第55話 性格というのは個人を表す指標である

 昨日は投稿できなくてすいません。外食していたもので……。


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 素振りを終えた俺は、全く汗をかかないことに今更ながらの違和感を感じつつ、ラウラちゃんから朝食を受け取る。

 その時に、クロエちゃんを起こさなくていいのか聞いたところ、『朝の食堂の時間になったら起こします』と返された。


 そう言えば、本来なら今の時間帯は食堂は閉まってたのか、と思い出す。俺が無理やり掃除を手伝ったことから始まったんだと。

 そう思うと、申し訳なさと、それがきっかけで良く話すようになった嬉しさが半々で湧いてくる。


 本人も別に嫌そうにはしていないので、心の中で謝っておくだけに留めておこう。


 そんな思いをしつつ、一度部屋に戻ってから、ギルドへ向かう。クロエちゃんに関しては今は放置でいいだろう。

 相手の立場を考えると、下手になにかして後で問題になるのが怖い。

 いや、俺なら最悪の事態にはならないだろうし、昨日会ったセミルの性格なら大丈夫だとは思うが……物事には万が一ということがある。

 親バカも拗らせると恐ろしいからな。それの可能性も加味するも、もう少し不確定要素の可能性が上がりそうなものだ。


 やはり、ラウラちゃんと同じように普通に接するのが一番だろう。



 

 まだ朝も早い時間帯。この時間帯から動き出しているのは、恐らく仕事がある人たちだろう。後は主婦。

 

 (そう言えば、この世界の仕事って何があるんだ?)


 ふと、そんなことを思い俺は一考。


 取り敢えず冒険者や探索者とかは例外として、一つが店関連、従業員とかだろう。

 他には何だろうか。あ、ギルドの職員とかか。でもそれは結構限定的な気がする。

 あそこで働くとか、相当優秀じゃなければ無理だろう。日頃から、その性質上多くの粗暴な者と接触し、依頼を見つけ、書類をこなし等など、俺がぱっと考えただけでも面倒そうだ。


 というか、会社みたいな沢山の人が勤務するような場所はないのか。ハルマンさんの商会何かは大きいと言っていたし務めている人も多いのだろうが、それも一つだけだ。


 ……あ、土木作業員とかか。街の防壁の補強とか、そういう仕事がありそうだ。

 

 ………ま、そんなものか。そう考えると、冒険者や探索者が結構いるのも頷ける。

 何よりここは巨大迷宮がある迷宮都市なわけだし、探索者が主なものだろうから、余計にだな。


 他にも一応、騎士団とか宮廷魔術師団とかもあると思うが、そっちも例外だろう。実力が無ければ入れなさそうだし。


 そんなことを考えた後、程なくしてギルドへと着く。

 中に入れば、まぁ予想していたんですが……。

 

 「………」

 「……」

 

 その、無言で見つめてくるのが多いですね!

 いやぁ俺も有名になったものだなぁ、と言えたらよかったのだが、悪目立ちしている感も否めない。


 普通なら第一階級アインス探索者とか、結構有名なイメージなのだが、俺の場合は無名も良いところだ。

 見た目も強そうには見えないから尚更な。単純な好奇心や好意的な視線以外にも、色々と感じますよ。


 皆さん早起きなんですね! もう少し遅くてもいいんですよ!!


 「トウヤさん、おはようございます」

 「どうもです」


 受付嬢さんのところまで向かうと、最早慣れたように受付嬢さんは俺に挨拶をしてくる。

 

 「そういえばトウヤさん、聞きましたよ!」

 「え? 何がです? というか声が大きいですよ」


 俺が挨拶をし返すと、受付嬢さんはにこやかに笑みを浮かべたあと、一転してカウンターから身を乗り出して、興奮気味の顔を見せた。

 てか顔が近くてですね……ありがとうございますっ。


 「あ、すみません。つい興奮してしまって……聞きましたよトウヤさん! ギルドマスターと試合をしたらしいじゃないですか!」

 「え、えぇまぁ……」


 俺が注意すると、受付嬢さんは周りの目を気にして、恥ずかしそうに身を引っ込めた後、小声でありながらも強くそう聞いてきた。

 俺もそれに気圧され、若干体を仰け反らせつつも頷く。


 情報伝達が早い事で。あの人が直接話したんじゃあるまいな?


 「はぁ~、本当に戦ったんですか……」

 「まぁ、成り行きで。ところで、それはどこ情報です?」

 「職員仲間です。昨日訓練場を偶然通り掛かった時にチラッと見えたらしくて……最初は私も半信半疑だったんですけど、ギルドマスターに聞いたら『そうだよ』って普通に返されまして。トウヤさんからもそう聞いて、確信しました」

 「あ~、そう言われればあの時気配を感じたようななかったような」


 正直門真君達の気配はわかるのだが、それより外の方は意識に留めてなかったからな。

 でも[完全記憶]で思い出したら確かに気配があった。丁度俺がギルドマスターの『氷柱アイスピラー』を喰らっている時だな。


 「それで、じゃあ試合はどっちが勝ったんですか! 流石にギルドマスターですかね?」

 「そこはご想像にお任せしますよ。でも、受付嬢さんは俺の強さを見た事ないので、比較が難しいかもしれませんがね」

 「な、何か含みを持たせた言い方ですね……」


 そりゃ、ギルドマスターは俺に手も足も出ませんでしたよとは素直に言えないよな。なんだかんだ言って、受付嬢さんもギルドマスターを尊敬しているみたいだし。

 あんなのでも、仮にもギルドマスターだし、やはり尊敬出来る面もあるのだろう。出来る女という奴か。


 それに加えて、表沙汰には出来ないが、元勇者の従者だ。戦闘能力の方も抜群であり、対応力も高いはず。


 それだけ聞くと凄い尊敬出来るよなぁ。

 割と負けず嫌いで、行き過ぎた行為があったりもするけどね。それが無ければ、十分以上に頼れる存在であると俺も思う。


 「あっ、すみません、私ったら仕事を放棄して話に……」

 「ハハハ、全然構いませんよ。誰が聞いても気になるような内容ですしね」


 それに美人と会話ができるのはそれだけでご褒美に値するんすよ。そこのところ、覚えておいてください。

 俺が笑顔で構わないと告げると、受付嬢さんは恥ずかしそうな笑みを浮かべた後、仕事の姿勢に戻る。


 うん、満点のスマイルですね!


 「コホン……では改めまして、本日はどのようなご要件でしょうか?」

 「そうですね、じゃあ魔物の素材を買い取ってください」


 受付嬢さんは一度咳払いをすると、俺に聞いてくるので、俺はすかさず答える。

 実を言うと単純に挨拶しに来ただけなのだが、まぁどのような要件か聞かれた以上、選択肢はなかった。


 それに、素材を売りたかったのも間違いではないしな。


 俺は『無限収納インベントリ』に入ってる素材をチビチビと出して査定してもらっていく。受付嬢さんの手には、[鑑定]の秘宝アーティファクトがあり、取り敢えず一段落するところまで素材を出すと、査定額は何と金貨160枚にもなった。


 「おぉ、凄い重い」


 金貨が入った袋を渡されると、手の中にずしりとした重みが。なんというか、お金の重みは違うなぁ。


 「品質が上等であることや、珍しい魔物の素材であること、解体の仕方が驚くほどに上手いので、多少増してはいますよ。これの解体はトウヤさんが?」

 「えぇ。まぁ解体の知識なんかないので、ほとんど適当ですが」

 「適当にやってこれだけ出来るなんて……トウヤさんって万能なんですね」


 若干キラキラと凄いものを見るような目で見られて苦しいので、俺は誤魔化すように頭をかく。


 万能と言われれば万能なのだろうが、多分スキルのお陰だと思うんだがなぁ。

 確かに元から器用だが、やはりスキルのお陰かなと思うと釈然としない部分はある。


 胸を張って自慢できないところかな。魔法は色々と考えて使ってるし、武器も日課の訓練はしてるけど、[解体]は完全にスキル依存な気がするから。

 少しでも俺の努力があれば、多少は胸を張れたのだが。恥ずかしさよりも、この場合は苦しさとかを感じる。


 その視線に耐えられなくなり、俺は受付嬢さんにお礼を言って足早にその場を去る。

 今日はどうやら、俺は謙虚らしい。日によって性格が変わるのはどうかと思うが、人間そんなものだろう。


 ただ、性格が若干変わっても、外面が変わる訳では無い。あくまで内心だけだ。


 だから、色んなことへの印象も変わる。


 例えば、そう。ギルドの外に出て、門真君達が来るまで散歩でもしてようかなと思った俺の目の前を、セミルと思わしき人物が通ったとして。


 昨日なら恐らく『こんな近くに居られると面倒事が怖いな』と思ったに違いないが、今日の俺は『クロエちゃん探すのに必死なんだな』と、割と好印象を抱いていた。

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