流血布告

 いろいろな言葉の影にある言葉は、建前と言う名の偽善。

 今この世界にそんな偽善はなく、正義は非道と言葉を変えた。魔王の時代より前に、最強の集団と呼ばれる一つの力があった、唯一魔王と対抗できた悪夢、彼らの名前をあらゆる敗北を宣誓する存在、極限の敗北王と呼んだ。

 信頼と言う名の共同ではなく、自己と言う名の共同で結ばれた異常の血脈。


 塵の名を 虚言の妄言 新開

 獣の名を 創造の妄言 神父

 和の名を 破滅の妄言 賢者


 災厄の徒共、幼い子供を首魁とした三人の王者達。

そのうち二人は死滅したはずの最高研究学問所属のクリエイターである。この世界で、唯一力場兵器と順ずる兵器をくみ上げる事を可能とするオーバーテクノロジーの製作者だ。

 彼らは、無敵と言ってもおかしくなかった。


 一人で地形を変貌させた新開、一日と言う時間を使わずに橋を作り上げた神父、王害の壁を一撃にて破壊せしめた賢者ぐさいしゃ、彼らは集団でありながら共同という事場はなかった。ただ自分の好きなように動きその結果が、集団としての力として現れたに過ぎない。

 だが、彼らは、今王をえた。個人という名の王であった彼らを、兵として操る最強の王が現れた。


 岡山に居る者たちなら理解するだろう、彼らを押さえつけるほどの存在がどれほど恐ろしいかを、かつて魔王と対抗できた1つの勢力が、今此処に現れたのだ。厄祭の名前を紡ぎ、最悪の名を謳う、それは魔王よりも魔王らしい悪夢の軍勢。


 それは岡山に流れた最悪の象徴、十字架の領域、誰もが知っている、誰もが理解している最強の象徴。それより近づくものは、死を賭して語れと命令し実行させる最悪の布告。


 王国、いやアイユーブに彼の宣戦布告分が送られてからもう既に一日が経過していた。

 十字軍の中は、嫌がおうにも慌しくなって行く。相手はたかが四人という人間だ、物量を持って抹消すれば決着も付くのであろう。だが、アイユーブは混乱していく。少数が、大軍を相手にする際絶対の基本となるのはゲリラ戦のような戦い方だ。正攻法はありえない話しである。


「極限の敗北王が、此処に舞い戻ってきた」


 そして彼らの戦争のしかたを思い出した者もきっと居るのだろう。

 後退の無い、無謀極まりない正面突破。

 力場兵器を失った、彼らにそんな無茶は出来ないはずだと言うのに、ましてや千を越える軍隊と対する事など不可能だというののに。彼らは、威風堂々と君臨していた。ただの四人が、堂々と彼らの正面に立ち続けていた。


 君臨し続ける王座に座る一人の最強の下に集うそれが彼ら敗北王達の新たな形であったのだろう。


 その場所は、倉敷という名の場所。誰が用意したかもわからない十字架の壁の前に彼らは居る。力場兵器の暴走によって荒野となったその場所に、砂塵が吹き荒れる。軍隊は唖然としてもしかたがないだろう。最初は砂塵が映す幻想かと思った、どこの串刺し公の伝承だ、地平線に広がるように打ち立てられた十字架に、何の意味があるというのだろうと、そこに浮かぶ四つの影、何処の英雄譚の下らぬ話だ。


 哀れなのはきっと、そんな馬鹿たちを相手にさせられる軍隊。だが逆に有難いともいえるその状況、敵はそれだけしか居なくて横合いからの一撃は無いと確信できるのだ。


「主、布告をお願いいたします。下賎なゴミどもに、卑屈を笑ってやりましょう」

「作戦参謀が、打ち立てた戦略がこれという状況自体我は、驚きであるが、挙句にここで宣戦布告をすると。下僕、正気であるのだな」

「おい、キング。あいつは、所詮あんたの趣味に合わせただけだぞ、それにここに正気でない者が居るのか?」

「そうですよ、愛しき人。これは貴方の趣味でしょう、それに我ら下僕共が、有象無象の凶器に負けるとお思いですか、それこそ心外です」


 王の元に集った下僕どもは、あくまで主の意思だと言い切る。

 策を弄してどうする、積み上げた虚言は、一言の真実に劣る。


 王は己の持つ最強の獣達を従え、荒々しく笑う。そう戦略において、それは基本中の基本である、野戦、そして総力戦、結局のところ力を持って圧倒する原初の示し、もっと簡単に言うべきだろう。


 それこそが王道、比類なき王が進む道だ。


「勝利を得ない行軍など無粋の極地だと思うが」

「何を仰いますやら、心外ですよキング。勝てぬ勝負などこの世には、在りません。たかが狂った軍隊如きに一々手をかける暇なんてこちらにもありません」

「なるほど、我の方が無粋であったか。なら道を作れ、我の行軍に邪魔を用意するような事は許さぬ」

「「「至極」」」」


 そして前に出るのは、王ではない一人の魔人。

 その目には、祝福があった、何より優しさがあった、この世界に生きる屑度も全てに感謝を感じる優しさがあった。


「神父、連結設定を十字架に変えろ。制限はとりあえずなくて言い、取り合えず兆を超えなければこなせる」

「了解」

「変態、取り合えずキングの演説のサポートだ、宣戦布告には、それ相応の映像が必要だ」

「当然」

「ではキング、少しばかりお待ちを、道は開くので雑魚に任せて置いてください」


 十字架の一つに、身を委ねると彼女は軽く頷く。

 彼女は、彼らが彼女の好みどおり動いてくれる事を既に理解した。ならば後は彼らに任せれば言い、王は動くもではなく動かすものでなくてはならないのだから。


 彼は彼女に与えられた、武器の刃を外し懐にしまった。

 ワイヤーごとと取り外された、砲台だけの武器。だが、その中から無限にワイヤーがあふれ出した。設定 操種 、新たに彼が神父に作らせた設定だ。そこから溢れるワイヤーのようなものは、旧世代の技術なのだろう視界に広がる全ての十字架にそれは寄生した。


 十字架が、宙に浮かび聖書でしか見れないような光景が広がる。


「さて、ユダヤの預言者の遊びだ。人の海を割って見せましょう」


 音は一つだった、彼が何時ものようにトリガーをはじいただけだ。それだけで十字軍は全滅する、十字架という墓標の下、血の池を作りながら審判は下された。

 一瞬誰もが開いた口がふさがらなかっただろう、彼は本当に道を作ってしまったのだ。多分これが作戦の内、負けない核心がある以上さっさと雑魚を排除するにはこれほどのものは無いだろう。


 血の赤絨毯が彼女の道を作り、それを阻むものは居ない。


「では、お願いしますキング。今からが貴方の出番です、さぁ行軍を開始しましょう」


 それこそが、岡山経済戦争始まりのときだ。


***


 力場兵器云々の話ではない事ぐらい彼らも理解していた。勇者達と敵対する事が、どれほど無茶苦茶な事か理解はしていた。

 戦況を写す映像には、アイユーブ古来者たちが怯える光景があった。極限の敗北王、そう呼ばれた三人の異形、だがその彼らの中心に立つ者は変わっていた。赤絨毯の上を、べちゃべちゃと歩いていく四人、それがたった四人の行軍だ。


 この彼らの攻撃にて、力場兵器を持たない中でも王国軍最強の一角を担う軍であった十字軍は、殲滅された。


 彼らは、一歩一歩その姿をたがえることなきままに、歩き出している。誰もが、口元には笑みを刻んだまま歩き出しているのだ。ただ一人勇者だけ、使用限度を越え壊れた武器を見て苦笑している。幾ら頑丈でも、レールガンとして機能を果たす事のできないただのナイフでは、どうにもならないとでも思っているのだろう。

 元々操種なんて設定がないものを、極限の状態で操れば当然壊れるのは当たり前のこと。


 しかし、この攻撃で十字軍の攻撃は。そんな戦力差は、串刺し公が居れば直ぐに埋まる程度の戦力ではあるが、彼は今出雲に居る。勇者が持つ勢力の為に、三王の派遣を依頼したのだ。それは筆頭騎士権限でも、かなり難しい話であるので獅子心王と共に、出雲に向かい直接謁見しての以来となる。


 その間この都市を守ることになったのが、あさだ。

 十字軍自体は、司令部のほうで動かす為に彼女は何もするつもりはなかったが、当然のように後悔した。力場使いで無いとはいえ、魔王と互角に戦っていたといわれるメンバー、甘く見ること事態理解しかねる話しである。

 つまりは彼女の失策、流れてくる映像に歯噛みしながらも、視線をそらす事さえせずに彼らを映像越しににらみつけた。


 そして十字軍を抜けた先、そこには総司令部が当然のように存在していた。さも当然のように彼らを虐殺して、初戦は終了。あまりに一方的な蹂躙戦、たかが四人に負けたというその情報だけで、王国の基盤が揺らぐ程度の事は起こる。


 そんなことを思いながら彼女は映像越しに見る王という名の少女姿をみた。あの時とは違った異形に満ちていた。司令部の椅子に堂々と座ると、映像をつなげて彼女を睨むようにして一人の狼が吼えた。


「さて聞こえるか」


 そして陳腐な始まりはきって落とされる。


「知らずとも言いが、我の名前は狼王という。今更下の名前を言うつもりも無い、というよりお前らは、もう我の名前を知っているであろう。色々なお題目はあるがそれは既に書類で提出した。

 次は全ての人間に対する儀礼だ」


 本陣の幕を破壊した先に見えるのは、犯罪都市岡山だった頃の地獄。


「お久しぶり諸君、我らは企業戦士。我主から賜りし称号を王冠、名前を新開と申します」

「お久しぶり諸君、我らは狼の下僕。主から与えられた称号はなし。名前を創造神父葛街だ」

「お久しぶりねあなた達、私は愛の奴隷、主から与えられた称号は無いけれど。名前を変態賢者王崎と言うの」


 一人問題外な奴が居るが、何時もの事なので軽くすっ飛ばし。狼は、犬歯むき出しにして笑う。


「さぁ、我らはこれだけしかいないただの国。唯一つの以来の為に、お前らに宣戦布告としゃれ込んだ」


 十字架と言う屍の群生にて、たった四人の国の住人は、面白そうに死体を蹴り飛ばした。


「なぁ、面白おかしく、遊ぼうじゃないか。

 最大の厄祭の言葉を引用しておこうか、世界で遊べ、人で笑え、この世の全ては面白い。そうこの言葉の示すとおりに、この億万とある世界の全てを使って我らは動く、それこそが最高の遊びであるが故に、我らは歩みを止めないただひたすらに進行する」


 遊びとは、古来神にささげるものだ。全てを同じ位階に、することで神と人を同じところにして交流するという意味合いがある。彼女達、狼の群れは全てを平等に見下しながら笑っている。


「さぁ覚悟しろ」


 呼吸を破砕させる声が響く、それは仲間を呼ぶ遠吠え。

 いやそれはもう変わっているのだろう、きっとそれは全てを威圧し押し付ける咆哮だ。


「我らが認めないのは、唯一つだけ後退する事だ。我らはこれを生涯をかけて許さない、それが魔王であろうと勇者であろうと関係ない、唯一の狼である我が断定する。この自由の世界を、退行させる愚昧な全てを知覚しろ、この世界は動くから素晴らしいのだ」


 ただひたすらに前を見る妄信者どもの咆哮は、気味が悪く震えが走る。


「理解出来たか、過去を望んで先を見ない過去の亡霊共、孤狼の群れが進むぞ」


 しかしそれを突き詰めた結果が此処にある、未来を見て過去を見ないものは、未来を見ないで過去ばかり見るものを嫌悪し続けるのだ。


「この世界の常識でしか生きていけないもの共、今過去に戻って我らが生きていけるか? 王国の行っている事は、我らと変わらないが目的が違うだけに過ぎない、滅んだ世界を偲ぶ愚者どもの集合体に過ぎない」


 そう、だからこそ彼女達は王国を認めない。


「そんな時代に変わったとき、我らは殺される。常識という言葉に圧殺される、この時代に生きる我らよ、王国を認めるな、どれだけあろうとこの世界は、我らの為にあるのだ。一度壊される程度の世界が、また壊されないとでも思っているのか、認めるな、認めるな、そんな世界など一片との欠片も我らが、認めてたまるものか」


 世界は前にしか進めない、時間もそうだ、過去は反省であり、後悔、絶望であり終わった結果。過程はまだ開けていない、懐古するのは勝手だ、執着するのも自由だ、だが所詮終わった事。


「そんなものに、構って生きているほど我らは暇じゃない。そうだろう我らは、前にしか進めないのだ」


 彼女の演説は止まない、だがその場所は確実に振動が世界を震わせ、十字架たちが蠢く。

 四人はそれを感じながらも、流す映像を帰るつもりは無い。変革を起こすのであればそれを人は成功するとき革命と呼び、あくまで無駄な抵抗であるときテロと書く。


「さて、有象無象。掛かって来い、我らが喜んで相手をしてやる、尻尾を振りながら犬のように飛び掛れ、存分に撫で回してやろう」


 血の絨毯と十字架が作る一本道の果てにあるただ一人の王と、それに従う獣は、獲物を狙う狼のように牙を尖らせる。威嚇などは、行うはずも無いこれから行うのはただのじゃれあいだ、犬如きヶ狼にかなうはずもあるまい。


 だがその犬は凶暴極まりない。彼らの作った折角の謁見までの道のりを、地表を削り十字架を吹き飛ばしながら突き抜けてくる。

 こんな事ができるのは、力場使いだけだ。だというのに彼らは、犬扱いである。


 あくまで彼らは上から敵を見る。この程度の事が何の苦境だと笑ってみせる。


「さぁ、始めるぞ。此処からは無償とはいえ正式な仕事だ、社員共気合を入れろ!! 言いか繰り返すこれは、わが社始って以来の大仕事だ、なにためらい入らん下僕に社員、社長命令だすき放題暴れろ」


 首輪を付けられた獣達がその一言で開放される。


「了解しましたよ社長」

「当然です、貴方の命令以前にこれは、私達の最初の望み」


 この二人が闘っている所はまともに見て居ないがそれでも彼女に信頼は高いのだろう、狼は一度頷くと軽く手を振る。それは、進撃の合図それで陣内から彼らの気配は消えた。


「さて、私ですがどうしますかキング? 個人的には貴方と共に戦いたいのですが」

「あまくみるな下僕、お前の言葉に真があるのはあくまで、我の有利になることだけだ。それ以外は全て嘘に過ぎない男が何を言う、忘れるな下僕所詮何も無いお前が、今我という価値を見つけてはしゃいでいる事ぐらい理解できている。

 我は教えて欲しい限りだ、そこまで偽って結局お前の真は何処にあるのか。勇者? お前はそんな者じゃない、魔王とだって違う、貴様はジョーカーにさえなれない背景エキストラ風情だ、もしこれから先お前が我を甘く見るようなことが在れば容赦なく殺してやる、忘れるな我がツバメの名を持つ力場兵器の事実を知らんとでも思っていること事態心外だ、あれは元々我の父親の機体だ」

「知らぬはずはありませんか、ですがあれは代償なしにはもう使えませんよ。アクセス部分を破壊しましたからね、確かにまだ生きてますが、それに貴方がいる以上使うつもりはありません。甘く見ているのではなく、そういう約束でしょう。

 私は御伽噺の為に、下僕である事を辞めるつもりはありません」

「そうか、まぁそれでもいいか。貴様は、それだからこそ貴様なのだろう、だが何時までも偽りのままでいるなら、その満たされない空の器のままでいるなら、結局意味の無い死しか迎えられはしないという事を忘れるな」


 その言葉を最後の彼女は何も語らなかった。

 一つの牙を楽しげに揺らし、その衝撃の者を睨み付ける。


 その存在の名前を、切断鬼 切払あさ 王国筆頭騎士にして統括騎士。折れ果てた心を、打ち据え一つの剣へと変貌した格別の獲物の一人。


「暫く、勇者そして狼よ。私は問う筆頭統括騎士 切払あさ 、王命受諾により異端狩りを実行する」

「貴様も来るか、だが存外それも面白い。我は狼王浅木、たかが犬如きの負けたりはせん、構ってやる尻尾を振ってかかって来い」


 その二人の宣誓の後、狼は一拍置いて新開に命令を下した。


「下僕、貴様は貴様の作り上げた、復讐の鬼を終らせて来い、それが一番の依頼のはずだ。我らは仕事をしている、忘れるな仕事だ、切っ掛けだけではない終わらせる事は終わらせて暴れるぞ。あれは貴様の過去だ、満たされない器が作り上げた失敗作だ、終らせるのは貴様でなければならんぞ」

「了解しました、折角売れてきてもう少しで面白くなりそうだったのですがしょうがないです。終らせてきましょう、唯一つだけお願いが、雑魚とはいえ慢心はなさらないよう、そこにいるそれは所詮雑魚ですが、雑魚の呻きがこの世では一番邪魔なもののひとつですから」

「貴様の忠言受けておく、だがそれは同じだ下僕」

「これまた残念ですが、あいつは私が作り上げたといっても良い。あいつの絶望も、復讐も、それに到る道も全て私が作り上げた。最初からキングと言えど渡すつもりは全く在りません」

「そうか、なら行け。敗北は許さんぞ」


 返答は無い、だが理解はしているだろう。彼は主の言葉にだけは忠実に動く、いや彼女という存在に満たされている彼が、彼女の言葉以外で動くわけも無い。

 あさは彼の顔を覗き見た、凶暴な表情だ。することがある彼は止まらない、伽藍堂の心は今満たされているのだ。

 

 それは、彼が今本気で動いている証明であった。それは彼女や三王が恐れた最悪が、目的を持ったことに他ならないのだから。

 その状況に震えが走り、心が折れそうになる、無気力であった彼でさえ魔王を殺せるのだ。目的を持った彼がどう動くか、それは彼女にとっては想像し得ないことなのだから。

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