拷問と動き
彼らの会話の内容からすると、そのケツァルという獣人は仲間達から疑われるほど、熱心に彼らのボスの説得を試みているようだ。ボスや過激な獣人達との意見の相違の中でも彼が追放されないということは、余程優秀であるか進言はしつつもボスには従順であるか。
「獣人族の中にも協力的な者がいるように、そのボスって呼ばれる獣人の長の側近にも、人間と協力した方がいいって思ってる人がいるみたいだね・・・」
「何とかしてそいつを丸め込めないか。そいつとそいつの意見に賛同する獣人達とは話が通じそうだ。こっちは圧倒的に不利だからな・・・。話し合いでそいつらを仲間に引き込めるなら、色々解決出来そうだが・・・」
ミアの言うようにここは穏便に済ませたいところ。ツバキやアカリがいる以上、強行手段は避けるべきだろう。
その為にも、先ずはその“ケツァル“と言う獣人と交渉することを最優先にすべきだろう。
見張りの獣人達が友好的に話をしてくれた分、彼らを使ってケツァルとの架け橋に出来ないだろうか。交渉をするにしても、移動も脱出も出来ないままのシン達では、話をすることすら叶わない。
「あ!待って。まだ会話が続いてる・・・」
ツクヨが再び外の獣人達の会話に耳を傾ける。すると、どうやらここに来て獣人達の間に動きがあるようだった。
「それで召集がかかった。地下で拷問してた奴の情報で、クソ人間達の根城が分かるかもしれないってよ」
「マジかよ!?じゃぁ遂に始まるのか?」
「先ずはその真相を確かめに行くらしい。それも、ボス直々に偵察へ向かうとか・・・」
「え!?何で?それだけ信憑性がある情報ってことか?」
「俺に聞くな。それに同行するのはあのケツァルだ。奴の意思に共鳴してる連中は置いていくとか。ボスの周りは賛同者で固めるらしいから大丈夫だろうが・・・」
シン達の知らぬ間に行われていたという拷問。そしてその拷問を受けていたという人物から得たという情報。嫌な予感しかしなかった。
拷問を受けていたというのは、獣人族のボスと交渉へ向かったダラーヒムであり、拷問に耐えきれず口を割ったのか。だが、ギャングの大幹部であり堅物のダラーヒムが、そう簡単に喋るとは到底思えない。
ミイラ取りがミイラになったのか。交渉をしにいったダラーヒムが、逆に彼らに交渉を持ちかけられそれを受け入れたのか。
まだその拷問されていたという人物がダラーヒムで決まった訳ではないが、その線で考える他ないだろう。
「でもそれだと、こっちはどうするんだ?ケツァルに触発された連中が多いと、ボスのいない間に何か問題でも起こさないか?」
「それは大丈夫だろう。留守はあの過激派の代表格、“ガレウス“だ。歯向かえば同じ獣人でも殺しかねないからな」
彼らの口から語られたもう一人の名前。今度は人間に対し友好的であるケツァルとは対照的に、人間に対しやり過ぎと仲間に言わせるほどの恨みを持つ、ボスと思考の近いと思われる獣人の名前のようだ。
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