第5話 松永インパクト
松永戦闘術、それは二つの系統を持った戦闘術だ。
一つは能力者のための戦闘術、そして今の時代最秘奥とまで呼ばれるようになった対能力者戦闘術。俺はちなみにどっちも覚えていない。
写島に伝わるのは心構えである『頑張れ皆人間どうにかなる』と、それだけ書かれた農民スピリッツに溢れた言葉だけ。勘弁してください、ご先祖様いくらなんでもこれは無いですよ。
どの世界にもこんなものを千年近くにわたって語り継ぐ、なんてどんな家ですかといいたい。
「さーて、今日こそ模擬戦をしましょう」
「お前さ、三日に一回ぐらい言ってくれるな。その度に俺の発言は決まっている、死ね豚女」
日常の挨拶が終われば後は授業だ。俺はもうここのでの生活に諦めを感じてきている。
馬鹿二人も慣れれば日常だ。暴言はいて殴れば静かになることはもう理解した。ちなみに六道名家を殴り飛ばす日常はさすがに疲れる。
何と言うか分家連中が、こっちに殺意を向けてくるからもう面倒すぎる。
「またいつもの言葉で私を苛めるんですか、ただちょっと血で血を洗うような戦いをしようと言うだけですから」
「世の中にそれに対してはいを唱えるのはお前みたいな馬鹿だけだ」
俺は弱いんだよ、可哀想なぐらいに。山一つ吹き飛ばす鷺宮や不動なんかと俺は別次元の弱さを誇っている。なんて弱さだ、涙が出てくるぐらい俺は弱い。
がたんと音を立てて椅子に座る。不服そうなどっかの馬鹿は、子犬のようにまだかまだかと尻尾を振っているように見えた。
「気が向いたらなんかしてやるから諦めろ、俺は戦うのは嫌いだ」
「事実なのでしょうが、どうせ貴方は私と戦う時がくるんです何時戦ったって変わらないでしょう」
「理解の出来ない言葉を言うんじゃねーよ。俺の就職先は自分で見つけるんだ」
言っていて、なんだが完全に無茶である。ここの卒業生は全て企業や政府行きだ、ばーさんの名声の所為で俺は、どうせ政府筋にさらわれる。後任の教育とかその辺りだろう、所詮Cランク能力者に能力者戦任せるほど愚かではないはずだ。
俺がしたいのは、親父と同じ町工場の作業者だというのに、世の中全く上手くいきません。
「その辺りはあなたなら分かっているようですから、そんなに言いませんが次の試験の時は戦いますよ。どうせ貴方は仲間はずれになりますから」
最初の模擬戦でAランクの奴と戦った時、全裸で土下座させたのが悪かったのだろうか。それとも戦う前に睡眠薬を投与した当たりが悪かったのか俺には理解が出来ない。
そんな事を一ヶ月したら、今の特殊科で俺と戦ってくれる相手はこいつしかいなくなった。
「何回負けてもめげないよね、絶対俺にマゾだとしか言えないぞ」
「そうかもしれません、最近私は巻けることが楽しくてならないですから。その代わり私をこうした責任はとって欲しいですが」
「勝手に自爆した奴がなに言ってんだ。自分でどうにかしろ」
しかし犬だなこいつは完璧に、俺の言葉に一喜一憂している。尻尾でもあったらブンブン振り回しそうだ、あれだけ暴言を吐いて付き合ってくれる友人は、こいつぐらいしかいないし、結構感謝しているが言えば付け上がるので言う事などはない。
などといっている間にチャイムが鳴る。なぜかいやな予感がした。
何でこんなに突如いやな予感がするのか分からないが、鷺宮のあれはお預けで儲けているように軽くうーと犬のように唸って席に着く。
どうやらこいつでもないのだろうが、この唐突ないやな予感はよく感じるが、その中でも強い。
強いて言うならまだくたばっているどっかの跡取りの告白クラスのレベルで、絶対になんか悪いものが俺に降りかかると確信するものだった。
「これ以上何かあるのか」
この悪寒はさっきにも似た毛色のものだ。なんか分かった気がする、ここにいないあれがくるのだろう。俺みたいな一般人に弩級の殺意を向ける女を俺は一人しか知らない。
教師がホームルームを始める為に、教室からあわられる。そこには鷺宮だって想像したくも無い戦闘者集団松永の跡取りである娘がいたのだ。
松永では髪を伸ばすことも許されない、幼い頃実は丸刈りだったとは思えない女は俺に殺意を向けていた。また俺の生活が面倒になったことは理解するが、何でこうネタが尽きないのか俺の人生に深く言及したくなった。
***
君臨するそんな言葉が相応しい女が目の前にいる。
この中であの女を知らないのは、ある意味馬鹿女を知らない人間より少ないだろう。六道名家の一つ大内の跡取りであった男を、叩き伏せ警察に叩きだしたことのある存在だ。
戦闘者一族松永の一応後継者、なんか色々卑怯な手段を講じて叩き潰した記憶しかないが、そんなに強い奴でもない。
後松永にしては珍しく能力者としてもかなり優秀な存在で、長々と竹林をこの歳で使いこなしているらしい。元々は無能力者が能力者に勝つ為に作り上げた技術なのだが、何時からか能力者戦が政治戦争に変わって以来、この技術は発展していった。
実際家も元々はこの家の直系が勘当された系列らしい。まーどうでもいい話ではある。
勘当されたくせに、結構この松永には俺らの家は迷惑をかけているらしい。あと一応直系の流れだから分家ではないため扱いが面倒らしい。
その血を戻そうと俺をくわえ様としたらしいが、そんな事を考えて用意したわけじゃないことぐらい、今の俺でも良く理解している。あいつらが欲しかったのは、ありもしない写島の階級破壊者としての力だけだ。
そんなばかげた事を破壊してやろうと許婚予定のこいつに、暴言に暴力に、犬神家をやってやったんだが、その辺りがどうも不服らしい。当たり前だろうが。
「お久しぶりですね写島様。貴方の許婚である事は変わらないんですよ」
「と言うかあれだけやってまだ諦めないのお前の家、正直同情するよ」
「貴方にだけはされたくありません」
凄く怖い目でにらまれた。なんでだ、正直俺だってお前が許婚なんていやなんだが、しかしやけに俺を鋭く睨んだこいつは、あくまで俺が悪いと言うスタンスらしい。
「おーい鷺宮、この女性格悪すぎだろう」
「松永の女の性格が悪いのは当たり前です。何しろ無駄に貞操観念が高くて、無駄に好みがうるさいんですから」
「そうですね鷺宮の阿婆擦れに比べれば、そりゃ私の家は教育がしっかりしていますから」
こえー女ってのはこんなに恐ろしいのか。明らかに鬼のような目で、俺を二人してみている。
「どちらにしろこんな人間としてクズを気に入っている貴方の思考が理解できませんよ」
「そうね、この人の強さを理解する事さえしないなんて、それこそおかしいです」
特に意味無いけどこの二人波長が合わなさ過ぎだろう。
二人して感情から能力がもれているし、困難だから簡単に嵌められるんだよな。
はぁ、こいつらを相手にしていると無駄に体力を使う。
どうせ厄介ごとがおき続けるだけの話だ。
「いい加減そこまでにしておけよ。二人して犬神家させるぞ」
片方はトラウマから、もう一人はやっぱりトラウマから、どっちもトラウマだったようだが簡単にぴたりと止まりやがった。
「や、やって、やってみるといいです。今度こそ、私の実力で叩き伏せてあげます」
「それは実戦、それとも模擬戦」
どちらも恐る恐る聞いてくる辺り、俺そんなに酷い事してたのかとちょっと傷ついた。しか施行者には間違い無く怒りしか湧かない。
しかも緊張のあまり戦闘状態で、二人して構えている。愛称じゃなく波長が合いすぎて嫌いなタイプかこいつらは。
しかもずれているのは俺の評価のみだ。明らかに、戦闘狂と通常の能力者差別だけだ。
最もそこまでして俺は実力を証明したくもないし、それほど強くも無い。いつも勝手に過大評価しているだけ、家の名が相手を盲目にさせているだけだと言うのに。
「雑魚に構う暇があったらさっさとこの課から離れろっての。どっちも能力者としては既に凡俗が構いすぎてんだよ」
「黙りなさい三葉虫、時代的に対抗して存在していなさい」
「なんてこと言うんですか、人間以下は貴方の方でしょう寄生虫の分際で、写島の後継に対して口が過ぎるにも程があるでしょうが」
なにこいつら、俺の過小評価と過大評価を繰り返してるんだが、どっちも失礼だよな。
両方綺麗なだけに余計腹が立つ。
「このゴミに何を言っているんですか。そういえば貴方は通り魔をしている時に、この人にあんな負け方をしたようですね。なんて無様なんでしょう」
「いやお前も変わらんだろうが、全裸で池の真ん中にぶち込んでやったんだから」
「と言うか貴方はまた女性に対してなんて無残な行為をしてるんですか」
だって怒りに狂った猪を落ち着けるには、頭どころか体も冷やしてやるべきだろうと思っただけだ。
しかし二人して俺に非難の視線を向ける。なんて劣悪な奴らだろう、勝手に襲い掛かってきたくせになに言ってやがるんだ、歩く核弾頭どもが。
「なんですかそんな無様な視線を向けて吐き気がする傍系の癖に」
「うわ、久しぶりに見ましたよ。血統主義の無残な形が、しかも俺に負けているから余計悲惨だ」
ああ哀れ哀れと、松永の女。そういえば名前なんだったか忘れたが、凄まじく怒り狂っている。
けど口も出せまいなにしろ、負け犬に騒ぐ口なんかありゃしないのだ。
「黙りなさい」
そう言って拳をぶち込まれてまた意識のかっとぶ俺は、ただの馬鹿にしか見えないかもしれないが。
***
みんな死ねばいいと思う。
ホモに、戦闘馬鹿に、元許婚とか死ねばいい。
「先生、一つ質問です。俺がなぜこんな人間ハズレと戦わなくてはいけないんですか、戦力的にあまりにさがあると思います」
「そうだな理由ぐらい教えておいてあげよう。お前が、貴様の所為で稀少能力者達が精神病院通いになるようなことをしたからだよ」
「意義があります。僕のようなCランク能力者が、相手の精神面に攻撃しないでどこを攻撃すればいいんですか」
納得いかない。俺はいつでも、弱者だ。
強者が攻撃してくるから弱いものは頭を使って勝利をもぎ取るしかないだけだと言うのに。
「そうだね、確かにお前が言っていることは正しいだろうね。だがその為に、全裸で土下座させる必要は一切無いよね」
「いえあります。二度と俺と戦わないようにトラウマを植えつけるためにも」
「二度と誰とも戦えなくなった機がするけど。その辺りの釈明はするつもりは無いのかな」
いやそれは不可抗力と言うやつだ。
それに今回の敵は問題がありすぎだ。教師から視線をそらして、問題の敵を見てみる。
明らかにさっきが混じっている。そもそもだ模擬戦でのもしもの事故は、仕方ないものとして扱われ死んでも相手は罪に問われない。
だからだろう、目を血走らせて現象構成を明らかに強化していた。あれは間違い無く人を殺せる構成だった。
「釈明以前の問題でしょう。あれを見てくださいよ、あれを、絶対殺意以外ありませんよ」
「大丈夫だ。個人的にお前が死んでくれた俺がとてもうれしい」
「待て教師。今さらりと本音が漏れただろうが、お前の責任問題は免れないからな」
この教師俺がどんな小技でも使って勝利すると判断しててこの嫌がらせをしているな。
だが問題はあれだ松永戦闘術宗家の跡取りだぞ、下手に傷つけるとあのおっさんが娘を傷ものにした責任取れとか言い出すんだよ。
「下らない話をしていないでさっさと来なさい。物理的の滅ぼしてあげるから」
「黙れお前なんかに負けるほどこっちは落ちぶれてないんだよ。お前を倒した後の面倒ごとがいやなだけだ」
全く、弱い強い以前の問題のところで面倒ごとがあると死ぬほど面倒だ。
「そんな事関係ありません。貴方が死ねば解決です」
「教師こいつ殺意があるぞ、これでも事故処理になるのか」
「え、僕そんな言葉聴いたことも無いよ」
一番最初にこいつを攻撃したいが、教師を攻撃すると色々面倒なことになるのは世の常だ。
逆も然りだが、怒りを俺は必死に耐える。
「大丈夫だその時はキチンと自己責任に成るから」
そうやってサムズアップされても殺意しか芽生えない。つまり自分の責任は無いと言い張るつもりだこいつ。
その時はさぞ悲痛な顔をして語ってくれるのだろうが、お前俺に喧嘩を売って人生の表道を歩けると思うなよ。
「せんせーい、じゃあ僕は手加減なしにやってみるから責任の方お願いしますね」
「それは私のせりふです、犬神家はもうさせません!!」
甘すぎるんだよ。この俺を怒らせてまともな戦いできると思うな。
始めと言う声が響き、松永流が本性をひけらかすが、もう全て見聞きした事だ。
「まったく、一般人に酷いと思うだろう。だからさ初心者に優しくする為にハンデで『十秒止まってろ』」
言霊使いの対処法なんて耳を塞げばいいだけだ。怒りにくるって能力者を甘く見すぎた代償だな。
俺は彼女の体を固めると、皮肉気に笑ってやった。
「松永戦闘術なんかよりももっと凄まじい戦いを見せてやるよ」
そうこれこそが我が最強の必殺技、そして俺の唯一無二のフィニッシュ・ホールド、インプラント式DDT。
そして俺が名付けるなら、松永殺しの必殺技。
『松永インパクト』
受身は取れるだろうが、この技を受けて松永流の人間がまともであるはずが無い。しょせんは古流柔術の発展系だ、プロレスのような鍛え方はしていないだろう。
衝撃でまともに立つ事ができなくなっている。
「ざまーみろ馬鹿女」
「いやあのですね。流石に今のは酷すぎるんじゃないでしょうか」
もう一人の馬鹿が、あきれた顔をした。
お前のほうがもっと無残な目にあってるというのに甘い奴だ。
最もそれからだ、俺が女性に向けて容赦ないプロレス技を叩きこむ悪辣な男として。
最低男の異名を学校中に響かせるのだが、俺の何が悪いのかひたすらに追及したいところだ。
完全に受け切れない衝撃で、のた打ち回っている女に足蹴したのがそれほど悪いのか。
さらには嫁入り前の娘にこんな技を食らわす人間を教師にあてがったら、松永からどういう目にあうかぐらい俺はわかる。
「ざまーみろ。今回ばかりは俺の勝ちだ」
最もこのあと松永の親父が傷物にした責任をとれと文句を言ってきたので同じことをしてやった。
教師はその親父につるされたらしい。
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