会場入り
会場へ入って来た三人は、本人の登場を待ちかね仲間内でざわざわとする、ファン達の熱気に満ちた空間へ、足を踏み入れる。
「おぉ〜!流石の人気だぜ、ユッキー!」
ケイルが額に手を当て、周囲の景色を一望する。席は幾つか空いているものの、会場外の列を考えると満員は必然。今回は野外の大型フェスに比べ、入場が大きく制限されたプレミアム感の強いライブだった。
「俺、やっぱり肌身でライブを感じたかったなぁ〜」
「しょうがねぇって。そんかし、こうやってタダでライブに来れてんだから・・・」
「金じゃないんよなぁ。寧ろ、ユッキーの為になるなら金出したいもん」
「その分、ライブグッズいっぱい買おうな」
MAROの肩を叩き、元気付けようとする峰闇。
「さて、そんじゃぁどこで待機すっかぁ〜・・・」
同じく会場の様子を見渡し、どこで彼女のライブを見守ろうか探す峰闇。彼らはチケットも無しに、自由な場所でライブを鑑賞出来る身。ただ、
モンスターのWoFユーザーを狙うという習性を考えると、人のいない場所に構えなければならない。
故に、彼女のことを思えば思う程、ステージに近づくことはできないという、もどかしい立場にある。
もしかしたら、ライブやイベント会場にモンスターがやって来るのは、自分達がいるからなのかも知れない。そう考えると、彼らの中にある彼女を守らねばという思いよりも、責任を果たさなければという使命感が芽生える。
「なるべく上の方がいいな。全体の状況を把握する意味でも・・・」
峰闇のいう通り、いつでも咄嗟の事態に対応出来る様にするのであれば、全体を見渡せる場所にいるのがベストだろう。それについては、MAROもケイルも同じ考えだった。
が、途中で言葉を止めた峰闇に、二人は彼の表情を伺うように顔を傾ける。
「おい、あれ!“蒼空“さんも来てんじゃん!」
「蒼空さんって・・・前回の会場にいたあの人?」
彼らはフィアーズの蒼空と顔見知りだった。MAROの言う前回とは、岡垣友紀の前回のライブのこと。それは横浜とは別の会場で行われており、期間も少し空いている。
彼が何故そんなところにいたのかは分からないが、その前回の会場で親衛隊の三人が見たのは、共に岡垣友紀のライブへ乱入してきたモンスターから、彼女を守ろうとする蒼空の姿だった。
何度目かになる彼女のイベントに対する襲撃。それは回数を重ねる毎に強力なモンスターが現れるようになっていった。
その回数と強さを考えると、今回のライブはそれ以上に強いモンスターが現れる可能性が高い。
親衛隊の三人も、モンスター同士が争い強くなることを知っていたようで、会場に入る前にやっていたモンスター討伐も、それによるレベルアップを防ぐ意図でもあった。
丁度、会場を見渡せる見晴らしのいい場所にいた蒼空の元へ三人は向かった。
「蒼空さん!」
聞き覚えのある声に、蒼空が視線を向けると、そこには彼にとっても想定外の仲間がいた。
「おぉ!君達は確か親衛隊の・・・」
「お久しぶりですね!峰闇です」
三人はそれぞれ名前を名乗る。蒼空は少し考えたような様子を見せた。前回の会場での戦いぶりを思い出していた彼は、三人の名前とそのクラスを思い出し、再会を喜んだ。
「やっぱり来たんだね、君達も」
「勿論ですよ!ユッキーの行くとこに、我ら有り!って感じっす」
「そうだ、蒼空さん。今回が二度目ですよね?ちょっと話しておかなきゃならないことが・・・」
前回知り合ったばかりの彼に、ケイルはライブやイベントを襲撃するモンスターの傾向について説明した。回を追う毎に強力になっていくこと。そして前回の戦いよりも、更に注意しなければならないことも。
「なるほど・・・そんなことが。だが、何故モンスターはそんなに回を追う毎に力を増していくんだろう・・・。開催地は毎回同じじゃなければ、近場でもない訳だろ?」
蒼空の疑問も最もだろう。意思を持たぬモンスターが、そう何度も彼女のライブやイベントを襲うのはおかしいように思える。
確かにその習性上、人の集まる場所に寄って来やすいのはあるが、力をつけてまで襲ってくる理由が分からない。
現地のモンスターに襲われているだけであるのなら、そんな苦戦は強いられないだろう。あったとして、会場周辺で他のモンスターを襲い、レベルアップするか、目覚めたばかりのWoFユーザーを喰らった変異種が現れるくらいのもの。
「何かこの襲撃に、意図を感じないか?」
「意図・・・?」
「何者であるかは分からないが、少なくともモンスターを統率し、利用することのできる知性のある者の意図があるように思える・・・」
変異種の存在がある以上、それが人間であるとは断定できない。だが、その何者かは意図して彼女のライブやイベントを襲撃しているように、蒼空は感じていた。
そうなればケイルの言う通り、今回も前回以上に強力なモンスターが現れるのは必然。
「じゃ、じゃぁ・・・誰かがユッキーを狙ってるってこと!?」
「その可能性は十分にあるね・・・」
「許せねぇ!なんだってそんなこと・・・。ぜってぇ守って見せる!それに、今回も蒼空がいるなら心強いし」
ケイルの言葉で、思い出したかのように口を開く蒼空。今回は彼一人ではないことを、親衛隊の三人に伝える。
「そうだそうだ。僕からも一つ朗報。今回は僕の仲間も来てる。前回からどれだけ強くなるのかは分からないけど、数は僕達も増えている」
「マジっすか!?よかったぁ〜・・・。蒼空さんの仲間もいるんだったら、今回は少しは楽になりそう?」
「でも気は抜かないでよ?誰も彼女が危険な目に遭うのは、見たくないだろ?」
一同の意見は一致している。決して油断する気などない。だが、今回はその人数から更に守りを固めることが出来る。ある程度、気持ちに余裕が生まれたのは確かだろう。
「ここは僕と仲間で見張るから、君達は別の場所で待機してくれ。お互いすぐに合図を送れるように、少なくとも互いの姿を確認できる場所でね?」
「了解です。ここはお任せします。俺達は両翼に分かれるか?」
親衛隊の三人は、蒼空とその仲間に一番見晴らしのいい場所を任せ、別の場所でモンスターの襲撃に備えることにした。
会場の上層部、両側に分かれるのがいいと判断した峰闇は、最も守りに特化したケイルに片側を任せ、MAROと二人で反対側へと向かう。
その際にMAROはケイルに対し、数枚の紙を渡す。これは彼のスキルで使う式神の媒体。万が一の時はこれですぐに援護すると、心細いであろう彼を元気づけた。
そして時を同じくして、新たな仲間を加えたシン達もまた、会場へと戻ってきたのだった。
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