第35話 全力で(指導を)やろうか
すいません、まただいぶ遅れてしまいました。本編の執筆から手を離せなくて……。
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「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふぅ……そろそろ終わりにしようか」
「は、はい……はぁ、はぁ」
俺と陽乃ちゃんの試合はなんと数十分にまで及んだ。
こんなに長時間戦ったのって何気に初めてだったりする俺だが、別にそこまで疲れてはいない。まぁ、体力とかはレベルアップすれば勝手に増えちゃうし、長時間高速で移動するなんてのもしてたから、思っているより体力はあるのだろう。
一方で陽乃ちゃんは既に地面に倒れ込んでいる。というのも、今回の戦いは普段より全然動いただろうから、仕方ないとは思うけどね。
結局途中から陽乃ちゃんは魔法を使い出した。俺の容赦のない攻撃になりふり構えなくなったのであろう。
勿論俺もそれで魔法を使い出す、なんてことはしない。俺の魔法は発動速度のせいで後手にまわっても先に発動できるからな。例え相手が無詠唱だとしても、感知してから発動するでの時間は俺の方が圧倒的に早い。
そうなれば陽乃ちゃんが手も足も出ないことは明白だ。
だから代わりに動きを激した結果、まるでバトルものアニメのように超速戦闘に突入してしまったが、陽乃ちゃんの付いてこれる範囲ではあったので良しとしよう。
魔法やらスキルやらが使えたら空中戦闘も出来そうだな~と軽く考えつつ、ジャンプして上空から攻撃ぐらいのことはしていた。
他には背後に移動したり、フェイントのフェイントをかけて、こちらの動きを見失わせたり。
魔法に関しては反射神経のみで対応したり、少し汚いが、魔法を発動しようとした瞬間に邪魔したり。無詠唱でも一瞬、ほんの少しだが猶予はあるし、そこを狙えば行けるのだ。
ま、そんな激しい動きに対応してたら、陽乃ちゃんも疲れるわけで、現在に至る。
そんな陽乃ちゃんに少し苦笑いをしつつ、スパルタ過ぎたかなと反省する。ただ、アフターケアはしっかりするつもりなので、許して欲しい。
「『ヒール』と『
「あっ……」
まずは陽乃ちゃん本人に回復魔法をかけ、その身体に出来た無数の傷を治す。我ながらやり過ぎだと思わないこともないが、治せるという認識があるから少し厳しくなっているのだろう。
次いで装備全体に修復をかければ、晴れて元通りとなる。万が一槍が壊れた場合でもこの魔法があるからこそ、俺はあの腐敗の効果がある槍を使用した。
なお、体力は回復させない。疲弊しても大丈夫という認識が出たら嫌だからね。あれはたまに程度でいい。
「お疲れ様。多分キツかったと思うけど、よく頑張ったね」
「は、はい……ありがとうございます、トウヤさん」
うーん、その一瞬の間は一体なんだったのか気になるけど置いておこうか。
地面に横になった状態で俺にお礼を言うものの、内心どう思っているのかが不安でしょうがない。何せ、訓練とはいえ結構な傷をつけたのだ。打撲なんかも多いだろう。
少なくとも地球の価値観のまま当てはめれば、間違いなく事件に相当するものだろうよ。警察沙汰だ。
だからこそ嫌われていないことを願うばかりだが、陽乃ちゃんみたいな子はきっとズバッというはずだから、言われていない以上多分大丈夫だと思うことにする。
「まぁ、多分だけどこれで強くなったはず。俺の動きに途中からは対応出来てたっぽいしね。満点、とは言えないけど、テストで言うなら95点は確実だね」
「そうですか。はぁ、よかったぁ~……」
そう、俺相手によく頑張ったと思う。本気ではなかったとはいえ、恐らく軽くグレイさん以上の強さは発揮していたと思うから、戦闘としてはあれかもしれないけど、生き残るだけなら十分だといえよう。
そして多少は休んだことで、元気が戻ってきた感じかな?
「この後はゆっくり休んで、午後に備えて。頑張ったから後でご褒美もあげよう」
「じゃあお言葉に甘えます。そっちの方で休んでますね。……あ、ご褒美期待してます!」
最後の最後でにんまり笑顔を俺に見せると、ゆっくりと立ち上がって椅子がある方向へと歩いていく。
うん、不意打ちは良くないよ。向日葵のような笑みとは良く言ったものだと思う。ホントにそんな感じだしね。
しかし、ご褒美とは言ったが、安請け合いするんじゃなかったかな。はっきり言って軽い気持ちだったのだが、頑張り具合からすると多少のことは目を瞑ってあげるしかない。
ここは俺が選ぶのではなく、本人に聞いてみるのが一番なのかもしれないな。
◆◇◆
「トウヤさん、次お願いします」
「オーケーオーケー。というか、陽乃さんの心配はしなくていいの?」
意識してなのかよく分からないが、気配を消して俺の元までやって来た雫ちゃんは、自身の姉だか妹だかを全く心配せずに訓練へと誘ってきた。
「陽乃は別にトウヤさんと訓練しただけだから。心配したらトウヤさんに失礼かなって。ちゃんと回復までしてるし」
「いやでもね、こう、身内なんだからそういう感情抜きで心配したりとかは」
「無い」
意外と冷えきってるんですね。双子と言ってもその程度なのか?
いや、一方的に雫ちゃんがドライなだけか。心配する必要がないから心配しない、ただそれだけの事だからと言いたいのだろう。
「まぁ雫さんがそう言うなら構わないけど……で、じゃあ早速訓練だけど───」
「待って、私が決めたいです」
俺が訓練内容を提案しようとすると、途端待ったがかかる。
雫ちゃんは腕を突き出して止まれのポーズを終えると、少し考え事でもしているのか黙り込む。
1秒、2秒と沈黙の時間が過ぎる。正直気まずい。
しかし、幸いにしてその時間は長時間続くことは無かった。
「……じゃあ、魔法の練習がしたいです」
「魔法の練習? 弓じゃなくて?」
「はい」
おっと、意外なことに魔法ときたか。
少し目を開いて驚いてみせると、雫ちゃんは理由を話し出す。
「弓だけじゃどうしても手数が足りないから。複数同時に魔法を使えるようになりたい」
「同時発動か……まぁ、やれるだけやってみようか」
取り敢えず本人のちゃんとした意思がある事なので、俺が否定する理由もなくそのまま訓練へと入る。
とは言っても、同時発動の訓練か……
「正直これに関しては、俺がいる必要ないと思うんだけどね。魔力操作と感覚的なものだし」
正直に俺は雫ちゃんに告げる。魔法を同時に発動させるには、複数の魔力の塊を、無意識的に操作する必要があり、これは難しい。
だからといって意識して出来るはずもない。両利きみたいなものだからな、これは。
更にイメージも重要だ。魔法の個数分イメージは増やさなければならないし、その分普通は一つ一つのイメージが漠然としてしまう。
雫ちゃんは二つ三つぐらいまでなら可能なようだが、数が増えればそれだけイメージする個数を増やさなければならないのだ。
「ま、やるしかないね」
「そうですか……じゃあ最初は、魔法の発動速度も上げたいので、色々と撃ってみます。トウヤさんはちょっと見ててください。何か改善点があったらその都度聞きます」
ツラツラと喋ってしまうと、雫ちゃんは早速とばかりに詠唱を始める。そっか、雫ちゃんは詠唱破棄じゃ無理か。
そんなことを考えつつ、仕方ないなと思いながら【魔力視】の魔眼を使用してみる。
やると言ったからには全力で手助けしよう。これで魔力の動きを視覚的にも感覚的にも捉えつつ、最悪飛鳥ちゃんに使ったイメージを共有する魔法で色々と助けてあげればいい。
───この時、俺は大変な思い違いをしていた。
俺が本気で指導するつもりになったらどうなるか、俺自身良く理解していなかったのだ。
知識も感覚的なものも、今の俺は明らかに飛び抜けているのだ。そんな俺が本気で指導したらどうなるか……
当人の資質を、すべて引き出してしまう可能性も否めないのだ。
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