オルレラの記録
エディが言っていたように、商売を行っているようなカウンターのある古屋は設けてあるが、何処かへ行ってしまっているのか人は見当たらない。
勝手に入るのは悪いと思いながらも、山積みになっているとても商品とは思えないガラクタの方へと歩みを進めると、そこで誰かが物を漁っているのが目に入って来た。
「あぁ〜・・・くそ。これも使い物にならねぇか・・・」
ガラクタの中に埋もれる様にして部品を漁っていたのは、如何にも職人肌といった感じの見た目をした、咥え煙草に無精髭を生やした一人の男だった。
「なぁ、アンタ。少し聞きたいんだが・・・」
「あ?誰だアンタ。見ない顔だな・・・余所者か?」
こちらに気づいた男は、行っていた作業を中断しミアの方へとやって来る。ここがどういうところなのか、外部との関係を調べる為やって来たミアは簡潔に事情を話すと、男は古屋の方へ彼女を案内し、長くなる話なのだろか温かい飲み物を入れてくれた。
「そうか、アーティフィシャル・アークへ行くのか。知ってるだろうが、あそこは機械文明の進んだ、近代的な都市だ。その影響を受けていたのは、このオルレラも同じだ・・・」
「“受けていた“・・・というのは?」
「俺は“イクセン・リングホルム“という。お察しの通り、“嘗て“この街でも近代化へ向けた研究や開発が行われていたんだが、どうにも成果は芳しくなかったらしい。小さな技術の発展こそあったものの、アークシティみてぇに上手くはいかなかったようだ」
その時の研究施設が、この場所ということらしい。今となっては見る影もないほど建物は錆びれており、崩壊も激しく姥捨山のようにガラクタが山積みとなっている。
「俺も余所者でね。多少人よりも手先が器用だったことから、ここに住み込んでジャンク屋として機材の修理や販売で生計を成り立ててる」
「アンタがここに来た時には、既にこの施設は機能していなかったのか?」
「あぁ、既にここは廃墟みてぇになってたよ。前任者が居た訳でもねぇ。だが、この施設が片付けられる様子もなかったんで、丁度いいと思ったんだ」
イクセンは廃墟同然となっていた施設を、人が住めるくらいに修復してみせたのだという。錬金術が使えるという事を話すと、彼はすぐに食いつき彼女に幾つかの依頼をした。
話を聞く限り、それほど難しい内容ではなかった。故障している幾つかの機材を直して欲しいというもので、元々施設にあった物を商品として改めたいのだと言っていた。
その中に、機械仕掛けの人形のような物が含まれていた。破損が酷く中身の機械が剥き出しになってしまっている部分が、大半を占めている。
子供の玩具か何かだろうか。ミアは気になったその機械人形を最初に拾い上げる。先ずは状態を見ようと、手の上でクルクルと回してみると、頭部の部分で何かが光ったように見えた。
初めはまだ何所かに動力が生きているのかと思ったが、実際はレンズの様なものが周囲の明かりを反射していただけだった。
しかし、妙に感じる部分もあった。近代化の研究をする施設で、何故このような子供向けの機械が作られていたのか。日常の商品にも近代化を組み入れると考えれば、不思議でもないのかもしれないが。
そして更にミアの疑問を大きく肥大化させていったのは、その機械人形の目の部分に、映像を記録する為のカメラが搭載されていた形跡があった事だった。
「何だ、これ・・・カメラ?何で子供の玩具なんかに・・・?」
何はともあれ、直すことから始めようと、ミアは残された部品を元に玩具の復元を図る。ただ、彼女の扱う錬金術では、完全に失われた部品は復元出来ない。
古びた部品を分解し、人形の失われた部分へ、元の部品として生まれ変わり再構築を行う。すると、ミアの見つけた人形の頭部にあるカメラ部分の修復が終わる。
中にはメモリーカードを差し込む部分があるが、中身は取り出されているようだった。まだ不完全ではあるが、電力さえあれば動きそうだと、ミアは一旦イクセンの元へ向かう。
「なぁ、何か電源はないか?少し動かしてみたい物があるんだが・・・」
「ん?あぁ、その辺にバッテリーが・・・。いや、俺も一緒に見ていいか?」
初めは興味を示さなかったイクセンだったが、彼女の手にする物を見て、考えが一変した。何か心当たりがあるのかは分からない。幾つもあるガラクタの中で、玩具を最初に選んだミアの実力に興味を持ったのかもしれない。
イクセンは自分が作業場としているところからバッテリーを持ってくると、ミアの修復した人形に電力を流し始める。
すると、ミアの修復が上手くいったようで、人形の内部に搭載されていたカメラが起動し始める。
「お!動いたぞ。モニターに繋いでみよう」
ジャンク品が蘇ることが嬉しいのか、まるで子供のような表情を浮かべて、イクセンは同じくジャンク品だったものを直して使える様にしたモニターを運んでくる。
そして人形とモニターを繋ぐと、丁度目の部分にあるレンズから取り込まれた映像がモニターに映し出される。
「おぉ!こりゃぁ良い!アンタやるなぁ」
「壊れた部品の修復なら何とかなりそうだな。それとちょっと気になる点があるんだ・・・ほら、ここに・・・」
ミアがイクセンに見せたのは、メモリーカードの差し込み口だった。この人形は当時、何かの記録を録画する為に使われていた物なのではないかと踏んだミアは、イクセンに何か心当たりがないか尋ねる。
「メモリーカード・・・?ん〜・・・そりゃぁ幾つかはあったとは思うけど・・・。ちょっと待ってな!」
そう言い残すと、イクセンはミアの元を離れ何処かへと姿を消した。そして暫くすると、小さな小箱を持ってミアの元へと現れた。
「何かの記録だろうからな。個人的なモンだったら悪いと思って見てなかったんだ。大体がこのガラクタの山で見つかったモンだ。どうだ?見てみるか?」
そこまで言われたら見ない訳にはいかない。イクセンのニヤけた表情からも、ミアが必ず食いついて来るだろうという自信が伺えた。
「あぁ、勿論!何よりこの街の為になるかも知れないしな」
二人はすぐに小箱からメモリーカードを取り出すと、人形にある挿入口に当てはまる型のメモリーカードを探していく。
そして、最初にミアが人形に挿入できるメモリーカードを見つけると、早速それを人形の挿入口に差し込み、映像をモニターで確認する。
モニターに映し出された映像は、古びてしまっているせいかノイズや映像の欠損が見られたが、全く内容が分からない程ではなかった。
映像には当時の研究施設の様子が映されており、何者かによって運ばれている様だった。そして恐らく、それを運んでいるのは子供だと推測できる。
カメラの視点は地面に近く、大きく左右に揺れていたのだ。暫く歩く映像が続くと、研究施設の内部へと入っていき、長く暗い階段を降りて行っている様な映像が映し出される。
「これは・・・ここの施設か?」
「恐らく・・・。だが、こんなに長い階段なんかあったか?」
階段が終わると、火による照明器具と思われるもので通路が照らされ、また暫く歩いている映像が続く。そして何処かの扉に辿り着いた人形を運ぶ何者かは、そこで初めて声を発した。
「“先生“ぇ!来たよぉ〜!」
「おぉ!いらっしゃい。元気・・・たか・・な・・・」
そこで映像と音声が途切れてしまった。劣化による損傷もあるのだろう。一つ目のメモリーカードからは、これ以上の情報は得られなかった。
ミアはまだ知らないが、映像に残されていた“先生“という言葉と、ツバキがレインコートの少年から聞いた“先生“という人物は、同一の人物なのだろうか。
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