消えたギルド

 一行は船で待つ仲間の元へと歩みを進める。途中、シンは自分の拘束スキルから抜け出したことについて、デイヴィスへ尋ねた。それは彼にとって見覚えのあるスキルだったからだ。アサシンのクラスへクラスチェンジする過程で身につけるスキル。それをデイヴィスが習得していたことになる。


 「アンタ・・・シーフのクラスなのか?」


 「ん?・・・あぁ、罠抜けのスキルのことか?ははは!懐かしそうな顔をしているな。アンタの想像している通りだよ。俺は以前シーフのクラスに就いていたからな」


 罠抜けのスキルは、盗賊やシーフのクラスで身につけることとなる基礎スキルの内の一つ。その名の通りトラップや相手の拘束から抜け出すことの出来るスキルで、先程のデイヴィスのように敵を出し抜いたり、潜入の為敢えて捕まり捕虜を開放するなど、単純でありながら様々な使い方が出来る便利なものだ。


 だが、彼の言葉から更なる情報を得ることができた。残念ながらシンの予想していたクラスとは違ったが、どうやらシンのクラスに近しいものであることが分かった。このまま道すがら彼の事を聞き出しておかねばと会話を進める。


 「就いていた・・・?今は違うということか?」


 協力する上で、味方が何が出来るのかというのは最も大切だと言っても過言ではないだろう。デイヴィスはシン達の大方のクラスを把握しているようだが、シン達は彼の事を知らない。正式に協力を決断したら、彼の口から語られることかもしれないが、決定権を委ねられたシンにとっては彼から得られる情報も判断材料になる。


 「そうだ。俺のクラスは“忍者“。アンタのアサシンと近いクラスだな」


 「だから罠抜けが・・・。ということは、俺と基礎スキルは大体同じという訳か・・・」


 シンとデイヴィスのクラスは、基礎的な部分ではほとんど大差はない。だが成長すればする程、その違いが現れてくる。シンのクラスであるアサシンは、より暗殺やバックアタック、クリティカル攻撃や弱点部位の特定などに特化した物理よりのクラス。


 デイヴィスのクラスである忍者は、忍術による属性攻撃や自身と味方、それぞれでサポート可能な補助スキルなど、より魔力に依存した謂わば魔法職に近いクラスになる。


 上位のクラスへクラスチェンジする為、経て来た過程が同じであっても行き着く場所が違へば、その基礎スキルの応用方法も変わってくる。例えばシンのクラスであるアサシンが手裏剣を投げれば、それは投げ方や方向によってある程度軌道が予測できる。


 しかしデイヴィスの忍者であれば、風の魔力を込める風遁を使い軌道をズラすことが出来る他、刃の部分を風の魔力で延長し攻撃範囲を広げることも出来る。逆にシンであれば手裏剣の到達箇所に影を仕込むことで、相手の視界外の場所から攻撃を当てることが可能になる。


 「だから、アンタがアサシンのクラスであると聞いた時は驚いたよ。俺がクラスチェンジする頃には既に、アサシンのギルドの噂を聞かなくなっていたもんだからな・・・。それもあって俺は・・・」


 デイヴィス隠すこともなく自らのクラスを明かしてくれた。本来であればシンの決断を待ってから明かすべき所を、彼は敢えて自らの情報を提示することでシン達の信用を得ようとしていたのかもしれない。


 だが、彼の情報の中にはシンが疑問に思っていたことに対するヒントが含まれていた。それはアサシンギルドの情報。デイヴィスがいつ頃から忍者のクラスに就いたのかは分からないが、どうやらシン達が送り込まれた世界はVRMMOのWoFとは違う部分がこれまでだけでも多く見られる。


 その中でもシンが気にしていたこと。このWoFによく似た世界では、アサシンギルドの所在が掴めないということ。何処の街や村を訪れようと誰からも有益な情報を得ることは出来ず、人の往来が多い聖都ユスティーチであっても、誰もアサシンギルドの事を知らなかったのだ。


 そして大陸間の情報伝達の多い港町グラン・ヴァーグでも、そのクラス特有のクエストやスキルの習得、専用装備などを得ることのできるギルドの情報は得られなかった。


 漸く知ることが出来た情報といえば、今まさに目の前の男の口から語られた、“アサシンギルドの噂を聞かなくなった“という情報だけ。そして不可解な点はもう一つある。この世界にアサシンギルドの情報が無い代わりに、シン達の元いた世界である現実の世界には、そのアサシンギルドが存在しているということだ。


 まだ現実の世界に起きている異変について、詳しく調べた訳でも聞いた訳でも無いが、もしも現実の世界にあるギルドが、シンのクラスであるアサシンのギルドだけだとしたら。この世界にアサシンギルドが無いことも納得がいく。


 「・・・ッ、・・・おいッ!どうした?急に考え込んで・・・。俺の話が退屈だったか?」


 デイヴィスの言葉で我に帰るシン。その様子を不思議そうに眺めるデイヴィスと、先頭を歩くミアが何か情報を掴んだのかという目で訴えかけてくる。二人の思惑とは全く別のことで考え込んでいたシンは、その場を上手く誤魔化し船への帰路へと意識を戻す。

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