その後の聖都

 イデアールの言葉に、最早今の自分がアーテムにしてやれることはないと悟ったシンは、口を紡いでただ立ち尽くしていた。


 そこへ、ミアも目が覚めてからずっと気になっていたことを、イデアールに確認する。


 「イデアール、私も一つ聞きたいことがある」


 それまで黙って聞いてた彼女が口を開いたことで、イデアールは気持ちを切り替え、臨時に国の指揮を取る者として、凛とした態度で応える。


 「なんだ? 俺に答えられることなら答えよう」


 シンがアーテムに世話になっていたように、ミアにも世話になった人物達がおり、彼らがその後どうなっているのか気になっていた。


 「シャルロットはどうしている? 復興作業にあたっているとは聞いているが・・・」


 気になる人物は複数いるが、先ずは泊まるところや食事、クエストの斡旋やユスティーチの事などで、一番世話になったシャルロットが元気でやっているのだろうかというところから話に入った。


 「シャルロットならよく働いてくれているよ。 現地では俺以上に指揮を取り、テキパキと騎士達に指示を出して、様々な活動に尽力してくれている」


 国の現状は逐一イデアールの元へと報告され、現状を常に把握しているというイデアールの口から、彼女が無事でいることを聞けたのなら安心できると、ミアは一先ず安堵する。


 しかし、彼はその後、少し表情を曇らせて話を続けた。


 「・・・だが、シュトラールの真意と朝孝殿の死が堪えているのだろう・・・。 何か辛いことがあっても明るく振る舞う彼女のことだからか、時折急に落ち込んだり、泣いている姿を見たという騎士もいる・・・。 無理をさせてしまっているのかもしれないな」


 シャルロットの性格は短い間だが、同じ屋根の下で時を過ごしていたミアにも、ある程度分かっているため、彼女が周りに気を使わせないよう、負の感情を面に出さないのも理解していたが、今回ばかりは流石に堪えているのではないだろうかと、彼女を心配していた。


 「あの子はそういうところがあるからね・・・。 後で顔を出してみるか・・・」


 「あぁ、頼むよ。 君だから心を許せることもあるだろう・・・。 そういう心のケアは俺では不適任だろう」


 信頼をおいてくれている部下の面倒も観れないと、悲観の面持ちでシャルロットのことを彼女に頼むイデアールに、彼を安心させるような柔らかな表情で頷くミア。


 そして彼女は、次なる心配事をイデアールに確認する。 それはミアやツクヨを決戦の地にまで送り届けてくれた勇姿のその後・・・。


 「それから・・・ルーフェン・ヴォルフの幹部達・・・。 ナーゲルやファウスト達はどうなった? 聖都への門の辺りで、モンスター共を引き受けてくれていた筈なんだが・・・」


 この問いに関しては、イデアールの表情と声色を聞いただけで、大凡のことは察しがついた。


 これから口にする事柄に、気が重いといった面持ちのイデアールが、おそらくそうではないかと思っていたミアの予感を、現実のモノへと変える。


 「彼らは・・・見つけた時には既に手をつけられない状態だったようだ。 ・・・詳しく聞きたいか・・・?」


 彼のその発言から、相当な様子であったのが伺える。


 門が閉じられる寸前の光景を思い出してみても、複数体の上位モンスターに囲まれた状態で、更には負傷までしていた彼らに勝機があったとは思えなかった。


 「いや、やめておこう・・・。 そうか・・・」


 あの状況では他に方法もなかったため、仕方がなかったとはいえ、ミアも先ほどのシンのように、何か別の方法があったのではないか、全員で戦っていれば助かったのではないかと思ったが、これもアーテムの“覚悟”と同じなのだと考えた。


 そんな彼らの“覚悟”にああすれば良かった、こうすれば良かったは、彼らの行為を無碍にしているのと同じことなのだと。


 そして最後にミアが気になっていたこと、イデアールに尋ねる。


 「最後に・・・。 リーベはどうなった?」


 敵として死闘を繰り広げたとはいえ、彼女が見せた戦闘の中で相手にトドメを刺せる絶好のチャンスを前にしても、子供達を戦場から避難させる誠意、そして人を信用できなくなるほど裏切られ続けた彼女の最後の言葉と涙が、ミアの心に残っていた。


 全てを知っているイデアールが答えを口にしようとするが、先程までと違いその表情からは、これから話すことが吉報であるのか悲報であるのか、読み取ることができなかった。


 「リーベは生きているよ・・・」


 イデアールの口にした言葉に、顔を上げ目を見開いて反応を示すミアだったが、当然彼の言葉はそこでは終わらず、その後に続いた言葉は、リーベの身を案じるミアを不安にさせるものだった。


 「だが ・・・あれを生きていると言っていいものかどうか・・・。 いつ命を絶ってもおかしくない状態だ・・・」

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