刃の付随物、私のお兄さん

 僕はいらない、僕はこんなものいらないんだ!!渡せよ、なんだってあげる焔児の称号も、跡継ぎの資格も!!こんなものあげるさ、今すぐにでも証明してあげるよだがからお願いだ、ただその刀を頂戴。この家から出て行く、だから頂戴、僕はその刃だけで良いから、ほかにいらないから、お願いだよ、お願い、僕のもつこれは全て上げるからお願いだよ。             ――――――――大字土明 七歳

 


 その男は私にとっての兄だった、唯一本の刃を見つけたために一章を棒に振る事になった兄、大字土明、神剣にふさわしい才と魔力を兼ね備えた炎滅の魔術師。けれど兄は捨てた妖刀 斬裂 を手に入れるために、その魔力と才を私に明け渡す術まで編み出して。

 私の元の才能さえ神剣に及ぶものだと言うのに私は更に兄の力まで受け入れてしまった。しかも魔術の後遺症さえない、兄の魔力はそのまま障壁や回復身体増強などに完全に周り、人として私は化け物へと変化した。最強と言う仇名がつき兄喰らいという不名誉な称号まで与えられたがそれでも今の今まで兄を恨んだことはなかった。


 だがどうだあの人は神剣を両断する力を得て、私には目もくれず、唯刃を変わることなく持ち続け、私の存在なんて思考にもいれず、あの刃だけを持って、私の存在を忘れたように!!


 ・・・・・・・・・・・・・・・唯の嫉妬なんだけど。


 さて訂正、私は正直に言えば確かに最強の存在ってやつである。兄からも力を受け継いだ、その理由は簡単あのボケは我が家の家宝にして妖刀 斬裂 達人殺しにして使い手を選ばない刃を手にするためにその魔術の全てを捨てたのだから驚き。


 ちなみにだけど斬裂って言っても単純に言えばとんでもなく切れる刀なんだけど、我が家系の剣術士たちは全てその刃を嫌った、刃を極める理由が無いからだ。その刃においては打ち合いや鍔迫り合い等と言った戦いが一切無い、そりゃもーとんでもない位に斬れる。


 一度だけ祖父が使う所を見たけど、ありゃ反則、無敵すぎにもほどがある。刃と刃がかな去りあうとか言う言語がどこにも無かったすっぱり切れた。もうまるで意味が無い我が家伝来の剣術が斬鉄に到るその全ての術理が問答無用ですっ飛ばされる。


 あらゆる理合がその刃では無視されるのだ、剣術をたしなんだ私が言ってやるあんなもの武器として持ちたくない自分の剣士としての価値が消えうせる。


 話は戻すけどそんな刃だった、兄が惚れた刃は、もう額全を通り越して唖然そして怒りさえ超越して失望、あの剣士としての才能をどこをとっても無かった兄がその刃の為に炎滅の術を全て捨て、魔術師としての才能を全て私に譲り、知識さえも私に与えてくれた。


 正直な話あれは異常、挙句に武器を振り回し続けてとうとう祖父さえ超えて行方不明。だが正直あの刃が羨ましくも思う、もしあれがその辺の人間なら、忠実な下ぼ・・・・・いやいや、浮気なんてしない私だけの恋人の完成だ。

 ちなみにだけど、兄と血はつながってるので安心。手なんて出しませんよ、ありゃ化け物、もし兄さんが魔術師のまま進んだら最低最悪の焼滅の魔術師の誕生だっただろう。今じゃ私の称号だけど。


 そんな行方不明の兄を発見したわけです、もう一応神剣筆頭だったのに剣王をぶっ殺しやがった現場で。久しぶりの出会いは衝撃的でしたよ、手足の無くなった肉人形を蘇生させたらあら不思議兄に早変わり。

 わけの分からない愛の告白を言いながら、剣王を殺害、そして着地が出来ず気絶。


 まぁそれからいろいろあったけど、まさかあの男に斬りかかるとは思ってなかった。と言うかね、兄さんがあそこまでぶっ飛んでるとは思ってなかったのよ、神剣と挨拶した瞬間本気で斬り殺そうとした。


 バイオレンスに成長しすぎである、どこの世界に勲章を与えてくれる人間に切りかかる英雄がいるって言うでしょう。そのあたりは一度話し合いたいところですがが残念ながら取り押さえようとした魔術師達を斬り殺して逃亡。

 身内ですって喋れなくなりました、っていうかいえないよ。


 けどね、斬りかかった男が悪かったと私思うのよね。


「ハロー♪朱里ちゃーん、お兄さん見つかったみたいだね」


 よりにもよって私と兄さんの幼馴染ですから、あの人親友を躊躇い無く殺そうとしました。何を考えてるって言うレベルじゃ在りません。


「ご、ごめんなさい。あの人きっと分からなかったんだと思います」

「あはははは、絶対違うねあいつは、君の謝罪はありがたいけど。あのくそやろう親友を完璧に忘れてやがったよ」

「怒ってますね、仕方ない事ですけど」

「当然だね、と言うかあいつならそれを理解しても俺を殺そうとしただろうけどね。別れる前に言っていたしな『僕は刃を目標に生きる、親兄弟だろうと殺すつもりでね』とか言ってたからなー」

「え?」


 あの・・・・・え?ってことはあの人・・・・・・、つまり、私は建物に手をやりました。ある事実に気づいたからです、そうするとどうでしょう建物の柱に罅が入り、粉砕してしまいました。

 それはどうでもいいのです、あのくそふざけた我が家の長兄は、


「私を最強の魔術師に仕立て上げ、挙句に殺そうとほざく訳ですか」


 あぁ、不穏な空気が私に立ち込めます。目の前の大名字秋継さんも、震えていらっしゃる。手段無く捕らえて私の下僕にでもしてやりましょうか、あの前しか見えないきらきら輝いた目を曇らせて屈服させて、そうだ!!首輪をして鎖でつなぎましょう。

 創造だけで興奮してきた、絶対にしてやる、あの容姿ならきっと似合う事だろう。


「あ、あのぉ・・・・・・、朱里ちゃん。許婚としてはその不穏な空気どうにかいてほしいかなーなんて」


 人の声なんて聞こえません!!


***


「さて、どうしようか。のりで神剣殺そうとして失敗故郷の同盟国に対して喧嘩を売った挙句もう一つの敵国からは剣王と魔道将軍を殺したお陰で恨まれている。まさに四面楚歌だ」


 牢獄のような場所で彼は笑いながら誰かに語りかけた。

 その誰かは怒りをあらわに机を殴りつける、音の衝撃波が軽くその牢獄に響いた。


「あぁん、知るか。剣王を殺すような奇知害にいまさら医療系魔術師が何をしろって言うつもりかな?いっそ我が最大属性の風で嬲り殺してやろうかい」

「セーヴァング、僕は君がそっち側のことを怒ってるとは思わなかったよ何しろそれは僕の夢だ人の身で神を殺すって言うたいそうな大義名分それを果たすためだけに僕はここに斬裂といるんだよ」


 長い銀髪を左右に振り、彼はその言葉を否定する。鋭くとがった視線を浴びながらも平然と笑う土明はズレているが、その言葉の否定に彼はちょっと驚いた様子だった。


「それを含めて怒っているんだ!!お前は一体どうして勲章授与式なんかであんな狂った事をしたんだ!!」

「そっちもか、って当然じゃないか剣王を殺したって所詮は魔術師じゃないあの後神剣と会う可能性があるのは戦場だけならばそこで一人ぐらい決着をつけときたかったってだけだよ」

「お前はあと十一人も神剣を殺す気なのか!!」

「まぁそれも目的の一つだね、くくく、けどあと一人いるだろう神剣と同様の最強が僕の目的が。それがもう一つの目的、最後はそうだねさびてボロボロになるまで刃お振るうってどう?」


 彼はセーヴァングの目が鋭くなっていくのを感じたが、土明には暖簾に腕押し糠に釘と言うやつだ。彼は聞き入れないし、帰ってこない会話の意味がないようなものである。ただ愛しそうに刃をなでる、アヅマの人間特有の黒い目がやけに禍々しく動く。


「しるか。だがお前の言う神剣と同様の最強はケンベルの剣神だな。出てくるはずがないだろう。あの腐れた二十三代目ソードキング、大千剣を扱う最強の剣神があいつは法王と同じくらいにいる最高裁判官だぞ唯一この国の神剣の最強と戦えるあの化け物がお前程度のために出てくるか!!」

「そりゃそうだろ、だが僕は刃だぞ。魔術師として老化を停止させて、到った刀使い僕の目標であり、刃を悉く侮辱した僕が殺す絶対の相手の一人。そう決めたらなどんな手段もいとう必要がないだろう?」


 必然のように狂気があふれ出し世界中が凍りつくように歪む、穏やかだが触れる事さえ許されない刃はその存在が刃を持っている事を悉く一切すべて絶対に認めないと歪み歪みつくし、それでもどこまでもまっすぐで鋭い刃はきっとその最強を殺すまで止まらないのだろうと勘違いさせてしまう。


 だが神剣を殺せたのが奇跡である事は当に証明づいている。彼は防御においては神剣の中では最弱に近い力場使いである大名字秋継を一振りにて殺害する事が出来なかったのだ。それは神剣に及ばないと言う事実であり、何よりもその要因が分からない以上彼は唯の反逆者である。


 セーヴァングはそれを理解していた、確かに彼は何かしらの要因により神剣を殺す事が出来た。だが成長はしていた今の状態でさえ魔術師の真剣の魔術師(普通の魔術師の総称)レベルであれば彼はその障壁を切り裂くまでにその鋭さを上げていた技量が上がったのかどうなのかは分からない、だがそれは確実に人の身でありながら人ではなくなっている証明だ。


「ふん、歪んでいるのは結構。だがなお前はただ障壁が切れるようになっただけだろう?魔術師に勝てるのか?絶対死亡距離あの距離が踏破できるのか?聖剣達でさえ気を抜けば真剣の魔術師に殺されるその範囲をお前は生身で歩めるのか?」


 そこまで出来てセーヴァングが思う事はそれだ、ただ防御を破壊できたとしてお前はその刃の範囲を知っているのか?と、実際神剣の戦闘では相手が油断していた、と言う事実があったからこそ彼は突き抜ける事が出来た。肉の壁たちが大量にあったからこそ致命傷も受けずに彼は歩む事が出来たのだ。


 でなければあの距離を生身で進むなど死を感じるよりもさきに死を与えられてしまう。

 

「疑問系ばかりの会話ありがとう、けれどね勝つ、踏破する、歩んでみせる、これが答えになるだけだ。何度も言ったけどこれしかない以上僕にはこれを使うしかない、選択肢なんて僕は最初からなくしているんだよ」


 ビキリと世界が引きちぎれた。


「真っ直ぐなのか歪んでるのか、兇器に付随した肉人形が、いやお前らほどの歪んだ夫婦はいないだろうよ目的も手段も全てその身にしかないなんてな。いや狂ってる狂ってる」


 ふははははははははははは


 手をたたきながらセーヴァングは笑い始めたそれが質問の答えだったからそれが質問の返答だったから、―――――――――そして何よりその狂っている事実を何度も確認してそれでも無視していた自分自身に、彼は笑い始めた。


 静寂が訪れるまで少しの間時間がかかった。机を彼は再度殴りつけ、土明程ではないにしろ刃のように鋭い眼光を彼に突きつける。

 その刃を与えられた彼はにやりと笑い、その心地よい刃の風にさらされていた。


「理解した、では最後に消えろ。お前の体はもう直してやらん、朽ち果てろ、錆付き、折れ果てろ、砕け散れ、その刃がかけて鋭さを失ってその肉が腐り削ぎ墜ちるまで勝手に戦って消えろ、お前は当に人間じゃないよ俺は鍛治師じゃない砥ぎ師でさえない、刃の付属物にいちいちかけてやる義理なんてものは無い」

「了解した、では消えてあげる。その刃鈍らではない証明を立てる為だけに朽ち果てよう、錆付こう、折れ果てよう、砕け散ろう、武器を振るい続けて死に果てよう。この身がただ刃であるためだけに、ただ鋭く切り裂き無惨な死を与える刃に、もろく鋭いただの刃に成り果ててあげよう。刀の付属物の最後の言葉だありがとうではまた戦場で」


 地獄はそうやって生成される。

 カチャリと刃を握ると監獄から出所する、友と離れる、だが顔はやけに楽しそうで鼻歌さえ彼は歌い始めていた。ふらりふらりと彼は歩いていく、響く歌は行進曲、勇ましく笑って死ねと言わんばかりに壮大な曲、この医療区画に悲鳴が響き渡るまで数十秒、その行進曲は葬送曲に変わった。


「はっ!!気付くべきだった早く、早く、はや・・・・・・っく。あいつはとっくに捨ててた、命も、人の感情も、あれだけ歪んでるってのに俺は、あぁ。羨ましいな、っ炊く羨ましい、俺には何にもないからなぁ」


 一人セーヴァングは笑う、アインドーデ事件唯一の生存者にして裏切り者として殺される事になるある意味人間唯一の理解者は笑い続けた。

 

***

 

「狂ってるね、今さらだセーヴァング。くくくくく」


 辺りから犯罪者を呼ぶ声が響き渡り、魔術師や兵士達が集まってきた。

 だがそこにはいない真剣をまとめる聖剣達が、そして何よりこの野戦病院内において絶対死亡距離は無くなる。それは人の倫理から来るもの、カイエダ襲撃からすでに二週間、小競り合いだったその戦いは日増しに熾烈さを極め、あらゆる国の虎の子である魔術騎士団が前線には投入され始めていた。


 そんな闘いの中致命傷を負わない人間はいないわけが無い、ここは病院なのだ。味方を好き好んで殺す人間はただの殺人狂だ。


 有名になり姿彼の名前を兵士達は呼び彼を囲おうとする。歩みを止めない彼に動揺しながら、剣王を殺した、神剣を殺した、ただの人間をその行為が無意味な事ぐらい気付けばよかったと言うのに。


「囲うね、いっそのこの病院を破壊させて生き埋めにしたほうが効率が良いのに高々人間の身体能力の300パーセント増し程度で僕の年月と競い合うつもりかい魔術師?和で押せばどうにかなるだろうけどさここは病院君達は必然的に人質を僕に取られてるってのに、ここで距離はなくなるよね」


 地下に存在するこの野戦病院は敵に見つからないこととを主軸にして作られている、何十年にもわたって行われた小競り合いの結果だ。そして最大の利点は、魔術師達を完全封殺できる通路壁などに到る全てに張られた多重結界の一つマヨイガによる魔術の無力化と、一対一を基本として戦うために作られた細い通路、時間稼ぎと戦略拠点を兼ね備えるための前線基地のようなものだ。


 不用意に魔術は敵味方とも使えない状況、必然的に魔術は身体強化(通常魔術師では最高で500パーセント上昇が限界)だけになる。シールドなども効果があるだろうが残念ながらその男は切り裂いてしまう、簡易の魔術なら多少は使えるだろうが軍隊の基本は集団。単体で戦うなど愚の骨頂である。


「いやお久しぶり元同僚、いやさようなら元同僚、我が名は大字、したの名前はいまさら良いだろう」


 では


「始めるとするかい斬裂、どうせこの身は当に朽ち果てた人間だ。君と共に逝けるなら何処まででもいけるだろうさ」


 止まる事の無い刃はそうやって抜かれていった、武器を取り出し振る。

 それだけで人間はバラバラになっていった、容赦ない斬殺劇、武器を振り斬り飛ばす。肉と言う壁があるならそれをフルに使い、最大にして最小の動きで殺戮を繰り返す、その刃が止まる事は無い。


「やあお久しぶりグローデス君、ではおやすみなさい。苦しみながらね」


 彼はそういって男の頭をつかむ、そのまま壁に全力で叩きつける。意識が飛びそうで飛ばないその地獄を味わいながらクローデスと呼ばれた男は魔術の壁となって吹き飛び死んだ。


「楽しい、神剣を殺してからこうやって僕は可笑しくなっていってるんだと思うけどさ。楽しいよ実際、斬裂面白くないかい?面白おかしく自分と言う人間の皮が剥がれ落ちてきた、ほら見てくれよ、僕はこんなにも狂っていやがる。畜生、畜生」


 苛立ちが彼に走った、それはキットここまで狂ってなお魔術師の一撃に怯え続けている自分という事実が彼の目指す道の果て無さを象徴していたからなのかもしれない。だが見るだけなら魔術師でさえその戦いぶりに戦慄を抱き、恐怖の悲鳴を上げる。


 あらゆる一撃が彼の振るう刃にて切り伏せられ、その狭い空間に死体が積み上げられる。


「何なんだあれは!!」


 誰かがそんな言葉を発した、それが恐怖の連鎖を生む、そう忘れたか?あらゆる敵に問う、人間が神を殺せるわけなどありはしない。


「神剣殺し」


 その男は神を殺したのだ。

 神を殺せるのは常に化け物、異形、だがしかし異形を殺せるものは英雄以外にありえない。けれど、その男はやはり英雄でもあったのだ。一つの竦みでありながらそれには入らない、雨が降り注ぎ大地は豊穣の意味を持つ、ここにおわすは化け物よ、ここにおわすは英雄よ、這い世這い世と這いずり回る、無様で気味の悪いは化け物よ、


 世界を侵食しながら、世界に恵みを与える、なんと言う二律背反、素晴らしくも吐き気のする英雄よ、


 それはお前が侵した地獄なのに、ただしく歪んで狂った人間よ、なぜ御身おのれはそこまで、


「あぁ、鬱陶しい」


 そこまで楽しそうに笑っていると言うのに、


「なんて楽しい」


 そこまで悲しそうに(たのしそうに)泣いている(わらっている)と言うのに、


「斬裂楽しいよねもしかしたら僕達は鞘を捨てる事が出来るかも知れない」


 あそこまで真っ直ぐで、鋭く、刃のように在れるのだろうか?

 けれど人はそんな真っ直ぐな存在を羨み、切望し、この世の中で最も憎むべき存在と崇め奉るのだろう。


 最後に独りになるまで地獄は続いた、最後の一人それは怯えていた。睨みつけていた。


「ジベル機構魔術団長お久しぶりです、あなたの魔城戦団はこの二年僕を助けてくれました本当にありがとう」

「さっさと殺せ、ここではわしの魔術人形達は役に立たんお前を殺そうにもわしは近接専門魔術師じゃない」

「よく言うよ、最強の魔術人形エイダを作り上げた魔術師が、あれは聖剣だって破壊できやしないじゃないか」

「ふん、ただわし好みの女子を作っただけじゃ。エイダはそのためだけに作った人形じゃ」


 殲滅人形とまで呼ばれる、機構系魔術の最高峰であるエイダ、対聖剣魔術師を目的として製造される女性型機構人形。最接近戦闘魔術師-聖剣-であるなら、特殊技術魔術師-魔剣-が作り上げた、歩兵戦力の強化の代物である。

 そして何よりこのエイダは、結界魔術の無効化、王帝階位 PIAT と呼ばれる結界殺しの魔術を常時展開させている為封印結界だろうが拷問結界だろうが容赦なく破壊してしまう。王帝階位、まともな名称を与えられないのは殲滅といってもいい破壊力やそれを弾く防御力、さらにはその防御力さえ無効化させる魔術、対国家級とまで言われている最大魔術の総称。


 そんな代物をエイダと言う存在には与えられている。


「出してくれないかエイダを、あなた最愛の娘をねぇ出せ」

「ほざくな餓鬼、そこまで知っていてこの殺戮をする意味があるのか?」

「あるね、何のために同僚を殺したと思ってるんだい僕が。絶対正義が出てくるだろうこれでもう僕を殺さずにはいられないじゃないか、大法律国家も魔術国家も、頬って置けば地獄が作られる、狂人だぞ、容赦なく仲間を殺すようなほら恐ろしくないわけがないだろう奇跡とはいえ僕は神剣を殺せた人間だからね」

「餓鬼、あの国の神剣と渡り合うもう一人の人間を戦場に出すためだけにか。餓鬼ぃお前はどこまで自分勝手に人に迷惑をかけるつもりだ」

「一生涯、こんな風に死体を作りながら死に絶えるまで、僕は一生こうやって人に迷惑をかけ続ける」

 

 舌打ち一つ、


「なっちゃいねぇなぁ餓鬼、そこで嘘でも良いからかけるつもりはないって言ってたらよかったものを。もぅいい、望み通り出してやる、一生をこの場所で終わらせろ」


 爆音多数、


「機構魔術団長だぜわしは、そりゃいるわなぁ起動に時間がかかった所為で皆殺しもいいところだが、『人形遣い』ジベル=バドウィッシュ、ここで神剣殺しを殺させてもらう」


 裂けるような笑い方をして彼は手を叩く、心底楽しいそうなその表情は腐っているとしか言いようがない。


「でてきたね、単独思考型機構兵エイダ。さぁやろうか、僕はもううだうだとやっている時間はないんだから」


 地下の壁を突き破りながら現れた拠点殺しの兵器が駆け巡り、彼の前に三体人形が現れる。単独軍隊と呼ぶにふさわしい力と能力を備えたその兵器は異様に可愛らしいその服装と誰彼構わず魅了してしまいそうな無機質だが可愛らしい表情、戦場には相応しくないが、その固体たちの放つ威圧には戦場以外その力を使う事がないだろうことを証明していた。

 三体うち二体はエイダのサポートとして作られた、遠距離サポート アイニ 、強化サポート エイニ 、服装は多分製作者の趣味なのだろうエイダと同じようなフリルのついたフランス人形のような格好をしている。そして無表情のままにエイダは土明に話しかける、なんやかんやで彼は彼女にかなり助けられている顔見知りだった。


「元単独突撃兵訓練生 大字土明 様、今まで助けた代わりのお願いですさっさと死ね」


 親指が地面に向いていた。首を掻っ切ったあとに地面をむいた指はなかなかに人間を侮辱していた。


「あの?ずっと疑問に思ってたんだけどさ絶対この人形って喧嘩売ってるよね。よくもまぁこれだけ戦場で役立たずな機能を」

「これが職人の技よ餓鬼、元々はワシの世話ようだ見栄えとわしの趣味を出して何が悪い!!」

「しいて言うならその戦闘能力、世話用なら要らないでしっとぉ」


 二人が話している間に攻撃は始まった、地面を砕き壁を破壊させる三つの暴力の塊。戦略思考-タクティカルロア-と呼ばれる魔術による合理的といえば合理的な卑怯技による先制攻撃、話している敵には容赦ない攻撃を浴びせる。


「ちっ、元訓練生さっさと死ねと言ったのに」

「仕方ないでしょうエイダ様、彼はわれわれと違って頭が悪いのですから」

「ですが人間とは思いたくないですね。さすが脳内爆裂型-頭のねじがすっ飛んだ-馬鹿人間」

「ったく、調子が狂うといえば狂うんだけど。三位一体か、確か殴る、罵倒する、道具をつかうだっけ流石だ変態団長とまで呼ばれるマゾ魔剣、つくづく嬲られるのが好きなおっさんだ・・・・・・・・・・?ってまてよ、あんた僕に殺されかけたのってもしかして!!」


 ぽっとほほを染めるおっさん、髭面にいかつい顔が恥じらいで初心な少女のような行動をとった。それから数秒後エイダとアイニにぶん殴られたのは仕方のないことなのだろう。


「ふふふ、ワシの勝手じゃ。エイダ達はワシの趣味で作った最強の人形だと言う自負はある、それ以上にサドである事もワシの趣味だ」

「そんなカミグアウトはいらない」


 彼は問答無用で叩き斬った。


「きけぇい!!じゃが今は関係ないじゃろうが、この三体に加えてワシがおるのじゃ人形遣いであるワシは剣王のように油断はないぞ」

「まぁ私一人でも十分ですがね」


 一人空気の読めない人形は主に突っ込みを入れた。

 他のサポート人形は、土明に石を投げたりと絶対に彼を馬鹿にしていた。


「で、いい加減にしないとアイニ辺りを破壊するけどそれでいいの。別に僕はエイダだけで十分なんだし」

「私に愛の告白ですか、死ねばいいのに」

「お前らがだね。人道的思考か介護ならいるんだろうけどね、僕には不要だ、ジベルのおっさん早く外せよ限定制限なんてさ。在るんだろう身体破壊魔術の王帝階位 VX がさ。あれはあんたら魔剣の製造局が作った障壁無効の大魔術だ。使わないと僕は殺せない、それに僕をこの場所で殺したいならエイダのあれは絶対に必要だ」

「法律国家から永久封印をかけられた魔術だぞ使えるか!!」


 苛立たしく土明はジベルを見た、この場までそんなことを言うかと。


「鬱陶しいなぁもう、ならなんでそんな機構つけてるんだよVXだぞこの戦争の原因の一つでもあるその魔術。皮膚を変色させながら腐らせる、目は沸騰したようにぐちゃぐちゃになる、いやまだそれだけなら生易しい。激痛が死なない程度に襲い掛かり、鏡を見れば化け物がそこに存在するような魔術。

 そんな実験を子供にして、V型の記述に有意義とまで書いた男がよく言うよ。あんたのマゾぶりもその謝罪だろうが、腐った精神の分際で今更まともな人間ぶるな。僕と同じなんだよあんたも、神剣以上に腐り墜ちた人間のゴミ、ねぇ楽しかっただろう?」


 あぁ、ここまで彼は楽しそうに笑えるのか?


「楽しかっただろう、自分を通すだけ通して人間が過去形になるまでを嗤いながら見ていた人間としてはさあの実験は、人の尊厳を地の底どころか塵溜めに捨て去ったくせに今更人間ぶるなよ」


 言葉は呪詛のように紡がれる、過去犯した地獄が這いよる。

 まさに地獄のように、這い世這い世と彼は言う、怯えて逃げようともその地獄は逃して暮れはしない。贖罪を問うた所でそんな物は意味がない。


「さて、決断はできたかい?エイダを出したならもう考える意味なんてないだろう、こっちは問うに狂い果てたんだいい加減に容赦する気はないよ」


 アイニの崩壊式と呼ばれる振動による液状現象を具現化させながら彼を襲う。人間の身体能力の限界をはるかに超越するその速度、その力、だがその腕は切り飛ばされ壁に蹴り込まれた。

 

「とりあえずお前はもう良いよ」


 ずどんと刃が中枢機構を貫き停止させる、生意気な口調で暴れていたその兵器は瞬時に殲滅させられる。

 残酷でどうもな刃と付属物はケロリとした表情で、エイニに飛び掛った両手足を切り払い存在を達磨に変貌させる。


「どうする人形遣い?このままこの首を切り飛ばせば、稼動液を吹き散らしながらあなたの娘のしたいがまた増えるぞ」


 返答は帰らない、その代わりに糸が人形に寄生する。


「断るわしはそんな事するつもりはないのじゃよ、もう二度と、あんな人間を恥じる行為はせんと誓っておる」


 支配魔術と称される技術者の機構技術、破損などを一切無視して魔力のみでその存在を動かす魔術だが通常はあまりの使い勝手の悪さの使うものは少ない。それを極めたのが人形遣いであるジベル、そして何より彼のこの技術にはもう一つ特筆するべき点があった。

 

 彼によって破壊されたアイニに糸を伸ばす。遠距離サポートを主としたその機体を分解しエイダを進化させていく、エイニにも同様の行為を行う元々が強化サポートであるエイニはエイダの機能を推定ではあるが500パーセントをほど上昇させる事が可能である。

 さらにアイニの遠距離サポートである、魔術砲弾機能の付与、結界殺しを展開するエイダに遠距離攻撃を可能とさせる。


「よく言うよその魔道人形の思考制御は魔術師の脳を使ってるくせに、いまだにあんたの頭は外道のままだ。まさに機構魔術こそ外道探求の魔術、現象系とは一線の差が違いすぎる、人間の尊厳を奪う事がお好きなようで」

「だからこそわしはもうエイダは作るつもりはないし、これが最後に成る、彼女を世話ようにしたのはわしの最期の贖罪よ。だがなぜ剣術使いが魔術にそこまで詳しい、エイダは機構魔術師の中でも最秘奥の一つであるのだぞ」


 彼は頷く、


「それは当然、唯一魔術師に上回るこの目と思考時間零。だけどその為にはどうしても魔術の知識が必要だった、だからあらゆる魔術を勉強した、そして弱点もね。けど心配しなくていい、それは本当なら弱点にはなりはしないんだから」


 刃以外を使わないと決めた彼が辿り着こうと決めたその技、その為に知識が必要だった。その為に実を持って魔術を浴びた、考えるだけで正気の沙汰ではない事を彼は平然と言い放つ。


「戦争で使われる以外まともな使い方ができない現象系、その根本の弱点は兵器である事のその一点。最速、最短、最大、効率よく人殺しをするためだけに進化してきたお陰だよ、一対多には強いが一対一には脆い面がある。正直それをもってしても僕は勝てる気がしてないのもまた事実なんだけどね、僕が動く前に魔術は襲い掛かってくるんだから」

「ならなぜお前は避けられるのじゃ?神剣の魔術を」

「出来る訳無いじゃないか避ける事なんてできやしないよ僕の速度じゃ、だからその魔術を破壊させてもらっているだけ、それを利用するだけ。聖剣や神剣の領域である殺戮地点に、そのためだけに魔術を調べつくしてきたこの国で。

 だからこい、戦闘思考である聖剣の脳を使って作られるエイダ、もう増幅だろうが使い尽くしたほうがいい。死ぬために生きてるんじゃないだろう君も二つの化生と二つの原罪、どっちが勝つか見物じゃないか」

「最悪な性格ですねつくづく自殺してほしい類です。マスターみたいに一度絶望を知るべきでは?」


 「絶望ねぇ」無表情のままその言葉は打ち放たれ「とっくにしてる」さらに絶望を彼は告げる。


「しないわけ無いじゃないか、努力に努力を重ねてようやく魔術師達と対等程度。地獄を見続けてはや五年、爺さんを殺して二年と半、まだ先は見えないいつ僕は彼女に見捨てられるか分からない。絶望しないわけ無いだろう」


 その絶望と言う名の槌が彼という刃を作り上げていく、だがそれは絶望などではない。


 決めてしまった生涯への孤独、認められないことは分かっていてもなお襲う孤独、刃を持っているときだけ彼はその孤独から逃れるのだろう。おどけた表情を見せながらゆらりと体を左右に震わす、人間として残っている部分が彼を恐怖に苛み、人間で無い部分が喜びを刻む。


 アンヴィバレンツな感情、矛盾しながら矛盾ではないと、二つの刃が震えた。


「だからどうしたと言うのです訓練生、あなたの絶望なんて私にはどうでもいいことなんですよ」

「それは当然。だけどね僕は斬裂を見限る事はない、彼女もそうやって言ってくれている」

「物にしかすがれない哀れな人間ですね。これがかの大家、あらゆる最強を生み出した大の苗字をつけられる一族の男ですか」


 だからどうしたと言わんばかりに彼女に向けて一太刀、どんな移動法をしているのか分からないが視界から消えた瞬間刃が彼女頭部目掛けて振り下ろされる。だが彼女は避けた、体をひねるだけで、そして彼に向けて魔弾を放つ。


「それがあなたの言った魔術の弱点ですか」

「そうだね、分かっただろう。皆殺しにする力を求めた結果だ、最短最速最大、効率がその攻撃を読みやすくしてくれる、僕の思考が魔術より先に反応してくれる」


 腕に付属されたリボルバー式のキャリバーから現象式が形成される。風の魔弾、風の渦が圧縮された打ち抜く銃弾ではなく抉り取る魔弾が反則的な速度で放たれる、追尾機能などは無いが破壊力だけなら十二分に人間一人程度容易く抹消できる障壁破壊系魔術、だが対障壁戦を主として置いているためその魔術は動かない標的を狙うものとして設定されている。


 キャリバーから放たれる一瞬、崩れる体勢さえ無理矢理制御して突き出されていた腕を蹴り上げ弾丸の射程から逃れた。


「ですが甘い、ここは閉鎖区間。あなたが自分を有利にするために作った地獄の精製所でありますよ?」


 彼女はキャリバーの引き金を引き辺りにまとめて全弾ばら撒く、独特の発動音が響き渡り彼と彼女のいる廊下に隙間無く魔術弾を打ち付けた。その全てが障壁破壊などの貫通タイプ、当たれば必殺そんな一撃ばかりだ。


「甘いのはそっちだろ」


 ぼそりとつぶやいた言葉、魔術師戦を知り尽くし、機構魔術の最秘奥であるエイダのAI部分の思考でさえ把握した存在が何の手段も無くその場に立つ訳が無いのである。手段を選べるほどに彼は強くないのだから。


 彼は無傷のままそこに存在していた。


「いやエイダ機能は限りなく完璧に近いそれは凄まじい事だけどさジベルさん。一つ忘れてない仲間の尊厳機能を、死体を侮辱しないって言うあの機能を、いやありがたい限りだよ、この辺りにはそんな塵がいっぱいある。死体は価値を無くしたただの血袋だって言うのに実に馬鹿らしい。

 だからいったんだ僕を殺したかったらリミッターを解除しろって、僕は基本的にだますってことをしないのに。だからこうも容易く僕の射程に簡単に入ってくれる」


 エイダには同様などの機能は無いただ彼は死体を放り投げただけ、彼女は理解しながらなお死体を受け止めようと手を伸ばす。


「こんな隙を逃すほど僕が甘い存在に見えるわけ無いだろう」


 死体後と彼は音速を超える必殺を放つ、究極の細緻の一撃が、エイダの中枢機構が設置されてある頭にめがけて音を切り裂きながら刃の輝きさえ視覚させないままに跳ね跳んだ。


 けれども、容赦ない現象の爆発が彼の行動をさえぎる。


「っ・・・・・っぐ!!。忘れかけてた、ここはそうだよ魔術師の領域である死亡距離、視覚するだけで120の魔術が展開か戦闘系ではないにしても流石の起動率、多分視覚で着てないところで200ってところかな、流石稀代の思考制御能力者の一人まさに僕とは違ったベクトルの頭脳使いだ」

「ふむ、思考時間零、並列起動、精神消費限界で一歩手前で起動させる事に関してはわしの右に出るものなぞいない。それがたとえ神剣であってもじゃ」


 そこで彼はエイダに燃料補給をするべく糸を貼り付けた、


「だがそれでも忘れてたからには理由があるんだけどね、ここの封印結界何で解除できたんだい?」

「一発の魔術でこの魔術の永続設定を破壊させてもらっただけじゃ、最短思考のおぬしの能力は最善しか出さない対戦争能力ではあるからのぉ。応用が利かんのじゃよ」


 それは彼の弱点だった、皮肉にも魔術の弱点を知りそれをどうにかするために作り上げた彼の思考時間零。そのちめいてきともいる弱点がまさに魔術と同じだった、それこそが最大最速最短、魔術にかなうような速度で、それまでの思考の時間を省き、最大の結果を出すための行動、ここに剣術使いいや武術使い達の虚実という名の概念を知りながらなお出来ない無才である彼の弱点が如実に現れた。


「ばれたか、無才故の努力の結果だったんだけどな。ばれれば使えない、この魔術の対処法はこうしたら確実そんなものばかりを頭に埋め込んできたんだからね、そのために刻んだ傷がばれるまでに三十分とかからないか、しゃべりすぎたよ。考えてみれば並列思考(あらゆる可能性を網羅する)あなたは僕の天敵だ」

「何じゃその爛々と輝く目は、楽しそうに笑いおってわしとエイダ二人でなお戦えるというのか」

「至極、当然、この人生に敗北はあっても撤退は無い、退く事なんてありはしないんだよ。だからこそ友人を捨てて女に生きた、最高だよ斬裂って女は男をここまで狂わせる」


 救いの蜘蛛の糸を引きちぎったのだ、何度の吊り下げられた仏の御心を全て必要ないと、彼の目指した道は遠く果てないのだから。


「そうだ、だから友人から見捨てられた」


 踏破するために


「刃に生きる事を誓った、強情だからね僕は」


 朽ち果てるまで


「さてジベル殿、御身とエイダ殿で我が心我が意志我が望み、そして何より我が狂気、打ち砕く事ができましょうぞ?」


 それ刃のように鋭い宣言


「我の姓を大字、名を土明、かくも卑しき下賎の身成れど、これから先の体が朽ち果てようとも戦いをやめる事は無いでしょう。これから先は刃の楽園、剣の地獄、ひとつの間さえも許さず殺しあいましょう」


 持っていた鞘を投げ飛ばし、カランという音が響き渡る。


***


 魔術帝国 アーケンベーバーレ 首都アナミダ 王城アルデントス 陰行の間


 そこは一人の神剣に与えられた仕事場である。その神剣が得意とする魔術は検索、特殊の魔方陣の上で二つ先の国の情勢までは完全に把握する事のできる戦争において最強の武器の一つである情報を操る魔術師。


「お願いしますね。多分あの犯罪者はいろいろと問題を起こしているはずですから」

「最強・・・・・・・なんと申しましょうか。この国にいた十二人のうち八人はあっち側に言ったんですよそんな中たかが人間を検索するために私を使うってのは正直どうかと」

「お願いしますね」


 笑っているくせに絶対にやら無かったら殺されるような視線が神剣である彼女に降り注がれる。逆らったら殺されるような鋭い眼光をこんなところで見せている。


「あのですね最強、そりゃあなたに脅されたらやるしかないですがねたかが犯罪者じゃないですか確かに神剣を殺してなお且つあなたの兄上である事は承知しておりますが所詮ただの武器使いの一人でございましょう。油断が無ければ負ける相手ではないじゃないですか我ら神剣が」

「普通ならそうでしょうね、ですがあの人は間違いなく切り裂いたのですよ。ハザマほどではないにしても王帝階位のセイジョウを神剣の最大の力を持って放っておきながら切り裂くなんていうのは奇跡じゃすまないんですよ」


 検索の神剣はその瞬間瞳孔ごと目を開かせるように大きく目を開けた、この世界にあって誰もが知っている大陸結界。広大世界の最大国家であるアーケンベーバーレはその強大な魔術力を外敵様に変えていっていた。その一つが大陸結界、広大世界と言うだけあってこの世界は広い、大陸を大きく分けて八つアーケンベーバーレが存在するあるベスト大陸、そして今襲ってきている国が法律大国ジャシルのロイベネス大陸、この二つの大陸は陸続きになっている。


 この二つの大陸を中心にまるで囲うようにほかの大陸が存在しているのだが。まとめて攻められればいくら強大な国でも損害は計り知れず対処のしようが無くなる。そこで作られたのが大陸結界、ハザマどころのレベルではない。ほぼこの二つの大陸を鎖国常態にさせるほど強大な進化結界、一度加えた攻撃は全て無効化させる、そうやってその結果いは化け物へと変貌していた、自動蘇生、多重結界、視覚結界、創造しうる結界全てをそれは積み上げていった。


 神剣でさえ破壊不可能であり、唯一許された門は裏切らなかった最後の一人である門番の神剣が護衛についていると言う厳重ぶり。


「あれを破壊する事ができるというのですかたかが人間が」

「さぁ分からない。けれどあれは私の家の家宝だったの、使い手を選ばない剣術か殺しの刃として。最も兄はただそれがほしいために本当であれば最強と呼ばれたであろう魔術を全て私に与えて最大級の化け物である私ができたの、あの人の執念は人を基準にしてはいけないのもうそれは理解してると思うけどそろそろ検索にも引っ掛かったでしょう?」


 言葉の続きが気になりながらも彼女は首を縦に振る。そして映像を見て理解した、成るほどと、これは人ではないそこには刃が在っただけだ狂的に歪んだ顔のまま神剣を除けば固体最強の兵器エイダと戦う一人の女と男の化生が。


「そうですね、これは人間じゃありませんね」

「見つかったのね場所は?」



―――――――――――――最前線 アインドーデ


***


 世界が断ち切られる、光を両断する刃が、その刃は必殺。


 硝煙の匂いが渡る、炸裂する魔術の銃弾が、その弾は絶殺。


 神を切り裂いた刃がそれを打ち砕こうとする銃弾が刹那を分ける戦いを始めていた。秒間で四十近い魔術が多重起動していると言うのに、翻るようにまるで魔術の起動場所が分かっているように重なり合わない剣舞がそこにはある。


 いくら弱点と呼ばれても魔術に対抗する手段は彼はそれしかない、だが多重思考によって行われる魔術師の前では彼の行動は読まれてしまう。


 致命傷を避けてはいるがそれが彼の体を激痛と言う鎖で縛っていた。

 制限される行動をもはや無意識的に無視して彼は武器を振るうかすり傷程度でもその痛みは生易しいものではなくなっていた。


 火傷、切傷、凍傷、まだ上げればきりがない複雑な痛みが彼の脳に辞めてくれと叫び声を上げさせるが


「よいっしょっと」


 刃を振るい切り捨てる。


 セーヴァングが肉人形といったが的確すぎた、痛みはすでに別問題なのだ、刃の付属物。彼はそんな存在にとっくに成り果てていた。


 だんだんと傷は深くなり追い詰められていっていると言うのに速度は一層が上がる


 だんだんと傷は深くなり追い詰められたと言うのにより彼は零を目指す


 十が九に、九が八に、動作に無駄は消えていきより斬裂が生える振り方を彼はする用になる。旋回する刃、無軌道のようで無軌道ではない彼の刃に基本は無くただ斬裂の好きなように二人がただ刃であるためだけに、不可視に近い斬戟の嵐が荒れ狂う。普通の人間ならきっと気付いた時には両断されているような一撃だが、魔術の散弾によって無理矢理停止させられる。


 エイダは距離をとりながら弾丸を装填発射、いまだリミットは解除される事はない。


「よくもまぁ魔術師での無いのに生き残る餓鬼よのぉ。わしの魔術とエイダがいれば聖剣とて軽々と打倒出来ると言うのに、その刃が邪魔くさい、それは簡単に障壁さえも切り裂くのじゃからな」

「危険ですね、あの人の射程に入ったら私の機能でも回避は不可能です」


 二人の主従が真剣な目で作戦を練っている、攻撃の手を緩める事はないが当たりかまわず魔術を使い続けていた。


「あぁけどもう終わりだよ。ようやく僕の攻撃のチャンスだ」


 そんなときだ彼の声が墜ちて来たのは、いつの間にか彼は行動を止め居合いに近い構えをとる今まで予想を繰り返していたジベルは彼の行ったその行動までは予想がつかなかったらしく彼の周りに魔術を起動させるだけで彼は無傷だった。


 ふぅと呼吸を整える、次の魔術が発動するまで一秒と無いその一瞬に。


 地下の崩落が始まった。


 動揺がジベルを飲み込む、エイダは主を守るためによりにも寄ってその敵に背後を見せる。だが彼がその場所からエイダに向けて刃を振り下ろすより早く崩落は最高潮をむかえる、魔術師ではない彼は防御に関してはざるだ、だが早く早くと疾走する。

 空いた距離は十メートルとないというのに彼の感覚ではもっと長く、そして体力が彼の行動を阻んでいく。


 数秒と無いと言う距離なのに、その距離はまるで彼の目指す道のように遠い



 一瞬―――――――――なんて果てない距離だと思ってしまう



 彼が勝つために加えた布石、地下である事の最大利用。静止を一切考えない彼らしいと言えば彼らしい行動が、彼を絶望へと走らせる。

 だが歩みが止まらないのは、疾走が止まないのは、強迫概念かもしれないが彼の意志、そして弱点であり彼の長所であるそれがこの瞬間最大の力で駆動する。


 最短、最速、最大、これはある意味最高で最低の能力だ。予測しやすいと言う問題がある、だがもう一つその通りの効果があるのだ最短の道を通り最速で駆け抜け最大の効果を発揮する、人命救助などでは間違いなく必要な能力。


 そして、この崩壊する病院で敵を狩り殺し脱出する。そのためにはどうしても必要な能力だった。


 彼は剣術においては才能が無い、前述でも言ったとおりだ。剣と同調する事、思考時間零、そしてもう一ついやこれは思考時間零と本当なら一緒なのだろう、古の剣豪宮本武蔵、寸見切り、彼は限りなくこれに近い事が可能なのだ、思考の時間を零として、最小限で躱す、それこそ一寸と言う単位を用いての回避。


 円の運動を基本として彼は独楽のように落ちてくる岩を回避する。まるで岩を巻き込むように回りながら、主を守るエイダを己の射程に入れる。


 エイダをもってしても彼の力と言うより思考は把握できなかった。だが彼女は最高の性能を誇る機構魔術の結晶 魔道人形 エイダ 、その力は聖剣を超える王帝階位の仲でも意志を持った人形、彼女はきっと機械の形をした人間なのだ、だからこそ彼女は笑ったのだろう。

 

 まだ自分には勝つ手段があることに対する喜びで

 

 崩壊していく中、刃がすでに放たれ彼女が動けないであろうその瞬間、自らの意志でリミッターを解除した。

 瞬時に音速を超え移動する、それだけではすまない魔力弾の引き金を引き続けある魔術を発動させる。王帝階位7-16、開戦の原因になった集団魔術それが天井をなぎ払った。


 威力は神剣ほどではない、だがそれは国単位での破壊魔術ではないがそれでも都市一つぐらいは簡単に破壊させる。崩壊するたかが一つの建物程度一瞬で蒸発させるなんてことは分けない。


 どんと、さらに彼は踏み込む瞬時に200メートル近い距離を開けたというのにいつの間にか彼は彼女の前に現れる。


―まぁ、私としてはここまで真っ直ぐに見てもらえると嬉しいんですが


 人形にあるまじき思考。

 しかしながらそんなことをレベルにする以前の今の彼女は尋常ではないなんて話ではないVXどの武器規制は生きている物のもう身体への規制は無い。増幅魔術が多重起動させられるキャリバーは過負荷が掛かったためか煙をあけ始めていたそれなのに彼女はリロード、ロード、を繰り返す。


 具現化する、いくつもの増幅魔術それがまるで刺青のように彼女彼女の纏わりつく。


 その異常な増幅が、単純起動で通常の人間の身体能力の果て。彼の刃と同等の速度を与える。

 音速を超える単純に言うができることではない、だがその全てを問答無用で切り裂いてしまうものが魔術ともいえる。衝撃波という公害を彼女は身にまとう、近接様の武器であるエッジネイルとサポートデバイスの一つである肉削ぎを彼女は身にまとい殺戮の準備を開始させた。


「そう言うわけにもいかないので死んでください。と言うか、魔道人形が極地、神剣さえ不可能な私の能力をとくとご覧くださいませ塵人間」


 さぁ最後の一合、相手は全てを音速の世界に打ち込む一つの弾丸、彼は音速の世界に入ることなんてできない。だが斬裂は違う、刃の中に入って切れぬもの話と歌う彼の刃打ち崩されるか切り倒されるか、ただそれだけの戦い。ジベルはすでに音速の世界に打ち込まれたお陰で失神している、すでに彼女に手助けは無い、必要ないのだ。


 感情を持ってしまった魔道人形、それはもう自立しようと動いていた。


 二人は重なり合うように、溶け合うように、反発した。その刹那のはずの交錯、だがエイダの速度と衝撃は音速を当に超えていた、土明は地面と平行に彼は吹き飛ばされた。


 決着は土明の敗北と相成り候。


 気付いてみれば当然の決着となりました、意識のある土明は這いずりながらも動くがエイダの一撃により両腕が引きちぎれ、両足が骨が捻じ曲がり骨が粉砕した内臓が破裂し、口から血を流していた。


「喋れますか?喋れますか?次はどこを壊しましょうか?」

「くそぉ、こりゃ無理だ死ぬ見事だねエイダ。ならせめて壊す前にお願いを一つ、とどめは斬裂でそれ以外は何も望まない」

「あなたはそこまで死に掛けてるって言うのに何で平然と喋りますかね」


 呆れ返っているエイダ、感情が溢れ始めているのはいい傾向なのだが屍と話すのは正直異常な光景だ。


「死ぬまで華々しくしておかないと彼女に失礼だろう。覚悟が出来たなら後は朽ち果てるだけもはや死ぬまであと半刻と持たないだろうけどそれでも、刃に生きて朽ち果てるなら今まで付き合ってくれた彼女に失礼すぎる」

「ならその達磨に斬裂とやらで止めを刺してあげましょう」

「それで満足、彼女の鞘になって死ぬならまた本望だ。感謝する、いや目的は果たせなかったけどね」


 彼女は武器を拾い上げる、心臓めがけて振り下ろすまで彼は皮肉に身をゆがめていた。


「じゃあ切り殺せ斬裂、不倫だけは許さないぞ」

「え?」


 エイダの腕がすとんと落ちた。

 斬裂が彼の胸に突き刺さる、墓標のように刃が彼の胸を貫いた。


 それは彼が振るった刃の軌跡、跳ね飛ばされようとも切り裂くべく前に進もうとした彼の瞬き。だが彼の言葉はそれだけを意味してはいなかった、それは人間の範疇、個を蹴る事象の始まりだ。


 斬裂がそのまま彼の体に入って行くのだ、彼女の鋭さから言えばそんなの当たり前の事だがそれと同時に彼の体が再生していく。刃に体が溶け込むように、再生する、髪が長く黒い川が、清水の様に透き通った髪が生えてきた。

 骨格も男のそれから女性の柔らかさをもって行く、身長は彼自体が元々低いお陰で換わりはしなかったがそれは大字土明ではない。


「私が不倫なんてするわけ無いじゃないですか主様」


 エイダ同様の美しい人型がそこにはあった。多少きつい目をしているがそれでも彼女が居るだけでそこに一枚絵が出来る、立ち上がりながらその存在は紅蓮の怒りをエイダに向ける。


「あなたは・・・・、大字訓練生?」 

「黙れ下賤の傀儡が、我が夫にして主様をよくもあそこまで傷つけたな。・・・・いやそちら側はどうでもいいのですが、あの人の望みですから」

「私の質問に答えなさい!!」

「それは……、そうですね仮にですが斬裂としておきますか」


 感情が表れてきたエイダにはそんな妄言を信じる事はできない。感情とは時には邪魔になるものではある、盲目になる事さえある、彼女の発言を皮肉と取ったそのエイダは、強化された拳をそのまま放つ。

 

 衝撃の弾丸が美麗なる顔を破壊せんばかりに放たれるが、土明とは違い身体能力を駆使してではなく気だるげにその弾丸を躱す。


 彼女は理合いを持っていた、剣術の術理を、無才のからだから湧き出てきたその存在は土明が欲しがったその全てを持って現れた。


 刃が抜かれる、どこからか現れた刃、いつの間にか現れた刃、紫の刃ではないそれは真紅に染まった刃。


「では行きますか主様、私達は鈍らではない事の証明をたかが音速で突き抜ける程度の人形に私達が負けない事を」

「話を!!」


 後、一振りにてエイダは黙らされる。土明の一線とは違う彼は振り回す、彼女は斬る、この差がどれほどのものかエイダ分かってしまった、変幻自在の刃、愚直な一撃、非才と無才の差がどれほど絶望的な差か。


「なるほど、そうですか、そうですか。あの人がどれほど絶望的な道を歩いているか理解した気がします」

「笑わせるな、主様が絶望だと。あの人を苛むのは孤独だけ、才能が無いのは関係ない私は見捨てないし主様は捨てない。人形如きが勝手な推測をするな、それにあの人には才能が無いわけじゃない!!」

「今の一振りと、あの人の一振りの差を私に見せてなおですか。あの人は刀を扱う事に関しての才能は無いじゃないですか」


 彼女は顔を赤らめた、そこでうぶな少女のように彼女は強気なその顔を惚気に変え尽くした。形が整っていれば大抵の事は綺麗に見えるものだがこの斬裂と名乗った女はなんと言うか幻滅した挙句新たな魅力を見せていた。


「私を操る才能に決まっている、あの人は私の為だけの武士。私はあの人だけの刃、私は使い手を選ばない淫売じゃないの、あの人だけあの人以外に私を振るわせることは二度とない、この生涯で鞘と決めた男はただ一人。

 いまからは私と主様の逢瀬、無粋な女はさっさと斬られ伏せろ」


 だが女の口からは出たのは物騒なのろけに過ぎない。


「断るに決まってるでしょう。死ぬのはあなた、さっさと土明訓練生出しなさい止めを刺してあげるのです」

「戯け、主様に触れられると思っているのか傀儡。あの人は人間かもしれないが私は違うぞたかが衝撃如きで体を砕けると思うな。敵としては三百程度の年月あのころの剣術使いとは違うがまたこれも格別と思うか、こい傀儡大字の刃の極み私が歩く刃の道だ」


 そしてそれは恐ろしく鋭い空気を持った構えだった、正眼、万能にして基本の構え。

 だが人的に考えてその程度の意味がある、エイダは音速、彼女は音速になんて入れない斬裂はただ優れた剣術使い。その境地は辿り着く事さえ難しい場所ながら、音速にははるか遠い一つの技術だ。


 大字の刃それは、歌に例えられている。奥義である終曲、始曲である中伝まで値する技術だが、序曲はただの刃の重なり合いを言う。歌が曲が響き渡るその始まりを告げるとされる。

 大地を蹴る音が高らかに響く大字の序曲、そして音速の炸裂音が響き刃が振り下ろされ曲を歌い始める。


「ではいきましょう鋼、あなたは土に輝く明かりなのですから」


 真紅にして深紅の刃は、振り下ろすだけでその刃の意味を証明した。斬裂という刃が鋭く斬れないものが刃なのだとしたら、鋼と呼ばれた刃は何者もを切り裂けない刃だ、切れないわけではないのだそれは刃を知らないものが斬る事は許されない刃、真っ直ぐすぎて、気が狂うぐらい実直なその刃、斬裂という達人のために作られた最高の刃である。

 

 歌は止まらず響く、曲は歌うように流れる。

 彼女は限りなく流水に近い、形を持たないがゆえにいくらでも形を変えてしまう、技巧を凝らさないその最速エイダは彼女に躱される。舞曲は響き、たんたんとスタッカートが心地よく音を渡らせる。


「なんでダメージが無いのですか。人間業じゃないですよ」

「そんな早いだけの行動に意味があるとでも、範囲は簡単に見切れてしまう程度の能力。あの人が後もう少しもってたら本当は私が出る事なんてなかったのに、限界を超えるから私が心配して出てこなくちゃいけないんですよ」


 一度エイダから離れるべく後ろに跳ね飛ぶ、そしてバッティングフォームに近い構え、深く腰を落とし刃は天に突き上げられる。それは蜻蛉と呼ばれる構え。自顕流と呼ばれるその技術の一撃必殺を表した後先を考えない背水の構え。


「では、たった一度だけの大字の終曲とくとご覧を。これが剣術と呼ばれる技術の一つ、技術は、圧倒的暴力でさえねじ伏せるってことを教えてあげましょう」

「だが時として、圧倒的暴力は技術さえ上回るんですよ」

「魔道技術の至上品がよくもまぁ……、いいですけどね。私はそれさえ屈服させてやる。今まで積み上げてきた術理と言う名の妄執、魔術人形が否定する事許さん、終曲神鳴、その素晴らしき性能を持って目に刻め」


 オーバーヒート寸前に近いと言うのに炸裂して使い物にならなくなったキャリバーに弾丸を装填。発射するはずのトリガーは無い、元々はサポート機のものなのだ着脱は簡単である。装填終了のちエイダは地面にキャリバーを投げ捨て、踏みつけた。


「最終行動、全弾発射。強化支援、最終設定20000パーセント、実行時間短縮、余分魔力を機体の保護に。

 さて……、待っててくれたんですか?どうせなら今のうちに攻撃すればよかったと言うのに、まぁ聞くまでも無いでしょうが」

「そうだろうがね、一応いっておく私は剣客にして刃。私は主と違い小細工を要する事ができない、なら最大の力を私の最高で切り伏せるしか選択肢は無い、では参ろうぞ」


 呼吸をする、息を吸う、吐く、止める。

 一瞬の静寂が無限に感じられ、歌は止まり曲は失せる。心臓の高鳴りが次の序曲への始まり、その音さえ停止したように時間が流れ。刃が一度ドクンと震えた、それは雲耀と呼ばれる間、神鳴りが落ちるまでのその一瞬の光を指す。


 稲光が弾け飛ぶ、天高く振り上げられた神鳴りと言う名の刃が地面に向けて雷光を振りまいた。


 疑問が出るような間、高らかに響くの刃と使い手の悲鳴、「ツェーーッ」殆ど声にさえなっていない咆哮が落雷が墜ちるよりも早く振り下ろされる。エイダは最初の行動さえ許されない、ただすばやく圧倒的な力を持って敵を切り伏せる。


 故のこの技は神鳴、避ける事さえさせない最大の一撃を相手に見舞う。


 究極、異常の速さと、必殺の力、太古の昔に降り墜ち生命を脅かしたその光を表す。大字の終曲 神鳴 、剣王でさえこの技を究極に高めたものはいなかった、気が狂っているといわれた異端の奥義の名前である。


「ふふふふ、あなた嘘つきじゃないですか。技術が圧倒的暴力を破壊する?今のは剛の剣後先考えない背水の剣、圧倒的暴力じゃないですか」

「忘れてました、そう言えばそうですね。いいじゃないですか偶然とはいえ私は小細工を行ったんですから」


 完成形であったそれは容赦なく袈裟に切り落とされる。潤滑液をあたりにまきながら屍のエイダはあきれる、思考にエラーがいくつも発生しているがそれでもなぜか彼女は落ち着いていた。


「成るほど、土明訓練生が言っていた事が少し分かる気がしますね。死ぬときぐらい華々しく、さて斬裂といいましたか、今から私は最後の攻撃に移ります」

「どうやってだ?」

「私は限りなく人間に近いですが、魔道人形ですよ。さぁ、最後の皮肉ですくたばれこのくそ女お前も道連れだ」


 現れたときと同じように彼女は唯一稼動可能だった腕を動かし親指を地面に突き出した。


「あぁ自爆か、往生際の悪い」

「当然でしょう。これが私の最後の攻撃だ生きてたらあなたの勝ち死んだら私の勝ち、最後の一合とくとご覧を」


 どごーんと大地を破壊する、これがアインドーデー最後の終曲。

 火柱が立つ、王帝階位に近い破壊力を保有するその一撃。だがなんというか最後まで性格の悪い終わり方をするエイダである。

 実際の彼女のベースがこんな人間だったかは分からないが、楽しそうに製作者後と巻き込んだ破壊を導いた。


 そして一度風の魔術師の裏切りが始まる。


***


「……おーい、あれどう思います?」

「いや欲しい答えがあるとすれば、お兄さんは死んでるんじゃないの」


 彼女が来たのはそんなときだった、アインドーデは火柱を上げながら燃え盛っていた。何が起きたかさっぱり分からないが間違いなくアインドーデの人間は死んでいるだろうという事だけはどう考えても納得できた。


「けどあの人ですからと、私は言うしかないんですよね。一度狂った人間がこの程度で泊まるなら苦労しません、刃に生きると決めた人間の恐ろしさは神の刃を切り裂くほどですからね」


 爆炎は消え去り、そこには何も残らない。ただあるのは焦土と変貌した更地だった。

 

「生存者は二名いますね、医療系魔術師とあなたのお兄さん。しぶとい、何であの中心にいて死んでないのかさっぱり」


 検索の魔術師は簡単にその能力を明らかにして事実を伝える。疲れたような笑みを作りながらはぁとため息を吐いた。

 紫の刃が煌いていた、そこには女の姿は無く神剣の兄がそこにいるだけだ。刃を振り下ろしたままそのままの状態で気絶している、あり得ない事だがあの爆風を切り伏せたらしい。

 体中火傷だらけで、放置していればそのまま死んでしまうだろうことは間違いない。


「ほっておいたら死にますが、あなたがそんなことをするはず無いですよねー」

「当然でしょう、傷だらけの人を殺すなんてこと私には考えられません。大字の家訓にも病人と女子供には慈愛を持てというのがありますからね」

「いやあの人さっくりと野戦病院の人殺してますから」


 殺戮風景を見ている検索の魔術師は呆れてはぁと息を吐いた。


「幸せが逃げますよ、ため息なんて物は幸せを吐き出すための物なんですから」

「いやそれをやるなってのが無理な状況になってるじゃないですか。何であの大規模破壊を簡単に切り裂くだけで致命傷になってないんですか?」

「知らない知る分けないじゃないですか。ただあの人は神剣の魔術さえ切り裂いた存在ですよ、たかがその程度できなかったら困り物ですよ」


 そういいながら彼女は爆発の終了したアインドーデに向う、二人の魔術師は心の中に疑問と少しばかりの恐怖を混ぜながら刃を振り下ろしたまま気絶している剣鬼に向かう。

 

***


 アインドーデはその姿を残していなかった、元々荒地の地下に作られた医療機関なのだがそこが今では熱で変形して溶岩の後のようだった。

 その破壊力から呆然とさせられるが、神剣達はこの破壊を誰もが行えるのだ。その自分達が人間と離れていると言うジレンマから苦々しく顔をゆがめる、魔術師の国とはいえこういう考えを持っているのは彼らが人間である事の証明なのだろう。


「「すごい」」


 彼の前に来て二人はそう呟くほかは無かった、本当に彼は爆炎を切り裂いていたのだ直撃を避けるだけではない温度と言うその概念後と引き裂いていたとしか思えないようなそんな刃の軌跡が刻まれていた。

 技術云々ではなくただ切ると刻まれた跡にその二人は呆然としていた、爆心地に最も近いその場所で彼が振り下ろした武器のあとだけは深々と残っていたのだ。


 炎という名の暴威を切り伏せた証明が


 火傷はしていた、だが炭化したところなど一つもない。彼の斬った後方にはまだ荒地だったころのあとが残っている、物理と言うよりはもうそれは概念の範囲、斬ったと言うあとを残すその異常性が二人には異形のものに見えただろう。


「けど驚くのは終了、拘束系の王帝階位を二百ほどかけて、さらに封印式を10ほどかけて黙らせておきましょう」


 だが彼女は容赦なく攻め立てた。人間に仕掛けるものではない魔術が二百と十かけられる、拘束式や封印式と呼ばれる魔術のその全てが言い変えれば拷問形と呼ばれる魔術に分類されるのだ。

 それを力技で彼女達は瞬時にかける、非凡の才ではあるがぞっとしない話である。


 その後にかけられた回復の魔術、そこでようやく彼の死亡はないことにされた。


「ただ、この刃の範囲は異常じゃない。どうして刃の先にまで斬られてるのよ」


 爆心地その前方に延びる一つの刃の跡が、まるでそこまで切り裂いたと言うように延長百メートル程度の長さの刃の軌跡が残っている。それは火柱を両断するように残っていた、エイダと呼ばれた魔道人形がさらに縦に割られ二度と復活する事のない様を見せ付けている。

 爆炎の中なにが起きたか分からない二人は、いやそれよりも前の出来事を知らない二人には何がおきたかさっぱり分からない。だが間違いなくこのアインドーデの勝者はこの二人であった。


 どれだけ封印されても刃と分かれようとしない彼は強化された妹に担がれる。

 

「ねーかわらない?流石にこの凶器を持つのはちょっと恐いんですけど」

「いやですね、恐いですから。大体肉親の面倒はあなたが見てください最強」


 一向に刃を離そうとしない彼の手を彼女達は除いた。


「本当にこの刃しかないのですか、斬裂あなたはつくづくいい使い手というかすごい使い手に好かれたものです。しかし鞘がなくなってしまいましたか、と言う事はもう兄は狂い神の果てに着てるんでしょうか。

 まさかね、検索ちょっとこのあたりに薄汚れた鞘は無い?」

「足元に在るのがそれなんじゃないですか」

「ありゃ、ありがとう。まだそうですよね、狂い神の果てが生まれるなんてそんな極地あってもらっても困るんですが」


 鞘を拾い上げると斬裂を封印する、そこに魔術的な拘束をかけた。


「もう二度と兄にあなたを振るわせるつもりは残念ながらもう無いんですよ。大字唯一の楽曲を極めたおじい様を殺した兄はそれで剣術の頂点です、それにですあなたは危険すぎるんですよ狂い神の果てを目指す兄にはね」

「うわぁ最低ですね。人の夢を食い破るなんて人間のすることじゃないですよ」

「うるさいですよ、この人は歩く大迷惑製造機ですよ。ついでなんで実家の座敷牢に監禁しておきます、王といえど文句を言わせるつもりはありません」


 彼女達には聞こえない、


 ただ一人の女に捧げられた言葉で、


 二人の決意をさらした言葉が、



「許さない」



 離れた刃を手を伸ばす、動かない体を無理矢理に伸ばす。けれど声は届かない、手は届かない、引き離される刃が引き裂かれる空間が、いつも目指す彼の道のように遠かった。

 意識は無いのに伸ばされる手が哀れに見える、だがそれでも延ばす何度でも展ばす、動かないと言うのに、返せと叫びたいその力さえ無視して。魔術が彼を蹂躙していく、意志では届かない限界、アヅマの国に彼は監禁される。

 そこでは気が狂ったように彼は叫んだ。


 斬裂を返せと、返せと


 その刃は今引き離される。


「・・・・ぇせ」


 彼は悲鳴のように音をこぼす、そして彼が多分人に頼む最後の言葉だろう。その刃だけは返してくれと、響かない声が世界に渡り。一人の男に届いた。


「すいません神剣様、そいつはなしてもらえませんかね」


***


 くそ、くそ、俺は何を考えている。

 あれは神剣だぞ、逆らえば殺される、だが響いてしまったんだあいつの声が生きる目的の無い俺があいつの声を、分かっている無謀な事は。

 仕方ないじゃないか、それでもあいつは俺の友人なんだから。


 それ以上に仕方ない、最強と検索、一人出さえ無理だと言うのに俺は本当に何を考えているのだろう。


 全部見てきた、あの女のこともエイダとの戦いも、それを羨ましいと思ってしまった俺の負けだ。


「すいません神剣様、そいつはなしてもらえませんかね」


 俺はとうとう死の道を歩み始めてしまった。

 仕方ないだろう、止まらないのなら動くしかないじゃないか。初めて生きている価値を見つけた気がするんだだから頑張ってみるさ、聖剣魔術師 セーヴァング=クロシックロ、友人のために頑張ってみようと思う。


「ん?」


 不機嫌な顔を隠さない最強の神剣、生きている奴がいると言う事実に驚きもしていないのだろう。そして何よりそいつを話せと言う存在がいること自体が彼女にとっては不快なのだろうか?

 魔術を用意する隠行をメインにおく、沈黙系の破戒魔術、呪式自体の根本を打ち砕く俺が知る限りの最大の相殺系魔術。


「なにを・やって・いる」


 震える、ああ、くそ死ぬ。

 死ぬ、くそ死ぬ、見ちまったんだからしかたねぇじゃねーか。


 あいつは、あいつは、死ぬ事さえ躊躇わずあの距離を踏破した。唯の言葉を、実行しやがった、否定できなくなるだろうがあの夢を応援したくなるだろうが、あいつはいっぱい俺は空っぽ、踏み込んだんだ。聖剣の俺でさえ怯える距離を、こいつは抜き去り攻撃してくる。


 その行為を終わったと言わせるのは許せない、目標が俺にも出来た。お前ら二人は絶対に離させない。


 障壁を破壊する相殺系の高度魔術、魔術ぐらいと呼ばれる類の魔術総じて聖剣クラスの魔術師ではなければ仕様を許されない禁術、王帝階位とは違った意味の不使用魔術。それで終わるわけにはいかない、相手は神剣だ隙を突いたら次の行動に移る。


 死ぬのは分かっているんだ、お前らも道連れだ。


 禁術 大芸家式 仮名縛り


「大字朱里、クエンディガ=ゴウェルネィ、お前らの術式を否定する」


 全魔力を否定して20分、流石の神剣であろうともこの呪式ならとめられる。さぁここからが正念場、あの馬鹿と神剣を切り離す次の段階……。


「なにを・やって・いる・お前は」

「え?」


 炎が浮かぶ、ちょ、なん……だ、そ・れは!!


「私の魔力の否定など意味があるわけ無いじゃないですか。私は神剣、字は最強、忌み名は兄喰らい、私の名を封じたところで兄の名を封じなければ意味が無い、それ以前の話ですね。

 大芸家程度の禁術で大字の人間が止められるとでも同じ大家の一つでも差がありすぎる、字を与えられる唯一の大家、ゆえに私達は大字。まぁそんなことよりも、私は二つの魔力をあわせて持っている、たかが一つを封じてなんになる?」


 しゃれにならん化け物め、地面が蒸発するなんて非常識。沸騰するだってこの世界の魔術師のどこにそんな熱量を操れる魔術師がいるんだ。


「炎滅の魔術師 大字土明 の魔力を与えられた私がこの聖剣程度で負けると思うの?」


 あいつこんな力を捨ててまで、すげぇな。余計応援したくなるだろうが、ちっ


「そう言う問題じゃないんだよ。お前達は前の戦いを見たのか?エイダと戦った、あの馬鹿の戦いを」

「見てない」


 だからお前らは止められるんだ、定めた目標を真っ直ぐ見つめている奴を止めるなんてことは出来やしない。出来る人間は心配と言う偽善をこめる人間だけだ、異端を排除しようとする人間だけだ、だから止める。

 異端は排除する必要はあるがそんなものは全てを捨てて結論を出した奴にする事じゃない、壁になっても障害になってはいけない。


 夢は人生をかけるものだ、人生は夢にかけるものだ、ましてや夢の侮辱は他人がすることではない。


 俺には夢が無いか、あるじゃないか。ある?

 あるな、くっくっく、いや出来てるじゃないか人生をかけるに値する夢って奴がいつの間にやら出来てるじゃないか。


「なら、最強だろうと認めるわけにはいかないな。一応見たはずなんだがな、気が狂わんばかりの刃の軌跡も、何より届かないものに届くその姿を、それを止めようなんて馬鹿ばかしい」

「だがこの野戦病院はどうなるのかな、確実にここにいた600名近い人間は死んだんだけど彼のせいで。そんな人間は悪以外の何者でもないんじゃないかな」

「くだらないな検索、子供でも出来る否定を繰り返して大人だから出来る肯定と言う名の否定を繰り返して、大多数と言う暴力で少数を嬲りものにする、正しいと言う事実を武器にする人間はいつでもそうやって少ないほうを見捨てるんだよ。お前の言ってる事はつくづく二元論者の生善理論だ、全ては混沌どちらもがあってどちらもが無い、主観で全てを決定するな」


 禁術は聞かない、魔術は無意味、体術で大字の人間に勝てるわけが無い。いや八方塞だ、……だがまだ終わってないんだろう俺はまだ動ける。


 そういえばあいつも絶望しているって言ってたな、夢っての最大災厄の賭け事だ。のるかそるかで人間の人生は悉くおかしくなる、それは平凡、それは絶望、そして非凡、夢への道は常に希望に満ち満ちているわけではない、だがそれだけの魅力があるだけだ達成する事の。

 人は限界を知っているからその賭けに乗らないだけ、乗るのはそれ相応の実力ある人間と、馬鹿だけ、間違いなく俺は馬鹿になるだろうな。


「へぇ、そこまでいいますか。だが大罪人には変わりないんです横の馬鹿兄はあなたが救うとでも?」

「当然だろうが、神剣の封印術は解除した。分かるよな破戒魔術、これなら神剣の魔術であろうと食いちぎられる、後は意識を取り戻すまでだ」

「たしかにあの分類の魔術なら解除は可能でしょうね。ただ目を覚ますまでの時間稼ぎですか、生き残れるとでも思ってるんですか言うは容易い事ですね」

「別に生きようとは思っていない、ちょっとそいつの夢の後押しをしてやるだけだ」


 そうだな、あいつのためにちょっと後押しこれが夢になるんだ。しかも人生の中でこれほどまでに盛り上がった事はないほどにこの夢だけはかなえると心に誓った。


 では、夢をかなえようとするあいつと同じように盛大に笑って、盛大に迷惑をかけて、疾くと消えるとするか。


「どうやって?あなた如きで炎滅とまで詠われた兄に敵うとでも思ってるの」

「敵うとか敵わないとはかおいて置けよ。とりあえず今はさ、そいつの夢を俺が後押しできるか出来ないかだ、いやあの二人なのか?いやどちらでもいいか前提を間違えるなよ神剣」


 王帝階位やるしかないか?

 神剣でもなければ使えるわけが無いんだが、まぁそれしか手段は無いだろうな。


 出来ないわけじゃない。


「え?ちょっとそれ本気なの、旧時代の技術じゃないの。今更増加魔術なんて時間がかかりすぎ」

「まぁまてよ、一世一代の魔術秘奥だ。理論だけなら考えてたんだが、大規模破壊魔術である7-16を超える魔術だ見ておけよ」

「聖剣がそんなことを言うの魔剣でもない唯の近接魔術師が」


 普通はそう思うよな、だがな理論だけはあるんだよ。王帝階位仮登録U-253、一個旅団を持って形成する大魔術、増幅を繰り返し、古代呪式を想像する。精霊の祈りと呼ばれる増幅魔術、俺が構成から全てを考えて一発王帝階位の申請を受けなくてはならなくなった極大魔術。

 さぁ、最後の魔術だ。


「俺が言うんだよ、少し時間は掛かったが完成だ」


 フェアリーテイルの始まりだ、夢いっぱい希望いっぱい、俺の命は精一杯。

 こんなもんを神剣たちは平然と使えるのかレベルの違い過ぎる、だがこの一瞬だけでも克服してやる。

 

「この魔術の正式名称だ、アイビー覚えて置けよ。この魔術はあいつはとは違うベクトルで役に立つはずだからな」


 俺の夢が出来たが我が故郷の幸せのためにもな。


「使ってくれりゃーありがたい」


 役者の舞台はここで終わり役割を果たせば即退場、この魔術の唯一の弱点は、神剣にしか使いこなせないと言うところだけだからな。何しろこの魔術を防御する手段がほかの術者には無いのだから。


 ぐっばーい


 最後の小細工とくとご覧在れ。


***


 彼は刃を突き立てられ息絶えていた、簡略系魔術であるそれを体にいくつも与えられて。

 セーヴァングはそうやって息を引き取った、結論から言えば彼の言った魔術は放たれる事無く検索の一撃によって絶命させられたのだ。


「あなたの悪い癖ですよ最強、相手の最高を屈服させるなんて。弩級のサドもいいところ、まぁさっくり刃物で死んでもらいましたけど」

「つまらないじゃない、あの7-16の破壊力を超える魔術なんてみてみたいに決まってるじゃないの」

「あなたの魔術オタクっぷりはいいですから」


 ある種冷酷な部分である、検索と言う魔術師は理性的過ぎるきらいがある。いや理性的でなければ情報を担う魔術師とは言えない、その真偽を全て冷酷なまでにむさぼりつくす魔術師である。

 ゆえに彼女の冷酷性は必要であるのだが、血の泡を吐きながらいまだ魔術の構成をやめない死体のあまたを砕いた。


「いいですかこの男は医療系専門魔術師でしたが、魔剣クラスの技術力と聖剣レベルの戦闘力を持っていた分類で言うなら王剣-神剣候補-の存在ですよ。無いものをほかに頼ろうとするその思考、絶対に何か起きてましたよ」

「たかが王剣でしょう、頼ろうとしても意味が無い事があるの。炎滅系は私しか使えない魔術、幾多にある王帝階位でも概念破壊系の焼滅は私いや正確には兄しか使えない魔術、唯の魔術じゃ私には勝てないの」

「その意味の差が私には分からない、確かに神剣は概念を操れる魔術師しかなれないけどさ。それが大魔術師の称号である事も知ってる、私の検索や剣王の風、門番の壁、私のなんかは分かりやすいけどさ、あなたのその炎滅は別物でしょう」


 一度外した視線を再度最強に向ける、疑問を混ぜたその視線に彼女は考え込むようなしぐさを見せる。


「この炎滅の魔術は全てを焼き尽くす、そこに質量の差は関係ないの。だからこそ私は神剣の中にいて最強の名をもらえてる、唯一単体で国家級の破壊力を持つ私を、あまくみちゃだめだからね。王剣だろうがほかの神剣だろうが私には関係ない」

「あなたが最強なのは間違いない、けれどその余裕は剣王があなたの兄に負けた理由ですよ」

「兄はおかしいだけです、あの人は舞人の領域を無視して無刃の領域飛ばし、そして狂い神へにまで到っている人なんですよ。心構えと言う領域においてあの人は、大字の歴史上、最高の領域にいる人なんですよ。それとその辺の人間を一緒に」


 刹那沸いて出た魔術簡易魔術ではあるが完全に隙を突いて最強と検索を貫くべく放たれた。背筋が凍るような悪寒とともに、最強はその魔術をにらみつけた、俗に言う遅延魔術、単純な手ではあるが完全に不意をつかれた。死体が使用した魔術、いまだ鳴り止まない構成、彼は医療系の魔術師、人間の体なんてものはどうやったら死でも生きているかなんてことは知り尽くしている。


 さぁ世界よご覧在れ最後の小細工セーヴァング最後の牙


 王帝階位 U-253


 死にながら体を動かし続けた魔術師の最後の牙、大地が沸騰し風が大陸を抉る、荒れ狂う風が何をも砕く衝撃となって貫き、空に吹き上がる煙が突き抜けた。

 それは凝縮された破壊の線、世界を貫く唯一つの魔術。破壊現象の極点に近いその魔術、唯周りを破壊しつくすためだけに在る魔術。7-16の約3600倍というその破壊力、都市を破壊しつくすその魔術を越える破壊力を保有するその一撃。


 剣王が放ったそれさえ超えてしまう破壊力を持っていたのだその魔術は神剣と言う概念を抜き去るその破壊。


 だが轟音冷めざる中、地面が沸騰するような熱消え去らない中、さらに上の灼熱がその魔術を喰らう。大魔術大喰らい、王帝階位の魔術とは違う、封じる術が禁術であれば、威力とその力から使うことを許されないのが王帝階位、使えるものがいない属性作りと呼ばれる魔術、物理現象ではない現象作りそれが大魔術である。


 その一撃さえ彼女は奪う焼き払う、炎滅系と呼ばれた魔術で 正式名称アイビーその破壊力をその炎は喰らい尽くした。


「ちょ……っと、なんですかこれは」


 衝撃が彼女を貫く、喰らい尽くしてなおその破壊力は彼女の魔術の情報量を軽く上回っていた。それは死をとしても貫くと決めた彼の意志、概念を喰らうものはその概念を超えるものには弱い、そのかなえるという夢の意思。真の思いは裏切る事はない、壁を飲み込むようなその破壊の奔流が彼女を嬲る。


 人生をかけた夢を彼女は消し去らなくてはならない、勝てるはずが無いのだそんな思いに、人の命を消しつくしてまででも手に入れようと言う思いさえない人間には、その果てない夢-さき-を見るものをとめる事はできない。


 停滞と進歩では差があるのと同じ、止まるものは歩むものを止められない。


 死と言う代償を払って彼は走りぬける、検索の注意はここにある。人間が神剣を打倒できたのだ、聖剣が神剣を打倒できないと言う事自体がおかしいことを、確かに土明は特殊な類の人間だ。だが戦闘力は人間の範疇に納まる、戦闘力が人間の範疇に収まらない土明のような人間がいたら、それは神剣に届かないいわれは無い。


 だが命を懸けていようとも神剣を喰らう事はなかった、魔術戦において神剣を上回りこそすれそれ以上は不可能だったと言うだけ。けれど彼女は様子はおかしかった、ありえない事がおきたととがった空気を隠そうともしなかった。


「何でこんなところにいるんですか!!よりにもよって意志の化け物が増えるんですか、普通そんなものは遺伝する病気じゃないでしょう!!」


 炎は拮抗を始める、物理と言う属性が意思と言う領域を持って神剣に一瞬とはいえ勝ったのだ。

 だんだんと衝撃は無意味と変貌して、魔術を滅する。意志が消え去るその間、神剣は間違いなくその聖剣に怯えた、熱源のそのなか人としての形を持った炭がいまだ立っていた風が吹いても朽ちることなく立ち続けていた。


「検索、あれを消し尽くしておいたほうがいいとおもう?」

「死体にそんな価値は無いと思うんだけどね、消して置いたほうがいい。焼き殺せ、あれはまだ何かしでかすから早く」


 分かってるよ、彼女は頷くとその炭を焼き殺すべく炎を放つ、その存在の意味後と燃やし尽くす炎。

 だがその存在が死体であったがゆえにその意味は信念は奪われない、最後の彼の意志、セーヴァングは最後の意志を解き放つ。


「………ぇせ」


 倒れていた屍が動き始めた、その男は夢をかなえた。

 時間稼ぎ、唯その神剣から解き放つ唯その間の時間稼ぎのためにセーヴァングが賭けた人生、だが彼の言の葉は変わらない。唯伸ばすのはただ一人の女に、まだ朦朧とした意識の中、地面に投げ捨てられていた刃に手を伸ばす。


 三メートルと言うその絶望的な距離を、彼は這いずりながら手を伸ばす。


 残した決意を彼は叶える、それは無間地獄のような砂漠光無い洞窟。だが伸ばす手は確かに掴んだ、斬裂と言う名の自分の体を唯一の光明を彼は手にした。

 びくりと彼は一度震えた、凶暴な眼光が暗い視界を切り裂く。何もない荒野を移すその眼光が鋭い刃のようにだんだんと彼の視界を切り裂いていった。


 幻影が現れる幽鬼のようなその姿が人間でないように見えてならない。


「ったく、ありがたいけどさこの魔術構成を覚えさせるのは流石にしゃれにならない僕じゃ勝てなくなる」


 封じられた刃に手を当てる、魔術拘束を行われていてもその刃は容易く抜かれた。一度空を断つように刃が弧を描いて振るわれ、ぶらりと下げられる刃、それは斬裂と彼の構え。

 

「けどそこの二人、僕の目の前にいるんだ殺される覚悟はあるんだろうね?」

「だってそのほうが兄さんの顔が私好みに変わるんです、折角跪かせて私の足を舐めさせようとか考えてたのに残念です。鎖で縛ったり、鞭で打ったり、あぁほかにも女装させて見たりと考えてたのに、あの聖剣はきっちり仕事だけはこなして敗退してくれましたよ」

「絶交された後だったんだけどね、感謝するしかないようだねセーヴァングのやつには斬裂ともども感謝を、どうも僕の夢の後押しをしてくれたらしい。最後に嫌がらせまでして本当にいいやつなんだか悪いやつなんだか。だが敗退は嘘だね、君は確実に完璧に徹底的にセーヴァングに負けた、死んでなお彼は君を上回った」


 火を操るがゆえに苛烈なのか、それとも元々が苛烈な正確なのかわからないが紅蓮の瞳があらわに怒りをつかさどる。

 自覚していたのだろう、セーヴァングは目的をすべて果たして死んだ。彼女はその目的の一つさえも破壊することができずにその場にいる、これを敗北と言わずしてなんと言う。


 「!!」だからこそ彼女は言葉をつなげる事ができなかった。


 その様子を確認して、表情を和らげる。彼は出来るだけ昔と同じ表情の笑顔を作り、呆れたように一度息を吐いて言葉をつないだ。


「だけどさ、仮にも君の兄である僕にさその発言はどうだろう?昔からその毛はあった記憶はあるけどさ、度を越してるね流石大字の人間絶対にどっか頭のねじがぶっ飛んでる」


 まぁいいけどね、彼女の返答を彼は待たない。

 間をおかない一撃、それは最強と検索の間その間にいた炭化した屍に向けて刃が放たれた。


「とりあえず埋葬、今から一度だけ君の夢をかなえるために自分を一度だけ曲げてやるここでは死んでやらない。感謝しろセーヴァング、僕は夢のためにさらに外道を歩んでやる。そのための合図と仕返しだ、最後の魔術受け取ってやるよ」


 風が唸りを上げた。元々が風属性であるセーヴァング最後の足掻き、したいとしてではなく魔術師としてたっていたそれは死んでもなお生きていた、最後の祝福が彼を世界の空に打ち放つ。


「じゃあね朱里、僕の魔力と知識を大切にするだけじゃなくて自分の属性の一つを考えてみな。そのとき初めて僕は君を殺そうと考えるよ、まだ君は大魔術師にはなっていないからね。神剣でさえそれになった人間はいやしないか、セーヴァング彼がその分類だ神剣たちは魔の力を持って法を操る下法使いに過ぎない。だが君だけはそれに到れる才能があるんだ魔の術を持って世界を書き換える術使いに、大字の人間ならそれぐらい使いこなして見せろ、僕も違った意味で魔術師なんだからね」

「は?何んですかそれは兄さん、馬鹿兄貴、最後まで言ってから消えてください」


 内緒だと彼は笑う、真っ赤に彼女の顔が染まるまでそう長くはない。怒りをあらわに魔術を使おうとするが遅い。 


「最後に、僕と斬裂はケンベルの剣神を殺す。それで大字の名を僕は捨てる、君と兄弟であるのはそこまでだじゃあね。僕の可愛い可愛い最後の血縁」


 方向は法律国家、裁判地域。


 ガイングベーデーデーの決戦の始まりである。

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