警報と防衛システム

 そんな折、アズール達が施設のマップを探しに動き出そうとしたところで、彼らとは違う方法で潜入していたエルフ達が、何かを伝えにアズール達へ合図を送っていた。


 何事かと周囲の目に注意しながら物陰に隠れると、そこで別行動をしていたシン達が施設のマップを見つけるためにとある行動に移すという報告だった。


 話を聞くには施設の警報を鳴らし、モニターに映し出されるであろう内部のマップを盗み見るというものだった。


 「警報だと・・・?待て、俺らはその間どうする?」


 「いや、これは我々にとっても好都合なんじゃないか?警報で機材のモニターにマップが表示されるのなら、堂々とそれを確認することが出来る。エルフ達にはその間、何処かに隠れていてもらう事になるけど」


 現状のアズール達は、エイリルのスキルによって他の者達には研究員の姿として見えている。幸い、彼らのいる階層の研究員達は殆ど魔力を持たないただの人間に過ぎない。


 そのお陰で、怪しまれても彼らの魔力やその存在を探られる心配は今の所なさそうだった。まだ施設にはどんな仕掛けが隠されているか分からないが、警報による警戒態勢への移行中は大人しく施設のマップを頭に叩き込む事に集中するのがいいだろう。


 「なるほど、了解した。いつでも大丈夫だと伝えてくれ。後はお前達が身を隠すだけだ」


 アズールらの確認を得たエルフ族は、もう一つの部隊について行ったエルフ達に向けて、警報に対する作戦の了解の意思を伝える。




 場面はシン達の方へと移り変わり、アズールらの部隊から返事をもらったエルフ達が、彼らの現状と作戦の了解を伝えた。


 「どうやら向こうは、ゆっくり機材の確認ができる状態らしいね」


 「問題は俺達の方だな・・・。警報を鳴らすとして、どうやってそれを実行する?影のスキルで脱出できる俺が押しに行くのが妥当だとは思うが・・・」


 ふと彼の脳裏に思い浮かんだのは、今や見方側についているダマスクを瓶の中から解放し、その特異な身体を持ってして警報を鳴らし、気体となって姿を消せば気付かれることなく事を成せるのではないかというものだった。


 シンの眼差しに気付いたのか、ダマスクは閉じ込められている小瓶の中から、彼の期待を打ち砕く言葉を口にする。


 「残念だが、俺に頼るのは諦めた方がいい。記憶を取り戻す為に協力しちゃいるが、この弱った身体じゃぁ何もできん」


 まるで心を見透かされたかのような感情に陥ったシンは、唖然とした表情で手にしていた小瓶を見つめる。


 「・・・まだ何も言ってないが・・・」


 「そうか?俺には何か言いたそうな目をしていたように思えてな。気を利かせて教えてやったんだ」


 シンとダマスクのやり取りを、まるで意に介せずといった様子で考えていたツクヨが、以前に施設の研究者だったらしいというダマスクに、とある確認をとる。それは警報装置を鳴らす事による、防衛システムの起動についての話だった。


 「ねぇダマスク。警報装置を鳴らす事による防錆や警戒の仕様はどうなっているんだ?」


 「仕様?」


 「警報装置が起動したら部屋にロックが掛かるとか、外部の関係者にも知らせがいって増援が来るとか・・・」


 内部的な警戒にばかり気を取られていたシンは、ツクヨの言葉で防衛のシステムや増援という危険性についても視野に入れて考え始める。


 「そうか、そうだよな・・・。警報を鳴らした後の行動にばかり気を取られていたが、警報を鳴らせば防衛システムも起動する筈・・・」


 考えを改め、作戦の内容について考え直そうとするシンに、意外にもダマスクはまるで記憶が残っているのではないかと言う程に、警報装置を鳴らした後の出来事について言葉を連ねる。


 「こっちの兄ちゃんの言う通り、警報装置を起動させれば、その部屋自体にロックが掛かり生体認証を通過できる研究員以外脱出出来なくなる。だがそれは一時的なものだ。機材によって部屋に起きた異常が調べられ、問題がないと判断されればすぐにそれも解除される」


 ダマスクが言うには、手動で警報装置を鳴らすような状況なら、増援や厳重な防衛システムの起動はあり得ないと語る。緊急事態とは意図せず起こるもの。もし危機的な状況と判断されたのであれば、機材に組み込まれた独自の警報装置がその警戒レベルに応じて自動で状況を判断し、部屋に対する防衛システムを起動させるのだという。


 実際、彼らは単純に警報装置を鳴らそうとしているだけで、装置が起動すると同時に、警報装置が起動した部屋にロックが掛かり、機材による状況判断がなされる。


 警報が鳴らされただけで、実際には問題がないと判断されれば、増援や厄介な防衛システムが起動することもないと彼は語った。


 つまり、大きな異常がなければ人為的な確認だけで処理されるということだ。


 「じゃぁそこまで深く考える心配はない・・・と?」


 「そう言うことだ。実際に異常が起きてねぇのに警報を鳴らすんだ。すぐに人為的に鳴らされたものだと判断されるだろう。他の部屋にある機材にも、何処で警報が鳴ったのかと、その部屋の状態が表示される筈だ。強いて俺らが警戒するなら、誰が警報を鳴らしたかと騒ぎになる事くらいだろうな」


 アズール達の部隊とは異なり、姿を隠して潜入している彼らは、警報装置を鳴らした時点で施設の関係者以外によって警報の誤作動を起こされたと警戒するだろう。


 そうなれば何者かが既に施設内にまで侵入していると警戒される。外の騒ぎのこともある為、既に警戒心を持っているとはいえ、研究員の者達も気付かぬ間に施設に侵入されたと分かれば、それこそ未知なる者への恐怖心でパニックになりかねない。


 「それなら、実験の対象に異常を起こさせたらどうだろう?」


 ツクヨが提案したのは、騒ぎにならぬ程度の異常を、容器に入れられた植物に引き起こすというものだった。

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