人間と獣人
ミア達の合流を待つ間、脱出がスムーズに行くように外へ通じる穴を整えるツクヨ。その間も、他の敵が来ないかその自慢の鼻と感知能力で索敵に向かうガルム。
彼らを襲った獣は、その姿からも僅かに感じ取れるように、ここにいた獣人族が突然変異したものなのだという。原因は分からず、誰が変異するのかも全く健闘がつかなかったそうだ。
変異した獣人達には、ケツァル派やガレウス派も関係なく変化が訪れ、声も届かない知性のない魔物となる。しかしその身体能力は、獣人族のものを凌ぐ程でもあり、一人や二人程度では抑えきれぬ力を有していた。
それ故に、非戦闘員の獣人は勿論、それなりに戦闘に長けた獣人でさえも一人で太刀打ちすることは出来なかった。その者らの襲撃は突然で見境がなく、不意を突かれた獣人族は対応に遅れ、多くの人員を失ってしまった。
留守を任されていたガレウスの耳に騒ぎが伝わるも、敵の概要から容姿、戦闘能力から、何から何まで未知数であり、ミア達が囚われていた巨大樹の建物内の各地で聞こえてくる騒ぎに人員を割くも、その変貌した獣の力量に見合う人員を割り当てられなかったようだ。
だがそれは、ガレウス自身の判断によるミスとは一概には言えない。各所で起きる問題点に、一箇所ずつ大勢で駆けつけていたのでは手遅れになる。しかし今回のように、各所に小隊を組ませ向かわせても、敵戦力を制圧できる力がなければ、数人からなる小隊を無駄にしかねないのだ。
それでも、外ではいくつ戦闘を行なっているような物音が聞こえてくる。彼らのアジトとなる巨大樹が制圧されてしまっただけで、リナムル全域が落とされたわけではなさそうだ。
暫くすると、上の方から数人の気配が下の階層へ降りて来るのを感じた。敵意のないその気配から、ミア達がやって来たのだと作業を中断し合流するツクヨ。
「待たせた」
「こっちは大丈夫。出口も確保しておいたよ。そっちは・・・二人はもう大丈夫なのかい?」
ミアの後ろをついて来るように姿を現したツバキとアカリ。その様子はリナムルへやって来てから一番顔色がよく見える程、ゆっくり休むことができたようだった。
「おう!なんか随分長い間調子悪かったけど、なんかスッキリした気分だぜ?」
「えぇ、私もです。何だか身体が軽くなったみたいな・・・。獣人の方々から頂いた食べ物のおかげかしら?」
それを聞いて真実を知っていたツクヨは、彼らに本当のことを話したものかと迷ったが、今話すべきことではないと判断し、その場は上手く話を流した。
外で獣人族のガルムという者が警戒してくれていることをミア達に伝え、急ぎ巨大樹内部から脱出する。
「一人・・・側にいるな。これがその“ガルム“って奴の気配か?」
元から気配に敏感だったミアは、知らず内にその獣の力で索敵に当たるガルムの気配に気がつく。それを聞いたツバキとアカリも周囲を見渡すと、本来そこまでの能力を持ち合わせていないはずの彼らまで、何かが近くにいることを感じ取っていた。
「あぁ、そうだよ。今合流したことを伝えるから、ちょっと待ってて」
そう言ってツクヨは剣を抜くと、鉄を打つような音を規則的に数回打ち鳴らす。すると、彼らが感じていた気配が音の鳴る方へと向かってきた。
「・・・全員、無事に目を覚ましたのか・・・」
「あっ・・・あぁ、そう!皆んなよく眠れたようだ!いい場所が見つかってよかったよね?ミア!」
「・・・?あぁ、まぁそりゃぁそうだが・・・」
互いに思うところはあるだろうが、こんな危険な場所で話し合いなどしている時間はない。何か隠している様子のツクヨに話を聞こうとするミアだったが、彼の様子から事情があるのだと悟り、まずは現状を脱することに集中することにした。
それに、急を要することならば彼も話しているだろう。
「周りの状況はどうだったんだい?ガルム」
「そう遠くない位置で三つ、戦闘が行われてる気配がある。どこも戦況は近郊しているようだ。俺としては近場から仲間達と合流して行きたいが・・・」
「あぁ、アタシらもそれでいい。足は引っ張らないさ」
ミアは、戦力をまとめていこうというガルムの案に賛成したが、当の彼はミア達一行を一人一人眺めている。
「アンタとそこのツクヨという男はともかく・・・。言っておくが、戦力にならんのなら捨て置くからな」
「あんだぁ!?言われなくたって、アンタの世話にはならねぇよ!」
「こっちはこっちでやるから気にしなくていい。今は協力するっていうんでいいんだろ?」
「“今は“な・・・。俺はもうそんな気はねぇが、ガレウス達はまだ分からんから気をつけろよ」
ガルムのいう通り、まだ人間に恨みや憎しみを抱いている獣人は多い。このままガルムと別れてリナムルを移動するのは、豹変したという獣と獣人の両方を敵に回しかねない。
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