不自然な魔物達

 周囲に人が住んでいるような建物や街、村といったものは見当たらない見晴らしのいい草原。そこへ集まったのは、目を赤く光らせたた獲物に飢える獣達と、樹木の姿をしたトレントと呼ばれる魔物の群れだった。


 商人に呼ばれ、シン達以外の冒険者達も既に武器を構え、馬車を守るように魔物の動向を窺っている。


 「何だこいつら・・・!」

 「トレントだ。樹海や森に生息する魔物の筈だ」

 「何だってそんな魔物がここに!?」


 集まった魔物の種類に困惑していたのは、ダラーヒムだけではなかった。この辺りの冒険者なのだろうか。根っこを器用に動かし移動する樹木の魔物がトレントという生息区域が限られている筈の魔物が、こんなに目立つ草原に出現するということに驚いているようだった。


 「トレントだって?あのファンタジー作品に登場する木のお化け?」


 「おいおい、お化けって・・・。こういうファンタジーもののゲームや物語ではそんなに珍しいモンスターじゃないが・・・」


 あまりゲームを嗜んでこなかったツクヨでも、その名前と容姿くらいは知っていたようだ。だが普段の生活でも身近な樹木が、一人でに動き出すという光景はそういう世界観とはいえ不気味な印象を抱かせた。


 少し引き気味の様子のツクヨと同じように、記憶を失っているアカリも、その大きさと不気味な姿に身体を震わせて怯えていた。


 「そんな・・・木が襲ってくるなんてッ・・・!」


 「安心しな。アタシらの後ろにいれば大丈夫だ。それ程苦戦する相手じゃない筈だからな」


 「ミアさん・・・」


 「ミアでいいよ。アタシらの旅はこういう旅なんだ。アンタも少しは慣れておきなね」


 「はいッ・・・!」


 身を丸くし紅葉を抱えるアカリだったが、ミアの言葉に励まされ、しかと魔物というものがどういう生き物であるのか、その目に焼き付けるように彼らの勇姿を見届けようとしている。


 集まったモンスターを前にしても、一向に武器を構える素振りすら見せないダラーヒム。彼はまだ、徐々に集まりつつあるモンスター達の様子を窺っているようだった。


 「どうした?トレントがこんなところにまでやって来るのは珍しいが、そんなに悩む事なのか?」


 心配したシンが、思わず黙り込むダラーヒムに話しかける。


 「トレントもそうだが、あのウェアウルフ達も少し様子がおかしいように思えてな・・・」


 「おかしい?」


 「アイツら仲間同士で連むことはあっても、他の種族やモンスターと連携を取るような習性はない。だが見ろ・・・」


 ダラーヒムは顎でモンスター達の方を向くようにシンに促す。言われてみれば確かに、トレントの身体に掴まりながら移動してくるウェアウルフや、その枝分かれした枝葉の中に身を潜める者もいる。


 「そういうものじゃないのか?モンスター達の組み合わせなんて色々あるだろ」


 「だがこんな事例はそうそう聞く話じゃねぇ。ましてやこの目で見ることになるなんて思っても見なくってよぉ。やっぱり森で何かあったか・・・?」


 言葉の最後で、ダラーヒムは小さく呟くように心の声をこぼしていた。森というのが何処のことを言っているのか、リナムルやグリム・クランプに関係する事なのか。


 馬車での会話から、そう勘繰ってしまったシンは彼に質問を投げかけずにはいられなかったが、そんなシンの好奇心を遮るようにモンスターの咆哮が鳴り響く。


 「来るぞ!構えろ!」

 「へ!言われなくたって、楽勝だよ!」


 モンスター達は仲間の集合を待つと、馬車を取り囲むように広がり一斉に攻撃を始めた。


 しかし、彼に習いモンスターの様子やその行動について考えてみると、他にもおかしな点があることにシンは気づいた。それは自分だけなのかと、思わず確認を取るようにダラーヒムへ尋ねた。


 「なぁ・・・何故こいつらはすぐに俺達を襲おうとしなかった?」


 「なんだ?お前も気になってきたか?」


 興味を示し始めたシンに、彼は嬉しそうに語る。


 「そうだ。それも妙な点で間違いない。普通、野生のモンスターってのは獲物だったり敵を見つけたら、問答無用で襲ってくるもんだ。それがどうだ?今目の前にいる奴らは、一定の距離を取りながら数が集まるのを待ってやがった。まるで意思疎通でもしてるかのようにな・・・」


 本来共に行動するような者同士でない魔物達が、共通の目的の為に協力している。それも、作戦があるような動きを見せながらの事だ。明らかに通常のモンスターとは一線を画している。


 だが、そんな人間のように意思を持って行動するモンスターを、シンは別のところで目撃し何度も倒してきた。


 「これはまるで・・・」


 彼の脳裏には、現実世界で戦ったリザードやイルが呼び寄せたモンスター達の事が思い浮かぶ。しかしあれらは、現実世界のWoFユーザーを食らい、人間の言葉や思考というものを能力として入手していた。


 WoFの世界における言葉を話す魔物というのは、物語で重要となるNPCであったり、召喚士の召喚する魔物。そして獣人や魚人など、魔物とは別に種族として群れを成し、村や街を形成する者などと限られていた筈。


 今シン達を襲ってきている魔物は、そういったユーザーやこの世界の住人の認識の外にある者なのか。或いは何かをきっかけに変異した異形の者なのだろうか。

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