情報収集
自由の身ではないような説明をしていたが、シンはこうしてWoFの世界へ戻って来ている。彼の言う組織は、それを許していると言うのかと、ツクヨは尋ねる。
シンは、流石のフィアーズもこちらでの行動までは監視し切れていないだろうと、ツクヨに現実世界で起こっている事態を明かした。
「さっき話した組織なんだけど、奴らも俺達が別世界へ行ける事を知っている。唯一、二つの世界を行き来できる存在である俺達を使って、こっちの・・・WoFの世界で何か手掛かりはないかと探らせてるんだ」
元の世界へ帰る方法を探る為、一方通行の自分達とは別に、二つの世界を行き来できるWoFユーザーを使うとは、シンの言う現実世界で彼らを牛耳っている組織の連中は、中々冷静であると感心するツクヨ。
「現状俺が見て来た限り、この異変について最も知っている連中であり、それを調べるだけの技術と組織力を持ってるのは、そいつらだけだ。だから、俺達もそれを利用してやろうって訳さ」
「利用・・・?」
「そう。俺達も、このWoFへの不自然なログイン・・・。WoFの世界への転移について何も知らない。そんな不確かな存在の俺達の事を探ってる。その手掛かりを持っている可能性があるのが、あの“黒いコート“の連中だ」
自分達の身体や意識の中で一体何が起きているのか。全くの無知の状態でいる、WoFの一ユーザーが調べられる事には限度がある。同じ無知からのスタートの、異世界からやって来たフィアーズは、シン達の生きてきた現実世界で転移の謎や異変について調べている。
それはシン達にとっても、自分達が一体どうなってしまっているのかを知る為の情報になる筈。転移の原理こそ違っていたとしても、その原因や発端を知るには十分な内容になる事だろう。
「現実でもこっちの世界でも、俺達だけで調べるには限界がある。それなら、現実世界での調査はそいつらに任せて、俺達はこっちの世界で真実を追えばいい。幸い、転移中の俺達には、奴らも何かできる訳じゃないようだし・・・」
「なるほど・・・。確かにその方が効率的だ。けど、私達がこっちで手に入れた情報も、私達だけで調べるには難しくないかい?」
「そこも問題ない。こっちの世界で起きた事は、現実の世界へ転移してきたという“アサシンギルド“に任せてる。こっちで分からない事があれば、彼らがネットを使って情報を調べてくれる」
アサシンギルドは、フィアーズに与しない組織でシンのクラスのギルドでもある。何故かWoFの世界ではその存在が確認されていないアサシンギルド。シンもギルドに行けば、新たな能力やスキルを獲得できるのだが。
「彼らは信用出来るのかい?・・・その、彼らと通じているのは君だけだろ?イマイチ私には信用し切れないと言うか・・・」
ツクヨの言うことも最もな事だろう。現に、アサシンギルドと連絡を取り合い、接触しているのはシンだけで、他の者達はそれを知ることも調べることもできないのだ。
そしてシン自身も、アサシンギルドというだけ信用し過ぎている節もあった。確かに彼らはシンの危機を何度も救ってくれているし、貴重な情報も提供してくれている。
他にも、WoFユーザーの保護や協力をしているようだが、シンが彼らについて深掘りしたことはない。彼らは果たして、シンが質問をした時、その全てを包み隠さず話てくれるのだろうか。
「兎に角、あまりこちらの情報を伝え過ぎるのも良くないって事だよ」
「言われてみれば確かにそうかもしれない・・・。今後は気をつけるよ。それと、ちゃんと相談もする」
ツクヨの用心の言葉に、ふと我に帰ったように素直になるシン。そこへ、身支度を整えていたミアが用事を済ませて、二人のいる部屋へ合流する。
「おい、もう朝になっちまった。話し込んでねぇで、情報収集にでも行くぞ」
「あぁ、ごめんごめん。そうだね・・・あっ、でもツバキはどうする?彼、まだ起きなさそうだけど?」
「疲れてるって言ってたな。何なら俺が見てるけど?」
「シンはこっちでの感を取り戻してもらわなくちゃならない。さっきはツクヨに行かせちまったからな。今度はアタシらで行ってくるよ。ツバキのこと、よろしく頼むよツクヨ」
「分かった。何かあったらまたメッセージを送って。一応ツバキを担いで、飛び出せる準備もしておくよ」
「そんな事にならないことを祈るけどね・・・」
ツクヨは冗談で言ったつもりだが、用心した事にはない。オルレラでの一件もある。ただ通り過ぎるだけの予定だった街でも、決して油断してはいけないことを、彼らは学んでいる。
ツクヨにツバキを任せ、シンとミアは宿屋を後にし、早朝のホルタールの街へと繰り出して行った。
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