怪異の天敵

 彼女が自分の部隊の者に指示したのは、扉を突き破って攻め込んで来たメデューズの討伐。その為の武器に、シュユーのエンチャントが施された雷属性の武器と、残り回数が僅かになった氷属性の武器を上手くやり繰りして戦うよう指示していた。


 しかし、攻め込んで来たメデューズが必ずしも本体と限らないので、全ては使い切らぬよう言い渡していた。


 そして、彼らとは別にミアには特別な役割が与えられていた。自軍の兵を利用しても構わないから、本体か分身体かを見極めるという役割だ。錬金術が使えるということで、モンスターの素材や各種アイテムの提供、そしてミアがメデューズの本体にダメージを与える為に用いた食塩を持たせた。


 チン・シーの指示はそれだけだったが、如何やら彼女の中には別の思惑があったようだ。天井からぶら下がる、上半身だけを少年の姿に変えたメデューズに、何らかの魔法の類で動けなくなる効果を付与し、彼の元へ歩み寄る。


 「アストラフォビア・・・。貴様に雷属性の耐性をダウンさせる効果を付与した。これで、純水だろうが何だろうが雷に弱くなったというわけだ」


 アストラフォビアとは彼女の言う通り、対象の雷属性に対する耐性をダウンさせ、雷を弱点にすることが出来る能力低下、所謂デバフ魔法の一種だ。ミアが命懸けで食塩をメデューズに溶け込ませるよりも、遥かに簡単で安全な方法だ。


 「ぼッ・・・僕を倒したところで、詮無きこと・・・。別の僕が、必ず貴方達を殺しますよ・・・」


 動けぬ身体で必死に抵抗するも、それはタダの負け惜しみにしか聞こえない。だが彼の場合、あながち嘘でも強がりでも無いことがミアには分かる。彼の言う通り、ここで彼を倒したところで本体を倒さなければ意味がない。


 しかしチン・シーには、彼のその特異な能力を看破する、最高に相性の良い力を持っていた。それは、このロロネー海賊団との戦いで何度も見せた、恐ろしく使い勝手が良く、統率の取れた彼らならではの戦闘手段。


 「何度も言わせるでない、戯けッ!貴様が本体であろうが分身であろうが関係ない。同じ波長をしている者を探し、繋ぎ合わせ同期させる・・・。貴様を媒体に、全ての貴様を“リンク”させる」


 彼女のその発言で、漸く答えの見えたミア。これまでの自分達の行いは、全てメデューズを油断させ、守りをわざとチン・シーから遠退けることで、総大将の首を取ろうと近づけさせる為の罠だったのだ。


 チン・シーの能力“リンク”の射程距離は、フーファン達の妖術による援護がなければ極めて狭い範囲となってしまう。そこで彼女は自らを餌にメデューズの警戒心を解いた。


 そして彼女のリンクによる効果は、船の各所で暴れ回るメデューズ達にも直ぐに現れた。何とか持ち堪えていた船員達の前で、突然動きを止めるメデューズ。それはシュユーやフーファン達のいる部屋も例外ではなく、一人メデューズと戦っていたシュユーはフーファンの援護があるものの、苦戦を強いられ辛うじて持ち堪えている程までに押されていた。


 「ッ・・・!?何故突然動かなくなった・・・?」


 突如として訪れた異様な展開に、各所では同じような困惑の反応をしている。これは攻め時なのか、それとも罠なのか。狡猾な手段を用いるメデューズを前に、どんなに優勢であっても迂闊に手が出せない状況。


 だが、それもチン・シーにとっては好都合なこと。これからメデューズに食らわせる技に、味方を巻き込まなくて済むからだ。彼女がそこまで計算していたかどうかは、誰にも理解出来ないが作戦は見事、絶妙なタイミングで実を結ぶ結果となった。


 「サンダー・クラップリンクスッ!」


 宙吊りになるメデューズに掌を向けて放ったのは、目にも止まらぬ閃光に轟音を鳴り響かせる凄まじい雷、疾風迅雷の雷撃が少年の身体を貫く。その稲光はチン・シーの海賊船を、まるで大爆発でも起こしたかのように激しく発光する。


 各所で迅雷を受けたメデューズ。船員達やシュユー達、そしてミアや精鋭達は目を光源から守るため手をかざす。


 痛烈な叫び声を上げながら苦しむメデューズから、そのダメージ量が伺える。チン・シーのリンクがメデューズと相性が良い要因に、一体に攻撃を当てればリンクしている全ての相手に攻撃が通るということ。


 そしてそのダメージは共有され、本体に集約される。即ち、単体で攻撃を受けるよりも遥かに強烈なダメージがメデューズに入っていることになる。


 チン・シーによる技の稲光が治ると、そこにメデューズの姿は跡形もなく消し飛んでおり、リンクを繋いでいる彼女にしか分からないことであろうメデューズ達のリンクが全て切れたことから、対象の消滅を確認した。

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