炎滅の最強

 あのさ、今まで聞かなかったんだけど結局君は自分の魔術を編み出したのかい。

 まさかまだ兄におんぶに抱っこって言うわけじゃないだろうね。

 え? まだなの、いや屑も屑、屑過ぎて、塵のようだよ最強、自分の魔術も紡げないくせに、神剣を名乗るなよお前は全て兄の借り物だろ最強なんておこがましい。

 そうだお前にいい名前をくれてやる、偽者、贋作、いやそれよりもこれがいい燃えカスだ。

         ――――――――殺人卿 ジョイル 神剣襲名式の会話より抜粋



 それは一つの厄災から始まったと言っていい。男の妄執だ、刃に狂って当たり構わず迷惑を振りまいた。

 元々無類の魔術の才能を持っていながらそれでも剣に走りその邪魔な力を、無邪気な妹に明け渡した。それがこの少女の始まりでもある、炎滅の最強大字朱里、目指すものもなく最強を得た少女は自分と言うものが存在しなかった。


 極限の意志を持つ兄と、自を持たない妹、この二人は両極端だった。無敵に最強を掛け合わせた魔術師である妹、その全てを消し去り刃のためだけに災弱になった兄。


 だが兄である彼は高く妹を買っていた、彼はきっと期待しているのだろう最強の魔術師である炎滅のいや真に彼が望む魔術師に変わる時を、そのためだけに喰らいつくし愛想の存在を見ても何度も耐えたのだ。


 けれどこれは彼女の物語。

 抜剣戦争のもう一人の主役、いや正しくは戦争。もう一人が見た戦争だ。


 大魔術大戦、多分これより先人間同士でこの戦いはない。神剣魔術師を交えた戦争なんてこれ行こう起こりえないのだ。


「ドメン王剣将軍、アイデン王剣将軍、聖剣魔術師を引きいて司令部に突撃しろ。別につぶさなくていい、指揮をさせるなそれだけでいいどうせ今あちらは混乱の極みだそれで十分に勝てる。大軍師をなくした損失は最悪だが今はそれほどあれを必要しない。

 ワステン、裁判所をつぶせあそこは無意味に防御結界が張ってある、裁判官達は躊躇いなく殺せ。 殺戮も略奪も構わないわ、どうせ法律言い張る国はここで叩き潰す、言い訳させない容赦なくやって。間接魔術師部隊は正面より真剣は聖剣の守護結界内から転送式遅延魔術を起動させて、それはシェイドにまかせる。他の聖剣魔術師は正面、裁きの門をたたきつぶして。余った部隊は徹底的にセオリーどおり、質問は」

「神剣様はどうするのです」

「裏切った七本を縊り殺す、それまで力を温存しておくしかないでしょう。検索には神剣の探査に集中させてるから詳しい情報はあまり入ってこないわよ。あとあの命令は状況しだいで指揮官がいくらでも変更は可能にしておくわよどうせ私じゃあれが限界もう少しいいアイデアでもあったらいいけどね。

 最後にこれだけは厳命、絶対近付いてはいけないのが最高裁判所、兵を一人たりともよそれを破れば私が殺すそれだけは覚えておいてね。ほかには」

「聖女は如何します」

「殺すわけにはいかないわね、仮にも司法権を持つ唯一のお人だ。構築魔術なんてこの世の魔術師の魔術師で使えるものはあのお方だけ後継者を作るまで殺すわけにもいかないわ。忘れてたけど略奪は許すけど、賠償金取れる程度には残しておいてよ。もう質問は終了後は各自で三時間後始まりよ、最初はそうねあの塵魔術師にしようかしら斬首の門から二十キロを進軍の対象外にしておいて欲しいかしらわたしの魔術は味方認識の効果がないからね」


 敬礼とともに散開、それと同時に彼女は司令部より数メートル離れた場所にある神剣専用の儀式上に足を向けた。

 そこが戦場での検索の魔術師が存在する場所。王城内ほど優れた儀式場ではないが、検索の魔術は間違いなく神剣たちの場所を洗いざらい存在させていく。嘔吐の守護として最後の神剣である力場使いは奇襲に備えているため彼女以外に神剣を複数相手に出来る戦闘力を持った魔術師は存在しない。


 真剣階位だとしてもそれは例外ではないのだが神剣には真剣を当てるというのはこの世界でのセオリーだ。対複数の神剣戦を出来る存在は今の十二本においても一人しか存在しない、それが炎滅の最強である。


「で、全員もう発見できてるでしょう最初は殺人卿がいいわ。けど三人以上は勘弁してよ、それ以上は私が死ぬわ」

「当然、けど神剣たちは動いてない。貴方を警戒してると診て間違いない」

「違うわね、間違いなく大千剣が死んだ事に対してよ、法律国が対神剣処分用の裁判官として用意されたのがあいつだし、最初の神剣なんだから。今それを殺した人間が、聖女の神殿の目の前にいるんだからそりゃ当然といえば当然ね。もともと神剣の使用許可をおろすのはあの聖女だったわけだし、実質の神剣使いはアーゲンベーバーレの国王じゃなくて、あれだったのだから神剣たちはそりゃ聖女につくのも納得といえば納得よね」


 だが彼女は聖女信奉者ではない、もともとアヅマと呼ばれる国の出である朱里はそう言うことに対して頓着がない。空凱将軍と呼ばれる王が一応の国の管理者ではあるのだが大字、大技、大芸、大名字、大造、と呼ばれる五大家の方が実質の国の運営を行い最終判断を将軍が行うと言う方法をとっている。だが半民主主義的(実力主義)な国家運営を行っているお陰で、最近では小字などといった平民階級の人間もその分野にも関わる事が多くなっていたため、国の最上位に対する敬意が育つ事はなかったのだ。


 ちなみにではあるが元々大字と言うのは平民出の人間が戦争で武功を上げ空凱将軍から字を与えられた事から始まりその当時は神篝と言うのは大字の名字であった。だが後の子供も孫もその子孫も異様なまでの能力の高さから字を与え続けられたため大字と言う苗字を授かったことが始まりだ。平民が始まりであるためその生活は平民よりで少しばかり自由な所が多いため彼女の上に対する認識が薄かったと言うこともある。


「検索は、正式なこっちの出なのにそう言うのに疎いわよねなんでなの。検索のお家は仮にも国の法律を管理する貴族の家なのに」 

「それですか簡単な理由ですよ壁フェチの門は大陸結界がなくなるのがいやとかそう言う理由でしょうけど、私は聞き耳屋なんですから。利益か不利益かで判断しますよ貴方と敵対するときの利益と、敵対しないときの利益の差を、もっというなら勝てない勝負をするほど私は馬鹿じゃないですから」


 これは確信をした目だ。焔児のあとを継ぎ炎滅を喰らったアーゲンベーバーレ最強戦力 大字朱里 、検索は彼女の強さを知っているそしてもう一つ刃狂いの大字土明今となっては名前が変わったが彼女はその事実を知らないその男がいった言葉がどうしても引っかかるのだ。


 魔の術を持って世界を書き換える術使い


 魔の力を持って法を操る下法使い


 この二つの意味が彼女にはいまだに理解が出来ていない、魔術師の事を言っているのはわかる。だが、下法使いと術使い、あの王剣クラスの魔術師は術使いの分類、神剣は下法使い、意味が分からない検索と言う存在だからこそ彼女はその言葉の真意が気になっていた。


「そのうち結果が出るでしょう」


 事実彼女は裏切る予定だった。だが、それは好奇心と言うただそれだけの理由で排除されるのだ。

 冷酷なまでに理性的な判断をするがそれ以上の好奇心にかは彼女は勝てない。


「ん、何を言いたいのか分からないけどいいわ。どうする検索あなたは出陣するの、それとも他にすることがある」

「いえいえ、私は検索情報をさらしつくすのが趣味の聞き耳やですから。出陣しないですよ、その代わり後方からのサポートぐらいはしますけどね」


 その声と同時に拡散式の意志の塊が司令室の上に浮かぶ。検索の魔術師にしては珍しいチョイスの魔術だったりする、彼女の属性は検索、そして現象属性は風だ、音を聞き取ると言う意味も含めてなのだろうが、あまり岩などの土の属性は得意ではなかったりするのだが、


「なるほど、確かにそれなら風の魔術になるが無駄が多すぎないの」

「機能考えてみたんですけど確かに無駄ばっかりですよ、ただこれの方が操作系の伝達が楽で普通に使うよりも魔術コストが少ないのが利点ですね。威力の保障は出来ませんけど」

「なるほど開戦2時間前だけどちょっと使ってみてくれない。もしかすると私の介入する隙もあるかもしれないから威力を無尽蔵に上げてあげる」


 最悪だ、部隊の指揮とかそんなことを一切考えていないただの好奇心。

 だがこの二人にとってはそれが一番優先するべき事だ。魔術師において好奇心のないものなぞ最初から塵のようなものなのだから。


 司令部を出る二人、女子高生のトイレに行く姿を彷彿させないでもないがそのお陰で300人以上の人間が死ぬことになる。


 二人がいた司令部は見晴らしのよい場所に展開されており全部隊が全てが見渡せる場所にあった。そこより少しばかり離れたところで二人の好奇心の悪魔が狙いを定めていた、魔術の肯定は構築、増幅、発射の三工程に分かれており、魔術自体の構成を行う構成部と、威力を挙げ魔術自体の精度を上げる増幅、ある程度の目的を定める発射となる追尾などの機能がつくのは構成部である。


 構成部分においてさらに分解すること四工程、増幅部において三工程、発射において一工程、ちなみの八思考といったりする。構成部における四工程の一つ物質支配の部分に彼女達は手を加えている。彼女た血が行っているのは地属性に関してではなく風属性でその辺の土の塊を切り出し空中に上げているのだ、さらに威力を上げるために空気支配による圧縮、あの岩の塊は推定で山一つ分程度の重量を備えている、さらにそれを風で上げいくつかの塊に分散した後射出。


 簡単に言えばそれだけだが、今から一つの国に山一つ分の土の弾丸が襲うのだ。それがどれほどの威力か想像に値する。だがあくまでこれは神剣魔術師においては遊びに過ぎないのだ、これからみても剣王である朔は異常すぎるのだが勝てたものは仕方ない。だがこれで王帝階位ではないのだ、ハザマと呼ばれた結界魔術がどれほど優れていたか国家を滅ぼす魔術を封じた魔術、王帝階位の存在はそれだけで国を滅ぼすために口外されないのだ。


「増幅お願いしますよ」

「了解」

「…………って、なんですかこの魔力配分。いきなり国家一つぶっ壊そうとしてません」

「気にしないでいい、いいこれで大王結界が完全に破壊されて一発目の攻撃になるの花火は盛大に打ち上げろこれは我が家の家訓。とう言う訳でゴー」


 最悪だ


 無作為に増幅され風の制御しきれない風があたりを荒らす。すぐにそれを意志力で検索は指向性を持たせ威力に還元した。

 十二分に目標を決定し発射、着弾、


 爆裂した、圧縮された土がぶつかった瞬間結合をなくし土の波を作り上げるそれは指向性を持った波だ。

 結界を抉り火花を上げながら結界に侵食し破壊し蹂躙する。質量を浴びせかけ、かぜを押し付ける事によって結界自体の圧力で破壊する。さらに加えて一撃、実はこれが本命だった結界はその性質上面の攻撃にはきわめて強い傾向を持っている、決壊はかいの魔術は基本的に相殺形を覗き貫通する意味を持った魔術で責めるのが定石だ。


 風が渦を描きぱりんと結界を破壊する。その破壊された結界の一部分を風が浸食し内側からその魔術結合を破壊した、それと同時だ土が都市に降り注ぎ細長い建物はへし折れ、背の低い建物たちはそこに住んでいる人間を飲み込み押しつぶし生き埋めにしたのは、そしてどらが鳴り響き進軍の合図となったのも。


 いつの間にかきちんと組まれた隊列のまま魔術が斉射され、内部からは普段耳にしない水の爆裂と雷の悲鳴が響く。質量を持った雷撃が当たり構わず建物を蹂躙する、超高電圧による切断、熱による延焼、果ては人間達に到る心臓の停止。さらに続くのは水の爆流、防壁に包まれた裁判所内に突如として現われ一般市民を巻き込み水没させる。


 魔術の押収をすることさえ出来ないうちに第三法律区画はアーゲンベーバーレの手に落ちた。そこはすでに更地と変わり死体の変わりに瓦礫の山が存在するだけ、そして裁判所はかいを命じられた兵士達は楽しそうに地面を駆けあまたの人間を蹂躙する。逃げろと叫ぶ兵士達の言葉に意味がない、彼らはカイエダに怒りを覚えているいきなり同胞が裏切りあらゆる仲間が死んだ、果ては彼らの後輩達が、実質の戦争の始まりを知らない彼らは今か今かと敵を待ち望み虐殺を楽しんでいた。


 十八区画から形成される法律国、今そのうち四区画がアーゲンベーバーレに墜ちた。そして、もう一区画が人知れず解体されていた。

 剣王の名を拝命した朔だが、敵全てを皆殺しにしたところで糸が切れたように眠りについている。動けるわけがないのだ、本当だったらとうに死んでいるほどのダメージを追っていてそれを無理矢理治して体が簡単に動くはずがない。

 今この場所を蹂躙する新劇は襲い掛からない、ただ彼は眠るように起きて、死ぬように生きていた。


「成功ね、私と検索が出れば一瞬で澄むけど賠償印とか取れなくなっちゃうからね無駄に出費がかさむのよ」

「折角の経済活動(戦争)悉く利用していかないと国が大きくならないですからね」


 先ほどの攻撃を見ても分かることだがこの世界の戦争なんて存在は神剣が王帝階位を使えばそれで国が滅ぶのだ。だが戦争と言うのは所詮経済活動の最終手段に他ならない、詭弁を言い尽くして否定するものもいるだろうが所詮その程度の価値しかない。だからこそ利益を上げる必要があるそれはとちであり、賠償金といった、収入後は悲惨なほど不利益な貿易などその使い道は多種多様にわたる。


 相手を喰らいつぶすほどに叩きのめす、これがこの国での戦争の基本ルール。現代の戦争のルールなどはまったく適用されない。捕虜などの扱いに関しても誰も定めていない、いや定められている事は定められているがその法律を定めた国に喧嘩を売っているのだそんなルールは適用外である。


 けれど相手がなりふり構わない可能性もある、神剣の抜刀命令、それが始まったら最後ここにいる軍隊如き神剣が秒でなぎ払う事だろう。

 そのために待機しているのだが、相手はやたらと慎重だ八本もの刃を所有しておきながら使い道の分からない子供のようにまともに扱おうとしていない。人海戦術で繰れば問答無用でこちらの敗北は否めないと言うのに、局所的核弾頭が投下されるのに等しい彼女だけでは手が足りないと言うのになぜその手段を使わない。


 思考の中、誰もがそう思っていた。

 戦争ではこちら側の不利は確定、こちら側を全滅させる手段があり名がそれが使えない理由を彼女は考えていた。


「そんなわけないと思うけど」


 一つの結論はすぐに思考の中に浮かび霧散する。


「あの聖女、神剣同士の戦闘を認めてないんじゃ。可能性の一つとはいえそこまで馬鹿な平和主義者だという考えは持っていないけど何か特別な理由でもあるの」

「さぁ、警戒しているのだけは理解できますがもう一つか二つ理由があるのでしょうね」

「なら容赦なくいぶりだすまで、全軍に後退を命令して。それと同時にあの年に向けて結界を発動王街がいいわ」


 だがそれで許されるほどの事を法律との人間はしていない。


「了解」


 検索は彼女が何をするか理解していない、だが怖気のはしる様な笑みをしながら彼女は見たこともないような構築の魔術を作り上げ始めていた。その間に全軍はわらわらと後退し軍はその国から離脱してしまった。親権の命令でなければ文句の一つでもいっていた頃だろう、ましてや最強の炎滅何をしでかすか想像できない概念焔硝の大魔術でも使われたらそれだけで人間は死に絶えるのだ。


 集合陣とよばれる集団魔術専用の配置に彼らは付く、それと同時に結界が発動する。


 遮断結界 王街 酸素にまで到るすべての流れを結界内と外で遮断し一方通行の流れを作り出す鍛治などで使われたりする結界魔術である。それを国家クラスで行えと彼女は言っていた。


 何をしでかすか、その好奇心は検索だけ。他の兵士達は何をしでかし自分た血がどうなってしまうのかそのことを考えて震えていた。

 

 そうこの戦争の本当の原因、それは魔術師の理性の薄さが原因といってもいい。

 国家ぐるみの人体実験、それにともなう各国の被害、とち一つを死滅かさせる魔術、法律国はこれを脅威と思った。その魔術を平然と面白そうの理由で使うような理性の少なさが、魔術王国に対して脅威を抱かせる原因となった。


 そして国を代表する最強の魔術師 神剣 王者 が好奇心で作り出した国家封印指定魔術V型 これによってあの国は彫り津国や他の国にとって百害あって一理と無い国に変貌した。


「死に絶えろ塵」


 国家封印指定魔術V型、人間の体を腐らせる病原菌の名前だ。子供にその病毒は打ち込まれその経過は逐一記される、そうやって数百の子供が死に神剣は無罪のままその地獄を繰り広げていた。

 この魔術の恐ろしいところは空気感染と言う部分にあるのだろう、一度掛かれば後はパニックホラーも顔負けの地獄が作られる。さて、思い出しえ欲しいこの魔術の特性は何かを空気感染だ、先ほどある魔術が使われた遮断結界酸素に到る全ての流れを一方通行にするつまり外から中への移動は可能だが中から外へは許されない。


 この手の魔術の恐ろしいところの一つだ、密室であればあるほど効果が限定されその中での威力は致命的になる。


 悪魔だ、悪魔、この女に善悪の感情はない。


 その魔術は起動した、神剣の最強が起動した、この女に感情はない。 


 自我がないのだただ目的を達成するために手段を選ばない、出なければ、出なければこんな行為が許されるはずがない結界をたたきながら腐り墜ちる人間を割らない柄見るなんて、タスケテイタイイタイと叫ぶ子供の手が結界によってぽとりと削ぎ落ちたり、音が聞こえないのが救いだ。だが結界を張っている兵士達は感じる、その遮断決壊自体がまるでうめくように何度も何度も震えていた事を。


「狙撃準備、検索後数秒もすれば多分鍵封が出てくる脳天を喰らえ。炎滅の準備は出来ているからさっさと殺す」 

 

 彼女の確信は、この遮断結界は封印を得意とする魔術師以外に解けない事を確信しているからだ。今あそこでそれを行えるのは鍵封だけ、解除されると同時に神剣は狙撃されることは確定した。検索はただ魔術を圧縮する、貫通力と必殺性を上げるためにいくつ物魔術が絡み合い暴走する中意志力のみでその魔術は圧縮され、検索による目標固定を行う。


 すでに魔術は破壊された、呪狂辺りが解除したのは明白だが遮断結界さえも亀裂が入り容易く解呪された。

 

 結界が解除された瞬間、魔術は雄たけびを上げるように放たれる。雷光を纏い煙を上げあたりをいてつかせながら世界を切り裂く、検索の魔術師が使う本気に近い魔術いくら多重復元型の自動障壁でもたとえ一万層に及ぶ障壁だとしても今放たれた魔術なら容赦なく貫きつくす。


 だが仲間がそれを止めた普通なら難しいであろう相殺系によって、だがそれを折り込んでの、


「一人目」


 彼女はいつの間にか嘆きの門に存在していた、掴んだのは頭、最初の敵は鎧凱別に誰でもよかったのだが殺人卿の恋人であるこいつを殺せば間違いなく殺人居が出てくると確信しての事。検索に放たせたのは邪魔をさせないようにするための策に過ぎない。


 概念焔硝が起動する、炎滅と呼ばれる魔術は実際には物を燃やすわけではない。その存在概念と言う燃料を利用してその存在の生きているという意味を焼き尽くす、ゆえに屍は残らずその人間の思っていた思いごと希望を破壊するように焼き尽くすのだ。


「やめ」「ない」


 悲鳴を上げる慈悲さえ許さない、魔術を起動することなく一人目は焼き尽くされた。


 神剣との戦いでありながら雑魚でも扱うようなその行動、だからこそ彼女は最強を拝命している。炎滅と言う魔術は他の大魔術と比べても異端過ぎるのだ、概念焔硝、鎧凱であれば全遮断、剣王であれば風、大千剣であれば狂桜、検索であれば世界認識、土明であれば概念焔硝、だがその魔術の中で概念焔硝は最上位に属する属性であり、その意味を容赦なく焼き尽くす、概念系であってもなお他の魔術とは一線を博すのだ。


 存在消去に等しき業、これを編み出し捨てた男はどれほど馬鹿なのだろう。


 そしてそんな人の存在尊厳をあざ笑うようなこの魔術使いは一体どれほど人間としての理性がないのか。

 

 だが忘れるな最強お前の力は全てのものが知っている、どれほど無類の力であって最強の力であったとしても。お前の力は知れ渡っているのだそれがゆえに、お前の力には対策が立てられる、お前はまだ最強であって完成ではないのだから。


 言括り、神篝乃業 神名火殺し


 そうそれこそはくしくも、その大魔術師であった頃の土明が作り上げた対炎滅用魔術、炎殺しの炎殺魔術。


「待っていましたよ最強、よくもまぁこんな単純な手に引っ掛かってくれたよ。お前の思考手段でそれが出来るほど甘いとは思ってなかったが、流石偽炎使い」

「鎧凱、殺人卿も近くにいるわね」


 それは当然の事だ、神剣はここに全てが用意されていた。乱立して存在する七本の刃、まだ一本たりとも消えていない。

 舌打ちする、眼光はただ鋭くなって、概念系の魔術が使えなくなったことに対して自分のあまりの無用心さに苛立ちを覚えた。


「いや全員だ、お前を殺すには手っ取り早い神剣全員がそろっていた方がな」


 殺人卿、彼女をその姿を見たとき炸裂するような眼光をたたきつけた。

 

「しかも私の魔術を封じてね、さすがよ殺人卿。やはり神剣でもあの魔術は恐ろしいようね」

「当然だ、最年少で最強名を与えられるはずだった真の天才 大字土明 そんな存在が作り出した概念焔硝、こわくないだとそんなことがありえるはずがないだろう。本当の使い手であればこの神名火殺し程度で封じる事なんてできるレベルの魔術じゃないんだよ。偽火、灰被り姫が」


 絶体絶命の逆境の中、彼女を挑発する男は殺人卿。怒りがそのまま紅蓮に染まり、烈火の力があたりの温度を上げた。

 それは円滅ではなかったただの魔力の過剰暴走、こんなの神剣でも起こせるものはすくない。背筋が寒くなるのを他の真剣も感じただろう、この女はここに存在するこの女は、容赦なく自分達を殺し尽くす決意をしたのだろうと。


「一人二人は確実に死ぬぞ、だから全員生き残るつもりで戦おう。我ら神剣は常に聖女とともに、炎に焼かれて終わる程度では神の刃の名が泣く」


 いちどくぅと何かが鳴いた、少女はきれた、大字の基本は神篝、火を象徴する。

 そして加えるなら大字の人間は沸点が人類失格クラスに低い、冷静ながらもその怒りは異常な加熱を見せる。これが古き時代神篝のあざを与えられた血脈の性なのだろうか、だがそこに一つの水が加えられ再度蒸発した。


 この程度の事を逆境に思わなくてはならないほど自分が不甲斐なかった事実に、兄におんぶに抱っこ言われても仕方ない、いわれても仕方ないが、あんな殺人施行者と導レベルに見下される言われはない。


「黙れたかが無機物、私も手加減は無しだ。ここで人間が大千剣を打ち破った、ならここで私が神剣を皆殺しにしてもおかしくはない。いや出来なくてはおかしい筈、私は魔術師なんだから――――


 さぁ、掛かって来い有象無象の神剣共 紅蓮担いし我は行かんぞ


 ――――炎滅が使えないなら使えないで戦う手段は幾千もある。甘く見るな神剣如きが私と対等でいられると思っているの、確かに私は自分の決意さえ見せられない害夫の到りの女、ならばここで到ればいい、神篝でもない狂神でもない私の道、いやここはこういうべきでしょうね夢を貫いた一つの魔術師のように高らかと、私の壁はぶち壊す、私の夢は唯一つ、一生涯勝てないはずの男をぶち殺す――――


 大字の女としてではなく一人の人間として、真の意味での大字最強がここに存在する


 ――――さぁ、掛かって来い私の命令だ。殺人卿でも誰でもいい、踏み台度もさっさと掛かって来い私はここで到る供物はただ私に捧げられろ――――


 だが決意として放たれた言葉は欺瞞、夢の定まったいやまだ定まってもいなくせに高らかと自分はここで全てを掴むと断言したその姿


 ――――最強も炎滅も誰にでもくれて上げる、私は、切り開いたり器用な真似はできないだからぶち壊す。徹底的生涯を打ち砕く、その存在ごと術をねじ伏せる、おぼえて置け神剣、この上なく世界がお前らの予想通りに動いてない事をこの私が立証してやる。お前らはただ私の供物だと言う事実だけを教えつくしてやる。」


 扱いきれない魔力が暴走し荒れ狂う、地面を削るように何度も何度も世界を切りつけて。それだけでも十二分に人間は殺せるレベルだ。

 だがそれでもだ、それでも勝てるはずがない、彼女の決意はただの怒り。燃え上がれ間燃え尽きる程度のものに過ぎないのだ、自己催眠に墜ち入れる程度の力しかあるはずがない。


 一瞬で百万と言う魔術が襲い掛かる、彼女の障壁が在れば大抵の魔術は問答無用で無効化できるが避けると言う手段しか残されないほどの物量に数秒で変貌した。瞬時に億、兆、ここまで来るとただ壁が襲い掛かっているようにしか見えない。周囲を全て囲み障壁を無理矢理削り取っていく、攻撃の手段を与えないと言う絵ではこれほど優れた殲滅もないだろう。


「どうするかしら、正直この調子じゃ確実に殺されるのは私。けど負けるわけにもいかない、ってまてよ概念焔硝が封印されるには物理的魔力封印が必要のはずよね。ならシンボルがあるはずそれを壊せば私はまた」

「兄におんぶに抱っこだろう」


 いつの間にか殺人卿が彼女の障壁の中に存在していた、人を殺すならこの男ほど致命的な攻撃を操るものはいない。昔とった杵柄大字の体術を駆使して顔面を蹴り飛ばす、すぐに障壁から弾き飛ばされるが。


「うはぁ、いやはり塵だ塵過ぎて塵過ぎる、依存度が高すぎる。大体シンボルなら我ら神剣だ、お前が七本全てを殺さない限りこの魔術が解ける事なんてありはしないんだ」

「流石我らが最強、惨め過ぎる。大字の生まれでもあの剣王とはずいぶん違うあれほどの大見得に何の意味があったか」

「ただの娘程度の力しか貴方にはないということですね。そういえば貴方を手玉に取った聖剣魔術師はその程度の事苦境とも思っていなかったようですが、所詮まがい物の火、世界を照らす事なんてむりということでしょう傀儡」


 それでも彼女が最強である事に変わりは無い、それは一瞬の攻撃の隙間。座標を指定した彼女はその場から瞬時に転移、呪狂の首を掴みそのまま魔術で鎧凱の方に吹き飛ばす。攻撃が緩むのを感じた瞬間彼女はさらにそこに7-16を打ちはなった、どうせのその程度でいしない事も理解している。


 身体強化による速度の強化、さらに風による音速移動。簡単な判断では追いつけない速度で、殺人卿を蹴り飛ばし雷撃を地面に打ち放ち世界崩壊を髣髴させる地獄を組み立てる。反撃である攻撃をかわして、かわして、酒乱の目の前。


 U-256


「死ね、飲んだくれ」


 神剣さえ唖然とする破壊力を持つ魔術が一人の人間によって放たれた。

 理解していて助かったと彼女は思っただろう流石に、この魔術であれば神剣の障壁だろうと破壊して一名称をああ得る事は可能だ。


「後六本、ってこの魔術の消費量並みじゃないわね。仮にも神剣に本文の魔力量を持つ私が息切れするって概念焔硝の最大出力出したとき以来よ」


 ざ、だがまだ後六本何度も使える手じゃない。彼女の足元にいる存在もまだ息はある。

 流石に真剣たちもこれにはあきれ返った、完全質量攻撃、破壊の大渦を見せ付けられたからだ。そして何より炎滅があれば今の一瞬で、三人は神剣が殺されていた事、油断が過ぎた。


「おい、殺人卿。私はあんな魔術知らないぞ、酒乱が痛みで意識を失っていると言う事自体がおかしいんだ。奴の魔術は不屈だろ、壁や鎧と言った守護の意味じゃないが痛覚遮断と、絶対生還の異名を持つあれがどうやって気絶なんて事態に陥る」


 絶体絶命を生き延びる男、死んでもなお立ち上がり戦うとさえ言われた不屈の男酒乱は一撃の魔術とともにその不屈の名を取り下げねばならなくなった。

 思考の中ですでに目くらまし程度の魔術は意味がないことを彼女は理解している、そこにはいくらの障壁があっても喰らいつくす魔術しかない。威力だけを純粋に高め障壁を破壊し致命だを与えるその思考だけで彼女は動く。


 エイダほどではないし似てもその速度は簡単に神剣たちの視界から逃れるには十二分。体を動かすと言う一転においても大字にいた彼女に敵う対さばを機持つ存在は神剣でもそうはいない、超接近放射による攻撃に威力を最大のままに彼女は使おうとする。


 使われる魔術の名前に名称はない、王帝階位というわけでも簡略系というわけでもなく純粋な魔力攻撃なのだ。


「概念起動を行え、全員で大魔術でも使わなければこいつ簡単に殺されるぞ」


 叫んだのは呪狂、だがその言葉の意味はすぐに他の神剣に伝わる。鎧凱の全遮断、殺人卿の心臓潰し、呪狂の全身杭打ち、鍵封の魔術分解、屍の回復否定、機塵の要塞、全てが全て、最低最悪の存在だった。


 花序の放つ魔術はすべて全遮断と要塞の前に無力化され、必殺の心臓つぶしと、全身杭打ちにより彼女の行動力は次々に奪われていく。屍の回復否定により蘇生系魔術の一切が使えず、最終的には身体増加の魔術さえも魔術分解によって叩き潰された。


 簡単な話だ、通常魔術や王帝階位、禁術、その全ては大魔術には億用意しようと大数用意しようと敵いやしない。

 ましてや一つじゃない、合計、六本。ジーサス。


「勝てないかしらね」


 一度呼吸を落ち着かせる、炎滅でもない限り全遮断を阻む術はない。要塞の魔術は防衛と攻撃を同時に行う万能能力しいて言えば移動が出来無くなるグライの問題だ。心臓潰しは殺人卿が使う魔術糸に絡められた瞬間心臓が破壊されると言う代物人を殺すのに優れた能力だ。全身杭打ちはただの皮肉だが体を概念で縛るため移動が出来なくなっていく正しくは停滞それが能力だ。回復否定や、魔術分解は、名の通りではあるが支援魔術としてこれほど優れたものも無いだろう。


 結局の話これだけいれば通常の魔術でさえ封印されるのだ。彼女は舌打ちする、この状況で使える魔術と言うのはあれしかない、大魔術。だが炎滅は封じられ彼女の魔術は消え去った。


 この絶体絶命の状況を、だがそれを作り出す原因となったのはその炎滅の真の担い手である存在。まるでこの事を狙っていたかのように、彼女をじわりじわりと確実に追い詰める。


「これでただの小娘か、最強の名もこれだけの刃を突きつけられれば瓦礫のように変わる物なのか。流石塵だ、塵過ぎて、塵過ぎる、塵そこまで無様に死ぬのだ心臓をつぶされて死ぬぐらい今更どうと言うことはないだろう。それがいやなら舌でも噛み切って死ね、塵」


 碇を忘れる事は彼女には出来ない、それが炎滅を与えられた少女の哀れ。だがやはりどこまで言っても彼女も烈火なのだ、燃え上がるだけ燃え上がるそれが彼女なのだ、ただ与えられたものが強大すぎて自分の道を開けないだけに過ぎない。


「ふざけないでよ、私は、あの大字土明の子供。唯一採用を与えて言いと言われた女、あの人と対等に渡り合える唯一の人間、お前ら神剣とは違うんだ私はあの人にとって最大の敵でなくてはいけない、あの時そう理解したんだ」


 世界構造を把握する、世界構造を蹂躙する、悲鳴を上げる世界に服従を命令し進行を開始した。概念魔術が使えないのなら使えるようにすればいい、そのあまりの図々しさに少し呆れも感じるが、彼女はここで自分の魔術をくみ上げようとする。彼女はすでに世界構成を把握し、世界構造を蹂躙し、世界構造を操り現象を具現化させる術を知っている。


「まだ私は魔術は使えないけどね、べつにそれが敗北の理由じゃない。この瞬か積み上げて崩す、生成結界じゅごんけっかい」

「この女力ずくで大魔術を構成しやがった。規格外すぎるぞどこが塵だ殺人卿、お前いい加減こいつの存在を認めないとすぐにでも殺されるぞ。最強を奪われただけで嫉妬する理由はもう無い」

「認めている、認めているからこそこいつが許せないだけだ。己の才能をまったく理解せずに兄の力に頼りつくすこいつが許せないだけだ、見ろここまでの事を直感だけで作り上げる奴が自分の属性を作り上げられない打とそんなことがあってたまるか」


 怒りに狂う殺人卿が許せないのは女の兄に対する傾倒ぶり、自分で歩く事ができて走り出して飛びまわれるくせに兄と言う補助がなければ何も出来ないと思っている存在に対しての怒り。


 だが彼女はそんなことか待ったことではない。射出の概念をくみ上げた、イメージは生成、いやどちらかと言えば攻撃に重きを置いたもの。それは結界内で概念をくみ上げ主の意のままに歌いくみ上げる。


「概念起動、座標指定は私に、この結果以内なら通常の魔術も使える概念はそれを上回る概念にはかてやしない。死ぬつもりはないそれを私はここに具現化する、あらゆる魔術を概念にくみ上げる、受け止められるなら受け止めてみろ神剣」


 射出、彼女は紡いだ言葉はそれだけだった。だがそれだけで十二分、銃弾のように魔術は炸裂し世界に雨を降らせる。

 障壁ではじけないことを神剣は知っている、大魔術とはすべからくそう言うものだ。全者弾が全ての魔術を封じるが、背筋に流れるいやな汗だけはそう簡単にぬぐえない。


「ふぅ、あは、決意が欲しい、誰にも文句を言わせない言われても、だがこそここで死にたくない。これもどうせ誤魔化しにしかならない、オルタナティブ程度の存在じゃもうこれからは動けないなら自分をもつ必要がある、どうすればあそこまで揺ぎ無く、鋭くなれるの知りたい、私もああなってみたい気がするの」


 概念魔術を作り上げた、その一つ一つの魔術は魔術の概念を持つ魔術。魔術と言う現象ではない、魔術と言う概念だ。

 だからこそ通常の障壁はあまり効果をなさない、要塞と全遮断の二つ以外は防御のすべはない。


 しかし本人の属性でない事が致命的だ攻撃の手段が出来ても、致命的な概念の重さが足りない。それは威嚇射撃に過ぎないのだ、神剣が放つからこそ、彼女が放つからこそ威嚇射撃になりえる。身体強化が可能だ、攻撃が可能だ、それだけで彼女は十二分に戦える。


 空を舞う、階段を駆け上がるようにそこ地面があるように彼女は空を走り空を舞う。

 百万と言う銃弾が当然のように彼女の元から放たれ要塞を削り地面を破砕させる。地面を翻りながら四方に向けて無差別に魔術を放ちながら一歩一歩距離を埋める、心臓潰しの糸を弾き切り裂き、くいを弾丸で破壊する。


「だから届くしかない」


 全遮断の魔術を起動させている鎧凱の懐にもぐりこむ。魔術はどうせ遮断されてしまうことは明白だ、だからこそここであまり彼女が使わない戦いをする。魔力の少ないものが強引に相手の防御を打ち破るときなどに使用される技術、零距離攻撃、全遮断はそれさえもきっと受け止めるだろう。何一つダメージを与えずにすむことだろう、だが彼女の拳が概念を超える、いや無意識に全遮断を魔術に集中した所為で範囲が極端に少なくなってしまったのが原因だ。


 殴り飛ばす、倒れたところに無制限の銃弾が襲い掛かり概念機動が起きることなくただの障壁でそれを受け止めなくてはならなくなった。だがそれでは意味がない、鎧凱は頭が破裂しそうになりながらも魔術を起動する、意味は浅く深い意味を持たない全遮断が完成した。パンパンパンと破裂する否応無く、概念との削り藍ではそれは死を意味する、障壁に組み込んだ遮断の意味も打たれるにつれ意味をなくしていった。


 恐怖に一瞬鎧凱の顔は歪む、だが精神的強者である彼女はその恐怖を打ち崩し皮肉に近い笑みを作った。

 どうせこの場で自分は死なないと思っているからだ、だが展開された魔術にその表情はあきれを感じることになる。


「あれと同じ場所に届くしかない」


 それは多分無意識だったのだろう、無意識に彼女は指を宙に奔らせた。

 出来た、成った、これが広大世界を属性世界へと帰る一つの架け橋、それは真の魔術構成。世界を陵辱し自分の意志を張るための、世界を侮辱する唯一の絶対構成。


「だからお前はここで死ね」


 紡いだそれはまるで回路図、どこか風景画にも似た様相をしている不思議な文様。思いは貫く、意志は通る、刃の串刺しが伸び上がる、いくつもの刃がまるでそこに群生していたかのように伸びていた、地の泡を吐きながら鎧凱は死に絶える。


 それは無意識の結末か、だがその陣は構成されくみ上げられた。ここに世界は完全な侮辱を受ける。


 世界の怒りは刃を砕き死体ごとその存在を消し去った。その刃で殺された人間がいないといわんばかりに、死体のかけら血の一切を残さずに訳の分からないうちに死体はぽんと消え去った。


 ゆらりと一つの魔術が生まれた、陽炎を纏うようにその場が歪む。

 魔術の名前は刃、彼女の兄を思い起こさせる、彼女はそれを思いながらこの陣を書いた。


 自分の属性でもなただの属性を彼女は作り上げた。


***


 それはいつもの彼女の魔術と全てが違っていた。

 鎧凱を串刺しにした魔術、あれは今までの魔術と規格が違っていた。世界属性と呼ばれる世界に元々ある属性を操るのが魔術である、時として自分と言う属性を世界に組み込み具現化し操るものもいるがそれは神剣と呼ばれた。だがその魔術は違う、世界属性の中に入るものではない、世界が決めた属性ではないのだそれはただ子供が思うように何と無く考えたものが属性になっている。


 何度も紡いだ概念と言う言葉だが、元々自分と言う属性を世界に認定させる言い換えれば登録だ。これが神剣の大魔術である。

 そうそんな属性はありはしないのだ、彼女の紡いだ魔術は強いて言えば兄、自分以外の属性を具現しようとするなどこの世の魔術師のする術ではない。それは一つの世界法則に対する侮辱、世界創造の一欠けらだ。


「なるほどなるほど、あれの言葉の意味はこういうこと。あの男はこの位階について知っていた、法使い、術使い、法則を使うものと、術を使うもの、理解した理解した、世界を屈辱に染める大秘奥、この魔術に魔力は要らない、この術は世界を侮辱するためだけにわけだね」


 誰かがあの苦境にありながら戦い続け一つのありえない何かを手に入れてしまったことに対して喜びの拍手を掲げる。


「魔術師、魔術師なのあれが、下法を下法のままに操るのが魔術師じゃないんですか聖女様」


 検索は裏切った、戦況を見れば理由は容易い炎滅を滅ぼされた最強に八本の真剣に敵う手段は残されていない。

 それが建前、理由は違う。聖女が水から彼女の前に現れて、君の疑問を教えてあげると悪魔のようにささやいたからこれが理由だが、見せられた世界を侵食する世界を滅ぼす一つの手段を、これが術使いの姿。


「至極全うな意見だが、あれが魔術だ、あれこそが本当の魔術だよ検索、うんあれこそが本当の魔術だ僕は見たぞ。あれが本当の魔術だ、まがい物の魔術じゃない兵器の魔術じゃない、世界に対抗する唯一の術、わんだほーだ最強の神剣、意味は聖人の位階を持つものだったのか流石大字いくらでも化け物を量産する」


 うんうんと頷く少女、ぱちぱちと拍手をしながら床を転がり笑い出す。

 白い衣をまとう姿に幼い子供の静止、穢れと言うものを感じさせないその姿、ただ無邪気に手をたたき一つの喜びに手を叩く。


「素晴らしき存在たちと思わない今代の大字の血脈は、この血に生を受けて早六千という時が流れて知識だけは溢れるように在るけど。その中で真の意味で魔術を使えた人間なんて一人もいない。しかしなるほどだよ、流石本来の神剣最強の字を受けるはずだった人間だ、妹の才能を知っていたのかな。

 だから当代最強と呼ばれた彼の父ではなく妹をなるほどなるほど、喰らう獲物を作るためにあえて大掛かりな継承魔術まで作ったのかすごいよあの子」


 その男は理解していた妹と言う人間存在を多分誰よりも。


「そして彼女は別の意味で凄まじい、だってそうだろ。彼女に属性が無い事を知っていたんだ、属性が無いって子とは無能の意味じゃない無限の意味だ、世界に自分を認めさせるんじゃない、世界に自分を刻み付ける事ができる。それが本当の魔術の形、どこまでも人間らしくあるための術だ、その意味であの二人は対照的で完成的だ。どちらも血袋に有り余る精神を持っている、だから精神だけで世界に侵食することが出来る化け物が出来た。そして技術でそれを作り上げた化け物が出来た。最も片方は介入がなければ使うことさえ許されないような技術だけどね、彼女はその魔術に選ばれてしまった」


 ルールブック、ルールブック、流石抱くそったれ。


「世界属性内でしか生きていけない君達とは別種の人間、願望具現者達、そのためなら容赦なく世界を滅ぼす事さえ考えるんだよ。それぐらいの思考を持った人間しかあの魔術は使えないあれは夢をかなえる術だからね。人間のために作られた人間だけの魔術。そしてもう一つ六千年前大字最初の炎がくみ上げた呪詛はここに完成したんだよ。花鳥風月といったものだよ、あれはそんな生易しいものじゃない、蟲毒だよ、最後の一本になるまで殺し合いをさせて最強の一本を作り出そうとした刃狂いの妄執だ」


 さぁ、大字の裏が持ち上がる、開かれるのは過去の禁断、血をすする刃がいかにして最大を発揮するかの。


「だが失敗だった、失敗したが成功したけど失敗だった。花鳥風月、その頭文字になぞらえて花顔はなかんばせ、桜花さくらび、劈囃つんざきばやし、燕こうのまがり、鴬ひびきあたい、言の渡ことのわたり、紬声つむぎごえ、海渡し(とおわたし)の計8本、そしてその刃は八代当主大字狂滅乃刃神篝望(おおあざくるいがみごろしのやいばかみかがりわたる)によってたった斬られた、斬裂という刃はね人間なんだよ七代当主殺人の最強大字狂造月渡おおあざくるいづくりのつきわたすと相打って死んだ望という女の体を全て余すことなく使って作られた刃、その執念はただ斬る事だけにかけられたと言われている」


 さらに歴史は紡がれた。


「だけどね伝承は伝承、実際の月狂いは望の方だった。あれは斬りたかったの全てを、世界だって斬り飛ばしたいほどに、その思いが刃になって達人殺しの斬裂を作り上げたの。そしてとうとう八本の刃を切り落とした斬裂は、その呪詛を壊しながら喰らってしまった。斬裂という刃はよりにもよって全てが斬れる刃と言う意味を持つ武器になってしまった、剣を切り続けてしまったからそのたびに刃は打たれ強くなって言ったんだよ。神の刃を切り落として、王の刃を斬り飛ばし、聖なる刃を切り捨て、魔の刃を切り払い、真の刃も斬り放って、殺して、殺して、あの刃は完全になりつつある」

「つまりそれが、あの大字土明の企み。本当の意味での達成の一つ、世界を滅ぼすような魔術を操る刃を斬り殺すことによって…………」

「正解だ、世界だって斬り飛ばすような刃を作り上げようとしている。いや違うね、世界を斬り放つような刃に成ろうとしているんだ、いやもう多分成っている。気持ち悪いぐらいに正確に彼は世界を動かした、けどそんなつもりはなかったとは思うけどね。実際これで法都は壊滅寸前、私も出ないといけないんだろうね神剣使いたる私が、あぁもうここまで世界が面白くなってきたって言うのにルールブック貴方なんと失礼で無粋なんだ、絶対にいつか報復がくると思え」


 じゃあ行こう、検索に手を差し伸べる聖女。

 体が震えているのを彼女は感じていた、それは大字と呼ばれた業の持ち主達の狂気が故か、だが聖女の説明の検索は震えながら怯えながらも笑う。


「ところでルールブックってなんですか」

「ただの皮肉、世界属性に対するね」


 嗤うがただしいのかもしれない。

 だが、これによりカイエダ襲撃から続く約2週間の動乱抜剣戦争は終わりに近付いていく。


***


 残り五本、彼女は自分が行ったものが何かを正式に把握はしていなかった。無意識の産物だったのだ所詮は、だが鼓動が高鳴る、今迄で一番しっくり来たのだ。

 炎滅は所詮兄の術世界に認識させるまでにどうしても本人以外では多少の矛盾が進路妨害のようになってしまうのは当然、だが今の魔術は違う世界を抉じ開けた。無理矢理に近いだがそれが彼女にぴったりと適合した。


 無属性、言い換えれば世界属性内に属性が登録されていない人間の事である。まだ属性が決まっていない、それを無理矢理決まっている人間の道を使っていたのだ。だが今は違う、自分の道を作り出した、それは他人の道より歩きやすくて当然。少しの快楽と心臓の高鳴る音に彼女は体を震わせる。


「届かせるだけじゃ駄目って事かな、追い抜いて追い潰して叩きのめす。そうよ私は兄におんぶに抱っこじゃない兄に自分を運ばせていただけ、私が歩く必要がないから。けどこれからは違う、自分で奔らなくちゃいけない、動かなくちゃいけない」


 ならどうするべきか、


「だから、だから、今ここで五本を皆殺しにする」


 彼女を鍛えるための刃に成ってもらうしかないのだ。意識なんかしていないのに彼女は陣を描く、今までの魔術は全て吐き捨ててだ、感じたのは感覚だけただそれだけで世界を切り裂く陣は作り上げられた。

 誰も知らない属性が放たれる、槍、弓、刀、時として世界属性にありながら世界属性外の炎、風、影、その全てが一級品の大魔術と変わらない。真なる魔術はただの構成だけで大魔術である概念魔術を屈服させる。


「どうだ殺人卿、お前の言うとおりに自分に力で立っているぞ。どうだこの悪夢、あいつは自分属性じゃなくあらゆる属性を使い尽くしているぞ、暗殺でもさっさとするべきだった、王者がレイフェン=ハルトが最強に負けたときに」

「呪狂、恋人が存在残らず殺されたときにさえそれかい。少しは感傷に浸る時間をくれるわけないか、最強だあれが塵過ぎる最強だ、今から全速力で後ろに前進したい」

「確かにそんなことより今生きる事の方が大切ではあるな」


 そう言う問題か、単純に世界に強制的に存在濃度を薄められたために時間が全てを解決してくれているのと同じ状態になっているだけだ。つまり半分は忘れかけている、だからだろう殺人卿は冷静に逃げる算段をくみ上げる。勝てる勝てないじゃなく、こんな意味不明な存在と戦いたくないだけ。


 だが無理だ、そこはいつの間にか彼女の属性だけで埋め尽くされた部屋になっていた。この魔術のもう一つの特性である、規則と規則を縫うようにしてある穴を無理矢理に広げるのがのこ魔術、原則破壊、彼女のが行ったのは単一属性の増幅、今までの魔術展開は同じ魔法をいくつも使うことによって弾数を増やすものだが魔術を魔術でふやすと言う神剣たちの常識からは異常性のある考え方。そしてこれだけ彼と彼女らを囲むようにして属性は存在している、空間転移なんていうものは認識座標が固定されていないと使えないそして何より目に届く範囲しかそれは使えない。


 ゆえに彼らはここで、彼女から逃げる事を許されない。


「しかしそれをさせないのが私聖女の役目だよ。根本破壊者ルールブレイカー、素晴らしい限りだよ女神からの介入を受けたとはいえ一瞬でそれを物にするんだからね。流石と言うべきかな、大字、いや神篝、いやそれともこの名前がいいかな交錯みだれつむぎ、あの十字の子孫だけのことはあるよ。

 流石世界に選ばれた預言者の血は違う、同じ時代から生きたもう一人の預言者として感謝する。だがまぁ、神剣を殺されるのは僕としても流石に困るんだよ、これはね僕が待ち続けた刃たちだ。ここで死なせるには惜しい、それに君としてもここであの刃が動くのは不味いだろう。あれは大字いや交錯であった頃から見ても存在し得ない類の欠陥品だ、だからこそ問題なんだけどね君が選ばれし異端者ならあれは生まれ得ない異端者。

 理解はしなくても別に構わないけど、今あれを起こせば間違いなく君に何の理由も殺しに掛かる、それがいやならここで一度神剣をあきらめろ言っておくが今程度の魔術で聖女である僕に傷をつけようなんて思うなよ雑魚、預言者としていってやるお前如きの魔術で私の魔術が砕けると思うな世界はまだそこまで君に気を許してなんていない。だから今は僕の言うとおりに退いてろ神剣一度だけ僕がお前の命を奪わないでいてやるといううちに」


 勝手な事を言う、無償に彼女は苛立った。あそこにいる五本と聖女が死ねばこの戦争はおしまいだ、なのになぜ私にあれが命令する。


「断る」

「訳にはいかないよね、たかが属性を想造できる程度で全てが出来た気になってる魔術師紛い。夢も決意もないただ兄にすがった結果で得た力で僕に敵うわけがないだろう。僕の夢は安定、決意は法律、全てに秩序をもたらす事が僕の夢、そのためなら世界の一つや二つ殺し尽くす、首だけになろうと死体に成ろうとだ」


 お前如きが僕の存在を否定する事を許した覚えはない。


 その瞬間だ、彼女は縛られた。大魔術概念型願望 法律 、人を法律で縛る、彼女が作り出した法律で、彼女の罪は重いその重さが直接重量として加算される。最高クラスの罪人だからこそ最高裁判の前には無力であった。


 屈服した、一瞬の事だ想いの重さが質量として具現する。

 ただ覚めた目が朱里を貫き、彼女を縫い止めた。


「今あれを起こすなと言っているんだよ僕はね、一つだけ教えてあげるよ魔術師。君の使う魔術は真の魔術と言ってもいい、だがねそれは所詮世界に対して働きかけるものでしかないんだ。自分の思いを想造する程度で、創造の位階にいる僕に敵うと思うなお前の決意じゃ僕の夢には遠く及ばない。

 けど一応君は神剣だから今の所は生かしてやる、その場で屈辱に縫い止められてろ。お前のような敗北者にはそれがお似合いだよ」

「ふざけないでよ、何でそんなことの為に」

「理由は簡単明快、君が僕より弱くて僕が君より強いから、弱者は強者にいたぶりつくされろ。いやなら強者になればいい、だが君の一日が僕の六千年の思いに敵うかどうかは別問題だ、僕のルールを破ったアーゲンベーバーレにはもうこの世界から退場してもらうよ。大千剣はもったいないけど所詮は十字の劣化品にしかならなかったしね」


 強引に朱里は陣を刻もうとするが、まだ存在していない概念の強弱は基本的につかない。だが一つだけその強弱をつける方法がある、それが作り上げた概念の作り手の重さ。つまり夢や願望と言った、その属性対しての執着だそれが強弱に変わる。


 今現状で彼女が魔術を使おうと、それは所詮新たな世界に対して無駄な抵抗を繰り広げるドンキーホーテと大差はない。


「じゃあね、不完全な魔術師。次は魔術の意味を知ってから僕に掛かってこないと次は容易く殺されるよ」

「逃がすわけ無いじゃない、一つだけ私だってここで決めたことがある。あきらめない、絶対に後悔しない、そして何より絶対逃げないって、たかが法律で私を縛るな整除如きが」


 それは不屈の魔術にも似た意地、わがままをわがままで押し通そうとする。では始めよう嘆きの門いやジベンガイ砦、絶対堅牢を誇った広大世界屈指の砦の崩壊を。

 彼女は立ち上がる、屈辱に濡れて、怒りに震えて、自分の罪を無理矢理に引きちぎり、


「逃げない、真っ向から打ち砕く」


 敵さえ知らない騎士は退く事を教えられていない騎士は、自分の後退だけは絶対に認めることは無かった。

 喉は渇いて足は震える、でも意地だ、真の魔術師とは自分の夢のために全てをかける人間の事だ。だが彼女に夢は無い、だが彼女には夢がある、自分の夢を見つけると言う夢が、それは朔や大千剣、最弱使い、聖女、とも違うもう一つの思い。しいて言うならセーヴァングの様な思いだ。


 侮辱する事無かれ、侮辱する事無かれ、夢が無いものを侮辱すること無かれ、彼らは自分の命を賭けるだけの価値をいまだにこの世界に見出せていないだけなのだ。


 へぇ、聖女は言葉を漏らす。驚きを喜びに喜びを驚きに、なるほどなるほどなるほどと、


「死にたいわけだ」


 逃げられなくなった。

 法律の呪縛を無理矢理に開放する、過剰暴走する魔力の渦の中。二つの魔術を起動させる、一つは陣を書きもう一つは炎を、いや炎滅の力を。


「確かに神名火縛りは僕の魔術の前には無効化されるけど、なるほど、法使いと術使いの二つを同時にこなせるのか。普通の魔術師には考えられないやり方だ」


 だが彼女は出来る、指に描くのは炎滅、操るべき魔術も炎滅、だがそれは別物の炎へと変貌する。

 概念焔硝、さらに踏み込む。


 消滅、それが炎の破壊的局面での最終形態。だがそれでも彼女の法律の前では無力なのだ、それでも出来る事があるならするしかない。それは彼のように逃げないと言う意思があって、まだ見つからないだけの思いに対して報いる一つの手段だからだ。


「君達先に帰ってろ、今から仕方ないけどこいつを殺からね。………じゃあやるかい最強、認めてあげるよったく夢も叶えられない魔術師相手になぜこれを使わなくてはいけないかな」

「なんでかな、私はどうもどうやっても諦めたくない。逃げるのだけはどうしても嫌だ、殺されて成るものか、いくら生きたかなんて知らないしその思いなんてどうでもいい、私は絶対に認めないだけたかが六千年で時間を誇るな私の兄を見ろ人間がここまでできるまでに伸びてきたんだ魔術が使えるやつが一つや二つ能力を増やした如き出今更諦められる分けないでしょう」

「へぇ、言うねぇ。けど君はそれでもこの魔術の重みに勝てていない、まだ僕よりも決意が鈍いからだ、それこそあらゆる手段全ての策略、その全てを持って敵を凌駕しようと言う気が一切無いとしか僕には思えないけど」


 ある分けない、私はそういった決意をするためにここにいるわけじゃないのだ。だがその言葉は紡がない、だがやる事は自分が負ける事だけは絶対に許されないと言う確信。けれどやはり絶望的だ、消滅と言う概念を強引に作り出してみたが役に経つものではない、あの魔術と最低でも同道にまで持っていかなければ自分に勝ち目が無い事ぐらい彼女も理解している。


 何しろ魔術が全てつぶされているのだ、いくら世界構成にハッキングをかけたとしてもそれをうわまる質量のバグがあるのだそれが彼女のバグを塗りつぶしている。


「何も出来ずに死ぬだけしか出来ないのかい、幾らでもやる事はあるはずだというのに、まぁいいや法廷を開くさぁ楽しい楽しい法則拘束の時間だ」


 彼女の手には分厚い本とペンが、魔術師は瞬時に体を何かに封じられ拘束された。


「さて控訴なし、弁護士なし、いるのは裁判官と十二法原書、最も法律は僕が決めるから君に選択肢なんてありはしないんだけどね」


 その魔術名は最終裁判、理不尽なまでに術者の好き勝手に相手に判決を下すただ私刑場。

 屈服は容易く、だがこれが魔術なのだ真の意味で己を貫く術として存在するた禁断下法。


「まぁな前も罪状も知っているね、当然死刑は確定なんだ」

「だからなによ、それがどうしたそれが私はまだ生きているし死刑にされようと生きてやる」


 虚勢に過ぎないくせに聖女は少女のしっかりと一字一句逃さず聞き体を震わせ、朱里を睨みつける。

 彼女のような魔術師達に言えることだが、言葉にされた決意は全て成し遂げなくてはならない。魔術師の宣言とは何を捨てでもやり遂げると言う意思を込める為にある。故に夢に生きる魔術師達は、言葉に吐かれた意思を全てとする。


 そして何より彼女が紡ぐその言葉には確かに力があった、今までの虚勢とは比ではない。


 絶対ここで死んで成るものかと言う意思が、だがらこそこの最終法廷で堂々と被告人席から裁判長に向かって口論と言う手段が取れる。そして魔術のランクが下がる、これは仕方ない事だ世界展開する魔術を選んでしまった以上のこういうことが起こるのは仕方のないことである。


 意思だけだ意志を砕けるのだ、だが意志が強ければ意思で作られた世界が劣化して何の不都合がある。この結果は何度もいうが仕方なかった、だが普通では起こりえない世界に組み込まれたものが世界を劣化させるほどの意思を持つと言う事実は普通で起こるほど優しいものではない。


 だが彼女には出来る、それは完成していないが故の完成系。その男は魔術を極める可能性があると彼女に紡いだ。

 なら問う、理由は、理屈は、確信は、そんなもの全て無い。

 しかしだどこまでも卑屈で個人主義過ぎる男がだが直感だけはこの広大世界において誰にも負ける事などありはしない男が紡いだ言葉だ。策略をめぐらせ、身体の限りを尽くし、刃の為に命と体を捧げつくした男が、絶対喰らうと決めたもう一人の敵がここで終わってしまうほど甘いものではない。


 魔術師の宣言、それは幾万年後の世界で偉大なる一人の魔術師が紡いだ言葉が有名だ。

 二度と、どんな事があったとしても、自分は誰にも負けない。

 

「負けて成るものか、与えられたもので勝ってきたってそれは私のものだからだ。上等、上等だ」


 その魔術師の言葉に彼女の宣言は酷似し過ぎていた。


「ふざけるな交錯十字の真正なる紛い物。すでに夢を叶えたものの血を引くからといって、法律が世界に轟かない理由にはならない。劣化させるなんて事あってはいけないんだ」


 夢を侮辱された魔術師は怒り狂う、今まであった余裕という概念はすぐに弾き飛ばされた。ただ二つの烈火が相対するように燃え上がり続ける、夢を持たない魔術師と夢を持ち走り続ける魔術師。たた二人、だが今は同じただの人間生きている時間は関係なくただぶつかり合う。

 

 朱里は一度だけ、敵を何の感情も無く見つめ息を大きく吐いた。緊張をほぐし思考を一度なくすために、彼女は本当に兄と対極だ、思考の理詰め以外で自分を動かせなかったくせに最終的に勘を頼る。勘でしか動けないくせに思考を頼ろうとする。対極過ぎて一緒の兄妹、だからこそここで負けを認めることだけは許されないのだが。


 相手は刑罰と言う形の法律を象る、多分彼女の魔術はこれだけ相手の劣化を見てもまだ届かないのだろう。だからこそ徹底的にやってやろうと思うのだ、朱里は理解しているこれが神剣のときとは違い一対一で不利と言うその状況である事を、そして何よりこの戦いが彼女にとって始めて自分より上のものに対して挑む側の戦いである事を、足はすくみ体は振るえ鼓動が高鳴る、だがなりふり構わないという戦いは心が躍る。


 自然と彼女は昔なぞった構えを取った、それは彼女の兄がとく意図する構えであり、彼女の兄がなぞることさえ出来無い者の構え、名を無構えという。


「死なないここでは絶対死んでやらない、だから私に夢は必要ない必要なのは今から生きる現実だけ」


 それこそがもう一つの魔導の極め方、世界を侮辱し笑い続ける創造技術ではない。世界に同調し世界を操るものたち、世界を象る八百万の属性を一手に操るものをそして人はその魔術使い手をこう呼ぶのだ、魔法使い、大魔法使い、そして精霊王と。


 天敵だった、魔術師において精霊とは天敵以外の何者でもない。


「全ての夢を屈辱に彩るのか、借り物の分際で、よりにもよって女神に祝福を受けてそちらにいくか」

「魔術で勝てないなら違う方法をとればいいそれだけの事じゃない。死なない、ここであんたに殺されるぐらいなら」


 夢なんて最初からいらない、現実を貫き続けて生きてやるだけ。

 

 ―――――この兄妹は対極的だ。それは生き様においてもいえることだった。


 総代魔術師であろうとなんであろうとだ、魔術師は夢で固まり一つの属性しか操ることは出来ない。ただし彼らは作り上げる事が出来る、だが魔法使いは違う世界属性全てを操る事のできる存在だ、ただ作り上げる事ができない。


 この瞬間彼女は兄から離れた、彼の予想を超え、より彼が望むものへと変貌する。


 精霊王、この世に存在する全ての事象を操る世界存在。そして一つの人間位階の超え方、ルールブックを読む物それが精霊王だ。

 魔術師は違う、ルールブックを作るものそれが魔術師。だが魔術師には想像、想造、創造の位階にその順路を辿るものだが創造に入ったとしてもそれは所詮はまがいの創造だ。創造の位階に入ったものはルールブックに自分の世界を書き込む事の出来る人間を大魔術師と呼ばれる。


 つまりこの二人は大魔術師と精霊王、つまりこの二人はそう言う存在なのだ。


 世界の写し身にして、世界の作り手、


「私は夢なんかより、現実をとる未来をとる。一つにしか目を向けるつもりなんて最初から無い、そう、だからこそ」


 彼女は兄の力を奪い取ったのだ。受け取ったのではない、あの瞬間彼女は無邪気を装った。

 だからこそ彼は彼女を選んだのだ、その狡猾で下劣な欲望に。


「精霊王が、三千年前に殺しつくした現実主義者の生き残りかい。いや、あの技術は消し去った記憶があるんだけど作り出したか、そりゃそうだ君は仮にも聖人にして預言者、選ばれて当然の血脈から生まれてるんだ。どちらに転んでもいいように彼は君を作ったようだ」

「大字、大字とうるさい。過去の経歴も血脈も関係ない、いいみていなさい今から起こることが私の全てで結末。たかが魔術師風情が事象の王に敵うと思ってるの、すべからく世界を超えてきなさい人間、その意志が世界存在であったとしても私の喉物に刃を突き入れるために」


 ドンドンドンと地鳴りが響く、そこに刃がつきたてられた、四方を囲う陣のように大地が隆起し風が咆哮する。どこまで言っても彼女はやはり大字の血を引く、人は血に引かれ属性を持つ、その結果だ炎と刃、いや太陽と月、これが大字の原初属性かつての到達者交錯十字の属性だった。彼女はこれに引きづられる、舌打ちをしようとどうしようと、その血脈でその力を操る異常どれほど抗ったとしても属性はそれからの範囲にくくられてしまう。


 最もそれが聖女が最も苦手とし、最大の敵だと認識していた、大字の始祖の属性なのだが。


「夢を賭ける為の魔術決戦、僕は負けて十字は勝った、再選の機会をくれるのかルールブック次こそは僕がその位階に進むために」

「いちいち祖先と一緒にしないで、顔も知らない人間なんてあんたよりも価値の無いものなんだから」

「黙れ、所詮は世界に縛られるだけの運営者風情が創造者に勝てると思うのかい。くそ、本当は十二法を全書とするのが僕の道だったというのに、お前ら兄妹が僕の邪魔をして今じゃ法律を六法しかない、生贄はもう六本も僕の手から零れ落ちた、まぁそれでも十二分に僕はあのときよりは強くなった」


 腕を振るい神剣を呼び出した、検索を含めた六本、裏切りを見せた存在を朱里は何の感情も無いままに見つめる。

 それこそが六法、世界の在り方を定めようとした大魔術師が作り出した全書。外典、未来法、過去法、分岐法、到達法、神法、天法をなくしてしまったがそれでも六本の権は、彼女の力となる。

 

「さぁ法律を始めよう。僕の字は神権の使い手 聖女 二重交差 」


 疑問の声が響いた、そこにいた六人は悉く変貌する。まるで糸を解くように体が光の粒子になって消えさていく。

 大魔術 最終裁判が罪人のためにある魔術なら、この大魔術は別物だ世界の法則を操るのではなく作り出すためにある魔術 六法全書 、古き昔十二本の神から与えられた刃を使った聖女の二代目である彼女が使う六本の法律、神剣にして神権、言葉遊びに過ぎないこの程度の理論で最強者たちである神剣は魔術の一つへと変貌する。


「裏切ってなければ助けて上げれたんだけどね検索。残念ながら無理、仲間以外を救うほど私は心優しい人間じゃないしね」


 叫び声を上げて救いを求める神剣達に彼女が送るのは冷ややかな目、どこか楽しそうな顔をしているようにさえ見える。自分達の体が魔術攻勢の一つと帰られていく中、痛みも無く絶望だけが押し寄せてくる。


 嫌だと思っていても絶対的な力がそれを許そうとしない、最強に成るために練磨し続けた力もこの存在の前ではまったく無意味。世界法則を作り出す存在が、自分の世界さえまともに操る事のできない最強にましてや物理法則のみの最強に負ける事が許されるはずが無い。


「この為だけにカイエダに訓練校まで建てて作り出したんだ。本当は十二本欲しかったけど仕方ない」


 人間の呪的構成要素が一本の剣になる、それが計六本。古きにあった初代聖女のように彼女は武器を宙に浮かせる、神権使い魔術師の古き名称だ。だが彼女もまた古きものでありそして、言葉を操るものにしてアヅマの地獄より出でし一人である。


 アヅマと言う国は古くから言葉に対して重きおく所が多い。苗字にしろ名前にしろ字にしろ、全てに意味を持たせる。そして同じ音で意味を挿げ替える、神篝は太陽の事であり、狂い神は月の事、例えばの話神とはもしかすると上かもしれないし守かも知れない、剣とは権であるかもしれない。


 剣とは権である、神とは上のものであり守るものである。


 それは推定にしか過ぎないが、今ここではそれが現実なのだ。権は権力となる、権とは権利であり法である。神の剣が神の権で何がおかしい、そのためだけに聖女はこの神剣と言う制度を作り上げた。十二本あるのが望ましいその権ではあるが、他の権は使い物にならないのだ。


 そして自分の天敵であり過去の勝負の塗り直しができる。


「じゃあね検索、他五本。どんな権になるか楽しみだよ、バイバイ裏切り者」


 お断りだ、ここで死んでやるのは。二つの意思が混じって一つの刃の構成が一度紐解かれる。


「くそ、くそ、ここで私はお終いですかそうですか。聖女、貴方といった世界の秘密は何だったんだ。私は知りたい、真の魔術師、真の魔法使い、精霊王、大魔術師、神、交錯十字、二重交差、分からないことが多すぎる。教えて、私は知りたいんだ」


 それは意志力だけのものだろう、体を分解されながらそれでも叫び続ける。検索と言う魔術師はただ知りたいだけだ、その全てが検索と言う魔術に絞られている、探究心こそが彼女の原動力。だが分からない、世界の秘密もルールブックの意味も、ましてや魔術師精霊王、世界は無限の秘密に包まれていた。


「教えてもらうまで六法の一つになんてなってやるわけにはいかないんです。教えてください、この世界の秘密を預言者とはなんです、女神とはなんなんです。こんな状況で消えるほど私は愚かじゃない、夢が世界を作るのなら今この場所で消えるのは私のためにならない。死なない、教えてください」


 人間の構成呪式が逆流し人間の体へと変貌をし始めた。

 思いと思いによって劣化させる、聖女は彼女に探求心を与えすぎたなにより彼女の意地を甘く見すぎた。何も知らないままに不意打ちで分解してしまえばよかったのだ、知りたい事が多すぎて死ぬわけには行かない、だからこそ彼女は検索と言う魔術師はここでさえ蠢く。


「ちぃ、何でここにまでいるんだよ意思の化け物が。だがお前の如きの思いで僕の思いがつぶせるわけが無いだろう、大体死ぬわけでは無いから戻らないわけでもないんだ。大体僕と一緒にいれば嫌でもこの世界の秘密が見えてくる、そう絶対に嫌でも見えてくるんだ」

「って死なないの聖女さん、元にも戻るのなにその反則」


 ちょっと以外といった顔で彼女は聖女を見た。そりゃそうだ一度人間を止めさせられた合成獣などは二度と人間に戻ることさえ出来ない、それが勇気だろうが向きだろうが関係ない。だというのに聖女は神剣が死ぬわけでもないと軽がると言ってのける。


「当たり前だろう僕は好き好んで命を奪いたい人間じゃないんだ。夢にとって邪魔なら殺すけどそれ以外で殺すほど人間をやめているわけじゃない。だから今は力をかせ神剣、真の魔術と魔法そして精霊王の意味が嫌でも分かるようになる」


 了解、いきなり自分から肉体構成に関わる分を操り他の神剣よりも速い速度で変貌する。


「なんていうか現金と言うか、サムズアップはないでしょう」

「まぁ嘘なんだけど、これで力になった。じゃあ始めようか精霊王、たかが神剣如きのために時間を消費するのはもったいない」


 「最低」一笑する、六本の剣に斬断の意思は無い。そもそも斬るためにあるのではない剣とは武力にして権力の象徴、だからこそ寝物語の英雄達は刃を持って己の力を立てるのだ。だからこそ権と言う名がついているのかもしれない。


 法律には全て強制と言う力が働く、それは最初は本能を文字にしたもの、そして理性が作ったもの。人間と言う限定では在るが操る事が出来な物など存在しないのだ、それから逃れられるのその属性の対極の属性が必要だ。それこそが安定を決められた世界が作る対抗因子である。


「堰の林、轡尾の懺凱、八極の紡思、陸堂の街浮、発揮の刳侘、自由の十字、それに僕は追いつく。だからここでお前のような世界存在に負けるわけにはならない」


 それは全て、アヅマの国に残る神の名だ。人から髪に変わった英雄達、武神と歌われた堰の林、全ての生贄となって生涯王と相打った懺凱、突き出した手の中に古びた刃のもち手がある。刃は無くそれは朱里の兄の持っていた斬裂の白木の刃を髣髴とさせる、だがそこに六本の刃が集う。


 ちなみにではあるがこの六法とは全てが白紙である、簡単なことだこれは一時的に世界を操るためのものに過ぎない。世界と言う名のルールブックに自分と言う名の感情で新たなルールを作り出す、世界奴隷法、正式な魔術名にして魔術師が総じて最後に行き着く場所だ。


 つまり彼女はここ半径数キロメートルにいたするべてが彼女の魔術下に置かれる。精霊王が世界の属性を操るものなら今ここにいる魔術師は好き勝手に世界に属性を作り出し続ける存在になったわけだ。


 魔術戦における必勝法とは上回る概念を叩きつける、それに尽きる。魔術師と魔術師の勝負とは全力と全力の打ち合いで自分と相手の夢どちらが強いかを決定するためにあるものだが、魔法使いと魔術師では勝手が違う。基本、魔術師では魔法使いには絶対に勝てない、それは当たり前の事だ属性が一つしかない存在は属性を操る魔法使いに敵うわけが無いその属性の弱点だけを使い続ければ嫌でも勝る。


 魔術師が魔法使いに対抗できるのはその不気味なまでの真っ直ぐな思いと最上位たる魔術師だけである。世界を侵食するほどの意思を持つ魔術師だけ。


 属性と属性の破砕音が響き渡る、それは将棋や囲碁、チェスといったものに近い。相手が放つ属性に対してそれより強い属性を浴びせる、いや最も近いものがあるかじゃんけんだ、相手がグーを出せばパーを出し、チョキを出せばグーを出す、だがそれだけではない同じ属性は二度使えるほど甘くない。使われる属性は次々に単属性から複合属性へと変貌する、一度使われた属性はすぐさま対処されていくのだ。


 この闘いはようは悪阻だしじゃんけんの応酬だ。概念破砕音は硝子の割れるような音に聞こえる、すり合わせて弾かせバリンバリンと甲高い音が響き渡る。


 属性を混成させた魔術が次々と放たれ、概念崩壊を起こしていく。それが直撃すれば概念崩壊と言う次元ではない状況になるのだが、それを魔法が相殺する。それは半分以上が詰め将棋だ、世界に刻まれた属性は少ない。その属性全てを操る事が可能だったとしても生まれてくる属性には魔法使いは対応できない、それが魔法使いの限界であり精霊王の弱点なのだ。


 だが魔術師は違う、属性を生み出す事が可能なのだ。それは到達した魔術師以外には不可能な事ではあるが、使える属性の選択肢が少なくなっていく。朱里はその状況にありながら思考だけを常に冷静に動かす。


 彼女にとって魔術師と魔法使いの戦いとは名誉を書けるものではない、彼女にとっては生きるためだ。確定している状況はここまで言っても自分は目の前の魔術sに敵う事がないという確信だけだ。どうせこのまま言ってのジリ貧なのは確実、何よりこのままでは選択肢を失い敗北するのが確定の状況。


 手段を講じて晒してやる以外に彼女に勝利する方法は無い。


 攻撃をしながら距離をつめる、概念崩壊を起こし続けたその空間は粘着を持った別世界のようにさえ思えるほど彼女の移動を阻んだ。無意識のうちに彼女は炎滅を紡ぎその概念空間を焼き払いさらに踏み込んだ。


 技術は無駄にはならない、知識は力になる、それはきっと彼女の兄の知識。今まで使っていた魔術が使い物にならないなんてことは無い、積み上げてきた技術はそれに劣るとは思わせたくないのだ。


 だから、その概念戦争に対抗するように彼女はただの魔術紛いの技術まで織り込み始めた。

 だがこれは思考を乱す程度にしかならないのは彼女も理解している、頭脳だけじゃない陣を刻み魔術を使い紛いを紡ぐ、属性を放ち一歩一歩と聖女に近寄る。


「この闘いに無粋なマネを、命を駆けるなら一つの属性に決めればいいものを」

「死なないって決めたならそれを突き通す以外に何が出来るのか教えて欲しいわ魔術師、これが貴方の言う夢じゃないの」

「夢と本能を同じにするじゃない、この属性使い」


 次々と使用不能になる属性、選択肢は絶命的に少なく成る。

 だからこそ次から次へとあらゆる属性を紡ぎ選択肢を彼女は増やしながら一歩一歩歩み寄るしかないのだ。概念を燃やし、物理を押し通し、属性を作り、属性を操る、その平行作業を彼女は行う、そうしなければ死ぬのは自分脳はすでに過負荷で悲鳴を上げている。


 嘔吐しながら、その中地を混じらせ鼻血を零し、人間の雄叫びとは考えられないような声で咆哮しながら。


 惨めなほど人間過ぎる、生きるとただそれだけのために相手を殺そうとする。そしていつの間にか彼女と彼女の距離は手が届くような範囲になっていた。即座に六法の剣を振るう聖女、この属性に敵う魔術を彼女は持っていない。だから昔教えられた技術でそれを躱す、大字の基本的な歩法に過ぎないが対術と言うレベルであれば彼女は聖女には負ける事はない。


「らあああああああああああああ」


 一瞬彼女に思考が真っ白になった、そこで思い出すのは自分に初めての敗北を与えた魔術師の事。死んでもなお自分の目的を達成させた、彼女の兄の友人、何と無くだが彼女は理解した。あの男が自分を上回った理由を、夢と言うものの重さと自分の意思を、だがそれでもここで死ぬわけにはいかない。


 それは夢を持たない精霊王、いや魔術師が、夢を紡ぐためにきっと必要なのことなのだ。


 聖女にただ何の属性も含んでいない拳を叩きつける、それは一人の魔術師が紡ぎだした最終決戦用大魔術 王帝階位 U-256 正式名称をアイビーと言う。概念防御のみでくくっていた聖女にそれは余りにも強大な一撃だった、完全に死に体のところに放たれた一撃、この概念空間にあってなおその魔術は強大であった。


 それはなにしろ、精霊王を負かすほどの男が紡ぎだした魔術なのだ概念で劣るはずが無い。


「ちっ、僕は最終的に交錯十時には負け続ける運命かと認めるほど僕は諦めがいいほうじゃない」


 生き延びようと聖女は足掻く、設定概念を圧縮し彼女の前に瞬時にアイビーを上回る概念質量を作り上げる。それがアイビーと拮抗しながらその威力を消し去っていく。


「ならそれを奪うだけよ」


 それは彼女の使い慣れた魔術だ、この時彼女は精霊王であり大魔術師に代わる。それは全てを焼き尽くす炎、生きるというただそれだけの為に、いや負けないと決めたその思いが紡ぐ彼女が最強と思う概念。


 その魔術の名を 灼夜 、夜さえも焼き尽くし世界を照らし続ける炎の拝命。

 対抗する魔術を 六法 、世界に倫理を与える為に紡がれた人間への法則。


 ここに来て魔術師同志の戦いに戦闘は様変わりする、二人を中心に崩壊の因子が世界に組み込まれていく。次々と連鎖自壊する様にボロボロとその最強と呼ばれた砦を侵食していき石の塊に変貌させる。まるで砦の中から腐食でもしたように崩壊の音は鳴り止まない。それこそが概念崩壊、最強の砦と言う意味を尽く破壊し滅するその結果最強どころか砦とすら世界は認めず、その建物は崩壊していく。


「この馬鹿女さっさと負けを認めろぉおおおおおおお」


 もうすでに先ほどの戦闘から女として何か捨ててる感があったそれはより強大になっていく。炎を走らせ獅子の如き咆哮を放ち、乙女にあるまじきクロスカウンターと言う状況で夢の押し付け合いが始まっていた。どちらももうただの意地だけでその魔術を支えている先に折れた方の負けだ。


「お断りだよ、ここで負けるぐらいならとっくに十字に負け時に死んでるっつーの」


 自分の夢と意思を組み込み、意地を押し通し、世界に自分を認めさせる。ただそれだけのための技術が、世界を滅ぼすように辺りを包み爆散した。と呼べば世界は正しく動くだろうが二人は追撃とばかりに拳を顔面に叩き込んだ。


 二人の乙女は鼻から血を噴出してぶっ倒れる。


***


 つまりこれが僕の終幕であるわけだ、いや存外に生きてきたけどこれはこれで結構いいもんだよ。

 そうだろう十字、お前の血脈は何処まで言ってもおかしい化け物ばかりだ。けどここで夢がおしまいだなんて悔しいにもほどがあるよ、だってそうだろう君は簡単に自分の夢を叶えたんだ。


 僕の夢はまだ一向に終わらないのに、君は簡単に叶えて一つの結末を迎えた。


「僕の負けだよ、ったくここまでやってぺーぺーの魔術師に負けるなんて思いもしなかった。すでに体の方は構成因子が崩壊しだしてるから後一分ぐらいで消え去るとおもうよ」


 やれやれだこの少女は僕に勝ったというのに気絶してしていて答える事さえ出来ないか。

 魔術師の重みを知らないくせに夢の重みは知っていたわけだ、羨ましいね、ただ戦乱が嫌でも続く世界に平穏をそれが僕の夢だったというのに。だがこれからが地獄だぞ僕を負かした最強の炎。


「僕を殺して終わりじゃないんだ君の夢は、生きると決めたい以上戦うしかない。あの男とね、君の兄、新月の朔あれはもう人間じゃない、夢を持った刃、僕はここで死ぬが君は絶対にあいつと戦わなくちゃならなくなる」


 可哀想な限りだ、どれほどあれが非常識だか彼女は知らないだろう。魔術を使うわけでもないその癖に意思と言うただそれだけのもので世界を切り裂こうとしている存在だ。腕が無くなって命が無くってもあれはどんな事をしても刃を振るうだろう、満月と何もない月、綺麗過ぎて手が届かないはずなのになんでああも簡単に手を伸ばして掴み取ったのか教えて欲しい限りだ。


「ここで僕の世界は閉幕」


 ―することは無い、すでに何時は夢を叶えている。何時の思いはすでに世界の轟いた


 畜生、最後の最後のどんでん返しだ最悪だよルールブック。


***


 彼女が目を覚ます頃にはもうすでに聖女の存在自体が破壊され尽くしていた。彼女と言う名の法律と言う属性が世界に存在するようになった以外に関わり以外聖女と言う存在に対して物理的な動きはその肉体の消失だけだった。


 もう神剣と言う字は彼女は持たない、その代わりに存在し与えられる拝名を炎滅、ここで偽者は本物を超越した。


「夢なんかかなえたつもりも無いのに」


 灼夜、燃え上がり世界を照らし続ける神篝のもう一つの名前。


「夢なんないのに」


 違う夢はあるのだ、彼女にとって人生を全て費やすに相応しい存在が、


「何で兄さんはここで笑って私を見てるの」

「予想通りで予想外、そりゃ最高の笑い話にしかならない。大体僕はお前の兄なんかじゃない、ただの朔、お前を殺すためだけに来たただの道化だ」


 目の前にいるのに力のひとかけらさえでない。


「忘れるな獲物、次は殺すといったはずだ。どうした願望を駆動させろ、世界に侵食し世界を作り出し、世界を読み取り世界を操れ、望んだとおりの救世主を僕は待っていた」


 最終剣王、それは人としてたどり着く最終奈落。全てを刃に捧げた終着点、その目はすでに血の繋がる妹ですら殺しかねないほどに煌々とうれしそうに輝いていた。

 だが彼女は首を横に振る、兄を殺すためにこの場所にいるわけではない。だから嫌だと、だがその願いは聞き届けられる事はない。


「お前はこの僕と斬裂を断ち切ろうとしやがった。


 ―嬉しそうに笑いながら彼の顔はすでに妹ではなく―


 まさかさぁお前そのこと忘れてないよな


 ―かつての炎の担い手を連想させる怒りだった―


 絶対に殺すと盟約しただろう、絶対に殺すと、お前の意見なんて聞き届けた事か戦いたくないならそうしてやるまでだ。いいかお前は僕にとって絶対許せない事をした、他人がどういおうと殺す、どんな手段を持っても殺す、あの時押さえた殺意の分殺す、どうあってもお前が僕と戦うようにしてやる。


 この世で僕は塵屑で掃き溜めのような存在だろう、世界中全ての人間からうらまれて殺される覚悟はすでに出来ている。だがその前にお前は殺す、たった一つ許されないことをしたそれが全てだお前だけはどうあってもこの世界で僕が命を刈り殺す」


 一気にまくし立てられた、だがその目はすでに彼女を死体という結末してしか見ていない。

 することが許されなかったそのことをした人間の末路というのはこういうものだとありありと見せ付ける。


 彼女の目ですら確認できない刃が放たれる。


「最初はと言うかもういい。アーゲンベーバーレの人間をなぶり殺しにしてやる、嫌なら神剣引き連れて僕に殺されにこい」


 それが最後の抵抗のチャンスだ。

 彼は徒歩でアーゲンベーバーレを目指すこういう時魔術が使えないことを悔やむが彼がアーゲンベーバーレにたどり着くまでの時間がチャンスになるだけだ。法とはすでにその機能を停止させている勝利したのは魔術帝国だ。


「どうしろって言うんですか。私に兄さんを殺せと、できるわけないじゃないですか」


 だが殺さなければ殺されるそれは彼女が生きる為に選んだ道に反している。死にたくないけど殺したくない、そんな言葉が通用するほど世界は優しいはずがない。

 殺し殺されながら世界は回り続けているのだから。

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