10話 その破壊力たるや

 馬車に乗って3時間ほどたっただろうか、衣類や食料と一緒に揺られながら王都へと続く道を進んでいた。



「いいお母さんですね〜」

 御者の人が話しかけてくる。

「はい、自慢の母です」

 自分で言ってはずかしくなる。



 ガリスの村から王都までは1週間ほどかかる、かなりの長旅だ。

 王都には小さい頃1度だけ行ったきりでその時の記憶も曖昧だ。実質今回が初めてのようなものである。



「アニス、これから長旅になるけど大丈夫? 疲れたら剣の姿になってもいいんだぞ?」

 アニスは悪魔の姿より剣の方が疲れないとこの3ヶ月で分かった。なんでも悪魔の姿の時は余分に魔力を使うそうで負担が大きのだ。

「いえ、旅というのは初めてなのでとても楽しみです! 外の世界がどうなっているのかこの目で見れる時が来るなんて思いもしませんでした!」

 目を輝かせてアニスはずっと外の風景を眺めている。



「ま、そうだよな。なんせ300年もあの森にいたんだ、外の世界がどんなものか気になるよな」

 アニスや御者の人と他愛のない話をしながら旅路をたのしむ。



「そういえばお母様は何をくださったのですか?」

 俺の持ってる小さな布の袋が気になるのかアニスはジーッと見てくる。

「開けてみるか」

 布の結び目を解き中身を開けてみるとそこには幸運を呼ぶと言われるホワイトサーペントの皮で作られた白いブレスレットが二つ入っていた。それぞれのブレスレットには磨かれた石も一緒に付いており、ひとつは紺色の石、もうひとつは金糸雀色の綺麗な石が付けられていた。



「2つあるな、俺とアニスのぶんってことか。アニスどっちがいい?」

 2つのブレスレットをアニスに見せる。



「いえ、私はどちらでも……マスターが先に好きな方をどうぞ」

「いいからいいから、こういうのは女の子が先に選ぶもんなの! 遠慮しないで好きなほうとって」

 先ほどよりさらにブレスレットをアニスの方に近づける。



「う……それでは私はこちらにします。ありがとございますマスター」

 アニスは金糸雀色の磨かれた石がついたブレスレットを取り右腕につける

「お礼は今度村に帰った時に母さんに一緒に言おう」

 俺も紺色の磨かれた石がついたブレスレットを右腕につける。



「うん、いい感じだ!」

「はい!」

 お互いにブレスレットをつけた腕を見て笑顔になる。



「ん?」

 布の中を見るとまだ小さな紙切れが入っていた。

「なんだこれ?」

 手に取って呼んでみる。それにはこう書かれていた。



 たまには連絡ぐらいしなさい

  ステラより。



 簡潔にそれだけ書かれていた。



「母さんらしいな」

 思わず笑ってしまう。

「そうですね」

 アニスも優しく微笑む。



 今日の空は少し雲があるがいい天気だ。冬とは違いもうすっかり春の暖かさが訪れてきている。



 この感じ、とっても気持ちいいんだけど眠くなってくるんだよな〜。

 大きく口を開けて欠伸をする。



「眠いんですか?」

 アニスがこちらの顔を覗き込んでくる。

「今日は天気も良くて暖かいからね、ついつい欠伸が出ちゃうよ」

「それでしたらこちらをお使いください」

 ポンポンとアニスは太ももを叩く。



「膝枕……だと……!!」

「嫌でしょうか?」

 悲しそうな顔をして俯いてしまう。

「いえそんなことないですよ、是非お願いしたいくらいです!」

「そうですか、よかったです! それではどうぞ」

 膝に置いていた手を避けてスペースを作ってくれる。

「し、失礼します……」

 頭をアニスの太ももへとのせる。



 ぽふっ。

 ふぉおおおおおおおおおお、こいつヤバい!

 何がヤバいってもう言葉では言い表せないぐらいヤバい。太もも柔らかすぎんだろーよー。しかし柔らかすぎず程よく弾力もあり病みつきになってしまう。



「ど、どうでしょうか?」

「最高です……」

 もうこのまま死んでもいいまである。

「よかったです」

 そう言って俺の頭をさりげなく撫でてくる。



 あぁあああああああああぁああああああああ

 そいつはいけないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ

 もう戻れなくなりゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。



 脳内は絶叫の嵐だ。

「うふふふ」

 アニスは笑いながら頭を撫で続ける。

 だんだん瞼が重くなっていき本当に眠くなってくる。



 ああ、もうこれはあれですわ。寝ますわ。

 てかこれで寝れないやつはどうかしてますわ。

 さよなら。



 そうして深い眠りにつく。

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