赤レンガ倉庫

 徐々に風景が、都心部へ近づいているのを感じさせる。


 シンは到着するまでの間、蒼空に詳しい事情を聞くため、メッセージを送っていた。何故彼はノースシティからセントラルへ向かったのか。その中でも、赤レンガ倉庫を訪れたのには、何か理由があるのか。


 蒼空の第一印象は、寡黙そうな青年で一人で任務を黙々とこなしていくような印象を受けていた。誰かと共に行動しないのも、彼の戦い方が周囲を巻き込むものなのか、集団行動に向かないからだと思っていた。


 他のノースシティのメンバーは、任務に対し面倒そうであったり、各々やりたい事を優先したり休暇のように楽しもうとする者達ばかりだった。その中でも蒼空は、任務に意欲的であるように感じていた。


 そして帰って来たメッセージには、シン達の考えと同じく人が多く集まる場所の方が、モンスターや異世界からの者が集まりやすい傾向にあるという趣旨が記されており、想像以上に厄介なことになりそうだということで、救援を要請したのだそうだ。


 「やっぱり・・・。横浜は危険なようだ。楽しむ余裕はないかもしれないけど?」


 「あれは冗談だって。でも、ひと段落ついたら美味しいものとか食べたいなぁ〜・・・」


 「じゃぁその為にも頑張らないとな」


 「もっちろん!あぁでも、前線に出るのはシンさんだからね?頼りにしてるよ!」


 勿論、シンも支援タイプのにぃなを前に出すようなことは考えていない。敵の注意を惹きつけるタンク役にはなれないが、彼女の支援があれば多少なりとも盾役をこなせるだろう。


 それに現地に辿り着けば、まだクラスは判明していないものの、もう一人の仲間である蒼空と合流することができる。


 モンスターに襲撃されても、先ずは三人になることが生存の鍵になるかもしれないと、シンは今から様々なシミュレーションを脳内で実行していた。


 難しい顔をしながら黙り込むシンとは対照的に、外の景色を楽しむにぃなは目を輝かせながら、仕切りにシンに対して名所らしきものの建物が見えるという報告を勝手にしていた。


 「ねぇ!ランドマークタワーだって!」


 彼女の声に外の景色へ視線を向けると、車のガラスに組み込まれた機能で、建物の側に何の建物なのかと、その簡単な説明が文字で表示されていた。


 「ランドマークタワーって・・・。じゃぁ赤レンガ倉庫までもうすぐじゃない?」


 「うん、そうだよ?・・・あれ?もしかして知らなかったの!?ボケェ〜ッとしてないでよね!」


 「しょうがないだろ?神奈川・・・横浜に来るの初めてなんだ・・・」


 「まぁ、私もそうだけど。ほら、モニターに目的地までの距離と地図が出てるでしょ?ねぇ、赤レンガ倉庫って一号館と二号館ってあるけど・・・どっち?」


 初めて赤レンガ倉庫を訪れる二人は、外装こそネットやテレビで見たことがあるものの、その中がどうなっているのか。調べる暇もなく目的地へ到着しようとしていた。


 急ぎ蒼空に確認してみると、一号館の三階にあるホールへ向かって欲しいとのことだった。


 「ホール・・・?何かの会場になってるのか?」


 「あ!ねぇ、見て!」


 にぃなが窓の外を指さした方へ視線を向けると、電子広告に何処かのステージの上で歌って踊る女性と、赤レンガ倉庫の文字が見えた。


 そこには、大きく表示された人の名前と日時、そして赤レンガ倉庫一号館三階ホールと表示されている。まさにシン達が向かっている場所だった。どうやら近日中に、その女性のライブが行われるようだった。


 「ん?歌手かなんかのライブが行われるのか・・・?オカガキ・・・ユウキ?」


 シンはあまり流行りの音楽を聞く方ではなかった為、それが誰なのか分からなかった。しかし、眉を潜ませるシンとは別に、にぃなはそれが誰だか知っているようだった。


 「えっ!?知らないの!?アイドルの岡垣友紀だよ!?」


 「そんなに有名なの?」


 「ネットやアイドル界隈では注目のアイドルだよ!プロジェクター内蔵のドローンを使ったプロジェクションマッピングのステージ演出で、ファンタジーの世界や未来的な風景や建物を映し出し、あたかもその世界の歌姫のように音楽を奏でるライブが注目を浴びる、人気のアイドルなんだから!」


 急に熱量の上がるにぃなに押されながらも、シンはその岡垣友紀なる人物が有名なアイドルなのだということを知る。


 そのアイドルのライブに、人が大勢集まると踏んで蒼空は待ち伏せているのだろう。だが元より人の往来が多い横浜。


 ライブが開催される前からモンスターや、異世界からの来訪者が訪れている可能性が非常に高い。準備段階の状態で既に、多くの戦闘が行われていたに違いない。


 そこで手に負えなくなって、救援を要請したといったところだろう。


 「じゃ、じゃぁそれだけ有名人なら人が多く集まるんだろうな」


 「そりゃ勿論!ライブのチケットもすぐに完売しちゃって、なかなか手に入らないんだから!あ、でもその点で言えば、この身体になったおかげでチケットもいらないのか!ねぇねぇ!ついでに見て行かない!?ていうか見に行こ!』


 「だ・・・大丈夫だって。多分その人のライブが蒼空の目的だと思うから」


 驚きと共に理由を尋ねるにぃな。シンは蒼空の考えているであろうシナリオを彼女に説明すると、納得したにぃなは一石二鳥だと喜び、岡垣友紀のライブを直に見れると、より一層興奮していた。


 聞いてもいないのに語られるアイドルの軌跡を聞かされ、あまり興味のなかったシンは疲れにも似た疲労を感じるのだった。


 だが、にぃなの話にあったライブ演出には少し興味が湧いた。元よりVRやプロジェクションマッピングなど、仮想現実や世界観などに浸るのが好きだったシン。


 プレジャーフォレストの観覧車から見たファンタジーの世界にも、表にはあまり出さなかったものの、にぃなやその場にいた子供達と相違ないくらいには、胸を躍らせていた。

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