デイヴィスの幸運
船へと戻って来たデイヴィスは、一堂に会するそれぞれの面々を、計画実行の為のポジションへ向かわせる。攻めと守り、どちらも均等に揃えられたバランスの良い軍を有するシンプソンの船団は、団結力に不安の残るフィリップス海賊団と合流させる事に。
そして、潜水艇を有し、奇襲攻撃やトリッキーな動きが可能なアシュトン海賊団と、逸れてしまった腹心で在るウォルターを抱えていたアンスティス海賊団は、ロバーツ海賊団の元へ向かい合流する。
デイヴィスやシン達の乗る船は戦場に紛れ、キングの船を視認できる位置へと移動する。リヴァイアサンの弱体化により勢いづく海賊達。キングの船団も、その例外ではなかった。
一気呵成に畳みかけ、ダメージを稼ぐシー・ギャングの一行。炎の柱を海上から天へと向けて打ち建てるジャウカーンの魔術隊。かまいたちの如く、目にも止まらぬ斬撃を放ち、次々に鱗を弾き飛ばしていくスユーフの剣術。
リヴァイアサンとの戦いで、無惨に散っていった海賊達の魂とも呼べる海賊船の瓦礫を集め、錬金術で別の素材へと作り替え、武器や炸裂砲弾、船の強化素材など、まるで彼らの魂を再び戦場に連れ戻すように、守りを固めては報復の機会を与えるダラーヒムの船団。
唯一、リヴァイアサンとの相性が悪いトゥーマーンだけは、キングの船を守るため防衛の陣形を取り、リヴァイアサンの攻撃に備えていた。
「デイヴィス・・・!キングの船団を守るように、別の船が邪魔をしているが・・・?」
「あれはシー・ギャングの幹部の一人、水の精霊術師トゥーマーンだろう。奴の能力は海の戦場において、無限の攻撃手段を有する武具の宝庫と言える。だが、それもあのモンスターの前では霞んじまうな・・・。あれでは完全にモンスターの劣化版だ。攻撃が通じないのなら、守りに徹するしかないという訳か・・・。こいつぁ、一筋縄では行かなそうだな」
シンのスキルを使い、キングの船を目指そうにも、これだけ守りを固められてしまっては不用意に近づくことは出来ない。影の中を通り、気付かれずにキングの船に乗り込めそうなものだが、そもそも海面に人を入れて移動させるだけの影を落とすというのが困難であり、繋影で船と船の影を繋ごうにも距離が足りない。
「アシュトンの潜水艇を連れ戻した方がいいんじゃないか?」
「いや、潜水艇では近づくことは出来ても、海面へ姿を現すことが出来ない。あんな敵陣のど真ん中で浮上してみろ。格好の的にしかならんぞ・・・」
不審な船が近づけば、間違いなく攻撃されるか拘束されてしまうことだろう。それに、トゥーマーンの水の守りも在るのだ。それだけ、何処から来るかも分からない攻撃に備え、すぐにキングの指示を実行でいるほど緊迫した状態であった。
何とかして彼女の守りを崩すか、掻い潜らなければならない。しかし、当然ながらキングへ直接攻撃するまで騒ぎなど起こせない。それでは、一体何のために協力者を集めたのか分からなくなってしまう。
初めから正面衝突など、それこそキングによって返り討ちに遭うだろう。リヴァイアサンの巨体を中に引きづり出してしまう程の、能力と広範囲スキル。集団もまた、キングの格好の的なのだ。
「ならどうするんだ?とてもではないが無視できるものでもないし、その水の精霊術師とやらを先に暗殺するか?」
「それも無くはないが・・・。恐らくは途中でキングに気づかれてしまう。だが、やはり俺は運が良い。お前達に出会えたことは、何よりの幸運と呼ぶべきだろう・・・」
そう言ってデイヴィスが取り出したのは、道中ツバキがアシュトンのスーツを参考にして発明したガントレットだった。内部にアンカーとワイヤーが仕込まれており、それを引っ掛ける場所さえあれば、水中という不自由な環境下であっても、ある程度自在に動くことが可能になるものだった。
潜水艇ほど大きなものでは気づかれてしまうが、二人程度の人間の大きさであれば、戦闘中の彼らに気づかれる心配もないだろう。幸い、海上にはリヴァイアサンが生み出す小型のモンスターがウヨウヨしている。アンカーを引っ掛ける場所には困らない。
トゥーマーンの守りを掻い潜り、内側に入り込んだ後で、シンの影に取り込んだボードを取り出しキングのいる船に接近する。繋影が可能な距離にまで近づけたら、ボードごと姿を隠しキングの船へ乗り込む。これでシンの役割は終了する。
その後、シンは自身の船へ戻り仲間と合流。デイヴィスはキングを暗殺した後に、信号弾でロバーツら協力者へ合図を送る。全ての戦力を注ぎ、シー・ギャングの幹部ら生き残りを始末すれば計画は完了する。
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