雷雲に巣食う蛇


 固定されていた大波を徐々に解除していき、緩やかに周囲への被害を抑え何事も無かったかのようにやる過ごしていくトゥーマーン。その間、キングは蟒蛇の身体の変化を観察していた。


 これまで超回復を見せてきた蟒蛇の身体が、切断によってどのような変化を見せるのか。キングの能力を解除されたその巨体がゆっくりと海の底へと沈んでいく。次第に肉眼では確認できないほど、深い水深にまで辿り着こうとしていた。


 これでは蟒蛇の身体を切断したことが果たして効果的であったのか、その確認が取れなくなってしまうと眉を潜ませるキング。だが、彼のそんな心配をよそに、蟒蛇の身体は見たことのあるような変化を見せる。


 蟒蛇の身体が水面から姿を確認出来なくなってしまいそうになったところで、切断された断面付近に淡い光が集まり出す。これはスユーフとハオランが、蟒蛇の身体に風穴を開けた時の再生能力の現象に酷似している。


 「・・・これはこれは・・・。切り落としても短くなる訳じゃぁないのね・・・。つくづく呆れた再生能力だことで」


 キングは苦笑いをしながらも、額には一粒の汗を垂らしていた。全身全霊を込める程の攻撃ではなかったが、最大級に重たい一撃をお見舞いした筈のキングだったが、その一撃を持ってしてもこの蟒蛇の再生能力を凌駕することは出来なかった。


 レイド戦攻略の目標である、巨大蟒蛇の討伐に暗い影を落とす。キングクラスの実力者であっても、その再生能力の前に手も足も出ないのでは、果たして蟒蛇の体力を削り切るまでにどれだけの時間と労力が必要になるのか、分かったものではない。


 時を同じくして、エイヴリー海賊団もまた海と空に這いずり回る蟒蛇の姿に面食らい、手をこまねいていた。船長であるエイヴリーを乗せた、複数の海賊船をクラフトして組み合わせた戦艦では、レールガンの次弾装填の準備が行われていた。


 「急ぎレールガンの準備を完了させろ!雲に隠れてやがる魔物は、俺達で仕留める。海上のは他の奴らに任せときゃぁいい」


 レールガンの一撃により、最初に姿を現していた蟒蛇は倒せたように思われたが、深海にその姿を消した後に、今度は海だけでなく雲の中にも現れた蟒蛇。空と海に挟まれより一層の悍ましさを増していく戦場。


 海上はともかく、雲の上ともなると攻撃の手段が限られてしまう。通常の海賊船であれば砲撃が行えるが、角度をつけるのが難しく船の位置どりが重要となる。そして何より、何の能力もスキルも乗っていない砲撃では、蟒蛇に有効なダメージを与えることが難しいのがネックとなる。


 シャーロットの氷の能力や、フィリップスの磁力操作のような能力では、遠く離れた雲の上の蟒蛇を攻撃することは出来ない為、海賊団同士の連携だけでなく分担も重要になってしまった。


 エイヴリーの指示を待たずして、レールガンの準備を整えていた船員達。その甲斐あり、装填までに然程手間取らずに準備を完了することが出来た。すぐに砲身を上に向け、雲の上の蟒蛇に狙いを定める。近場の部位ではなく、砲身の上昇に伴い最も角度が合わせやすい部位を狙う。


 そして再び、強い光を集めエネルギーを蓄積するレール。狙いを定め後は船長の合図を待つだけとなり、船員の一人が彼に声をかけると、エイヴリーが威勢の良い号令で発射の合図を出す。


 最大戦力の攻撃が上空に巣食う蟒蛇の身体に向けて放たれる。雷光のように一瞬の輝きが一つの線のように景色に差し込む。すると突然、雲の中より雷鳴が走り、蟒蛇に向けて放たれた攻撃に向けて至る所から雷が集まると、レールガンの攻撃と衝突する。

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