紅蓮の海賊船
島に上陸し、ミアと別れた後ツクヨは海岸沿いを進みながら人の痕跡を探す。だが、それらしい物は直ぐには見つからない。あるのは争いが行われた後と思われる、凄惨な人の死体が打ち上げられているだけだった。
「一体何があったんだ・・・?とても人の仕業とは思えない。それに、何か妙だ。皆同じようなところに怪我を負っている・・・。これが直接の死因なのか、それとも殺された後で・・・?」
恐る恐る倒れている人の様子を伺うツクヨも、彼らの傷に目がいった。それだけ異様な雰囲気を醸し出す傷跡だったのだ。そんな死体がいくつもあり、辺りの砂浜や海水を赤く染め上げている。
すると突然、近くで大きな砲撃音が彼の耳に入り、脳髄に響くような衝撃を受けた彼は思わず耳を覆う。咄嗟に閉じていた目を開き、辺りを見渡すツクヨ。しかしそこからでは、一体何処の誰が砲撃を放ったのか視認することが出来ず、先ずは自らの安全を確保する為、近くの物陰に入る。
「何だッ!?砲撃ッ!?見られたのか・・・?」
突然の出来事に取り乱すツクヨだったが、これまでの経験のおかげか身体はしっかりと身を隠す行動をとっており、自身が思っているよりもこの世界でのトラブルに慣れてきているのだ。
隠れた物陰から音のして方向を見ると、そこには燃えるように赤い情熱の色で彩られた大型船と、それに追従する何隻かの船が彼の視界の大半を埋め尽くした。その赤い船団は流動的に海を渡っているのではなく、波に身を任せその場に停滞しているようだった。そして先頭の大型船からは、砲撃を放った後だろうか煙が上がっているのが見えた。
「何だ・・・あの船は!?いつの間にこの島に来ていた?いや、既に居たのか・・・。私達が気付かなかっただけで・・・。だが一体何を撃ったんだ?島を飛び越えて行くように砲弾が飛んで行った・・・、まさかッ!」
島の反対側に何があるのかと考えた瞬間、彼は自分達が乗って来た船を連想した。しかしすぐに冷静になると、それはあり得ないと自分を説得する。それもその筈、ツクヨがミアと別れ歩いて来た道程は、それ程長い距離ではない。なので島の反対側に到達する距離には遠く及ばないことが分かる。だが、それならこの船団は一体何を目掛けて砲撃を放ったのか。
「姉御、島に人影が見える・・・。だが奴らの部下じゃないようだ。それに島を荒らした犯人でも・・・ない?どうする、始末しておくか?」
「人だぁあ?おい、島の確認はしたんだろ?何故人影が出て来るんだい?」
大型船に追従する船の中の一隻から、一人の男が双眼鏡で物陰に隠れるツクヨの姿を見ていた。如何やらその男は大型船に乗る、この船団の船長と思われる者に連絡をとっているようだった。
報告を受けた船長が歩きながら甲板の前方へと足早に向かうと、その途中で船員の者に手を差し出す。直ぐに船員は船長の意を汲み、双眼鏡を手渡す。
船長の発した声色から勝気な女性であることが伺える。荒くれ者の海賊をまとめる船長となれば珍しくはないのだろう。そして渡された双眼鏡を目に当て、レンズ越しにツクヨの隠れたであろう物陰を注意深く探る。
船長の女はまだそれがツクヨだと知らない。彼女の発言から既に島に上陸し、財宝や人の有無の確認を終えた後のことだったようだ。そこで見た異様な傷跡を残した死体以外、人がいないと報告を受けている彼女が、物陰からこちらの様子を伺う為に身を乗り出したツクヨの姿を捉える。
「ぁあ?・・・何でアイツがここにいるんだ。ってぇことは、シン達も来てるのか?」
何と赤い船団の船長はツクヨのことを知っていたのだ。それどころかシン達のことまで知っている。船長の女が双眼鏡を覗くのをやめると、側にいた船員の者に放り投げると自ら小型船を出させ、島へ向かう。
「船長?貴方が行かなくとも言ってくだされば、我々が向かいますのに・・・」
「知り合いなんだ。アンタらじゃ警戒しちまうだろうし、それに・・・ここはもうすぐ戦場になる」
彼女の口から驚きの言葉が出てくる。如何やら彼女の船団だけは他の勢力と違い、明確な目的があって訪れていることが分かる。そしてそれは先程放たれた砲撃が、その目的のモノであることを意味していた。
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