現状の打開
グレイスの海賊船、シュユーやフーファンなどが所属するチン・シーの船団を求めて、順番に操縦をする三人。一人が操縦をしている間、二人は甲板で双眼鏡を覗きながら辺りを警戒していた。ツバキは操縦席からすぐ側で安静にし寝かせている。
「グレイス達の船はおろか、他の船も見当たらないな・・・」
「あぁ・・・そうだね。もう誰でもいいんじゃないかなぁ?船を見かけたらヒーラーはいませんか?と聞いてみよう。この調子で探しても見つからない状態よりは、望みがありそうじゃないか?」
甲板で話すシンとツクヨの会話は、中でハンドルを握るミアの元までは届いていない。エンジン音と波の音で操縦席まで外の音が届き辛くなっているからだ。それに彼女の耳に届いてしまっては困る。真面目な彼女が二人の会話を聞いてしまえば、どやされるに違いない。
「っと・・・、そろそろ交代だ。シン、それとなく彼女に話してみたらどうだ?」
「ん・・・まぁ、頑張ってはみるよ。期待はしないでくれよ・・・?」
双眼鏡をしまい、船内へ入っていくツクヨ。暫くして彼の代わりにミアが出てきた。これといった報告がないということは、ツバキの容態に変化は見られなかったということだろう。
先程の話を彼女に提案しようとするシンだが、どうやって話を切り出そうかと考えている内に、彼の素振りに気づいたミアに先手を打たれてしまう。
「どうした?なんかあったのか?」
「あ、そのぉ・・・。はぁ〜・・・君は勘が鋭いんだな。もしかして何か聞こえてた?」
ミアの勘の鋭さにはいつも感心させられる、戦闘の時は頼りになるが、日常では主にシンやツクヨが良からぬことを企んでいる時に働く。
「いや、あれだけチラチラ見られれば嫌でも気付くだろ。そういう視線・・・アタシ慣れてるから・・・さ」
そういうつもりで見ていた訳ではないのだが、何故かシンの視線に気づいた彼女の方が、表情に憂愁の影を差していた。だが、きっとミアが感じたその視線の正体をシンも身をもって知っていることだろう。
こんな経験はないだろうか。近くにいる人間が、自分の話をしているのではないだろうかと感じること。盗み聞きしようとしている訳ではない。薄っすらと耳に入る会話の単語が、自分の身の回りのこと、自分が気にしていること、少し前の自分に当てはまること。
そういったものが会話に含まれていると、自分のことを言っているのではないだろうかと感じてしまうことが。噂話や陰口を言っている側は、聞こえているのを知ってか知らずか、それを被害妄想だと言うだろうが、言われてきた側の人間はそういったものに敏感になっている。
シンもミアも、そういったものを経験してきた者だ。その時の感覚が蘇り、彼女の表情を曇らせていたのだろう。
「ごめん、そうじゃないんだ・・・。ちょっと相談しようと思っただけで・・・」
「分かってる、アタシもこのままじゃ事態が進展しないと思ってたところだ。船か・・・島でもいい、何か見つけたら立ち寄ってみよう」
彼女の“分かってる”と言う言葉に、シンは一瞬どっちの意味で言った“分かってる”なのか判断出来なかった。それは自分のことを、そういう事を言う人間ではないと“分かっている”という意味で言ってくれたのではないかとう期待が脳裏にあったからだ。
それでもミアはきっと両方の意味を込めて言ったことだろう。らしくないことを言ってしまい、急に冷静になった彼女は話をはぐらかして本題である今後のことについて話し始めた。
「そう・・・だよな!うん、丁度同じことを言おうと思ってたんだ。良かった・・・ミアも同じことを・ ・・」
彼女と違ってシンの早とちりからきた照れ隠しは、目も当てられないほど下手だった。ながらく人とこういったやり取りの会話をしてこれなかったのだから、仕方がないことだろう。そんな事をしているうちに、彼女が何かを見つけたようだった。
「おい、何かあそこに見えないか?あれは・・・島だ、小さな孤島。この際何でもいい、人がいなくても何か物資や調合の素材くらいはあるかもしれない」
そういうと彼女は無縁機で操縦席にいるツクヨに島があることと、その方角を指示した。これまでこの大海原で、会えるかも分からない船団を探すだけだった現状に漸く動きが見えそうだった。
徐々に目的の島に近づく中、発見した当事者のミアは島の様子を、シンは辺りの警戒をする。島があるということは、辺りに別の船がある可能性が高い。それにこのレースの特徴で、道中の至る所に財宝やレアアイテムが散りばめられていることから島に立ち寄ることも大いにあり得る。既に上陸されて物資も奪われていれば戦闘に成りかねない。
さらにシン達は、少人数チームの欠点にもなり得る重大な問題を抱えている。それは戦えない負傷者を抱えているということ。更にその負傷者を絶対に失うことの出来ない状況にあることだ。
負傷者を放置することは出来ない。更に最低一人の行動が制限されてしまうこと。最悪の場合、人質に取られてしまうという敗北に等しい状態に陥ってしまう。故に可能な限り戦闘を避けたくなるのは必然だろう。
「まッ・・・待て!・・・島の様子がおかしい・・・」
島を警戒していたミアが、突然声を荒立てる。何事かとシンが尋ねると、彼女から島に起きている異様な光景が伝えられる。
「バラバラになった船の残骸と・・・・・、入江が・・・・・真っ赤に染まっている・・・・・」
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