新たな勢力
シンと同じWoFのキャラクターデザインを身に纏った何者か。彼は一体何者で、何故シンを助けたのか。何より彼は、何故下水道にこのような抜け道があるのを知っているのだろう。
命を救われたことにより、得体の知れぬ者に黙って付いて来てしまうほど気が緩んでいた。不意に我に帰ったシンは足を止め、その者に質問をする。
「まっ待ってくれ!アンタは一体何者なんだ!?何処へ向かっている!?」
すると彼は、取り乱すシンを制するように強い口調で話し出したのだ。
「しぃッ!静かにッ!いいか、ここはまだ安全じゃぁない。このままここに居れば、いずれ“奴ら“に気づかれる。黙って話を合わせてくれ。そうすれば彼らもアンタの命までは取らないだろう」
「“奴ら“?誰かに狙われてるのか?それともさっきのモンスターのことか?」
「いや、違う・・・。あぁ・・・正確には違う訳でもないが、そうじゃない!兎に角、アンタみたいのが今ここに居るのがマズイんだ。彼らは邪魔しようとしている者達を探して、始末するつもりだ。情報を抜き取った後でね」
この男が何を言っているのか、今のシンには全くと言っていいほど分からなかった。だが、さっきの下水道に住み着いたモンスターとは別に、何かの脅威から逃れようとしているのだけは伝わってきた。
「待ってくれよ、分かる様に説明してくれ。何も知らないまま付いていくことは出来ない。俺にもやらなきゃならない事があるんだ」
シンは大型のモンスターを倒した朱影と合流し、電力を復旧させるため施設に向かわなければならない。この男がシンの為を思って何処かへ連れて行こうとしているとしても、まずはやるべき事をしなければと、シンは彼に抵抗する。
「知ってるよ。さっきの槍の男だろ?」
彼は二人がモンスターと戦っていたことを知っているようだった。知ってて戦闘に入って来なかったのだ。
無論、見ず知らずの者が突然加勢できるような状況ではなかった。しかし、シンの目の前にいるこの男は、それを傍観していたという事実が判明した。
「知ってたのか?なら何故あの時に助けてくれなかった?」
「俺にも事情があったんだ。アンタと同じだ、そうだろ?どっちの事情が優先なんてのを話し合うつもりはない」
何故こうも、面識のないシンに絡んでくるのか理解出来なかった。彼にシンを助けることによって、何かメリットでもあるのだろうか。
「目的は何だ?もう一度言うが、何処へ連れて行こうとしている?」
返答次第では、この男と戦うことになるかも知れない。そんな覚悟を言葉に込め、シンは強い眼差しで彼を見つめた。
それに観念したのか、男は大きく息を吐き肩を落とすと、シンを助けた目的と、彼らが今置かれている状況について話し始めた。
「・・・アンタの協力が欲しい。その姿を見ればすぐに分かるよ。アンタも“WoF“のユーザーなんだろ?」
衝撃的だった。シンもこの男の姿を見て、WoFのキャラクターを身に纏っているのだろうという予想はついていた。だが、実際に同じような境遇にある者と現実の世界で遭遇するのは、ミア以来初めてのことだった。
同じ思いをしている。それだけでシンの心は揺らいだ。自分と同じように、突然日常が一変し、何も分からないまま渦中に巻き込まれていく経験をして来たのだろう。
正直なところ、いまだにその正体が不明なままのアサシンギルドの者達よりも、境遇的に共感できる部分も多い彼の言葉の方が、シンの心に届きやすかった。
「やっぱりアンタも・・・」
静かに頷く彼は、続けて話し始める。
「街の様子は見たか?電力を落とした連中は、俺達みたいなWoFへ行けるユーザーを集めて、私兵にしてるんだ・・・」
「私兵・・・?」
「連中もこの世界の事や、自分達の身に起きた異変について知りたがってる。そこで目をつけたのが、二つの世界を行き来できる、俺達みたいなWoFのユーザーだ。異世界に飛ばされる共通点を持ちながら、自分達の世界へ帰れるのは俺達だけみたいだしな・・・」
彼の話してくれた“連中“というのも、アサシンギルドの彼らと同じく、別の世界からこちらへ飛ばされて来たのだろう。そして彼らと同じく、元の世界へ戻る為の手段を模索して色々と試みているという訳なのだろう。
だがそれは、アサシンギルドのやり方よりも、どうやら過激なようだった。
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