第18話 盲点だった


 そう言えば今更ですが、第5章はやたらと長丁場というか、無駄に長いというか、そんな感じなので、予めご了承ください。

 それを超えれば、個人的には結構好みな展開になっていきます。特に第7章の最後とかはお気に入りなので、せめてそこまで着いてきてくだされば……。


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 結局思考を与えるのに一番手っ取り早い方法は、魔法で新しく考えるということなのだが

 思考や人格を与える以上、精神汚染魔法よりも圧倒的に難度は高くなる。『赤』を『青』に変えるならまだしも、『0』から『1』を生み出すのはとても難しい

 元々魔法とは、魔力を使用して『0』から『1』を生み出すものだから、できないことは無いのだろう。だが少なくとも既存の魔法にはなく、また、どの属性の魔法が相性いいのかも分からない

 イメージだけで賄うには漠然としすぎていてどうしようもなく……


 「本当に影分身の術を取得できるか試すか?」


 自身の分身を作ることが出来れば解決するのだ。ゴーレムではなく、自分の影に[多重思考]を分けられれば可能なのだが


 「でもせっかくここまで作ったんだし、どうにかしてなぁ……」


 もしかしたら後で『ゴーレム軍団だ~』みたいなノリで、ゴーレムの軍団を作る場面があるかもしれない。それも考えると、やはりゴーレムに予め設定した命令を実行する機能はつけておきたい……

 あれ?命令を実行するだけなら、命令を刻んで[条件発動]と[遅延発動]を合わせれば思考を与えなくても行けるのか?


 「……難しく考えなくて、よかった……のか?」


 思考や人格を持たせるのは、何かコミュニケーションが必要な時や、自己での判断がと止められる時だけでいい。今回必要なのは、『門真君たちについていく』『自己防衛をする』『視界を確保する』というこの三つができればよく、視界さえ確保してしまえば、後は魔法でゴーレムとの視覚を接続リンクさせ、何か異変が起こった場合は、ゴーレムを目印にして転移すればいい。俺の魔力で作られているので、探知は容易だ

 造形はともかく、関節の動きなんかは多分滑らかに動くはず。何せこの俺のゴーレムだからな!(謎自信)

 まぁ、ゴーレムなんか初めて作ったんだけどね……


 「となれば、本当に命令刻むだけなのか……」


 ゴーレムを作る際に単純な命令を刻むことは可能だ。でなければ動かせないから

 そして、それと二つのスキルを合わせてしまえば出来るのだ

 こう、俺が考えていたものの難易度が高かったせいか、落差がですね……楽なのはいいんだが、釈然としない何か


 「……まぁいいや。うん。このモヤモヤとした感じは迷宮で晴らさせてもらおう」


 取り敢えず方法は確保できた。となれば、このまま迷宮に挑んでスッキリするとしよう

 ついでに本物の影分身に挑戦してみるのもいいかもしれないな




 グラを服の中へと戻し、ゴーレムには一旦お帰りいただいて、迷宮を歩く

 この階層は流石に今のグラでは厳しいだろうと思って、最初は・・・服の中でお留守番だ


 ここら辺になると大体敵のレベルも180近くだし、流石に封印を解いた方がいいだろうか?

 いやいや、あれって長時間封印し続けた方がいいって書いてあったし、ここは解除ではなく緩和に留めておこう

 具体的にはパラメーターは約5割程度、スキルは魔法以外基本封印で、必要に応じて解除で

 解除のタイムラグは一瞬意識が飛ぶ感じなので、戦闘中は危険だ。何も無い時に解除するのがいいのだろうが

 そういえば、結局スキル無しで魔法発動できないかなぁと思っているのだが、前にマリーさんが、『魔法を発動できる=スキルを持ってる』みたいなことを言っていたから、やはりスキルが無いと出来ないのだろうか

 だが、魔力の操作は[魔力支配]を封印していても出来るのだから、後はイメージだけのはずなんだがなぁ……魔法へと昇華するまでに、何かスキルで補助している部分があるのだろうか

 ここら辺は多分理論とかそっち系分野だと思うので、俺にはさっぱり。専門家ほど頭がいい訳では無いし、突飛な閃きもないからな。後でまたどっかの図書館でも漁ってみるか

 まぁ、この階層では万が一もありえるので、魔法は解除ということで


 「さて、お出ましか」


 考え事から思考を戻すと、敵の気配を拾った。自力で何故こんなにもできるようになったのか、未だによくわからないが、そろそろ『勇者スペック』ではなく『刀哉スペック』と命名した方がいいだろうか?

 ま、成長の速さは強さに直結するわけで、毎回のごとく悪いことではないのだろうと納得させる始末

 どんだけ自身のスペックに疑いを持ってるんだとね。ルーツが気になりすぎる


 そして敵と遭遇エンカウント。気配を消して近づいたおかげで不意を付く形になりました


 「『驚愕の拍手サプライズクラップ』!」


 魔法による瞬間移動からの剣による一撃を技にしてみました。これでスキルとか出ないかなと期待したり

 ネーミングセンスは気にするな

 

 『シュゥ!?』

 「チッ、浅いか」


 その分厚い皮に阻まれて、剣は途中で止まってしまう。中級のままなの忘れてた

 一瞬で剣を愛用している特異剣にもどす。その後一旦バックステップで距離を取り、改めて目の前のモンスターを見据える


 「蛇……いや、バジリスク?」

 『シャァァ!!』


 長い体を持ち、額に王冠のようにも見えなくなくなくなくなくもない模様を持っている

 まぁ実際は気のせいなんですがね

 蛇の名前もバジリスクなどではなく『トスペントシーペンス』……由来は何?せめてサーペントやらスネークやら付けてくださいな

 そして今更ながら、もし本当にバジリスクだった場合は俺ヤバかったんじゃね?と冷や汗を垂らす

 確か俺が知ってるバジリスクは、武器で攻撃すれば、その武器を毒が伝ってそのまま持ち主を死に至らしめる的な力があった気が

 他にも匂いで周りの蛇を殺すとか、見ただけで相手を殺せるとか、『小学生か!!』って言いたくなるような能力を持っているんだったか

 

 心底バジリスクじゃなくて良かったと思う


 『シャッ!!』

 「おっと、毒か」


 吐き出された触れたらやばそうな紫色の液体を避け、さてどう料理するかと考える

 最近戦いのバリエーションを増やしたくて、剣だけじゃなくて色々な方法で倒したいんだよなぁと


 ───今回は色々と技を試してみようかな?


 「『金翅鳥王斬こんじちょうおうざん』!」


 かっこいい必殺技~みたいな感じで調べてた時に出てきた技。なんでそんなものを調べたのかは察してくれ

 何か、剣を上にあげて相手を威圧しつつ上段から斬り下ろす技?その剣をあげている姿を金翅鳥、つまり神鳥であるガルーダに見せているみたいな?

 同じように俺も威圧を放ちつつ剣を真っ直ぐ振り下ろしてみる

 ついでに光魔法で演出を加えて、背後に金の鳥を出現させつつやってみる


 「シャァ!!」

 『シャァァァァ!!!』


 ダメだ、勢いで負けてます

 でも振り下ろした剣は中々の威力を秘めていたようで、トスペントシーペンスの体に深く突き刺さる


 『グシャァァァ!!??』

 「『迅雷じんらい』」


 からの一気に相手の背後に高速で移動しつつ一閃する技


 [超運び][肉体掌握]そして[真剣術]。スキルで強化されていた頃を[完全記憶]で思い出し、それを肉体にトレースする

 スキルというのは、あるとなしではその差は歴然としている。何が違うのかは分かっていないが、スキルを取得すればその分野ではスキルを持っていないものよりも圧倒的に熟練してしまう

 スキルの無いものはどんなに鍛えたところで、スキルを持っている者には敵わない

 一方で俺は、スキルを持っているにも関わらずスキルが無い状態だ。そんな俺は、『スキル無しでもスキルがある時の感覚が分かる』という状態だ。だからこそ、それに沿うことで技術が上達しやすい

 今までの技術の成長の速さの要因の一つはこれにあったのかと、今更ながらに気づく

 それに加えて、俺の[完全記憶]は見聞きしたもの以外にも、その感覚すら完全に記憶してしまっている。だからその時の感覚を思い出して、それをもう一度行えばいい 


 だからこそ、パラメーターを下げている今でも、高速でトスペントシーペンスの顔の前から背後へと移動することも可能なのだ

 スキルを得て、レベルをあげれば達人。今の俺は、達人級の技術を無理やり出しているとも言える。それで本来のパラメーターの限界値を超えている

 一瞬走る剣の軌跡が消えれば、トスペントシーペンスの体から一気に血が吹き出す 


 「『追撃の時間ラッシュタイム』」


 はい、ただスピードに任せて敵を切り刻む技です

 左手に剣を追加し、更に前に阿修羅と戦った時に使った『魔腕マジックアーム』を使っての、合計4本による連撃

 今の俺ならスキル無しでも、それぞれの剣の軌道を把握しぶつからないように攻撃することが可能だ

 ……どこでどんな修行をすればそんな著しい成長を遂げるのやら、と心の中でため息。修行の過程が無く、突然強くなった力を我が物顔で使って敵を無双する主人公なんかアンチができそうだ

 この力の源が俺に由来するのか、それとも偶然なのか、結局わからずじまいなのは痛いところだ。スッキリしない

 でも、こうリズミカルに敵を斬るのが何気に楽しくて、そんなことはすぐに思考から追いやられてしまう……いやまて、これはサイコパス発言だ

 こう、リズムゲームでフルコンボを目指している時のような……それも問題発言だ

 でもそう。我を忘れるような感覚なのだ。一度身をゆだねてみれば、そのまま本能に従うかのような……




 結局その連撃は数百に及び、ハッと思い攻撃の手を止めてみれば、案の定そこにはズタズタになりほぼ原型を留めていないトスペントシーペンスが居たのだった


 「……グラ、食う?」

 『プルプル』


 現実逃避気味に言ってみれば、グラは『喜んで』と言わんばかりに体を揺らして死体を捕食する

 見た目は気にしないのだろうか。少しそこら辺の教育をした方がいいかもしれないな


 結局、この思考すら現実逃避であった

 


 

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