襲撃の真相

 彼らの奮闘のおかげで、モンスターの意識は海中へと集中し、海上のアンスティス海賊団の撤退はスムーズに進んだ。デイヴィスの呼びかけにすぐに応じたのは、船長と一部の船員達が彼の声に聞き覚えがあったからだろう。


 突如現れた見知らぬ一隻の船に、何も疑いもせず従い広範囲に散らばってしまった船団へも、撤退の指示を送る。海中では依然、モンスターによる爆撃が行われているようで、鈍く低い爆音が海の中で響くと海面に大きな水柱が打ち上がっていた。


 魚雷型のモンスターは標的になったアシュトン一味へと射出されると、まるで生き物のように追尾し獲物を逃さない。殆どの場合、これらの攻撃を回避する術は、水中で自在に動く事の出来ない者達には不可能。


 命中する前に起爆させるか、囮を使いやり過ごす他ないのだが、彼らの身に付けているスーツは通常水中での戦闘に圧倒的なハンディキャップを抱える人間に、大きな力を与えている。


 水中をテリトリーとする相手に劣らぬ動きで近接戦を繰り広げる部下と、それをサポートするように複数の人形を操りながら、自身でもモンスターを仕留めていくアシュトン。


 鯱のモンスターが魚雷型の小型モンスターを射出しようとすれば、スピードを重視した魚型の人形で体当たりさせ、大きく体勢を崩させる。船長の動きを察し、人形のサポートを受けバランスを崩すモンスターへ斬りかかり、ダメージを稼ぐ。


 戦闘を掌握するアシュトンに気づき、直接魚雷を撃ち込んでくるモンスターもいたが、彼のワイヤーが魚雷へ繋がると大きく旋回し軌道を変えると、敵のよこした魚雷をそのまま投げ返した。


 アシュトンの身体に取り付けられたリールは、人形を操る為のワイヤーを収納しており、それは自身の道具だけに留まらず、相手の物にも繋げることが可能なようだ。巧みワイヤー捌きでモンスターや味方を操り、戦闘を演出家のように構成していく。


 その頃、無事に島へと辿り着いたデイヴィス達とアンスティス海賊団は、当時別れて以来の久々の再会を果たす。船から降りたデイヴィスは、側に停泊されたアンスティスの船へと歩み寄る。


 「久しぶりだなッ、アンスティス!どうだッ!?元気にしてたかよ!」


 彼の声に誘われるように船内から姿を現したのは、白衣に身を包んだ目の周りにくっきりとした隈を携えた、長髪の男。毛鉛鉱的とは言えぬ細身で、一切肌を露出させず、手には黒い手袋を装着している。


 「ふ・・・再び会えるのを楽しみにしていたよ、デイヴィス。やはり君じゃなければ、奴らをまとめることなど出来なかったよ・・・」


 「・・・色々とあったようだな。特にロバーツの奴と・・・」


 デイヴィスが特別ロバーツのことを気に入っていたことは、当時のアンスティスも知っていた。故に彼が抜けた後、ロバーツならデイヴィスの意思を継ぎ、今まで通り荒くれ者共をまとめ上げていくのだと思って、船長という気質ではない自分を理解していたアンスティスはロバーツ海賊団についていくことにした。


 それが二人の間に、消える事のない大きな亀裂を生むことになるとは、当時のデイヴィス海賊団の誰もが知る由もなかった。


 「あ・・・アイツは、君の作り上げてきたものを台無しにした・・・。そんな奴に、何故君が入れ込んでいるのか理解出来なかった。こ・・・今回の計画に奴も呼んだのかい?」


 「ロバーツの戦力は必要不可欠だ・・・。それに、アイツは計画のことを知って色々と根回しをしてくれていたんだ。だからあまり無碍にしてやってくれるなよ・・・?」


 「・・・わ・・・悪いけど、いくら君の頼みでも僕の一味は奴と接触する気はないからね・・・」


 「安心してくれ。直接お前達とロバーツが接触する必要はない。合図があったらキングの船を一斉攻撃するだけだ。連携は各自で行ってくれりゃぁ、それで構わんさ」


 アンスティスの反応から、アシュトンが言っていた通り昔の様子とは変わっていることが伺える。以前はこんな様子ではなかった。アンスティスもロバーツも、他の船員達もデイヴィスが船長を務めていた頃は、こんな蟠りなどなかったはず。


 もしかしたら、そう思っていたのはデイヴィスだけだったのかも知れない。表面上の人間関係だけでは、本当の胸中を測り知ることなど出来ないのだから。彼らもまた大人であり、デイヴィスの前では仲良くしていたが、実際は別に抱えているものがあったのかも知れない。そしてそれは、仲間内だけではなくデイヴィスに対してもだ。


 「あ・・・アシュトンは、大丈夫だろうか・・・」


 「アイツなら大丈夫だ。水中で奴ら程動ける奴もそうはいねぇ。それにあの程度のモンスターにやられるような奴らじゃない筈だろ?」


 「た・・・確かに。アシュトンは僕ら元同胞の中で、誰よりも海中に詳しい。戦ってはいけない相手ぐらい心得ている・・・か」


 海面と中では、注意すべき対象とその数にも違いがある。水中を進む潜水艇に乗るアシュトンらは、他の海賊に襲われることは少ないが、その分水中を縄張りとするモンスター達との接触が非常に多い。


 その為、こちらから手を出さなければ大丈夫な相手や、好戦的で接触を避けるべき相手、そもそも相手にしてはいけないモンスターなど、所謂生態系に詳しくなければ直ぐに彼らの餌食となってしまう世界で生きている。


 つまり今、アシュトンらが戦闘を行っているということは、倒せない相手ではないことを意味する。もし危険な相手なら、戦闘は行わず誘き出し注意を逸らせた後に撤退してくる筈。


 どの道、水中への攻撃手段を持たない彼らにできる事はない。余計なことをしてアシュトンらの手間を増やすよりは、彼らに任せておいた方が良いだろう。


 海を進んでいれば、海面付近にやって来たモンスターに襲われることも少なくはない。だがアンスティスらを襲っていたモンスターは、その中でも水深が深めのところを縄張りとするはずのモンスター達だった。


 それが何故、海面付近までやって来て彼らを襲っていたのか。デイヴィスはその原因が何なのか、身に覚えがあるかどうか聞き出した。


 「だが、何故あんなところで立ち往生していたんだ?直ぐに逃げればよかっただろ?」


 「あぁ・・・それはそうなんだが・・・。奴ら、僕らの船が上を通りかかった途端に襲い掛かって来たんだ。事例の少ないことだったから、少し気になってしまったんだ・・・」


 どうやらアンスティスも、この珍しい襲撃が気になっていたようだった。元々研究熱心な気質であった為、疑問に感じることがあれば解き明かしたいと思ってしまう節がある。


 きっと彼は船員達に止められながらも、自分達の身の安全よりも探究心が優ってしまったのだろう。それだけは、デイヴィス海賊団時代から何も変わっていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る