消えた聖騎士
アーテムの国際指名手配の噂を耳にしたシンとミアは、足早に城内へ入ると真相を確かめる為にイデアールを探す。
城内には、人がほとんど出払っているようで閑散としており、城への出入りをしているのは、ごく一部の人間のようだった。
誰もいないのをいいことに、廊下を走りながら人の気配や声がする部屋を探して行く。
廊下の壁には、アーテムが訪れた際に聖騎士の鎧と戦った戦闘の痕跡、刃で刻まれた壁の傷や照明の破損、床に散らばる鎧の部品や破片があちこちに見受けられる。
シンは城内に入るのが初めてなので、ミアについて行き、迷わないよう彼女から目を離さないでいた。
上層階へと向かっていくミアの様子から、彼女はアーテムとシャーフの決闘の舞台であった玉座の間を目指しているのだろう。 他の部屋には目もくれず、真っ先に向かって行く。
階段を登り終え、角を曲がると廊下の奥の方で一際大きな扉が破損しているのが目に入り、開けっ放しのその部屋へとミアが先に入って行く。
後に続きシンも扉を曲がり、中に入ろうとすると立ち止まっているミアがおり、危うく彼女にぶつかりそうになると、咄嗟に身体を捻り避けるシン。
立ち尽くすミアの顔を振り返って見たシンは、彼女が真面目な表情で先を見つめているのを見ると、彼も同じく彼女の視線の先を追う。
すると・・・・・。
そこには、バルコニーから各国へ伝書を持たせた聖騎士を送り出す、イデアールの姿があった。
用事を終えると二人の気配に気づいたイデアールが、彼らの方を振り向く。
「もう、動けるようになったのか・・・二人共」
まだ身体中を包帯で巻いている状態のイデアールが、共にシュトラールと戦った仲間と面会を果たす。
「イデアール、アンタも無事・・・だったんだよな?」
シンの舐め回すような視線に気づいたイデアールが、自分の身体を見てその理由を悟ると、まだ少し不便があるのだという様子でシンに返す。
「あぁ・・・コレか? まだ痛みや痺れは残ってるんだがな・・・」
「!? それじゃぁまだ動かない方が・・・」
彼の身体を気遣い、心配するシンだったが、イデアールはじっとしていられないのだと首を横に振る。 いや、じっとしていられないのではなく、彼はじっとしている訳にはいかなかったのだ。
「国が大変な状態なんだ・・・。 それに、今部隊を指揮できる人間がいないとなれば尚更、寝ている訳にはいかない」
彼の責任も最もなもので、現在国の王であり聖騎士隊のトップであるシュトラールは死亡が確認されており、シャーフやリーベも重傷を追っている為、動くことができない。
そしてシンは、イデアールの発言に些か疑問に思うことがあり、彼にそれを確かめる。
「隊長クラスの者でなくても、聖騎士の者達で指揮を取ることは可能なんじゃないのか? 俺の印象だが、聖騎士の数も騎士に比べて決して少なくないと見えるが・・・」
シンの疑問に、イデアールは表情を曇らせる。
その反応を見てから気がついたのか、シンは入ってきた扉の外へと視線を送り、耳をすますと、ミアも同じくキョロキョロと辺りを見渡し、何かを探し出そうとしている。
しかし、どうにもおかしい。
皆が出払っているとはいえ、妙に人の気配が少なすぎるように二人は感じた。
「イデアール・・・聖騎士隊はみんな出払っているのか? 何か・・・人の気配が少な過ぎやしないか? 幾ら何でも、城を無防備に・・・ん?」
話の途中で振り返ったシンは、俯いて表情を曇らすイデアールに、何か良からぬ事情があるのではないかと悟る。
「・・・イデアール・・・? 何か、あったのか・・・?」
彼らが聖都に来た時には、警備で上空を飛び回る者や、街中を巡回する者、各要所要所で滞在し、作業にあたる者など、それこそ数え切れないほどの聖騎士がいたのにも関わらず、いくら動乱で犠牲者が出たとはいえ、あまりにも数が減り過ぎている。
そう、動乱を境に・・・。
「・・・まさか・・・」
いち早く察したのはミアの方で、動乱を境に数を減らしたことから、ある男の関与があったのではないかと疑い始める。
なんでもその男は、奇怪な術で鎧を動かしていたのだから、範囲を広め数を増やすことも可能なのではないだろうか。
「・・・?」
まだミアの思っているようなことに、辿り着けずにいるシンは、ミアとイデアールの顔を交互に見ると、冷や汗をかいている様子のイデアールが口を開いた。
「あぁ・・・ミア殿の思っている通りで合っていると・・・思う。 実は・・・」
少し気持ちを落ち着かせた彼は、話すのをためらうかの様に話す。
「聖騎士の過半数以上が・・・、シュトラールの起こした動乱後から姿を消したんだ・・。 いや、消したというより・・・鎧だけとなったような・・・」
その異様な出来事を、イデアールもミアも、身を以て体験していることから、消えてしまった過半数の聖騎士というのは・・・。
シュトラールの息のかかった私兵、つまり中身のない聖騎士であり、彼の式神だったのだ。
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