冴える才と第六感

 上空のハオランは、下方にいるロロネーに向けて足技を放つ構えを取ると、くるくると空中で身体を回し、その脚に風を纏い始める。そして狙いを定めると、韋駄天の噴出力を加え剣閃が如く素早い足技で、かまいたちのような鋭い衝撃波を幾つも放った。


 ロロネーはたじろぐことなく、大きなダメージとなるものだけを選別し避けると、落ちてくるハオランを迎撃せんと剣を抜く。しかし、ハオランの韋駄天による空中移動を目にしているロロネーは、今度こそ逃さぬと剣を振るう前に反対の手を彼に差し伸ばす。


 「今度は逃さねぇ・・・!」


 するとロロネーの腕から水蒸気が漏れ出す。そして自らの腕を熱の篭った水蒸気に変え、目眩しを兼ねた広範囲攻撃を展開する。一瞬にして姿の見えなくなったロロネー。見失ったハオランは、一先ず水蒸気の範囲から逃れようと、韋駄天による風の噴出で斜め下へと後退する。


 無事、船に着地したハオランが立ち上がろうとしたところ、後方からの殺気に気づき前方へ飛びながら回転し、ロロネーの一閃を間一髪のところで避ける。だが後ろを向いた時には既にロロネーが接近しており、強烈な蹴りをハオランヘ浴びせる。


 辛うじてガードしたハオランだったが、背にした船内へ勢いよく吹き飛ばされていく。木材が砕け、船内の物品が散らばる大きな音を発しながら突き抜けていくハオランを、更に追撃せんとロロネーは変わった体勢を取り始める。


 低く身をかがめ、クラウチングスタートにも似た体勢から、自らの足を水蒸気爆発させ、上半身だけを爆風の勢いに乗せ大砲のようにハオランへと突っ込んでいった。ロロネーの勢いが巻き起こす風に飲まれ、シンとツクヨの身体も外へと吹き飛ばされ船の舷へと、激しく身体を打ちつけられる。


 「なッ・・・!?何て速さだッ!あのパワーでこんな速く動けるのかよッ・・・」


 「うぅッ・・・!私の目なら奴を追えるッ・・・。こんなところで倒れている場合じゃぁ・・・」


 二人とも満身創痍だった。あまりにも激しい二人の戦闘に、まるで竜巻を目の前にしたかのような圧力と風圧に心身共に押し退けられてしまう。


 船内へと蹴り飛ばされたハオランは、その勢いのまま中にある槍を手にすると、窮地に陥ったロロネーがやってみせたように、麻袋を狙い次から次へと鋭い突きを放ち、中身を散らばらせていく。そして韋駄天の風圧で勢いを殺し床に着地すると、追いかけて来るロロネーを迎撃する構えを取る。


 様々なものが風圧で巻き上げられる中を払い除けながら、ハオランの後を追うロロネーは、その先で突如として現れた槍を構える何者かのシルエットに肝を冷やした。しかし、ハオランでなければ警戒するに値しないと、ロロネーはそのシルエットの首を跳ね飛ばそうと剣を振るう。


 しかし、煙の奥から現れたのはハオランだった。予想だにしなかった槍を持つハオランの姿に驚かされたが、付け焼き刃の攻撃など通用する筈がない。何故彼が武器を手にしたのかは気になったが、慣れない武器での攻撃はかえって隙を作るだけと、構わずロロネーは突っ込んでいく。


 「武器を手にするとはッ!そんな付け焼き刃、俺には通用せんぞッ!」


 勢いよく向かって来る圧力とロロネーの挑発に、ハオランは落ち着いた様子で顔を上げる。そして槍を握る手に力が入ると、何やら奥の手でもあるかのような表情で言葉を返した。


 「試してみるか?いくぞッ!昇龍閃シォン ロン シャンッ!!」


 そして彼は、矛先を床につけた状態から目にも留まらぬ速さで斬り上げる。流れ込んでくる風や塵が真っ二つに裂かれ、左右で時空がずれているかのような錯覚を起こす程の凄まじい槍術に、思わず身体を右側に傾け、空間の裂け目を辛うじて避けるロロネー。


 室内を分ける壁の縁を掴み勢いを一瞬にして止めると、天井に止まりハオランに斬りかかろうとする。だが彼は、矛先を斬り上げた勢いをそのままに、槍を肩の周りで一回転させ逆手で掴み取ると、韋駄天の風を利用しかかとで石突を蹴り上げ、天井のロロネー目掛けて撃ち放つ。


 頭部目掛けて放たれたハオランの槍を、首を曲げて何とか回避したものの頬に刃物で切ったようの傷が遅れて現れる。そのままロロネーは剣を振るうも、その剣先が彼に当たることはなかった。


 ロロネーの振り下ろした剣の攻撃に合わせ、水面蹴りのように床に綺麗な円を描きながら回り、身をかがめる。ロロネーは数体の亡霊をハオランに差し向け、自身も下半身に霧を集め足を作ると、床に着地し追撃に加わる。


 ハオランの見せた水面蹴りは、一見空振りのようなただ回避するだけにしては無駄な動きのように見えたが、彼の蹴りで床に落ちていた二本の剣が宙に巻き上げられており、彼はその剣を左右両方の手に一本ずつキャッチする。


 その剣は刃が湾曲したカットラスと呼ばれる種類のもので、刀身が短めで狭い室内戦などで使用されるものだった。双剣を器用に手首の周りで回転させながら、とても武闘家とは思えぬ鮮やかな剣捌きで、亡霊を竹林に流れる風のように斬り伏せていく。


 僅かな時間稼ぎにしかならなかった亡霊達の最後尾にいたロロネーの刃を、ハオランの二枚刃が受け止める。ツクヨを捻じ伏せた力を、鍛え抜かれた腕と研ぎ澄まされた技術で見事に受け切るハオラン。


 「槍に続いて剣までも・・・。拳だけではなかったのか。何故複数の武器を扱える!?」


 無言で受け止めるハオランは、ロロネーの力を利用し身体を捻るように回転させ、刀身滑らせるように受け流すと、左右に持った剣でやや斜めに挟むようにロロネーの首を斬りつける。


 「双牙刃シュアン ヤー レンッ!!」


 ただの斬撃であれば避けるまでもないと、亡霊やロロネーの身体に常に付与されている透過の能力で対処しようとしたが、向かって来る刃の周りに薄っすらと空気の歪みが見えるのを見つける。チン・シーの海賊船に積まれている武器は、雌雄を決する舞台の前にシュユーが新たに積み込んでいたエンチャン武器であったのだ。


 当然、床に転がっていた剣はチン・シー海賊団の物で、亡霊との戦いで力尽きた船員が残した物だった。追い詰められたことで、勘が良くなったロロネー。ハオランの手にする武器がエンチャント武器であると見抜き、首から上を霧化させて緊急回避すると同時に身体を飛び退けさせる。


 一瞬の油断も許さぬ攻防を繰り広げるハオランとロロネー。重傷を負い、ダメージを抱えている状態とは思えぬ二人の戦いは、他を寄せ付けぬほど激しいものとなる。

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