神様の贈り物
飯島彰久
第1話 それは空から降ってきた?
それはとある土曜日の昼間のことだった。
暑くもなければ寒くもない、ほどほどに良い風が吹いていて気持ちいい5月の陽気。散歩がてら、コーヒーでも飲みながら本でも読もうかと街中を緊張感なくブラブラと歩いていた。
「雲ねぇなぁ。真っ青だよ、空」
などと思いながら空を見上げてみた。
雲ひとつない青空だった。それは間違いなかった。
が、突然豆粒ほどの黒い点が現れた。
「ん?」
目をこすってみる。飛蚊症かなんかになったか? それとも光と建物の加減でヘンな物が見えてるのか?
その黒い点は、緩やかにではあるが確実に地上へ近づいてきている。地上から見ればだんだん大きくなってきているのだ。
「ん? んん? え?」
近づくにつれ、それが人型であることが理解できた。
「ちょっと待て、飛び降りかよ。どうすんだよ、もう止められないじゃん。っていうか落ちてきてるし」
人型であるのを認識したと同時にパニックになった。生まれてこの方、人様がお亡くなりになる瞬間なんて遭遇したことがない。ましてや自殺の現場に立ち会うなんてまっぴらごめんだ。
「ここは見て見ぬ振りをして逃げるか? いやいや、何か救命策を考えるべきか? でも、もう落ちてきてるしどうすりゃいいんだよ」
脳みそはフル回転し、適切な演算結果を出そうと必死になるが、俺の頭のCPUでは演算能力をはるかに超える事態だ。
ここまでで体感で1分くらい。実際は秒の単位だっただろう。しかし、人型の黒い点は未だ地面に激突する気配がない。スカイツリーから飛び降りれば相応に時間もかかるだろうが、そんな高層建築物はない。せいぜい10階建てくらいのオフィスビルくらいしかない場所だ。
意を決してもう一度上を見上げてみる。
確かにさっきよりもより地面に近づいてきている。高度差10m前後というところか。しかし、地球の重力の法則に従えば、人間の質量があれば秒の単位で地面に激突するはず。黒い点を視認してから、すでに2分程度は経過しているはず。
おかしい。何かがおかしい。俺のへっぽこなセンサーでもそのくらいは分かる。
徐々に徐々に近づいてくる。どうやら、体つきからして女性のようだ。それが分かる程度まで落下してきている。
背中から落ちてきているのが分かった。さらに……
「羽根……生えてる?」
小さな羽根らしきものが背中に付いているのが分かった。マンガやアニメで描かれる天使や小悪魔のような小さな羽根。
それが分かってからたっぷり5分くらいかけて、地面に落ちてきた。激突ではなく、着地。鳥の羽のようにふわっとゆっくり着地した。
背中から落ちてきた、いやもう降りてきたという方が正しいだろう、ので着地したときは、まさにごたーいめーん、という形になったのだが。
やはり女性だった。いや、女性というより女の子というべきだろう。顔つきはまさにティーンエイジャーそのもの。それどころか、そこらの芸能人やアイドルが逃げ出しそうな美少女だった。ボキャブラリーが足りなくて表現できない。
着地した状態で目を閉じていた。が、アーモンド型の大きな目と長い睫、緩やかに美しいカーブを描く鼻筋、薄くて形のいい唇。それがバランス良く小さな顔の中に収まっている。
二次元でよく出てくる美少女を3Dプリンターで出力したらこうなるんだろうな、というくらい、人為を感じるくらいの美少女だった。
数瞬、彼女の顔に見惚れてしまったが、ふと異常に気がつく。
なんで周りにいる人は気がつかなかったんだ? こうやって女の子がアスファルトで転がっている時点でおかしいはずなのに、誰も反応しない。ただ、不思議と自分と彼女のいる場所を避けて人は通り過ぎていく。
なんなんだ、これ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます