襲撃事件
爆発音はそれ程離れたところからはしていない。ベルシャーは歩いて移動し、二人の少年と合流した路地までやって来たのだ。彼らの足であればすぐに視界に捉えられる距離である。
そして現場に近づくにつれ、先程までの事件とは様子が違うことに気がつく。街の様子が明らかに騒がしい。音のした方へ向かう彼らとは逆に、街の人々は離れるように走っている者もちらほら見かけるのだ。
「人の流れが・・・」
「あぁ、どうやらさっきの一件とは明らかに様子が違げぇな」
何よりも彼らに緊張感を持たせたのは、現実世界の者達にもこの騒ぎが認知されているということだった。つまり、現実世界に影響を及ぼす手段によって起こされた出来事となる。
モンスターにそのようなことは出来ない。単に人間の起こした爆発事件なのか、それとも白獅やベルシャーらを探る何者かが起こした事なのか。懸念すべきは、もし後者だとするならばこれが罠である可能性が高いということだ。
「おい、近づいたら見通しの良い場所で様子を見る。いいな?」
「了解です」
「了解」
ベルシャーらは、道路からその素早い身のこなしで建物の外壁を駆け上がり、ビルの屋上から煙の上がる爆発の現場を見下ろす。
体勢を低くし、人差し指を立てながら頭の横でくるくると回すベルジャー。それを見た二人の少年は屋上の両端へと素早く移動し、身をかがめながら周囲の警戒に入る。
黒々とした煙が立ち登り人集りが出来ていたのは、ベルジャーが壁を擦り抜けて外に出た場所と合致していた。そこから考えるに、ベルジャーが外出したところを何者かが見ていたというのが普通だろう。
大型車両がビルの一階へ半分ほど突っ込んでいる。危険物でも積んでいたのだろうか、周囲には未だ炎が燃え盛っており、鼻をつく臭いが広がっている。誰かが通報したのだろう、遠くからサイレンの音が近づいて来ている。
そして車両が突っ込んでいるビルの現場からは、中に居た幾人かの人々が次々に外へと出て来ている。
だが、その中にアサシンギルドのメンバーはいない。アジトは無事なのだろうか。
彼らアサシンギルドのアジトは建物の中にあるが、その入り口は実体化してはいない。なので、現実世界での爆発による被害はないが、彼ら異世界の者達や異形の者からは視認できるようになってしまう。
蜃気楼のように歪む空間。それがアジトへの入り口と繋がっているのだ。そしてそれは、この世界に在らざる者達にしか通ることのできないものとなっている為、街行く一般の者達には入ることが出来ず、見ることすら出来ない。
ベルシャーは現場の様子を伺いながら、屋上の縁を指で軽く数回小突く。僅かな音を聞いた二人の少年は彼の方を向く。すると彼は二人に、ここで待機しながら引き続き警戒に当たれと合図を出す。
頷くのを確認したベルシャーは、周囲を警戒しながら素早く建物を降りていくと、炎上する向かいの建物の中へと向かって行く。
当然、一般人に彼の姿は認知されておらず、止めに入る者も声を掛ける者もいない。誰にも邪魔されることなく建物内へ入ると、歪んでいる空間からアジトへと向かう。
アジトへはすぐに入らず、慎重に様子を伺う。中からは声はしない。これだけ外が荒れているのに、誰もその様子を見に来ていないのかと思うと、少し不自然に思える。
この時ベルシャーの頭の中を過ったのは、アサシンギルドを探る何者かによって襲撃された後なのではないかということ。そして誰も出てこないということは、中で何かあったに違いない。
通路を通りアジトへ入ると、中は戦闘が行われたかのように荒らされている。機材が壊れ、漏電したり煙が上がっているのが見えるが、誰かが倒れているという様子はない。
まだ犯人が中にるかも知れないと、ベルシャーは足音を立てぬよう静かに白獅と話していた部屋へ向かう。ここまでの道中、誰の気配も感じなかった。既に別ルートで脱出したのだろうか。
それなりに実力を知っているアサシンギルドのメンバーが、全滅したとはベルシャーにはとても思えなかった。
恐る恐る歩みを進めると、突然何かの気配が彼を襲う。
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