平和と秩序の都市

どんなに小さな悪でも、見逃さず根絶やしすれば、国は平和になるのだろうか・・・。


その為に必要なものは何か。


何を守って生きていけば、正しい人が正しく生きられる世の中になるのだろうか。






幼い頃、困ってる人や苦しむ人を助ける騎士の姿に憧れた。


自分の国の領土を広げる為に、他の国を責める、所謂戦争というのが盛んに行われている時代。


そんなところに、私の住む村があった。


争いに巻き込まれ、村を失うこともあったが、そんな時、片側の国の騎士が我々の国の領土に移住しないかと声をかけてくれた。


今よりも安全に暮らせるのなら断る理由などどこにもないと、村の人々はその騎士についていった。


騎士が属する国の王も、騎士の願いを聞き入れてくれ、領土の端の方に新しく住まわせてくれて。


村人たちは王に感謝した。


私も、憧れの騎士を側で見ることができるようになり嬉しかった。



ある日、別の国が攻めてきたと、騎士達が大勢戦に駆り立てられた。


私は彼らの勇姿をこの目で見てみたいと、こっそりついていくことにした。


そこには、かつての私たちのように、戦の戦場にされている村があった。


村人達を守りながら戦う騎士の姿は、憧れていた私には輝いて見えた。


そんな時、私を斬り殺そうと剣を振り上げる、敵国の騎士の姿が背後にあった。


それを憧れの騎士が弾き、敵国の騎士を斬り殺した。



私は、目の前で起きたことが急に怖くなった。


憧れの眼差しで見ていたはずの騎士の戦いは、美しいものではなかった。


殺された騎士の仲間が、怒りに顔を歪ませるのを見た。


それを複数の騎士が取り囲み、斬り殺す。


相手の騎士は、死して尚、憎しみの表情を変えず睨み続けていた。


幼い私には、これがトラウマとなったが、村の大人達が教えてくれた。


「彼らも殺したくて殺してるのではない。国のため、誰かのために、戦わなければならない立場にある」



この時私は、騎士は正義などではなく、騎士もまた誰かの駒であるのだと理解した。


ならば、騎士を動かす王こそが正義なのか?


王は私たちを受け入れてくれ、守ってくれている。


だから私達にとっては感謝しても仕切れない、良い王だ。


でもその反面、戦いで他国と争っている。


私はあの時、目の前で殺された憤怒の表情をした騎士の顔が忘れられない。


私たちの平和や幸せは、他の誰かの不幸の上に成り立っている。


私が平和に暮らしている分、別の誰かが不幸になっている。それが私には辛かった。



誰もが幸せではいけないのか?


幸福か、不幸か、その両極端の上にしか人は成り立たないのか。


ならば、何がそうさせる?


どうすれば全ての者が幸福であり続けられる?


正義は悪を滅ぼすものだと思っていた。


でも正義はいくつもあり、正義と正義は反発し合う。


そして負けた方が悪となり、残された者達の心に悪の種を残す。



悪は、何もないところから生まれない。


悪は、正義から生まれてくる。


世界に正義が一つしかなければ、ぶつかり合うことも無く、全ての人が正しく生きられるのではないだろうか。




どんなに小さな悪も・・・


微塵もないほど根絶やしにすれば・・・。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




シン達は、パルディアの街から馬車に乗り、北へ向かう。


パルディア自体が南にある為、ワールドマップで言うところの、中央へ向かおうというのだ。


人が多く、交通の便が多い場所に行けば、シンやミアと同じ境遇のプレイヤーに会うことができるかもしれない。


それに各々のレベルアップや戦力強化の為、各クラスごとのギルドを訪れたいというのが、当面の目的にもなる。


クラスごとのギルドとは、剣士には剣士ギルド、魔道士には魔道士ギルドといったように、各々のクラス専門のギルドが存在し、様々な恩恵や、特別なクエストを受けたりすることができる。


それぞれの街や村にギルドは存在し、そこでしか手に入らないような、特別なスキルなどもあるため、まず新しい街などに着いたら、ギルドを訪れるのが良いとされている。


ただシン達には少し困難なことがあり、彼らがWoFの世界に入って始めに訪れたパルディアの街は、始まりの街の一つなどと呼ばれるような場所である。


彼らの有するクラスは、上位クラスであり、勿論序盤のエリアなどにアサシンギルドやガンスリンガーギルドなどはないため、長旅になってしまうという点だ。



そんな南にある始まりの地より、北上するシンとミアは、いくつかの村や小さな街を経由し、何日かかけて交易などが盛んな大きな国や都市を目指す。


道中、訪れた街や村で情報を集め、次の目的地を、聖都ユスティーチに決めた。


パルディアの時と似ており、二人は聖都ユスティーチという名に心当たりがなく、恐らく彼らの知っているWoFの世界とは違っているのだろと、心構えはしておくことにした。


情報を教えてくれた人々が言うには、聖都ユスティーチとは、騎士達が治め、何処よりも平和で秩序のある都市であるとされているのだとか。


東西南北至る所からの交易を盛んにしており、他国との交流も多いとされている。


それだけ大きな都市であれば、プレイヤーの一人や二人居てもおかしくはない。


二人は心構えをしつつも、足早に聖都ユスティーチを目指すことにした。




最後に出た村から数日後、長かった山道も頂上付近に差し掛かり、大きな都市が見え始めた。


「あれが・・・、聖都ユスティーチ・・・」


その絶景に思わず声が出る。


パルディアの街とは比べ物にならない程大きな都市がそこにはあった。


これから自分たちが足を踏み入れる、大きく栄えた都市に、不安よりも好奇心や安心感といった感情の方が優っていた。


人が多いというだけで、シンは安心する。


知らない世界に足を踏み入れ、自分達以外に、境遇を共にできないという心境が彼を心細くしていたが、例えこの世界にいる住人達がAIだとしても、自分と似た姿形をした者がいれば、不安が振り払われる。


これが集団心理というものなのだろうか・・・。


山頂からみたユスティーチは、中央が所謂都心部であり、その周りを囲むように市街地があるように見えた。




騎士達が治める、世界でも有数の、平和と秩序の都市が、一体どんなものであるのか、二人の気持ちは少しだけ高揚していた。

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