嘗ての同胞達

 ウォルターの放った砲弾は、船の砲台から撃たれた砲弾と相違ない勢いで大波へ飛んで行った。通常の砲弾は波に飲み込まれ不発に終わるものもあれば、爆発を引き起こすものも見られる。


 その中で一際目を引いたのは、ウォルターがその手から生み出した砲弾だった。他の砲弾と同じく何事もなく波に飲まれると通常の砲弾の爆発とは違い、煙を立てず波の内側から破裂するような変わった現象を引き起こした。


 彼の能力で生み出された砲弾により、大波はその隊列に大きな穴を開けられバランスを崩す。穴を埋めようと周りの波がこぞって集まり、衝撃を生むことで全体の勢いを鈍らせていた。


 「全く、味方にいると頼りになる能力だな。是非ともお前とは、今後とも協力関係でありたいものだぜ、ウォルター」


 「そいつは良かった。俺もアンタとやり合いたくはねぇからな・・・」


 「変幻自在、不可視の爆撃・・・レヴェリーボマーの力は健在か」


 アンスティスの腹心であるウォルターのクラス“レヴェリーボマー“は、通常の爆弾を扱う機工士などとは違い、自身の魔力によって生み出した爆弾や爆発物などを、火力や範囲、大きさなど細かくその性能を変えることができる。


 そして何よりも恐ろしいのは、ウォルター特有の能力を上乗せした爆弾。ロバーツが口にした通り、術者やその関係者以外に見えなく不可視の爆撃、幻視爆弾による攻撃は、知らず知らずのうちに体内へと侵入していくと、内部から破裂させる何とも恐ろしい物を扱う。


 彼の砲撃に続き、続々と他の海賊船からも砲撃が放たれる。その砲撃の中には他にも目を引く幾つかの現象が見られる。


 ロバーツの船団から少し離れた位置にいる海賊船。そこから放たれる砲弾は、大波へ近づくと突然方向を変え、砲弾同士が引かれ合うように集まり衝突し、大きな爆発を起こしていた。


 ジョン・フィリップス海賊団。


 彼等もまた、且つてのデイヴィス海賊団から派生した海賊だった。フィリップスはデイヴィス脱退後、アンスティスの元で海賊のキャリアを積み重ね、後に独立。海賊界隈で目覚ましい活躍を見せる。


 そんなフィリップスの元には、多くの有力な海賊達が集まり、他の海賊船からやってくる者も多くいた。故に内部での抗争も絶えなかったが、それが彼の船長としての潜在的な才能を引き出していくこととなる。


 デイヴィスやロバーツとは違い、彼の方針は自由度が高かった。それは様々な海賊船出身の船員が多くいたことが影響していた。それぞれの船での方針を聞き、彼が共感できるものは積極的に取り入れていき、船員達をまとめ上げていた。


 曲者ばかりの荒くれ者達を率いるフィリップスの能力は、同じ性質を持つ物体同士を引き付けたり突き放すことができる“磁力操士“と言うクラスの能力。彼の磁力を帯びた砲弾は互いに引かれ合い衝突することで、任意の場所、タイミングで爆発を引き起こすことが可能。


 これにより、大波と接触するところで爆発を引き起こし、その勢いを削いでいた。


 「見覚えのある爆発だな。あれは・・・ウォルターか?何故ロバーツの船にいる?計画に変更でもあったのか・・・。アンスティスが何処かにいる筈だが・・・どこだ?」


 ウォルターとアンスティスの関係性を知っている彼は、ウォルターがこの場にいると言うのであれば、何処かにアンスティスがいるのではないかと思っていた。彼等がデイヴィスと合流する部隊であることは、事前にロバーツより報告を受けている。


 聞いていた予定とは違うロバーツやウォルターの動きに、不信感を抱いていたフィリップス。そんな中で彼が信用しているのは、ウォルターの所属する海賊団の船長、アンスティスだった。


 彼の性格や、デイヴィスへの信頼などからアンスティスが一番、裏切りや悪事から程遠い人物であると感じていたからだ。それに彼は研究熱心で、そんなことの時間や労力を割くとは思えない。


 しかし、フィリップスがいくら探そうとこの場にアンスティスはまだ到着していない。多少予定とは違ってしまったが、アンスティスは無事デイヴィスと合流し、シン達と共にこの場へと向かっている最中なのだから。


 「まずはあれを何とかしなくちゃな。他の連中の手助けもしてやるか・・・。ナット!両翼の船団へ距離を空けるよう伝えろ。スパークス!砲撃だ!手を止めるなよ?」


 ジョン・ナット。フィリップス海賊団で航海長、並びに操舵手を務める幹部の一人。航海術に富み、船の操縦は彼を置いて右に出る者はいない。航海の全てを一任するほどフィリップスは彼のその実力を信頼している。


 ジェームズ・スパークス。フィリップス海賊団で砲手を務める幹部の一人。砲術士のクラスに就き、フィリップスの能力との相性は抜群。彼等の連携は、敵船を近づけることなく戦闘を終わらせるほどだ。


 彼等の連携は、レイドに挑む海賊船団に襲いかかる大波を、広範囲に渡って迎撃し、活路を開く。ロバーツやフィリップス海賊団の他にも、多くの勢力が後に続く海賊船団。


 その中には、デイヴィスが言っていた政府公認の者達や、各々の条件で政府に加担する海賊達の船団も集まっていた。表向きには、物流の為のルートを荒らすモンスターやレイドのボスの排除が目的だが、デイヴィスの計らいにより、キングの戦力を削ぐことが本当の目的となっている。


 今や国同士の連合政府よりも力をつけつつあるキングの組織。これ以上の成長を阻止する為にも、海洋事業を遅延、鎮圧する目的でデイヴィスの誘いに乗り、あわよくば海賊同士の抗争でキングを始末しよと目論んでいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る