詳細不明の投資
「レース参加を迷っておられるのならば、明日のセレモニーを御覧になられた後でも遅くないと思いますよ?まぁ・・・海を渡る用意が出来ていればの話ですが・・・」
あまり自分達の話をされるのが嫌なのか、シン達の方へと会話の主旨を挿げ替えるシュユー。参加の条件は難しいものではなく、海を渡って目標の場所まで辿り着ければ、乗り物は船に限らず何でも良いという。しかし、条件として海面や海中といった海に触れているモノでなくてはならない。
参加できないモノとしては、飛行しているモノが代表例となる。あくまで海のレースという趣旨の元開かれているイベントなので、当然といえば当然と言えるだろう。
「セレモニーは明日?それじゃぁレースって・・・?」
セレモニーが開かれるとなれば開催は間近であることは何となく予想できるが、レースの内容や参加する者達の情報ばか聞いていたため、ここに来て彼らはそもそもレースがいつ行われるかについて耳にしていなかったのだ。
「その翌日になります。つまり明後日、ですね」
それを聞いて、どうしてツバキが自身の船に乗ってくれる者を焦って探していたのか合点がいった。しかしそれを聞いて尚更、少人数で参加を希望し、未だに何で海を渡るか決めていないチームなど見つかるはずも無いと思う一行。
彼には悪いが、参加者を見つけてくるのは絶望的な状況であることに変わりない。ましてや自分達が参加をしようなんて、船に乗った経験すら無いシン達にとっては無謀にも程がある。ツバキには申し訳ないが、せめて正直に伝えるということで同意する三人。
「そういえば・・・異変というにはあまりに小さな事ですが、スポンサーの飛び入り参加があったそうですよ?何でも、一国の王でもあるかのような巨額の資金と、珍しいアイテムを用意しているのだとか・・・」
「確かに珍しい事だねぇ、今までこんなギリギリで投資してくるようなのはいなかったと思うけど・・・?」
シュユーもグレイスも、そのスポンサーに対し同じ疑問を持っているようだった。賞金の分配や賞品、レース道中に散りばめるレアアイテムなど、事前に計画して行われるものであるため、いくら巨額の投資金だとはいえ、再度調整することになってしまい、開催日時が変わってしまってもおかしくないことだという。
だが、レースは予定どおり日にちも時刻も、一切変わらずに開催されるのだそうだ。そんなに手際よく出来るものだろうかと、シュユーもグレイスも思っていた。それこそ、事前に飛び入り参加を知らされていない限り不可能ではないかと。
そしてこの事は、酒場で会ったシー・ギャングのキングも言っていた事だ。レースに参加する有力者達がこぞって“変わった事”という話であげる飛び入り参加のスポンサー、小さなことなのだろうが見過ごせないことでもある。
「その投資したスポンサーについて、何か知らないか?」
少しでも情報を掻き集めようとするシンの問いに、シュユーもグレイスも難しい表情をして互いに知っているかといった様子で顔を見合わせる。その二人の様子から、有力な情報は期待出来ないだろうと確信したシンは、顔を下に向ける。
すると、今まで料理に夢中で一切喋らなかったフーファンが気になることを話し始めた。
「でも、そんなに沢山のお金を持った人なら、きっと国の偉い人か大きな組織の人ですよね?偉い人にしても強い人にしても、そういった人の周りには人が集まると思うんです。でも、グレイスさんや他の方々、それにあの方・・・って、もう伏せなくても良いですよね?チン様も知らないなんて、ちょっとおかしいと思うんですよ・・・」
「確かに・・・。この町の情報通だと言っていたキングも、その人物については詳しく知らなかったようだった・・・」
ただでさえ各国、各大陸の情報が集まる港町で、更に各方面各組織に顔が効くであろうキングでさえも素性を掴みきれずにいる。シュユーとフーファンの話から、彼らのボスであるチン・シーなる人物も多方面に顔が効くようだが、有力な情報はない。
「キングも知らないとなれば、残す大きな組織は“エイヴリー”海賊団だけど・・・。結果は同じだと思うけどね、アタシは。情報通で言えばキングやチン・シーの方が有名だし、その二人が知らないんじゃ誰も知らないんじゃないかねぇ?」
「エイヴリー海賊団に話を聞くことは出来ないだろうか?」
望みは薄いのかもしれないが、それでも話を聞くことが可能であれば聞いておきたいと考え、船長本人ではないにしても、部下の誰かと連絡を取れないだろうかと尋ねるシンだったが、グレイスもシュユー達も、仲は悪いわけではないが、友好関係でもないらしい。
「そういえばッ!先日、町でゴロツキに絡まれてたツバキを助けてくれた男が、エイヴリーのところの幹部だと聞いた。ツバキかウィリアムさんなら、彼らと繋がりがあるんじゃないか・・・?」
ツクヨの提案は可能性としては大いにあり得るが、職人肌であるウィリアムが顧客の情報を話してくれるだろうかという疑問と、ツバキには面倒を見てもらっている上に、彼の願いを聞き入れられない身としては、これ以上ツバキにお願い事をするのは極めて気まずいと思ってしまうシンとミア。
「へぇ〜、ウィリアムってあの船大工のかい?あの爺さんは腕が立つからねぇ。アタシんところの船も昔見てもらったけど、あれはその界隈じゃ一番かもしれないね!」
「私達の船もたまにメンテナンスをしてもらっています。あの御仁の仕事ぶりは繊細なところまで行き届きます故、贔屓にしておりますよ」
どうやら彼らも、船を見てもらいにウィリアムのところをよく訪れているのだとか。しかし、その人気や繊細な仕事から、なかなか予約が取れないのだと言う。そこへ、会話を聞いていたフーファンが目をキラキラさせて声をあげる。
「ウィリアムさんと知り合いなんですか!?シュユーさん!私もこの方々とウィリアムさんのところに行っても良いですか!?」
「レース前なんですよ?あまり問題を起こさないと約束出来ますか?フーファン」
「ハイッ!任せてください!」
笑顔でシュユーに敬礼をするフーファン。どうやら彼女もシン達に付き添い、ウィリアムの元へと付いてくることに決定してしまったようだ。
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