21話 洋弓の魔装機使いは大事なものを落としていきました

 ローエングリンとの模擬戦から約2週間ほど経ったろうか。あれ以来しばらく俺は熟女好きという烙印を押されひどい目にあった。



 教室に入れば変な目で見られ、近くを歩いただけで避けられる。最初はラミアも俺のことをゴミでも見るような目で見ていたがなんとか誤解を解くことができた。



 人の噂もなんとやらでラミアとずっと行動していたためかなんとかその誤解も今は溶けつつある。



 ちなみにローエングリンとあの後、魔装機のことについて聞いてみたのだがラミアの時と同じような事を言っていて、あまり特質する情報はなかった。



「はあ」

 本当にひど目にあった。

 森の新鮮な空気を吸い込みそんなことを考えていた。

「おつかれでしたら少し休憩をしてはいかがですかマスター?」

 アニスが俺のため息を聞いて心配してくれる。

「うん、大丈夫。ありがとな」



 今日は週に一度の休み。授業が何もない日で、俺は鍛錬のために学園を取り囲んでいるラグラスの森に来ていた。



 この森には多種多様の魔物が存在して、歩くだけでたくさんの魔物に遭遇する。歩き始めて2時間、軽く30匹ほどの魔物を倒しただろうか。



 そろそろ帰るかな。

 舗装されていないけもの道を歩き考える。

「ん?」

 するとどこかから誰かの泣き声が聞こえる。

「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」

 ……嫌な予感がする。



 その声には聞き覚えがありあえて知らないふりをする。

「その気配は相棒か!?」

 が、音ひとつ立てていないのに声の主に何故か気づかれてしまいそれもできなくなってしまう。



「その相棒っての辞めてくれよ、ローエングリン」

 バレてしまったのでしかたなく熟女大好きイケメンナンパ野郎のところへ行く。

「聞いてくれ旦那!今日もローグのやつアリスさんに告白して大撃沈したんだ、親友としてなにか慰めの言葉をかけてやってくれよ!」

 短髪緑髪、つり上がった目が特徴的なローエングリンの魔装機、アッシュが大袈裟に俺に言ってくる。



「その旦那ってのもやめろ。はあローグ、また懲りずに行ったのか?」

 別に頭が痛い訳では無いのだがこめかみに手を当てる。

「ああ、でもまた断られて〜」

 ローグはまた目から大量の涙を流す。

「そ、そうか、まあ、諦めず頑張れよ……」

 ぎこちなく肩を叩き言われたとおり励ましの言葉をかける。



「おう、頑張るよ相棒〜!」

 涙や鼻水でぐしゃぐしゃになった顔でこちらに抱きついてこようとする。

「あ、いや。そういうのいいんで」

 するりと躱し、その場を立ち去ろうとする。



「きゃあぁぁぉぉぁ!!!」

 しかし突然、後ろの方から女の子の悲鳴が聞こえ2人で顔を見合わす。

「今のって……悲鳴だよな?」

「ああ、行ってみよう相棒!」

「あ、おい!」

 ローグは立ち上がりまっしぐらに声のした方へ走っていく。



「私たちも行きましょうマスター!」

「ああ」

 アニスに言われ俺も声のした方へと足を走らす。


 ・

 ・

 ・


「た、助けてくださいぃ!!」

 声のした場所へ着くとそこには1人の女の子と蜂型の魔物、ソニックハニーが10匹の群れで女の子を襲っていた。



「アッシュ!!」

「おうよ兄弟!」

 ローグはアッシュを大きな斧の形に変えて女の子を庇うようにソニックハニーに攻撃を仕掛ける。



「よし俺達も行くぞアニス!」

「はい!」

 こちらもローグに加勢し一気にソニックハニーを蹴散らしていく。



 ソニックハニーは高速で移動し、相手を撹乱して尻の方についた太い針で攻撃する中級の魔物だ。初見で攻撃を見切るのは難しいと言われているのだが魔装機の力で身体能力が高い俺とローグは難なくソニックハニーの動きを見切り敵を殲滅する。



「大丈夫か!?」

 2分もせずに終わり、少女の方へと駆け寄る。

「は、はい。ありがとうございました!」

 少女は腰が抜けて立ち上がれないのか尻餅をついたまま動かない。



「っ!?」

 別に故意として彼女の下半身の方を見た訳では無いのだが彼女のスカートの中から淡い水色の布が目に飛び込んできてしばらく見入ってしまう。

 "マスター……………"

 アニスは俺が何を見ているのか勘づいたようで少しドスの効いた声で俺の事を呼ぶ。

「す、すみません!!」

 情景反射で頭を素早く下げて声だけのアニスに謝る。



「……あの、誰に謝っているんですか?」

 少女は未だ尻餅をついたまま不思議そうな顔で見てくる。

「こ、こっちの話だから気にしないでいいよ……」

 少女の腕をつかみ勢いよく持ち上げる。



「あらためて、助けていただきありがとうございました!」

 少女は深く頭を下げてお礼を言う。

「あ!お名前がまだでしたね。私、マキア=レイベルトっていいます」

 たれ目で紫髪のショートヘア、そして何がとは言わないが大きいふたつの物が特徴的な少女は自己紹介をする。



「俺はレイル、そんで……」

「僕はローエングリン、ローグでいいよ」

「それでマキアはなんで一人武器も持たないでこの森にいたんだ?」

 俺達もお互い自己紹介をして気になっていたことを聞く。



「えーと、武器はあったんですけど、さっきのソニックハニーに襲われて逃げる時に落としてしまったんですよ……」

 彼女は恥ずかしそうに笑いながら理由を説明する。

「なるほど」

 まあ、あの数のソニックハニーを一人でどうにかしろと言われても無理な話である。



「本当にありがとうございました!それでは私はこれで」

 マキアはもう一度頭を下げて一人でどこかへ行こうとする。

「ちょっと待った!一人でどこ行くつもりだよ?」

「え?あの、落とした武器を拾いに……」

「それなら俺も手伝うよ、一人で探すのは危ないし」

「相棒が手伝うんだったら僕もやるよ」

「え、でもそんな悪いです……」

「困った時はお互い様だよ、それにまた魔物に襲われたらどうするの?護衛が必要じゃない?」

「う……それは……」

 マキアは痛いところを突かれ難しそうな顔をして唸る。



「……すみません、手伝ってもらってよろしいでしょうか?」

 マキアは少し何かを考えてお願いをしてくる。

「よし!それじゃあ行こうか」

 そうして三人で森の中を探索していく。


 ・

 ・

 ・


「それでマッキーはどんな武器を使うの?剣?槍?それとも斧?」

 マキアが逃げてきた道を歩きながらローグが質問をする。



 マッキーっていつの間にそんなあだ名つけたんだよ……。



「えっと、私の武器は弓です」

 手をもじもじさせながらローグの質問に答える。

「へー弓か、それなら確かにあの数のソニックハニーに襲われたら逃げるしかないよね」

「はい……」

 顔を真っ赤にしながらマキアはずっと地面を見つめている。



「……」

 マキアはローグが気になるみたいだな、確かにローグのやつ性格はアレだが顔だけはいいからな。

 "何をおっしゃいますか!あんなイケメンよりもマスターのほうが素敵な殿方です!!"

 俺の考えを覗き見したのかアニスがそんなことを言う。



 "うん。ありがとね……"

 "なんですかその薄い反応は!?乳ですか!?やっぱりマスターも大きい乳がいいんですか!?"

 軽くアニスの言葉を流すと飛躍した言葉が頭の中に広がる。

 いや、誰もそんなこと言ってないでしょ……。というかどんどんキャラ変わってません?



「ここです」

 とアニスと会話?をしてるとマキアが最初にソニックハニーに襲われたという場所に着く。

「うーん、弓なんて見当たらないけどな〜」

 ローグがあたりを見渡すが弓らしきものは見当たらず草だけが生い茂っていた。



「ど、どうしよ〜。勝手にいなくなったのかな〜……」

 マキアはスラリと額に汗をかきながら小さく呟く。

「ん?いなくなったってどうゆうこと?」

 彼女の言葉が気になり聞き返す。



「え!?えーと、そのー、こ、こっちの話しです!!」

 焦った顔をして首を横にブンブンと振る。



「あ!マキアったらこんな所にいたー!!」

 すると前の方から桃色の髪を2つ結にした可愛らしい少女が走ってくる。

「あ、ダメ!!」

 マキアは額に大量の汗をかいて焦った様子だ。



「もう!心配したんだからね!!あれ、この人たちは何?」

 少女はマキアを力いっぱい抱きしめこちらを見てくる。

「ちょっとアルコ苦しいよ!」

 マキアはなんとか少女の抱擁を抜け出そうとするががっちりと固まった腕は何をしても緩まらず微動だにしない。



「お、おいアニスこれは………」

「はい、魔装機ですね」

 つい口から声が出てアニスに確認を取るとそんな簡単な答えが帰ってきた。

「驚いた、まさか君が魔装機使いだったなんて……」

 ローグも驚いた様子で桃色の髪の少女を凝視する。



「え?なんでお二人とも魔装機のことを……?」

 マキアはやっと抱擁から解放され困惑していた。

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