第4話 Day1(残り158時間)
お人好しにもほどがあるだろ、俺。
女の子の命(というかどうかは微妙だけど)をまるっと請け負っちゃったよ。
一体、どうすりゃいいんだよ。いや、どうすればいいのかは分かってるのか。願い事3つ考えればいいだけだもんな。その願い事が思い浮かばないから困ってるだけで。
「じゃ、俺行くからさ」
「行くってどこへですか?」
「いや、ここから歩いてカフェに行くんだけど」
「えーっとカフェって何でしょう?」
「コーヒー飲むところ……って分かんないのか」
「飲むとか食べるとかって概念は勉強しましたけど、私たちには必要ないんですよね。だから食べ物とか飲み物とかよく分からなくって」
「なるほど。まぁ、いいや。何しろ俺はカフェへ行く。腹も減ったから何か食いたいし。ってことで、また適当なところで出てきてくれや。んじゃな」
「ちょ、ちょっと待ってください圭太さん! そうはいかないんです。一度、担当についちゃったら願い事を言ってくれるまで離れられないんですぅ」
マジか。なんてシステムなんだ。それじゃ俺は願い事を3つ言うまで監視され続けるのか?
「ってことはだ。まさか、メイは俺に24時間つきっきりになるってことか?」
「普通の人ならなんでも叶うお願いごと3つって言うだけで、5分とかからずに言ってくれるので問題ないんですよ。圭太さんがごねるから私も離れられないんです」
「そう言われたってこっちも困る。なんとかならんのか?」
「どうしようもないですぅ。私も願い事言ってもらわないと困るし、いつそれが出てくるかわからない以上は圭太さんにくっついてるしかないんです」
この天使もどきにこれから1週間、24時間監視されるのか。そんなバカな話あっていいのか?俺にだってプライバシーってもんがあるんだが。
「わかったよ。んじゃ、とにかく俺はカフェへ行くから、メイは適当に何かしてろ」
「はーい」
って言うと、メイはふわっと宙に浮いた。落ちてきたときに見えたのはやっぱり羽根だったのか。
「あのさ、どうでもいいことなんだけど、メイって飛べるの? ってか飛んでるんだけど」
「はい、私たちがいる世界は地面って概念がないので、常にこうやって浮いているのが普通なんです」
「なるほど」
まぁ、いいか。空を飛ぼうが、地面をウサイン・ボルト真っ青のスピードで駆け抜けようが、結局行き着くところは俺の行くところなんだもんな。
で、カフェに向かって改めて歩き始めた。陽気は最高、気分も最高……だったはずなんだけどなぁ。とんだお荷物背負っちゃって、ブルーな気分になりつつあるよ。
メイはというと、30cmくらい離れた横をふよふよ浮いて付いてきている。俺から言わせれば足があるんだし、歩いた方が楽なような気がするんだが、ちっこい羽根をパタパタさせてとりあえず浮いた状態で俺に付いてきている。
とりあえず、いつもの自分の行動通りに動いた。
よく行くカフェに入り、コーヒーとホットサンドを頼んで数少ない喫煙席に陣取り、メシを食ってコーヒー飲んで、読書を楽しんだ。
メイは何をやっていたかと言うと、浮いていた。
俺は2人がけのテーブル席に座ったんだけど、俺の目の前の席に座るかと思いきや、席のある位置に陣取ったものの、浮いていた。
一服点けたところで声をかけてみた。
「あのさ、メイ」
「なんですか、圭太さん」
「お前、何やってるの?」
「何って圭太さんにくっついているんです」
「それはわかってるよ。そうじゃなくて、なんかこうやることとかないの? あと勝手にタバコ吸ってるけど、天使見習い的には大丈夫なの?」
「んー、神様が指名した人に願い事をしてもらうだけの仕事なので、ほかにやることないんですよねぇ。あ、その咥えてるのがタバコってヤツですか。ちょっと煙いですけど、私的には大丈夫ですよ」
「あ、そう。ヒマじゃない? 俺まだここにしばらくいるけど大丈夫なのか?」
「ヒマってなんだかわからないですけど、私は仕事してる最中って感じになるので、気にせず圭太さんは好きなことしててください」
あ、そうですか。
女の子を目の前にして(といっても他人には見えないわけだが)、自分だけやりたいことをやるのも気が引けるんだけど、そうは言ってもこっちも対処しようがない。ので、本を読ませてもらった。
……。
いかん。
トイレに行きたくなってきた。
まさかとは思うけど……。
俺はおもむろに席を立って、トイレに向かった。
恐る恐る振り向くと、やっぱりというか予想どおりメイがくっついてこようとしていた。
「えっとだな。俺、トイレ行くんだよ」
「トイレって何だかわからないんですけど、圭太さんが動くなら私もついていかないと」
「いや、トイレの中に入ってこられるのはひっじょーに困る」
「何でですか?」
「いや、何でと言われても、この世界ではトイレは1人で入るのが常識なんでな」
「私が一緒にいると不都合が」
「めっちゃ不都合だわ」
被せるように言ってやった。
「そうなんですかぁ。じゃ、一緒には入りませんけど、そのドアの前にはいますよ?」
「ん、まぁ、そのくらいはしょうがない」
トイレに入るのでこの始末か。
だとすると、もっといろいろ大変なことがあるんじゃないのか?
この時点では予想だにしなかったことが起こってしまうのは、数時間後にわかった。
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