種族間の壁
まるで自分の身体ではないような軽快な動きと爽快なほどの力に、己の放った技によって吹き飛んだ獣の肉片を見て興奮する獣人達。彼らはツバキの発明したガジェットの力を使い、家屋に入り込んできた獣を瞬く間に撃退してみせた。
「すっ・・・すげぇ!これならいくらでも戦えるぜ!」
「あぁ、今ならあのガレウスにも引けを取らないな!」
ツバキがジャンク品から作り出したのは、オルレラの研究所で彼が発明した、魔石を動力源とした身体能力を補助しブースト機能を搭載したガジェットの改良版であった。
あの時にツバキが身につけて戦ったガジェットには、研究所で見つけた大量の魔石を弾丸のように詰め替えて使用する消耗品であったが、今回は装備した者が持つ魔力を使って起動するタイプのものだった。
当然ながら使用者自身に魔力がなければ発動させることはできないが、改良されたそのガジェットは消費魔力を抑え、移動や跳躍といった多少の身体能力であれば魔力なくしても強化補助を行うことが可能。
先程獣人達が見せて足技は、自身の魔力をガジェットのコアが吸い上げ理想的な形で力を凝縮することにより、攻撃に合わせた無駄のない魔力放出を実現し、戦闘に不慣れであっても洗練されたキレのあるスキルを放つことができるようになる。
「おい!最初にもいったけど、それはアンタ達の魔力を吸い上げて力にsしてんだ。無駄に使えば必要以上の疲れちまうからな!」
「おうよ!しかし、こんなもの作れちまうなんて大したガキだぜ。人間にしておくにはもったいねぇ」
「何だよそれ。人間でも獣人でも関係ねぇだろ」
「確かにな」
「それに俺は“ガキ“じゃねぇ!」
「ははは、悪かったな。それより他にもいろんなところから、アジトへ気配が入り込んで来てやがる。すぐに助けに行かねぇと・・・」
普段、戦闘員ではないと語っていた彼らは、力を身につけたことにより通常よりも強化された状態にある。強気になっている彼らは、その力で同胞達を助けに行こうとそれぞれの場所へ手分けして向かうことにした。
早速出発しようとしていた彼らに、ツバキはアカリと紅葉が向かった施設を優先して見て来てほしいと頼む。ガジェットにより戦う力と窮地を乗り越える力を得た彼らも、そんな恩人の言葉を無碍には出来ぬと快く引き受けてくれた。
散開していった獣人達に続き、ツバキも自身の身体能力を強化するガジェットを装着し、護衛の獣人と共にミア達の元へリナムルが襲撃されていることと、自身が無事であることを伝えに行く。
その頃、同じく襲撃を受けていたアカリ達の元にも、獣の群れが入り込んでいた。しかしこちらは、ツバキのいた施設のようにガジェットによる強化は得られない。そして、彼女らを護衛する獣人も全員が戦闘向きという編成ではなく、数人で数の勝る獣を相手にしていた。
だが、一体でも苦戦するレベルの相手に数の暴力で押し込まれた彼らに、この難局を打開するほどの力はなかった。
「畜生・・・このままじゃ長くは・・・」
「皆も戦っている。助けが来るまで、何としても持ち堪えなければ・・・」
すると、獣人達守られるようにして部屋の奥に隠れていたアカリが姿を現し、薬品の入った注射器を持ってそれを彼らに渡した。
「皆さん、これを!」
「これは?」
「皆さんの肉体強化による身体への負荷を軽減するものです。謂わば、疲労軽減の薬です!調合リストに書かれていた物を真似て作ってみました!お役に立てれば・・・」
どうやらアカリには調合の素養があったようで、元々リナムルに住んでいた人間達により書き残されていた調合リストを読み解き、獣人族に合わせた最も効果的な薬を作り上げたのだ。
「助かる!おい、みんな!これを」
アカリから渡された注射器を受け取った彼らは、何の迷いもなくそれを自身の身体に打ち込み、薬を注入していく。そこには既に人間と獣人という種族の壁などなく、恩人であり彼らと共に行動し助けてくれたガルムを信じ、アカリを信用し切っていた。
薬を注入し終えた彼らは順次肉体強化へと入る。肉体強化は各々でタイプが分かれているようで、暫くの間行動不能になり一気に強化するタイプと、戦闘を行いながらも少しずつ強化していくタイプの二つに分かれているようだ。
前者のタイプは一人ずつ交代で強化に入り、その間他の者達が獣の攻撃を凌ぐという役割分担をしている。負荷がなくなったことにより、徐々に強化するタイプの者達は心置きなく肉体強化をしながら、存分にその力を発揮できている。
おかげで通常なら苦戦を強いられる獣相手でも、十分に抑えることが可能になった。
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