人が創造する神獣

 それでも、慎ほど有力な情報を持ち込んだ人物もそうはいなかった。何しろ彼は、“異変“の渦中にあると思われている黒いコートの者達に接触しているのだから。


 「朱影、暇してるなら調べごとを頼まれてくれないか?」


 壁に寄りかかり腕を組んだままの朱影に、白獅が慎の記憶の映像に目を通したまま顔を向けることなく言葉をかける。すると意外にも、彼は素直に白獅の頼み事を聞いた。


 彼自身、興味があったのだろう。白獅が何の頼み事をするのかわかっているかのように動き出し、別の機材へと歩みを進めた。


 「フランソワ・ロロネーって海賊のことだろ?それと・・・そいつらとの戦闘データを分析しとけってところか?」


 「ふ・・・話が早いじゃないか」


 「もう慣れちまったよ・・・。慣れたくもねぇけどな」


 朱影の意外な返答に、少し嬉しそうに答える白獅。粗暴で手のつけようのなかった彼が、まさかここまで丸くなるとは白獅自身思っていなかったのだ。それだけ朱影も、転移して来てからの壮絶な日々と、自分の置かれている状況、現在のアサシンギルドの様子を考え、彼なりに力になろうとしているのかもしれない。


 「さぁ、俺達はもっと先のデータを見ていこう。準備はいいか?二人とも」


 「大丈夫です!」

 「おっけぇっス!」


 ロロネー戦との映像を早々に切り上げ、白獅らは更に先の映像データを追う。慎の見てきたその後の光景には、デイヴィスとの出会いやその仲間達、元同胞らの出現など、新たな情報が一辺に増えた。


 二人の少年が、登場人物やその背景、これまでの出来事などをざっくりと洗い、WoFのデータ上に無いものがあるかどうかを調べる。


 映像の再生速度や、遠くに見える海賊船の海賊旗など、何が必要になるか分からないが凡ゆる情報となるものを画像に起こし、別の資料として少年達へ送る白獅。


 そしてレースの終盤、多くの海賊達と共に戦った大型の魔物、リヴァイアサンの映像へと辿り着き、彼らは目を丸くした。それはあまりにも大きな巨獣に対する驚きなのか、WoFのデータに無い“異変“に関与する世界の異物であることに期待したのかは分からない。


 ただ、シン達の戦ったその巨獣リヴァイアサンは、調べるまでもなくすぐにそれが、このイベントに隠された“異変“のファクターであることを理解した。


 「これはこれは・・・」


 「えっ・・・これって・・・」

 「おいおい、適正レベルが段違いじゃねぇか!どうなってんだ!?こりゃぁ・・・」


 エイヴリーやキングも、一眼見たときから理解していたようだった。今回のレースで設けられたレイド戦は、これまでに類を見ないほど異例の魔物であったことを。


 WoF上で用意されているレースのイベントでは、レイド戦といえどこれ程までに強大な相手は用意されていない。多少強めに設定されていたとしても、このレースに参加できるレベル帯であれば、工夫することで攻略が可能なものがほとんどなのだ。


 データベースの記録と照らし合わせても、プレイヤーや登場人物達のレベルや能力が全くと言っていいほど釣り合っていない。これではリヴァイアサン側の匙加減によっては、数回の攻撃で一掃されかねないレベル差だったのだ。


 「よ・・・よく生きていられたものですね・・・」


 「リヴァイアサンは人間が創造した神獣の一体だ。普通の獣とは訳が違う。遊びを行う程度の知性があるということだろう。すぐに殺さなかったのは、コイツの気紛れに過ぎないだろうがな・・・」


 白獅の言うように、いつ殺されてもおかしくない状況だった。それをしなかったと言うことは、やはり遊ばれていただけなのか、或いはこの後に登場する黒いコートの男の発言に、何か繋がるものがあるのだろうか。


 海賊達が巨獣に立ち向かう光景から、シンは別の作戦を実行する為に密かに動き出す。シン達はレイドの戦場に到着すると、すぐに戦闘には加わらずとある海賊船へと向かった。


 デイヴィスと共に向かったのは、彼の仇かもしれないというキングという人物の海賊船だった。三大海賊の一角であり、シー・ギャングという組織のボスである彼は、国家ですら恐れを抱くほどの強大な影響力のある組織だった。


 手を下せば、シン達もただでは済まなかった。慎重を期したシンとデイヴィスは、気付かれぬように彼の船へと乗り込む。


 するとそこで、彼らは全く予想だにしなかった者達と対面する事になる。その者達こそ、“異変“の真相を知り、WoFの世界に設けられているクエストを異常なものへと変えている張本人である可能性が高い。


 慎の見た光景に映し出されていたのは、彼が前から言っていた“黒いコート“の者達だった。何より今回、慎が手に入れたデータの中で、今までアサシンギルドが入手出来なかった戦闘データを得ることが出来た。


 これは、彼らの謎に迫る大きな一歩と言えるだろう。

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