魂の狩人

 多くの仲間達から託された思いや溢れ出る魔力でも、この施設に根付いていた魔物の主を仕留めるには足りないのか。初めは押していたツバキの攻撃だったが、新装新たに生まれ変わったソウルリーパーの腕の力に、徐々に巻き返されてしまう。


 「まだッ・・・こんなに力を残してたのかよッ・・・!!」


 何処からか更に集められる力はないか、まだ余力を残しているガジェットはないかと、両腕両足の部位へ一つずつ視線を送るツバキだったが、どこも既に稼働できる限界を迎えている。


 一度大技を放った右腕のガジェットからは火花が散っており、ツバキの身体を支える足のガジェットはギリギリと、プレス機にかけられたかのような音を響かせている。


 そして、悲鳴を上げているのはガジェットばかりではなかった。力を増したモンスターの押し返しを受け、耐久を超えた分の力がツバキの身体へと負荷を掛けていたのだ。


 表情には出していなかったが、無理をしていることは彼の身体をみれば一目瞭然だった。


 ツバキの立ち向かう強い意志とは反対に、片膝が床につきそうになる。するとその時、僅かにモンスターの押す力が止まる。重たい頭を上げてモンスターの方を見ると、いつの間に集まったのか、最初の時よりも更に数を増やした少年達が、ツバキを襲うモンスターの動きを止めていたのだ。


 「アイツら・・・いつの間にッ・・・!」


 彼が大型のソウルリーパーとの戦いを引き伸ばしたおかげで、施設内にいた生き残りの子供達が騒ぎを聞きつけ集まり出したのだ。意図せず長引いたツバキとモンスターの戦いは、時間をかけた分だけ彼らを有利にする戦力を構築していった。


 地下のラボからツバキと先生と共に上がって来た少年が言い残した事が、着実に大局を大きくツバキらの方へと傾けた。同じレインコートの子供達に指示して回った少年に感謝しながら、動きの止まったモンスターへ最後の力を振り絞り押し切る。


 ジリジリと押していたモンスターの腕を跳ね退け、遂にツバキと子供達の渾身の一撃がソウルリーパーの身体へと届く。命中した衝撃波は広範囲に及ぶ大爆発を起こす。


 周囲にあった物を壁へと吹き飛ばし、施設の柱さえも破壊して広間を更地にする。全力を使い果たしたツバキの身体は爆風に巻き込まれ、風に吹かれる木の葉のように吹き飛ばされていく。


 腕や足に取り付けられていたガジェットは、見る影もないほど壊れている。そのことからも、戦いの激しさが伝わる。


 飛ばされて来たツバキを、途中の柱に隠れて凌いでいた少年が掴み、柱の陰の中へと引っ張る。彼を助けた少年は、爆風によってかレインコートのフードが外れた状態だった。


 「・・・ありがとう。君のおかげで、先生も消えていった仲間も報われたよ・・・」


 少年は意識を失ったツバキに、労いの言葉をかけた。爆風が治まってくると、残留する煙が宙へと充満し、視界が悪くなっていた。フードの外れた少年は、柱の陰で目を閉じ、周囲へ気を配ると周りに仲間や敵の気配がないかどうかを、調べ始めているようだった。


 暫くの沈黙の後、少年は胸を撫で下ろすように、大きく息を吐き出した。その様子から、少なくとも彼らのいる周囲には、脅威は無くなっている事が窺えた。


 だが、少年の表情には安堵と共に悲しみの感情も垣間見える。どうやら、子供達の何人かの気配は先程の爆風と、モンスターの動きを食い止める為に魔力を使い果たした事により、他の子供達と同様に帰るべき場所へと帰ってしまったようだった。


 そして、少年自身も自分の身体を見て、限られた時間の終わりを悟る。既に身体の消滅が始まっており、ツバキが目を覚ますまで保たないといったところだろう。


 少年は近くにいる、フードの外れていない状態で意識のある仲間に思いを託し、眠るツバキの顔を見ながら、穏やかな気持ちで姿を消し、レインコートだけを残していった。


 生き残った子供達も大半が爆風でフードを外されており、敵もいなくなったがこちらの戦力も大きく失われ、とても戦える状態ではなかった。


 最も、もう戦う必要はないのかもしれないが・・・。

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