その血の秘密

 前線で合流したアズールやケツァル。だがそこにシンや拷問を受けていた筈のダラーヒムの姿はなかった。やはり人間に対して非常な者達のボスであるアズールの指示か、シン達は置いてこられてしまったのか。


 敵に警戒しつつも、木の上からシン達の姿を探すミア。すると、注意が散漫になってしまったところに漬け込まれ、彼女の背後から二体の獣がやって来ていた。


 ミアはまだ気づいていない。獣達お得意の気配消しを存分に使い、散々銃弾を撃ち込まれた恨みを返さんとばかりに、無警戒の彼女の背中へ攻撃を仕掛ける。


 そこへやって来たのは、他でもないミアの探していたシンとダラーヒムだった。勢いよく飛び掛かったダラーヒムは片方の獣の頭を鷲掴みにし、近くの大木に向けて押し付ける。そしてトドメに獣の頭部へ錬金術を放つと、暴れ回っていた獣は眠ったように静まり返り動かなくなる。



 もう一方の獣を捉えたのはシンだった。だが、未だ本調子ではなかったシンは、獣と共に地面へと落ちていく。取っ組み合いになる中、獣の力に押され危うく鋭い爪で喉を切られそうになるも、上手く身を翻し絞め技を決めるかのように絡みつくと、獣の頭部を下に向けたまま落下し、辛うじて仕留める事に成功する。


 「シンッ!」


 ミアが背後に迫った二人の気配に気づいた時には、既にシンは獣と共に落下し始めていた。慌ててその姿を視界に捉えようと覗き込むと、そこには動かなくなった獣と木の上のミアに手を振るシンがいた。


 シンの無事に安堵するミア。そこへリナムルの事態を確認する為、ダラーヒムが彼女に幾つかの質問をする。


 リナムル襲撃は二人が連れて行かれた後に起こり、囚われていた人間や獣人に被害が出ながらも壊滅するまでには至ることなく、迎撃することに成功する。


 動ける人間は獣人族と協力し、謎の獣達との戦闘を行う。囲まれるように襲撃されたリナムルは、各所で煙が上がっていてどこが無事でどこが壊滅したのかも分からないといった状況であると、帰ってきたダラーヒムに伝える。


 「後はその“獣“についてだが・・・。妙な変化を遂げた個体は見なかったか?それこそ原型を留めないほど姿形が変わった奴とか・・・」


 「いや、そういった変化は見ていないな。ただ、獣人と同じ肉体強化が出来るようだ。奴らもそれを見て驚いていたからな。それと・・・」


 話をする中でミアは、敵の獣ではなく獣人のガレウスの様子が変わったことについて話した。それまで強化された肉体で暴れ回っていたガレウスが突然大人しくなり、近くにいたツクヨの話では見えない何かと会話をするような場面もあったという。


 それを聞いたダラーヒムは、アズールの陥っていた現象と酷似していることに気がつく。すぐに地上で獣達と戦うガレウスの姿を確認すると、予想していた通りその時のアズールと同様に、彼の姿は獣の返り血で赤く染まっていたのだ。


 「今の彼は!?まだ何かを見てるといった様子はないか?」


 「今は大丈夫みたいだ。すっかりこれまで通りの奴に戻ってる。どうしたんだ?突然。それが何か重要なのか?」


 彼女に問われたダラーヒムは、彼らが森の奥で出会した悍ましいほど不気味な姿へと変貌した獣の事について語り始める。その獣を仕留めるおり、アズールがガレウスと同様に幻覚の症状に襲われていたこと、そして獣から浴びた返り血を洗い流すことでそれが解消された事も。


 「それじゃぁなんだ、その“獣の血“に何か秘密があると?」


 「あぁ、そう見て間違い無いだろう。どうにか彼らに協力を仰ぎ、獣達の身体を調べたい。一緒に説得してくれないか?」


 「おいおい、こっちだって獣人達と仲良くしてた覚えはないんだぜ?話を聞くかどうか・・・」


 「勿論それは分かってる。だが、これは彼らにとっても重要な事の手掛かりになる筈なんだ。それにお前達にとっても・・・な?」


 「アタシ達にとっても・・・?」


 意味深な事を言い残し、ダラーヒムは地上に降りてシンの元へ向かうと、彼に手を差し伸べ身体を起こし、獣人達を束ねる三人の重要人物が戦う場所へと合流する。


 「ケツァル!リナムルへ襲撃を仕掛けて来た獣達を調べたい。幾つか綺麗な状態の死体を用意出来ないだろうか?」


 「ダラーヒム!無事についてこられたようだな。あぁ、私も同じことを考えていたよ。粗方片付けた後、この獣達の調べてみるつもりだ。私からアズールに掛け合ってみよう」


 「それは心強い。助かるぜ、ケツァル」


 戦力が増強されたリナムルの最前線は、正気に戻ったガレウスの活躍や合流したアズールらの援軍が加わることで収束へと向かっていった。そして何体もいた獣達の襲撃は収まり、遂に獣達の増援は途絶えた。

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