第10話 唐突な威圧
「『
時空魔法を使用して、京極君の小太刀を直すことに
刀身部分を全て無くした小太刀に魔法をかけると、一瞬小太刀がブレたかと思うと、次の瞬間には既に刀身部分は再生されていた
……あれですね。ゲームとかである、画面がブレたと思ったら次の瞬間には変わってるってやつ
意外に苛烈だった模擬戦は終了し、現在は損傷した京極君の小太刀を、責任もって直していた
元通りピカピカとなった小太刀を見て、うんと一つ頷き俺は京極君に返す
「悪いね、うっかり壊してしまって」
「い、いえ。こうして戻ったことですし全然問題ないですよ。というか、僕としては今の魔法とか、どうやってこの小太刀を壊したのか知りたいんですが……」
「時空魔法と錬金術?」
「それがおかしいんですよ」
何故だ、こうして出来ているのに!
「夜菜、飛鳥、時空魔法ってあんなことも出来るのか?」
「出来るわけないよ」
「うん。少なくとも私には時を遅くするか早くするかぐらいしか無理だよ」
門真君の問いに首を振る2人。それは初耳だ
「……魔法職の勇者である2人がこう言っているのですが、トウヤさんって一体何者なんです?」
訝しげに聞いてくる門真君。残りのみんなも意見は同じようで、何やら探るような視線を向けてくる
そしてその一言は、少々現在の俺に対しては踏み込みすぎだと判断した
「……俺は
疑問を残すニュアンスで、敢えて俺はそう伝えた。と同時に、体が硬直する程度の[威圧]をそれぞれにピンポイントで向ける
「余り探らない方がいい。知っているだろう?
[威圧]を交えた言葉は絶対的な強者の立ち位置を表す。ついでに口調も変えてやれば、それが決めてともなる。とは言えそれはあくまでその場限り程度のものに留めているが
そして更にヒントも教えてやれば、後は辿り着いてくれるはず。名前の響きもこちらの世界に合わせてイントネーションを変えていたが、ここで強調するように言えば、気づくはずだ
「トウヤさん……いや、
「さぁ、大体の実力は測れた。まずは迷宮に必要な道具を買うところから始めようか」
早速気づいた京極君が言葉を紡ごうとするが、俺はそれを遮って、そう伝えた
◆◇◆
ハルマンさんの道具屋に移動し、そこで必要なアイテムを購入する
勇者達は既に普通に戻っており、俺に対して怯えたりしている様子はない。まぁ俺にとっては弱めの威圧だったし、恐怖を感じたのではなく、単に体が動かないと感じただけなのではないか
そして俺の言葉を正しく理解出来たのは、恐らく京極君だけだ。きっと思考回路が俺と似ているのだろう
なお、怯えていた場合は、快復魔法で精神を安定させる魔法を作るつもりではあった
「トウヤさん、これぐらいですかね?」
門真君達が買った道具は、まず食糧に水、それらを入れるマジックポーチ全員分
罠感知の
様々な物を買ったが、一番困ったのが俺はアイテムなんか使わないから何が必要なのか推測しかできないという
罠とか一度も当たったことがないし、地図は完全記憶があるから必要なかった。『
ということで、俺に本当に必要なのは食糧だけだった。水分なら魔法で補給できるし
あれ?俺役に立てない?とね。助かったのは、門真君とか京極君がしっかりとアイテムを見極めてくれたから、俺が助言するまでもなく必要なものを買ってくれたことか
「良いんじゃないかな。お金は?」
「支度金が渡されてるので問題ないです」
なにそれ裏山!俺なんか無一文だったのに!
まぁでも【ヴァルンバ】は勇者をしっかりと援助しているようで、安心した。別にどうしようと知らないが、出来ればいい国であってほしいと思うし
そう思うと、ルサイアの方ではどうなんだろうかと邪推。まぁルサイアだけ勇者に援助していないとなれば、周辺国から何を言われるか分かったものじゃない。そんなことを一国の王が分からないはずもないから、恐らく問題ないはず
ただ、
だからこそ、半端に頭が回って、半端に野心があった方が対処しやすいと思う。俺の頭脳じゃそれでも難しいだろうが
「じゃあとりあえずパーティーの編成をしようか」
「了解です」
全く関係の無い思考をかき消し、門真君に言う。実力は測ったから、後は各個人の連携で決めるとしようか
「じゃあ門真君と陽乃さんは遊撃だから、基本的には誰とでも組めるんだね?」
「はい。連携に関しても、俺はそこら辺は自信があるので行けると思います」
「私は雫ちゃんとなら完璧です!後は飛鳥ちゃんとも!前衛だと紫希ちゃんとなら問題ないですが、クロクロとだとキツイかもです」
クロクロ……黒澤君か。すごいあだ名付けられてるな
だが黒澤君は特に気にしている様子はない。恐らくだが、諦めの境地に達しているのではないかと推測。絶対そうだろ、クロクロ
「ふむ……黒澤君は単独でやらせた方がいいかな。それとも連携の練習する?」
「見た目で決め付けるんじゃねぇよ。一応夜兎となら連携できるっつーの」
「はい。僕と学は昔からの馴染みなので。こっちに来てからも問題ないです」
「じゃあ黒澤君と天貝君はセットで行こう。野村君はヒットアンドアウェイみたいだから、御門さんとセット」
取り敢えず聞きつつ割り振り
「それで門真君は黒澤君達の方。陽乃さんは御門さん達の方に割り当てて、雫さんは陽乃さんと同じで良いかな」
「大丈夫です」
「京極君もさっき見た感じは隠密行動だったから、どっちに割り当てても問題ない。でも斎条さんとの連携は凄かったから、斎条さんとセットで門真君の方に割り当てで」
「了解です」
「大丈夫ですよ」
「飛鳥さんは御門さん達と同じパーティーで、暫くこれで様子見をしよう」
結果、以下のような構成となった
パーティーA
黒澤君 前衛
天貝君 前衛
門真君 中衛
京極君 中衛
夜菜ちゃん 後衛
パーティーB
御門ちゃん 前衛
野村君 前衛
陽乃ちゃん 中衛
雫ちゃん 後衛
飛鳥ちゃん 後衛
これで暫く様子を見て、ダメな箇所があったら指摘、もしくはメンバーの変更ということで行こう
……夜菜ちゃんが女子1人だったり、野村君が男子1人だったりというのが気になるが、まぁ俺も一緒に行くんだし問題ないだろう
「午前が門真君パーティー、午後が御門さんパーティーのローテーションで行こうと思う。道中、慎重に進むか早めに進むかは任せるけど、俺のカバーを前提に進むのは止めてね」
「分かってますよ。俺たちだってそこまで考えなしじゃありません」
「殺す気で技は放つけどね」
「それはそれ、これはこれです」
まぁ別に怒ってないからいいんですけどね。[危険予知]が警報ならしたからって、俺が怪我する程度って言うだけだし、その怪我も恐らく擦り傷とか、せいぜいが切り傷ぐらいだろう
それもパラメーターを下げているという理由もあるしな
「さて、じゃあまずは門真君達のパーティーから行くけど、御門さん達はその間どうする?勇者だけで危険地帯に送るのはまだ無理な気がするから、迷宮に挑むのは無理だけど」
「あ、ならさっきの訓練場行ってます。連携の確認とかもしておきたいですし」
「りょーかい。ただ午後に行くから、体力の配分は考えてね」
「分かりました」
ギルドに戻っていく5人を見ながら、少し心配になる俺……心配ではなく、単に気になるだけだな
(グラ、念のため隠密行動で見といてくんないか?)
(……!!)
ずっと俺に張り付いて気配を消しているグラに小声で伝えると、体を震わせることこそしなかったが、了承の意を込めてか服からスルリと出ていく
[色彩変化]で周囲に擬態しつつ、手に入れたスキル[隠密]をフルで活用しているようだ
あっちはグラに任せればいいだろう
さて、迷宮に行くにしても、俺の【運】が作用しなければいいけど。俺がいる状態───すぐに階段が見つかったり、行き止まりに当たらなかったり、罠にかからなかったりなんて状況で慣れて欲しくないしな
そこだけが懸念である
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