12話 彼女へのお礼

 窓から差す日の眩しさで目を覚ます。知らない天井が目に移り一瞬困惑するがすぐに自分が王都に来ていたことを思い出す。



 寝返りを打って二度寝を楽しもうとすると横に何かいることに気づく。

「……ん?」

 目の前にはすやすやと静かな寝息をたてるアニスがいた。



 うーん?おかしいぞー?俺は夢でも見ているのかなー?なんで俺とアニスが一緒のベットなんかに寝てるんだー?いやー夢だなこれは、うん、きっとそうだよねー。



 思っいきり自分の頬を抓ってみる。

「いだだだだだだだだ!」

 うん!痛いからこれ夢じゃない!!!

 でもおかしい、たしか昨日アニスは剣のままで眠ってもらったはずだ。



 そう、あれは昨日のこと……。

 運よく学園側が無料で貸してくれる宿舎的なものを借りることができて受付が終わったあとその宿舎に行ったのだ。

 当然用意された部屋は一室、そして当然用意されたベットの大きさもシングルサイズ。



 アニスは剣の姿よりも悪魔の姿を好み、寝る時も悪魔の姿で寝かしてあげたかったのだが俺がベット譲ると言ったら「マスターがそんなことする必要ありません!」っと言ってアニスは剣の姿で寝ることになった。



 申し訳なく思いながらもアニスには剣の姿になってもらい俺はベットで寝たはずなのだが……。

 朝起きたらアニスが横で寝ている。

 どゆこと???



「うーん……あ、マスターおはようございますぅ」

 俺の悲痛の叫びで起きてしまったのかアニスは目を擦りながら朝の挨拶をしてくる。

「お、おはようございますアニスさん」

 何故かかしこまって敬語で話す。

「まだ少し眠いです」

 アニスは寝ぼけているようで毛布をかけ直すと同時にこちらに抱きついてまた寝始めた。

「マスターは暖かいですぅ」

「ふぁ!?」

 抱きつかれビックっと体が硬直する。



 こ、こいつはいけない……!何がいけないって色々とやばいが特に俺の俺がヤバい!!



 いや、これは抱きつかれてやらしい気持ちになったとかアニスが柔らかすぎて立ち上がったとかではなくて色々と体の中で起きてその結果こうなってしまっただけで決して、決してやらしい気持ちは全く持ってない!!若い証拠、わかいっていいよね!!



 朝特有の生理現象が絶賛起こっているのだ。

「あ、あのーアニスさーん。朝ですよ〜、起きる時間ですよ〜」

 下半身をアニスから離しつつ声をかける。

「んん……」

 がしかし可愛い唸り声とともにアニスは俺を逃すまいと抱きついてくる。



 ひゃあぁぁぁぁああぁぁぁぁ!こいつはいけねーよおおおおおおおぉぉおお!そろそろ起きてくれないと俺の俺がどうにかなっちまいそうなんですけどおぉぉおおおおおおお!!



 ピト。

 何かとなにかが当たる感触がする。



 あ、もうこれダメですわ……。



 そう俺の理性が崩れかけそうになった瞬間……。



「うーん、あれ? マスターおはようございます」

 体を起こし大きな伸びをする。

「あれ? 私いつの間にベットにいたんでしょう………か?」

 首を傾げながら俺の下半身にある大きな山を見つめる。

「お、おはようございま〜す……」

「きゃあああああああああ!!」

「べフッ!!」

 思っきりビンタをくらい刺激的な朝を迎える。


 ・

 ・

 ・


「も、申し訳ございません!!」

 アニスは土下座しそうな勢いで謝ってくる。

「いや、いいよ気にしないで! あれは俺も悪かったから!!」

「いえ! 私は主になんてことを………」

 歯を食いしばり悔しそうな顔をする。



 こうなってしまったらアニスは自分だけで責任を負おうとするのでアプローチを素早く変更しよう。



「わかった! じゃあ今日は1日俺の買い物に文句一つ言わずについて来てくれ」

「そ、そんなことでよろしいよですか?」

「ああ、文句一つ言わずについて来てくれ」

 念の為2回言う。

「は、はい……?」

 アニスは頭に?マークを浮かべながら了承してくれた。



 まあ、予定とは少し違うけどよしとしよう。



「じゃあ飯食って来るから少し待っててく

 れ」

「承知しました」

 俺は部屋を出て食堂へと向かう。


 ・

 ・

 ・


 軽く朝食をすませアニスとすぐに外へと出かける。

 外は今日も人で賑わっておりそれだけで気分が高揚してくる。



「あんまり手持ちはないけど、今日は目一杯楽しむぞ!」

「はい! それで最初はどちらに向かうのでしょうか?」

「まあ、目星は付けてある。ついて来てくれ」

 地図を開きそれを頼りに目的地へと向かう。



「あの……ここは?」

「ここは?って服屋だけど?」

「そうなのですがどう見ても女性物の服しか置いてないよに見えるのですが」



 店の中にはフリルの着いた派手なドレスや動物の毛皮が贅沢に使われたコートなどたくさんの服が飾られていた。



「マスターもしかしてそちらのご趣味が………」

 俺から少し距離を取り汚いものを見るよな目で見てくる。

「いや、違うからね!? 俺にそっちの趣味なんてないし、今日はアニスの服を買いに来たんだ」

「私のですか?」

「うん、いつも同じ服を着てるし、色々とお礼もしたかったし」

「いえ、私はマスターの剣で悪魔ですのでそのようなものは必要ありません!」

 アニスは物凄い勢いで遠慮してくる。



 ま、そういう反応するよな〜。

 だが今回は俺の勝ちだ!諦めて俺の感謝の気持ちを受け取れ!!



「あれ〜おかしいな〜? アニス〜、今日の朝俺とした約束覚えてる〜??」

「………あ」

 アニスは少し考え思い出したような顔をする。

「思い出した?ということで今回は諦めてついて来てくれ」

「……はい」

 観念したくれたようなので店の中へとはいる。



 中は物凄い数の服が飾られていた。アニスもキョロキョロと当たりを見渡し興味津々のようだった。

 やっぱり剣で悪魔でもこういったものは気になるようだ。



 さてどうしたものか……。最近の流行りなんて俺にはわからないし、アニスに服を選ばせたら気を使って安いものばかり持ってきそうだ。着てもらうのならアニスには一番似合う服を来てもらいたい。

 ここは店員さんにでも聞いてみるか。



「すいませーん」

「はぁい、どうしましたぁ?」

 近くにいた女性の店員さんがこちらに来る。

「えっと、この娘の服を見繕ってほしいんです」

「かしこまりまし……たぁ!?」

 突然目を大きく見開き店員さんは驚いた。



「か、可愛すぎるわぁ〜、とても私好み! おまかせくださいこのバリアントのファッションモンスターことオルビスに!!」

 店員さんはオルビスと名乗りやる気満々だった。

「お、お願いします……」

「さっ! いきましょう!!」



 オルビスはアニスの手を掴み奥の着替え室の方へと行ってしまった。



 ……アニス、大丈夫かな?



 奥の方から悲鳴のようなものが聞こえてきて少し不安になる。



「いやあ、素材がいいとこっちもやる気が出ちゃうわぁ。久しぶりに熱がはいっちゃった」

 少しして奥からオルビスがとてもご機嫌のご様子ででてきた。

「刮目しなさい! 今のアニスちゃんはあなたの知るアニスちゃんじゃないわ!」

 拳を握りしめながら彼女は熱く語る。

「さあ!出てきていいわよぉ〜」

「は、はい……」

 オルビスの言葉と同時にアニスは手をもじもじさせながら出てきた。



「ど、どうでしょうか?」

 俺の前まできて顔を真っ赤にしながら言う。



 上はフリルの着いた白のYシャツに膝丈くらいの可愛らしい黒色のスカート、靴は茶色のブーツとシンプルなコーデがらとてもアニスに似合っていた。



「か……」

「か?」

「か……可愛すぎる……!!」

 深くしみじみと言いながら膝から崩れ落ちる。



「でしょでしょぉ? アニスちゃん、なんでも似合うからどれにしようか迷ったんだけどやっぱりシンプルが一番よねぇ〜」

 オルビスはうんうんと頷き嬉しそうに言う。



「すいませんこれ全部でいくらですか?」

 大事な大事な金額を聞いてみる。

「うーん、ざっとこれくらいかしらぁ」

「え? こんなに安いんですか?」

 金額を見て驚く。

「まあ、うちはお値段以上で有名だからねぇ」

「ま、マスター、私にこのようなものはもったい……」

「買います!!」

「ま、マスター!?」

 アニスの言葉を遮り即買いした。



「まいどありぃ〜、また来てねぇ」

 オルビスが店の前まで送ってくれ綺麗なお辞儀をする。

 こちらも会釈をして店を後にする。



「いやあ、いい買い物をした〜」

 ぶらぶらと辺りを散策しながらアニスに声をかけるがアニスは何も言わず俺の後ろを無言でついてくる。



 ……さすがに無理やりすぎたかな。

 あまりアニスが服屋で乗り気ではなかったので迷惑だったろうか。

 これじゃあただの俺の自己満足だ。最低すぎるだろ俺。



「すまん! 考えなさすぎた! 良かれと思ってやったけど迷惑だっよな、ごめん」

 誠心誠意で謝る。

「なんでマスターが謝るのですか? 迷惑なんてひとつも思ってませんよ」

「いや、だってさっきから話しかけても何も返事がないから……」

「あ、すみません! こういったものを着るのは初めてで少し浮かれてました」

 アニスは恥ずかしそうに言う。



「ほ、本当に? 迷惑じゃなかった?」

「はい! 私は剣で悪魔ですけど女の子です、嬉しくないわけないと思います」

「そ、そうか。よかった〜」

 ホッと一息安堵する。

「あの…今日は私のために本当にありがとうございました!」

 柔らかいとても綺麗な笑顔をうかべる。

「どういたしまして」

 こちらも自然と口元がほころぶ。



 2人は賑わう街中をゆっくりと同じ歩幅で歩いて行く。

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