聖都での出逢い

リーベと別れた後、ミアは一人、調合士ギルドへと入っていく。


ミア本来のクラスを隠すために、偽りのクラスを探すフリをしていたが、実際ミアのダブルクラスである錬金術士にも、関係がない訳ではない。


錬金術士へクラスアップする際に、調合士のスキルも必要になるからだ。


そしてミアのメインクラス、ガンスリンガーとの相性も抜群で、調合による弾の生成や、モンスターのアイテムや薬品などと組み合わせた後に、更にそれを弾丸と調合する事で、特殊な効果のある弾を創り出すこともできる。


「流石・・・、各国との貿易が盛んに行われてるだけあって、ちょうごうの資料が豊富だ」


ガンスリンガーは武器だけで攻撃することはなく、必ず弾が必要になる。


その為、戦闘の前準備が重要になるクラスなので、弾切れを起こすと攻撃手段が極端に限られてしまうので、その対策に他の武器を使用するクラスと合わせる人も多い。


要は組み合わせ次第、ミアはメインクラスのガンスリンガーを更に活かすため、もう一つのクラスに錬金術士を選んだ。


「シンには悪いが、少し用事が長くなりそうだな・・・」


ミアが調合の資料を物色していると、珍しいアイテムを運んでいる子供達が目に入った。


「ねぇ、君たち。 それは一体何だい?」


店で売られているような物ではないように見える。


「これ? これはクエストの報酬の品だよ。 騎士様達がこなしたクエストの報酬は聖都の発展や研究、他にも商品として店に陳列したりするんだ」


どうやらこの子供達は姉弟であり、弟のウッツ、そして姉はエルゼと名乗り、その品を運ぶ仕事をしているのだと応えた。


かと言って仕事は強制という訳でもなく、この都市は年齢に関係なく働くことができ、それで生活をしたり、お小遣い稼ぎをしているのだと教えてくれた。


ゲームで例えるなら、荷物運びのクエストを行なって報酬を得ているということだ。


その荷物を何処へ運ぶのかと尋ねると、どうやらそれはここ、調合士ギルドのショップだという。


調合の資料だけでなく、ショップにも興味を引かれたミアは、その子供達に同行することにした。


「おじさん! 持ってきたよ」


調合士ギルドのショップへ荷物が届く。

男は子供達から荷物を受け取ると、ざっと中身を確認し、報酬を子供達へと渡す。


「いつもありがとな! お前達」


「お客さん、連れてきたよ!」


姉のエルゼがショップの男に、ミアをお客だと紹介する。


ミアは商品を見にきただけだったが、客として紹介されてしまっては、何も買わずに去る訳にもいかなくなる。エルゼは子供の割にはしたたかだった。


「そうだな、じゃぁ報酬にオマケをつけてやる!」


男が報酬を上乗せすると子供達は嬉しそうにハイタッチして喜んだ。


ショップの男はトーマスといい、調合士のクラスを活かし商売をしながら、商品のやり取りと共に、ギルドの研究に貢献しているのだそうだ。


WoFの世界で生活する人々の中には、元冒険者という者も少なくなく、冒険者時代のクラスを活かして、それを生業にする者も多い。


勿論、商人や農業といったスキルを突き詰めて、のんびりと生活することもできる為、必ずとも戦闘スキルが必要になる訳ではない。


ただそう言った場合、戦闘を生業とする者を雇ったり、聖都ユスティーチのように騎士や自警団がいる国や街で暮らさなければ危険となる。


姉弟と別れ、ミアはショップで商品を眺める。


安価で入手できるモンスターのドロップ品や、素材がいくつも並んでいる。無論、調合済みのアイテムも陳列されていたり、調合のレシピなんかも売られている。


いくつかモンスターの素材や調合済みのアイテム、そして使えそうなレシピを購入すると、ミアはトーマスに錬金術士のギルドは何処にあるか尋ねた。


彼に説明された通り進み、調合のスキルとはまた別のスキル。魔力を使い、更に質を上げたり、別の物に変えたり、そして四大元素などの属性を使ったアイテムの精製を行える錬金術士ギルドを訪れる。


国や街、地域によってその土地ならではの、属性の原子があり、ミアはかつてパルディアの街で“風”の原子を集め、メアに属性を込めた弾を撃ち込んだ事がある。


ミアは錬金術士のギルドで、この土地特有の属性について聞いてみると、驚きの回答が返ってきた。


「聖都ユスティーチの属性原子は、闇や陰になります」


「・・・え?」


正義や平和を謳っている聖都なのだから、属性はきっと聖や陽、光などの原子だとばかり思っていたミア。


聖騎士のクラスが使える属性スキルとは、真逆の属性がこの土地の原子なのである。


しかし、その土地の原子の属性が何であれ、他の属性が使えないわけでもなし、属性が弱くなることもない。


ただ、原子の属性と同じであれば、威力が強化されたり、能力が向上する他、その属性の調合率が上がったり、その属性のアイテムが精製できる。


ミアは調合士と錬金術士のギルドを行き来し、必要な物資を整えたり、新しい弾の精製、属性原子の収集を終えると、聖騎士の城を後にする。


城内から出て聖都を歩いていると、聖都内の繁華街に出る。


そしてそこで、違和感を覚える出来事に遭遇することになる。


ミアは、聖都を出て、市街地のルーフェン・ヴォルフのアジトへと帰ろうとしていた。


何気なく目についた男が、露店で食べ物を買おうとしているのだが、その男はシンやミアにとって聞き馴染みのある言葉を口にしたのだ。


「へぇ〜、コレが100円で売ってるのか・・・。 俺のいた国ならぼろ儲けできそうだな」


基本的な知識として、ゲーム内の通貨というものは、そのゲーム特有の呼び方の通貨が使われる。


WoFでは、1ゴールドや10ゴールドというように、ゴールドという通貨になる。


それなのにこの男は今、“円”と言ったのだ。


ミアが咄嗟に思ったのは、この男はこの世界の住人ではない。プレイヤー、或いは自分達と同じ境遇にある者。


「なっなぁ、アンタ・・・」


ミアがその男に話しかけようとした時、彼の後ろの方から男に向けた言葉が女性の声で、聞こえてきた。


「もうッ! 一人でどっか行かないで下さいよ! また迷子になっちゃいますよ!?」


息を切らしながら、一人の女性がその男の元へと走って来た。


「あ・・・あれ? お知り合いの方ですか?」


女性がミアと男を交互に見る。


「え? ・・・あ、あれ? 私に何か・・・?」


男はミアと、その女性に挟まれ、慌てた様子で二人の方へ顔を向けると、最終的にミアの方へ向き、自分を指差しながら確認する。


「アンタ今・・・、“円”って言わなかったか?」


「円・・・? あぁ! 100円? えッ‼︎ もしかして貴方、日本の方ですか!?」


驚いたことにこの男は、現実世界での日本の通貨を知っていたのだ。

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