしれないけど、気にしていられない。


 「俺は高度な快復〃〃魔法が使える。それで君の怪我を治してあげる」

 「……」


 男の人が言った言葉は、今のアタシに願ってもない言葉だった。さっきの転移魔法のように、この人が魔法使いの中でも凄い人だという可能性は高いからだ。

 迷わず頷こうとしたけど、その時、いつの間にかベッドに寝かせられていたミレディが視界に入った。


 正確には、その痛々しい脚の怪我、いや、欠損が。だからアタシは、咄嗟に首を横に振り、意志を示すためにミレディを指さした。

 ミレディの方が明らかに怪我は大きいし、アタシの怪我よりも優先すべきものだと思ったから。

 自分だけ助かるよりは、を助けた方がいいと思ったから。


 「……自分はいいから、この娘を先に回復しろって?」

 「……」


 上手く意図が伝わったらしく、アタシは首肯する。ミレディの方が大きい怪我で、この人でも治せるかはわからないけど。

 男の人が、驚いたような顔をする。何に驚いたのかは分からなかったけど、でもその後、優しい顔になったから、多分いいのだと思う。

 なんだか、アタシは少し照れくさくなった。その顔を見ているのが恥ずかしくなったのだ。


 「安心して、元々2人共同時に回復させるつもりだった。ただ、成功するかまでは保証できない。構わないね?」

 「……」


 その言葉に、アタシは少し顔が強張るのが分かった。


 最初の言葉は驚きだ。何せ、アタシも回復魔法を使われたことがあるけれど、その時はかすり傷を治すぐらいのものだったから。

 だから、ミレディの怪我を治して欲しいと訴えたのも、半ば諦めかけてのものだった。もちろん先にミレディのことを助けて欲しいと思ったのは本当だ。


 しかも2人同時だ。回復魔法というのは、熟練者はそんなことも出来るのだろうか?

 

 だけど、その疑問を打ち消すほど、次の言葉は辛いものだった。


 良く考えればそうだ。日本〃〃でも、手術が成功する確率は100%ではない。手術によって容態が悪化することもあるのだ。

 だけど、いざ言われると、すぐに頷くことが出来なかった。腕や脚を修復するのだから、失敗した場合どうなるのか。


 魔法に詳しくないから、魔法に失敗した時のリスクもわからなかった。


 それでもその後に頷くことが出来たのは、可能性に賭けたのと、この人を信頼することにしたから。

 元々あそこで死ぬような命を拾って、可能性まで与えてくれたような人だ。どんな打算があろうと、信頼する価値はあるし、そんなことを考えるまでもなく、既にアタシの中では無条件で信頼していた節があった。


 声音か、雰囲気か、見た目か。とりあえず、何となく『信頼できる人』という印象が強かった。


 だからこそ、アタシは頷くことが出来た。自分とミレディの命運を託すことにした。


 「よし、じゃあまた目を瞑ってて。少し眩しいから」

 「………」


 前に使われた回復魔法は、淡い光を放っていた。これだけの大怪我を治す魔法だから、それだけ光が強いということなのかな?

 そう思いながら、アタシは目を瞑る。断れないような、と言えば悪く聞こえるけど、男の人の言葉には抵抗出来ないようなものがあった。


 もちろん、そんなものがなくても、目を瞑るぐらい抵抗感はない。先程もやった事だ。


 『ふぅ』と、男の人が一息吐いたような音が聞こえた。

 魔法だし、精神集中でもしてるのかなって思って、アタシは息を押し殺して邪魔にならないようにした。

 今は体力がないから、いつまでも同じ格好というのは無理かもしれないけど、失敗して欲しくないから限界まで耐えるつもりではあった。


 「───『再生の祝福プファル・リミュエール』」

 「えっ?」


 だから、5秒と経たぬうちに言葉が紡がれた時は驚いた。

 あまりの速さに、邪魔をしないようにと思っていたアタシは驚いて、思わず声を〃〃出して〃〃〃しまった〃〃〃〃程だ。


 いけない、と口を噤んだ時に、アタシはようやくそのことに気がついた。

 

 もう出ないだろうなと思っていた声が、なんのつっかえも、違和感すらもなく滑らかに出ていたことに。

 

 「……よし、目を開けていいよ」


 先ほどよりも、やけに鮮明に聞こえる声に、アタシは逆らわず目を開いた。

 まず最初に目に飛び込んできたのは、部屋に光の粒子のようなものが飛んでいたこと。

 それはとても幻想的で、まさにファンタジーという表現がピッタリの、綺麗なものだった。


 そして、アタシはその人を見た。穏やかな顔をみて、アタシは失敗したという可能性を速やかに頭から排除した。

 代わりに、成功したという事実を確かめるための、アタシは自分の右腕を見た。


 「……嘘っ………」


 喉にも手を当ててみた。火傷によってボロボロになった皮膚の感触は無く、柔らかな肌の感触が返ってきた。


 最後に、一番重要であるミレディの容態を見た。

 

 相変わらずベッドで寝かされていたようだが、そこに違和感はなかった。

 しっかりと再生された、白く、傷一つない脚。


 ミレディの体はとても綺麗になっていた。髪も、服も、体も汚れ一つない。


 そこまできて、ようやくアタシは実感することが出来た。


 「本当に……治った………」


 紡がれた声は、久しぶりに聞いて、懐かしく感じた。

 声を出そうとした時に感じた引っ掛かりが何一つない。違和感なく声を出した途端、アタシは自分の目から涙が溢れ出したのを自覚した。


 「……っ……うぅ………ぐすっ……」


 恥ずかしいから嗚咽を漏らさないよう努力をして、静かにアタシは泣き出した。

 泣いたのなんて、小学生以来だ。ようやく死の瀬戸際から───失くしたものが戻ってきて、アタシは今まで抑えてきたものが溢れてしまった。


 特別精神力が強いわけじゃない。今まで辛うじて耐えてこれたのは、ミレディという守るべき存在がいたからだ。

 だけど、ミレディは脚が戻って、アタシも怪我が治って……。


 「うぅ……よがっだ……よがっだよぉ……」


 涙で鼻声だけど、アタシはそう呟かざるにはいられなかった。

 男の人が───アタシのご主人様〃〃〃〃が、アタシのことを見てるのがわかる。

 咄嗟に、お礼を言わなきゃって思った。本当に、神のような奇跡を起こしてくれたこの人に。


 口を開こうとした瞬間、アタシは温かいものに包まれた。


 「今までよく頑張ったね。もう大丈夫」

 「っ……」


 それが何か、確認するまでもなかった。突然抱きしめられたのはとても驚いたけど、アタシはそれ以上に、耳元で囁かれた言葉に、また涙が溢れだしてきてしまった。

 アタシの頑張りを褒めてくれて、安心させてくれて。

 無意識で求めていたことを、ご主人様〃〃〃〃は言ってくれた。

 アタシの気持ちを理解してくれて、本当に嬉しかった。心がこれ以上ないほど熱くなって。


 「……うっ……アタジ、怖がっだよぉ……こわがっだ……」

 「怖かったな、辛かったな。もうそんな思いをする必要は、無いよ」

 

 吐露してしまった気持ちも、全部ご主人様に包まれるような気がして。

 ただ無心で、子供のようにアタシは泣きついて。


 ご主人様は、アタシが泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれていた。



 

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