チームプレイ
にぃながシンの元へ向かった後、一人前衛部隊のリザード兵と戦っていた少女は、次第に目が肥えてきたのか初めのうちに受けていた攻撃を受けなくなり、無傷でリザード兵を次々に斬り捨てていた。
「おしっ!何となく感覚が掴めてきた。これなら私だけでもいけそうじゃない?」
決して素早い動きではないが、的確にリザード兵の攻撃を避けては隙を突く見事な戦いを見せ、彼女へと群がっていた前衛部隊の掃討を成し遂げてしまった。
そこへ駆けつけたのは、先程まで追い詰められて筈のシンだった。彼は治療を終えたにぃなを連れ、何処からともなく現れた。
「作戦変更だ。アレは一人で挑むにはあまりに危険だった・・・」
「どうい事・・・?ただのリザードでしょ?」
「違うの!あの武装したリザードは、他の奴と全然違うんだって!」
困惑した様子で話を聞いていた少女。だが、彼らの話し合いを待つほど、相手も律儀ではなかった。シン達がリザード兵のボスと対峙していた場所から、少女が一人戦っていた前線までの距離は然程なく、こちらを見つけた武装したリザードが凄い勢いで向かって来ていた。
「話す時間も与えないってか・・・。有効な手立てはまだ思い付いていない。取り敢えず俺が引きつけるから、隙をみて攻撃してくれ!にぃなは支援を頼む!」
「分かった」
「任せて!」
三人はそれぞれ動き出し、縦に並ぶような隊列を組む。最前線に躍り出たのはシン。変異種のリザードが振りかぶる戟を受け止め、鍔迫り合いを経た後に飛び退き違いに距離を取る。
そして素早い身のこなしを活かした戦い方で、相手の攻撃を躱しながら攻撃のチャンスを伺う。影によるスキルは看破されてしまうため、シンには自身の身体能力を活かした攻撃しか手段がない。
ダメージを与えられるとしたら、まだ変異種のリザードと対峙していない少女の攻撃に期待するしかない。
シンとリザードの戦いを後方から見ている少女は、攻撃の隙を伺うがこれまでの戦闘とは異なり、動きの読めない二人を見ながらシンに当てないように剣を振るわなければならない技術が要求される。
手間どう少女を見て気を利かせたシンは、素早い攻撃と投擲により視線を惹きつけ、少女から見て背後を狙いやすいように誘導する。
そんなシンの動きを察した少女が、意を決し剣を握りしめると力強い一撃を振るう。通用するかどうかは分からなかったが、シンも影によるスキルでリザードの動きを鈍らせる。
「カゲ・・・カイジョ・・・」
すると、リザードの身体から淡い青白い光が溢れ出す。と、同時にシンが掛けていた影の束縛が解除されてしまう。しかし、シンの行った行動により、少女の攻撃を当てさせる隙を作ることに成功した。
自らに掛けられた行動制限や呪いを解除する、所謂デバフ解除の詠唱という行動を挟んだことで、少女の一撃を避ける隙を与えなかった。
少女の一撃は、リザードの脇腹に見事に命中する。
だが、彼女の剣はそこで止まってしまう。刃が通らないことに驚く少女に、リザードの戟が襲いかかる。
リザードの正面に立っているシンには、最早どうしようもない距離だった。ダメ元でスキルを放ち、拘束しようと試みるが解除の呪文がまだ適応されており、上書きすることが出来ず通用しない。
戟の接近に気がついた少女は、避けきれぬ攻撃に思わず顔を背け、身体に力を込める。無防備なところに貰うことだけは避けられたが、それでもリザードの一撃は重く、彼女の身体は大きく吹き飛ばされていった。
シンが攻撃を諸に受けた時と違い、少女にはにぃなの支援魔法が掛けられている。致命的な一撃になっていないことを祈りつつ、シンは少女を攻撃したことにより生まれた隙を無駄にしない為に刃を振う。
しかし、ただ斬りつけたところで戦士のクラスである少女の攻撃を上回る一撃を、シンが与えることは出来ない。
そこで有効になるのが、アサシンの弱点を見つける目とクリティカルを狙えるパッシブスキルだった。
相手の隙を狙えれば確率が上がるその一撃に賭け、攻撃モーションをまだ終えていないリザードの首目掛けて飛び掛かり、渾身の一撃を振う。
これまで器用に攻撃を捌いてきたリザードであっても、肉体の可動域を超越した動きは取れず、シンの振るった刃はリザードの首を斬りつける。
条件の整ったシンの刃は、少女の振るった斬撃と違い、その硬い鱗を突き破り太い首を裂いた。バランスを崩し、前のめりに倒れそうになるリザードの背中に着地したシンは、振り抜いた刃を再び傷口に目掛け、全身の力を込めて突き刺す。
装甲を失った傷口は柔らかく、シンの短剣はみるみる傷口の中へとめり込んでいく。膝をついて辛うじて踏みとどまったリザードは、戟を手放し背中に張り付くシンを振り落とそうと拳を振う。
シンは短剣を突き刺したまま置き去りにし、背中から離れる。リザードは自身の振るった拳に振り回されてよろめいていた。
弱点をついたシンの一撃が思った以上に効いていたのか、それまで力強く身構えていたリザードは、ふらふらとまともに立つことが出来ないでいた。
それもその筈。シンの突き刺した短剣には、対モンスター暗殺用の毒が塗られていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます