運命の波

 レイド戦への参加が遅れてしまったとはいえ、そのレイド戦によって救われたチン・シー海賊団。彼女らの船が近づいた時点で、ハオランはすぐに海岸へと向かっており、何よりも伝えたいであろう吉報を持って主人らの到着を待っていた。


 ゴールした海賊船を停泊場まで案内するスタッフに続き、その後を共にするハオラン。船から降りて来たシュユーやフーファンらと、抱擁や握手を交わしていく。


 そして、漸く再会を果たしたチン・シーへ、一位で到着したという報告をする。すると船員達は大いに盛り上がり、宴だと言わんばかりに足早に会場へと乗り込んで行く。


 チン・シーはこれ以上ない働きをしたハオランに賛美の言葉を贈ると、彼のエスコートの元、他の者達も居る会場へと共に歩み出した。


 中心からやや外れたところで、雰囲気を楽しみつつ大人しくレース終了のアナウンスを待っていたシン達一行。ロロネー戦以来の再会を果たしたチン・シーは、彼らへの感謝とレースでの活躍を労った。


 「お前達も、無事に到着出来ていたようで何よりだ」


 「アンタ達のおかげだよ。感謝する」


 初めに言葉を交わしたのはミアだった。彼女とチン・シーはよく似ている。顔や容姿といったものではなく、その何事にも物怖じしないところや男勝りなところ。


 そして、言葉以上に深く考えているところなど、周りの者達に信頼される頼もしさを持っている。シンやツクヨも、彼女のそういった部分に助けられており、同時に頼りにしている。


 「ふっ、相変わらずだな。その物怖じせぬところは。気に入ったぞ、海が恋しくなったらいつでも我が海賊船へ来るがいい。歓迎するぞ」


 「アタシも、アンタとは気が合いそうだよ。でも、やらなくちゃならないことがあるんでね・・・。またにしておくよ」


 シュユーやフーファンは、主人である彼女がここまで口にするのも珍しいことだと、如何に居心地のいい場所であるかを補足するようにシン達へ語り出す。


 無論、チン・シーが悪い人間ではないことは重々承知している。それに、話を聞いていると海の旅も、それはそれで悪くないとも思えてくる。


 だが、目的地が定まっていない上に、船旅にもなれていない身では生活にも支障が出てしまうだろう。何よりシン達の探し求めるものが、海にあるとは考えずらい。


 リヴァイアサンやロロネーの一件のような、各地で見られるWoFというゲームの仕様上、プレイヤーが攻略出来ない難易度になっている異変を海で探すにはあまりに広大過ぎてしまう。


 それならば、大陸を渡り各地で情報を集めながら探索する方が、彼らの目的を探すという意味では、的が絞られる。人が多く、イベントがあちこちに設けられている陸地の方が、異変に遭遇する可能性も高いだろう。


 本気かお世辞か、シン達との会話を終えた彼女らは、レースの疲れを酒で洗い流すように宴の会場へと向かい始める。そして、未だゴールを目指す海賊達の到着を待つ、ひと時の間を満喫した。


 その後、多くの海賊達が着々とゴールへと辿り着き、会場の雰囲気も総合順位の発表へ向けた準備が着々と行われていく。その中には、姿を見せなかった海賊も多くいた。


 シン達に関わりがあるところで言えば、デイヴィスやロバーツ、アンスティスなどがその例に上がる。他にもレースの途中でリタイアした者や、姿を消した者、命を落とした者もいる。


 レースや海に問わず、彼らが中心となって語られているだけで、当然その周りや知らぬところでは別の物語があり、別の主人公がいた。そして物語には必ず終わりが来る。


 今回がたまたまシン達だけではなかっただけで、彼らを飲み込もうとする運命の流れ確実に迫っていた。




 ゴールした海賊、消息不明の海賊、死亡した海賊達。


 チャールズ・ヴェイン。

 レイド戦にてリヴァイアサンとの対決に参加。召喚を駆使した戦いを繰り広げるも、終盤では魔力の消費が響き大きな戦績は残せなかった。その後、リヴァイアサンの血海に飲まれ大幅な足止めを食らうも、無事にゴールへと辿り着いた。


 グレイス・オマリー。

 シンと共に、ロッシュ・ブラジリアーノを倒した後、仲間達の回復を図りながら先に行ったシンの後を追うも、レイド戦には間に合わず。しかし、戦地に広がっていた血海を避けて通ることで、大きく遅れを取り戻すことに成功しゴール。


 ロッシュ・ブラジリアーノ。

 ロロネーとの利害の一致により、グレイスの足止めをすることとなる。その特異な能力で人を操作するという実験を行っていたが、グレイスらとシンの活躍により死亡。


 フランソワ・ロロネー。

 チン・シー海賊団へ戦いを挑むも、彼女らの奮戦とミアやツクヨの参戦、そしてロッシュを倒しやって来たシン達による激闘の末、霧と共にその姿を消した。


 ハウエル・デイヴィス。

 妹であるレイチェル・デイヴィスの仇、或いは奪還を目指しキングへ戦いを挑む。そこで妹とキングの真実を知るも、嘗ての同胞であるウォルターによって、妹と共に殺害される。


 ウォルター・ケネディ。

 元はアンスティスの元にいたが、レース中に行方を眩ましロバーツ海賊団へと紛れ込む。デイヴィスへの根深い恨みを果たすべく、彼がキングを襲撃した隙を突き、その祈願を果たす。その後、レイド戦から逃亡し行方不明となる。


 バーソロミュー・ロバーツ。

 謀反を起こしたウォルターを討ち取るべく、新たに手を組んだ仲間と共に逃げ出した彼の後を追い、同じく行方不明となる。


 デイヴィスの元同胞ら、シンプソンとアシュトン、そしてアンスティス。

 謀反を起こしたウォルターと、政府に雇われた海賊達との戦闘後、デイヴィスとの約束を果たし、レイド戦へと戻り、その後は他の海賊達と同じく、血海を抜けゴールへと辿り着く。


 アンスティスは、自身の部下でありながらウォルターの思惑を知ることが出来ず、デイヴィスを殺すという目的の為、利用された。信頼していたデイヴィスを殺され、責任を取るべくウォルターを追うが、直接手を下されることもなく罠にかかり殺害される。


 ジョン・フィリップス。

 アンスティスと別れた後、ロバーツらと合流。デイヴィスが到着するまで共にレイド戦へ挑むが、アーチャーやモーティマーらといった裏切り者が現れ、船団は混乱に陥る。レイド戦終了後、血海に巻き込まれながらもレースを完走し、裏切り者達を指名手配する。


 アーチャーやモーティマーら、デイヴィス軍からの離反者達は、ウォルターと共に手を組み、レースを離脱。その後行方不明となる。


 政府に雇われていた海賊らは、キングの首を狙うことに躍起になっていたが、デイヴィスの同胞達に拒まれ、作戦が破綻。目的も達成できぬまま、おめおめと政府の元には帰れぬと。行方を眩ます者達と、そのままゴールを目指す者達とで別れる。

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