失われた秘宝

 彼の身の回りに降り掛かる不幸を人々は哀れんだが、それが彼自身によって引き起こされていることを誰も知らない。次第に彼は様々な人との繋がりを作っては、巧みにそれを利用して不仲な人間関係を浮き彫りにし、盗みを働いた。


 事前に作り上げた容疑者へ人々の注目を集めると、自らは民衆に紛れ事件の中心から離れていく。そうすることで、本当の犯人が誰とも知らず互いを疑い貶め合う姿を見て、愚かな責め合いを眺め哀れんでいた。


 こうも簡単に人の繋がりは壊れるのかと、彼の中から徐々に良心というものが消えていき、何のために人は他人に親切にするのかと考える。彼の導き出した答えは、そこに見返りがあるから、或いは利用する為なのだと結論付ける。


 それからというものの、ロッシュは多くの人間関係を壊して奪い、街を転々としながら渡り歩き、人間の操り方を身につけて行く。


 そんなある日、彼の腕を見込んで仕事の依頼をしていた者の知人から盗賊ギルドへの誘いがあった。いちいち準備を行い物を盗むことに飽きてきていたロッシュは、組織に属し行動することも学んでおこうと、その誘いを受け入れた。


 最初は大人しく組織に従っていたが、彼の働きと実績に、徐々に彼の周りには組織の仲間達が集い、一つの派閥として成長し始める。他の派閥よりも大きな勢力となった彼の派閥は、他を飲み込み成長していくと次第にギルドを掌握し始め、そのままギルドの意向を左右する程の地位にまで登り詰める。


 このままただの盗賊ギルドとして活動する事に窮屈さを感じ始めたロッシュは、その盗賊ギルドを私物化し始め、徐々に盗みの対象を大きな組織へと移しながら、財宝や武具を集めて行くこととなる。


 個として盗みをしていた頃よりも、組織として盗みを働いた方がより良い物を手に入れることが出来る。部下達は彼の元にいれば美味しい思いが出来ると士気を上げ、彼は利用できる駒が増えた方が様々な事が出来る様になる。本心はどうであれ、互いにプラスになる関係に満足していた。


 しかし彼の野心は治まることなく、今度は国を相手に侵略を試みようとした。流石にそれには部下達の間でも賛否が分かれ、彼は興味のある者だけで良いと話し、盗賊家業から足を洗おうとおもっていた者や、ロッシュに何処までもついて行くという者達だけを連れ、盗賊ギルドを残った者達へ譲渡し、ラドレインという国へと渡る。


 それまで手に入れた財宝を使い、ラドレインへ移り住むことになると、部下達とはそれぞれ別の形で国に潜伏することにした。一般人として街で暮らす者や、ラドレインを拠点に活動する冒険者を装う者、商人として物品のやり取りをしながら近隣諸国の情報を集める者など、その生活は多岐に渡った。


 ロッシュはラドレインに暮らす一般人として潜り込み、独自に身に付けた術で貴族の者達に取り入ると数年かけて、地位と権力を身に付けていった。そして彼の勢いは止まることなく国の中枢へと浸透していく。


 そして彼が王宮へと出入り出来るようになった頃、ラドレインの王家に受け継がれる秘宝の存在を耳にする。一国の王家が守る秘宝となれば極めて希少価値のある物だというのは、想像するに容易い。


 彼は早速身内の者達を上手く使い、今の王政に不満を持つ者達の企てに加担し、偽造工作を行った。それにより反対派の者達の勢いが増していくと、彼らの行動も過激になり王家へ反旗を翻す準備を進める。


 息を潜めていた者達も加わり、反対派の勢いは益々盤石なものとなると、国を

揺るがす程の争いが起こることになる。これにより王家は罪に問われる運びとなり、罪人となった王族は処刑される事になった。


 その騒動に乗じ、ロッシュは王家の秘宝を盗み国を脱しようと考えていた。しかし、幾ら探せど王家の秘宝など見つからず、あるのは金や財宝のみだった。ロッシュの掴んでいた情報は確かなもので、決して騙された訳ではない。


 この時既に王家の秘宝はグレイスの手に渡っており、ロッシュの手の届く範囲から無くなっていたのだ。故に何処を探しても見つかるはずなど無く、彼は初めて苦汁を味わった。


 それまで積み上げてきたものが無駄になり、長居をすればロッシュへの疑念を抱く者も出てくるやもしれない。悔いを残しながらも、留まる訳にもいかないロッシュは、ラドレインに住み続けることを選んだ者達を残し、国から姿を消した。


 時は流れ、海賊として名を馳せていたロッシュはフランソワ・ロロネーと出会い

、彼からロッシュが就いているクラスのパイロットの能力を更なるステージへ引き上げる術を学ぶこととなる。

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