アクセス
転送装置を利用した履歴を見ると、ズラリと名前が並んでいた。勿論、彼らの本名ではなく、この世界のアサシンギルドへやって来てからの仮の名前だ。そこから、部外者が彼らを辿ることは出来ないようになっている。
分かっていたことではあるが、表示される名前の量が多く、そこから部外者を探すには少々時間を有することになりそうだった。
「あぁ・・・これはちと面倒だな・・・」
「手伝いましょうか?」
「いや、それほどのモンじゃねぇ。お前らも自分の仕事をしてくれ」
そう言うと、少年の片方は転送先の暗号を解読し始め、もう一人は白獅らへの連絡を試みる。難を逃れた彼らも、今頃は落ち着いた頃なのではないだろうか。
現状の確認や、恐らく彼らも彼らで襲撃者の情報を集めているに違いない。彼らの知り得る情報と、現場にいるベルシャーらが探るべきものの情報を解析し、手掛かりを共有したいところだ。
暫く連絡を試みると、漸く向こう側の受け入れ体制が整ったようだ。ベルシャーらのいるアジトからの連絡網は遮断されている。当然だろう。襲撃があったばかりの現場から来る連絡など、危険極まりない。
なので、二人の少年の片方は各々に設けられた通信手段を用い、発信者の個人データを開示したまま、白獅らの移動先へアクセスを試みていた。誰からの連絡か分かれば、彼らも安心して出ることが出来る。
警戒している今、向こうも慌ただしく慎重になっているに違いない。
「おっ!繋がったぜ?」
「よかった・・・!向こうは何て?」
「ちょっと待ってくれ・・・」
電話のような言葉を交わすツールや、口に出さずとも意思疎通を行う脳内信号のやり取りとも違い、彼らの中では古典的とされるメッセージのやり取り、つまりメールを採用していた。
通話では盗聴される恐れや、外部からの通信経路へのアクセスによりその内容を聞き取られてしまう危険がある。また、脳内通信の場合は、ウイルスによる精神汚染や脳内信号の乗っ取りなど、便利な反面デメリットも多い。
その点、暗号化された文字データであれば彼らにしか分からない連絡方法取ることも可能だ。例えやり取りを見られていても、同じ内容の文章を抜き取られても、それを解読解析出来なければ意味を成さない。
「・・・どうやら死者は出てないようだ!追跡の心配もないってよ」
「それは吉報だね。朱影さんの方はどうですか?」
少年らも意識し始めたのか、ベルシャーをコードネームで呼ぶようになった。ここから彼らの流儀に従い、コードネームで表記することにする。
ベルシャー=朱影。
粗暴な男ではあるが、ギルド内での信頼も厚く頼りにされている。実力やステータスも上位に位置しており、小隊を編成し調査に赴く際は隊長となることが多い。
双子の少年達で、大人しく知性的な口調をしている少年瑜那ゆだと、やや朱影と口調の似た荒々しい喋り方をする、活発な少年宵命よめい。
瑜那と宵命も、元は別の世界で双子のアサシンとして活躍していたようだ。二人の間を繋ぐようにワイヤーを操り、その素早い動きで標的を絡め取る。
主にターゲットの捕捉や暗殺を得意としており、少数であればまとめて捕らえることも可能。しかし、乱戦や分断されることに弱く、片方と別れてしまうと実力の半分の力も出せなくなってしまう。
だが、二人揃った時の戦闘力は朱影や他のアサシンギルドメンバーにも引けを取らない。
アクセス履歴を調べていた朱影だったが、やはり手掛かりは見つからなかった。転送装置には触れていないのか、或いは証拠を残さぬ妨害ツールを用いたのか。ここからでは、どちらであるか判断のしようがない。
「ダメだ・・・ねぇな。どうやらそこまで間抜けではないらしいな」
「ですよね・・・。白獅さん達もきっと情報を探っている筈です。僕らも合流して・・・」
彼らが話していると突然、アジトを現実世界から隠しているデータシステムにアクセスしようとする気配があった。
つまり、朱影ら三人の他に別の誰かがアジトに入ろうとしているのだろう。
思わず息を呑む三人。口を閉じ気配を消すと、ゆっくり身を隠してその何者かの出方を伺う。
アサシンギルドを荒らし、朱影を襲った襲撃者ノイズが戻ってきたのだろうか。だが、それにしては妙に静かで慎重な様子であり、なかなかアジトの内部へ入ろうとはしてこない。
まるで、入り口の扉の前で手をかざしているだけのような、未知なるものに初めて触れる様子でこちらを伺っているようだった。
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